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〜兄弟の絆〜
優しいキス
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「うん~♪、美味しくできたかな~♫」
私は鼻歌を歌いながら鍋の中の具材をかき回した。
グツグツと煮だった鍋の中には、魚のアラが入っていた。昨日の煮魚料理をする際に余った部位を鍋に入れて魚の出汁を取っていた。
鍋がひと煮立ちしたところで、台所の床下収納から味噌の入った瓶を取り出した。鍋を火のないかまどに移すと少し冷ました鍋に味噌を少しずつ加えて味付けを行う。こうして沸騰させないように味噌を入れないと風味が無くなってしまうのだ。
そう言えばこの味噌が保管されていた床下収納は台所の床に隠し扉があって中は二畳ほどの空間になっており、カイトもその存在を知らなかった。床をよく見ないとおそらくほとんどの人は気づかないだろう。それだけ分かりづらい場所にこの味噌は大切に保管されていた。
私はそんなことを思いつつカイトが好きな魚のエキスが十分に出た味噌汁を作った。
(カイトは喜んでくれるかな?)
そう思ったが、内心では間違いなく喜んでくれるだろうと思いながら料理の後片付けを行った。
料理の片付けが終わる頃、玄関のドアが激しく鳴った。昨日メルーサに玄関扉を破壊されたので、薄い板で補強した今にも外れそうなドアを恐る恐る開けるとリンが血相を抱えて立っていた。
「どうしたの? リン?」
「ティアラ! すぐに私の家に来て!」
「え? どうしたの?」
「ここにデミタスが来るわ!」
「え? デミタスって、人間嫌いの?」
「そうよ。あいつに見つかったら殺されるかもしれないわ」
「わ……わかった……」
私がリンと一緒に家を出ようとした時、リンは何かに気づいて私を家の中に押し込めるとドアを閉めた。私はわけが分からずドア越しにリンに聞いた。
「リン。どうしたの?」
「ティアラよく聞いて彼奴等もうそこまで来ていたわ。すぐにどこかに隠れて!」
「え? ど……どこに隠れればいいの?」
「良いから早く、私が少し時間をかせぐからその間に隠れる場所を見つけて」
リンはそう言うとドアから離れて、通りをこちらに向かって歩いてくるギルティーの集団に近づいて行った。
「やあ! デミタス副隊長! お久しぶりですね!」
「お前は? ロイの奥さんのリンか? どうしてカイト隊長の家の前に居たんだ?」
「いやぁ~~。カイト隊長から頼まれて彼の家で料理を作っていたんですよ」
「そうか。まあいい」
デミタスはそう言うとカイトの家に向かって歩き出したので、リンはすかさずデミタスの前に割り込んでデミタス達の歩みを止めた。
「デミタスさん。カイト隊長に何か用事でもあるんですか?」
「お前には関係ない! そこをどけ!!」
デミタス達は避けようと横に移動したがリンは再びデミタスの前に立ちふさがった。これだけ大勢のギルティー達の前に堂々としている、本当にリンというエルフは肝が座っている。
「カイト隊長は家にいませんよ!」
「そんなことはわかっている。ただ家を調べるだけだ!」
「そのことを隊長は知っているんですか?」
「お前には関係ない! そこをどけ!!」
「あ……、ちょ……ちょっと待って……」
リンの必死の抵抗も虚しくデミタスたちはカイトの家に向かって行った。ドアの前についた時、その貧素なドアに驚いた。
「何だ? この扉は?」
鍵穴も付いていないドアを不思議そうに見ていたが、デミタスの構わんぶち壊せ、の合図とともに薄い板のドアはギルティーの一蹴りで無残にも壊れてしまった。
ゾロゾロとデミタスたちが家の中に入ってきた。
「どこかに女が隠れているはずだ! 探し出せ!!」
デミタスの号令とともに側近たちは家中の部屋に片っ端から入っていった。クローゼットの中や押入れ、タンスの中の物を引っ張り出したため、あっという間に家の中に物が溢れかえってしまった。だがいくら探しても女は発見できなかった。すぐに見つかるだろうと思っていたデミタスは焦った。
(どうして? どこにも居ないんだ?)
デミタスが焦っているとどこからともなくいい匂いが漂ってきた。どうやら台所から臭ってきているようだった。
デミタスは台所にいくとかまどに置いてあった鍋の蓋を開けてみた。すると鍋から蒸気が舞い上がりいい匂いが周りに立ちこめた。
(これは? まさか?)
デミタスが鍋の中身を確認するために手を入れようとした瞬間、玄関ドアから声がした。
「デミタス! これはどういうことだ!!!」
振り返ると玄関のドアにカイトが立ってこちらを睨んでいた。
「これは、これは、カイト隊長、今ご帰還ですか?」
「これはどういうことかと聞いている!!」
「いや~、なに、年に一度の定期検査ですよ~」
「定期検査だと? 聞いていないぞ!!」
「ああ。今年から抜き打ちで実施することになったんですよ」
ふてぶてしく答えるデミタスを睨みつけていると相手も引き際を悟ったらしく。
「もう良い! お前達行くぞ!!」
そう言うとデミタスたちは家から出ていった。カイトはデミタスたちが居なくなったのを確認すると物が散乱している家の中を慌てて探し始めた。
「ティアラ! どこにいる!?」
すべての部屋を探したがティアラは見つからなかった。
(そんな……、ティアラ……)
カイトは色々な考えを巡らせていた。デミタスのあの態度からしてティアラを見つけていない様子だった。一体どこに行ってしまったんだ?
