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〜兄弟の絆〜

グランフォレストのモンスター

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 鬱蒼うっそうと草木の生い茂る森の中を彼らは進んでいた。樹齢何千年にもなる大木が何本もそびえ立って、森の中は昼間でも陽の光が地表に届かず薄暗くジメジメしていた。

 地面はぬかるんで、一歩歩くごとに足のくるぶしまで泥に埋まり歩きづらい。

(早くティアラに会いたい!)

 クリスは唯一つこのことだけを思っていた。もちろんクリスだけではなく一緒にいるアルフレッドもレンもエナジーもエリカもロザリアもただ一心にティアラの無事を願いながら、ひたすら薄暗い森の中を進んでいた。

 彼らはガンドールからエルフによって、連れ去られたティアラを救出するべくエルフの国ギルディアに向かっていた。

「まだギルディアに着かないのか?」

 アルフレッドがイライラしながらエナジーに聞いた。

「もう少しだ、この先に洞窟があって、そこを抜けるとギルディアに着く」

「本当か? 後どれぐらいだ?」

「あと少しだ」

「あと少し、あと少しと言ってどれだけ歩かせるんだよ~」

「「「うるさい!」」」

 クリスとレンとエリカの三人がアルフレッドに向かって叫んだ。特にエリカは非常に怒っている。

「アルフレッド王子がティアラが居た、と言って勝手に森の中に入って言ったのが悪いんですよ」

 エリカはアルフレッドが勝手に単独行動を起こして、迷子になったことを怒った。

 その事件は三日前に遡る。

 一行が黙々と森の中を歩いていると急にティアラが居た、と言いながらアルフレッドが森の中に入って行った、それを見たレンとクリスも彼の後を追うように森の中に消えていった。

「ちょ、待てよ! お前ら勝手に森の中に入るな!」

 エナジーの忠告も聞かずに三人はあっという間に居なくなってしまった。

 アルフレッドはそのまま森の中で迷子になってしまい、全員で彼を探すのに丸一日費やしてしまった。しかも、アルフレッドが見たティアラは彼女ではなく、彼女の髪の色によく似たうさぎだった。エリカはアルフレッドが王族じゃなかったらぶん殴っていただろう。

 そんなことがあり、しばらくはアルフレッドも申し訳ないと思ったのか、静かにしていたが、昨日あたりからまた、テンションが上っていくのが分かった。

 そんな残念王子に皆のイライラが募っていった。

「ほら、見えてきたぞ」

 エナジーはそう言いながら指差した。全員が指を指した方を見上げると、高い木々の隙間から黒い岩肌の山が見えた。

「あれは?」

 クリスが怪訝な表情でエナジーに聞いた。

「あれはグランボルケーノという火山だ」

「グランボルケーノ? あそこにティアラが居るのか?」

 アルフレッドはそう言うと一目散に火山に走り出してあっという間に皆の視界から消えた。

「ちょ、おい! 待て!」

 エナジーはアルフレッドを止めようとしたが、すでに声は届いていないだろう。

「くそ! あの残念王子!」

 エナジーはすぐに追いかけようとしたが、レンに行く手を阻まれた。

「俺が追いかけるから、あんたはエリカとロザリアを守ってくれ」

 レンはそう言ってアルフレッドの後を追っていった。

 レンはアルフレッドの居なくなった方角に向かってひたすら走った。火山に近づくにつれて木々が少なくなっていき見通しが良くなっていったが、その代わりにゴッゴッした岩肌に足が取られるようになり、歩きづらくなっていった。火山の上の方を見渡したが、アルフレッドの姿は見えなかった。

「全くあのバカ! どこ行きやがった」

 歩くのさえやっとの場所を驚くほどの速さで登って行ったであろう残念王子に毒づいた。レンは文句を言いながら火山を上へ上へとひたすら歩いて登っていると、岩陰から呼び止められた。

「おい、レン!」

 レンは声のした方を見るとアルフレッドが岩陰に隠れていた。

「何してるんだ、お前?……」

 アルフレッドは口元に人差し指を当てて静かにしろというジェスチャーをして睨んでいた。手招きされたのでレンはアルフレッドが隠れている岩陰に近づくとアルフレッドは崖下を指差した。

 指を指した崖下を見てレンは驚いた。二十メートルほど下にカルデラのような平らな大地が広がっていて、そこに何百匹ものゴブリンがいた。ゴブリンたちはきちんと整列していて、群れの中央にはなにかを祀る祭壇のようなものがあり、何か儀式のような事をしているように見えた。

 祭壇の上には魔法陣が描かれており、近くに祈祷師のような格好の一際大きいゴブリンが呪文を唱えていた。

「何をしてるんだ?」

「さあな? 彼奴等のすることに興味ねえよ」

 二人はしばらくの間、ゴブリンたちの奇妙な儀式を眺めていた。

「ここに居たのか?」

 後ろを振り返ると、エナジーとクリスとエリカとロザリオが立っていた。

「何だ? あれは?」

 エナジーがゴブリン達に気づいた。

「さぁな? あんな奴らのやることなんかいちいち知らないよ」

「あれは。まさか?」

「どうした? 心当たりがあるのか?」

「ん、いや……、何か召喚している儀式に近いかもしれん」

「召喚? 何かを呼び寄せているのか?」

「ああ、かなり昔に見たので、はっきりとは断言できないが、これとよく似た儀式だったように思う」

「本当か? 召喚の儀式だとして、奴ら何を召喚してるんだ?」

「ここからじゃ、魔法陣が遠くてわからんな。でもこれほどの大人数が必要となると相当の大物を召喚しているかもしれんな」

「人数が関係あるのか?」

「ああそうだ、祈る数が多ければ多いほど強力なモンスターを召喚できるからな」

 エナジーがそう言うとアルフレッドは険しい顔になった。

「一体奴ら何を召喚しようとしてるんだ?」

「わからんが、もうじき儀式は終わるぞ」

「何? 本当か?」

「ああ。もうじきあの魔法陣からモンスターが出てくるぞ」

 エナジーがそう言ったので、全員がゴブリンの儀式を固唾を呑んで見ていると、司祭のゴブリンが呪文を唱えて両手を天高く上げた瞬間、魔法陣が青く光ったかと思うと黒い塊が出てきた。

 黒いモンスターは魔法陣から飛び出した途端、咆哮を挙げて威嚇した。ものすごい爆音が辺りに鳴り響きエナジーたちは耳を抑えた。

「うわ! これはたまらん!」

 耳をつんざく音にたまらず全員が倒れた。咆哮だけでレンはもちろんエナジーをも戦闘不能にできるモンスターに驚きを隠せなかった。

「こ、このモンスターはもしや……」

 黒いモンスターの咆哮が鳴り止んでもしばらくの間、全員倒れて動けなかった。

「あれはなんだ? 知っているのかエナジー?」

 アルフレッドが聞くとエナジーは信じられないと言った顔でモンスターをじっと睨んでいた。

「最悪だ! 彼奴等あんな化け物を召喚しやがった!」

「あれはなんだ? 知っているなら教えろ!」

「あれは暗黒竜だ」

「暗黒竜だと? 馬鹿な! 暗黒竜は、はるか昔に絶滅したはずだ」

「俺もそう思いたいが、間違いないあれは暗黒竜だ」

「あの、暗黒竜ってそんなに強いモンスターなの?」

 エリカは恐る恐るクリスに聞いた。

「暗黒竜は別名国落としと呼ばれているモンスターで、災害級のモンスターとされている」

「そ、そんなに怖いモンスターなの?」

「ああ。でもはるか昔のことだから、本当にそんな化け物なのかは誰にも分からない」

 クリスがエリカに説明しているとエナジーが呟いた。

「俺はあいつの怖さを知っている。昔アイツを倒したのは勇者ロイダーだった」

「なぜそんな事を知ってるんだ?」

「俺もロイダ―と一緒に暗黒竜と戦っていたからだよ」

「本当か?」

「ああ。まあ、そんな事は今はどうでもいい。それよりもアイツをどうするかだ。幸いあの個体はまだ幼い子供のようだから、今なら俺とレンで叩けば倒せるかもしれん」

 エナジーはそう言うと刀に手を掛けた。

『グェエエエーーーー!!』

 暗黒竜は苦しそうな声を上げた。よく見ると金の鎖のようなものが暗黒竜の体に張り巡らされていた。

『グェエエエエエエーーーーー!!!』

 再び苦しそうな声を上げた。

「どうした? 一体何をしてるんだ?」

「多分あの司祭のようなゴブリンの仕業だわ」

 ロザリオがそう言って司祭のようなゴブリンを指差した。見るとゴブリンの持っている杖から金色の鎖が伸びていて暗黒竜の体を締め付けているのが見えた。

「どうしてあんな事をするんだ?」

「エンチャントチェーンよ。あの鎖のようなもので、あの暗黒竜の子供を操ろうとしているのね」

 ロザリオは悲しそうな顔で暗黒竜の子供を見た。

「自分の意志で行動できなくなるのは、いくら邪悪なモンスターでも可愛そう」

 エリカも悲しそうな表情で暗黒竜の子供を見た。

「可愛そうでも致し方ない。相手が悪い、鎖を断ち切ったところで暗黒竜が暴れだしたらこの俺でもひとたまりもない」

 エナジーは苦しそうに叫んでいる暗黒竜の子供を見ていた。

「あ、あれ? あそこ!」

 エリカが不意に何かに気づいて指を指した。

 エナジーは何事かと思い目を向けて驚いた。

 そこには崖を駆け下りているレンとアルフレッドの姿があった。
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