しばらく呆然と考えていると台所から味噌汁のいい匂いがしてきた。カイトはフラフラと立って台所に行くとかまどの上に置いてある鍋の蓋を開けた。鍋の中から蒸気とともに味噌汁の匂いが周りに立ちこめた。
(ティアラが作ってくれていたんだな……、ん? 味噌汁?)
カイトは味噌汁を見て何かを思い出した。
(そう言えばティアラが最初に味噌汁を作った時、床下収納の中に味噌が有ったと言っていたな)
そう思った瞬間に体が動いていた。
(たしか……この辺りの床にくぼみが有ったような……)
調べてみると床に小さなくぼみがあり、その穴に指を入れると取っ手のようなものが出てきた。その取っ手を持って上に引っ張ると床下収納の扉が開いた。
「キャ!」
床下収納の中を覗くと奥の棚の後ろにティアラが隠れていた。
「ティアラ……」
「ん? その声はカイトなの?」
ティアラは恐る恐る棚からこちらを覗いていた。その姿は弱々しく何が何でも守りたい衝動に駆られた。
「ティアラ!!」
カイトは私の名前を叫ぶとわずか二畳ほどの床下に入ってきて私を抱きしめた。
「無事で……本当に……良かった……」
「カイト……」
「怖い思いをさせてしまってごめんね」
「うんん……カイトは悪くないわ……」
「いや、俺が悪いんだティアラを一人にしたから、もう君とは離れない。もう二度と君一人にはしないよ」
「え? でも……」
「分かったんだ」
「? 分かったって……何を?」
「君を失うことがこれほど怖いって……ことが……」
カイトはそう言うと優しく私の頬を手で包んだそしてゆっくりと私の顔を傷つけ無いように静かにキスをした。両手で顔を包み込んでくれた心遣いにカイトの優しさが十分に伝わってきた。
突然のことで頭が真っ白になったが、不思議と嫌な気はしなかった。カイトのキスは包み込まれるような優しいキスだった。
私達はしばらくの間そのまま抱き合った。
◇
デミタスたちはカイトの家を出ると駐屯地とは逆の方向にあるき出した。
「デミタス様。これからどうしますか?」
手下が心配そうに聞いてきた。デミタスは何か企んでいるような顔で答えた。
「お前、台所にあった鍋の中の物を見たか?」
「ええ、何か汁のような物がありましたが、あれはリンが作った料理では?」
「あれはルーン大国でしか作っていない味噌という物を使った料理でリンの奴には作れない料理だ」
「な……なんですと! そ……それではやはり……」
「ああ。あの家にはこの国のエルフ以外の何者かがいる。カイトはそいつを匿っている」
「それで……デミタス様。これからどこに向かうのですか?」
「市場に行く。そいつの情報が何かつかめるかもしれん」
「わかりました」
デミタスは市場に着くと部下を集めて市場の中を徹底的に調べ始めた。市場の住人に脅迫めいた尋問をするうちに、ギルティーのロイとリンの夫婦もカイト隊長と行動をともにしていた情報を掴んだ。
(やはりリンのやつも共犯だったのか)
すべてを分かった上で自分たちの邪魔をしていたリンの飄々とした顔が浮かんできて心底腹がたった。だが、逆にリンのあの行動であの家に誰かが居てその人物を必死で匿っていたと確信した。
その後もデミタス達は市場の住人に脅迫まがいの尋問を行ったが、これといって有力な情報を得ることが出来ずにいた。
決定的な証言が得られないもどかしさにイライラが募っていたデミタスが貧民街の入り口付近を見た時、ふと視線を外した男が目に止まった。
「おい。あいつをつかまえろ!」
部下たちはデミタスの命令に瞬時に反応して追いかけて、あっという間に怪しい男を捕まえてデミタスの前に連れてきた。男はギルティーに捕まって観念したように命乞いを始めた。男の腕にはサソリの入れ墨が入っていてガルボの手下の一人だった。
「や……やめてくれ! お嬢ちゃんがルーン大国に行けなかったのは道が通れなくなってたからなんだ! 俺が悪いわけじゃないよ!」
「お嬢ちゃんだと? その女の名前を教えろ!」
「え? テ……ティアラのことじゃないのか?」
「なに!! ティアラだと!!」
デミタスは絶句した。寄りにもよって人間のしかも聖女になるような女がこの国にいることに我慢がならなかった。確かにカイトはあの時殺したと行っていたのに、今まで騙されていた自分が許せなかった。
「あ……あんたら。カイト隊長の仲間じゃないのかよ!」
男は混乱したようにデミタスたちに言った。デミタスは恐ろしい形相で男を睨むと詰め寄った。
「お前の知っていることを洗いざらい吐いてもらおうか」
「ヒィィィーー!!」
夕暮れ時の貧民街に男の悲鳴が響き渡った。
私は鼻歌を歌いながら鍋の中の具材をかき回した。
グツグツと煮だった鍋の中には、魚のアラが入っていた。昨日の煮魚料理をする際に余った部位を鍋に入れて魚の出汁を取っていた。
鍋がひと煮立ちしたところで、台所の床下収納から味噌の入った瓶を取り出した。鍋を火のないかまどに移すと少し冷ました鍋に味噌を少しずつ加えて味付けを行う。こうして沸騰させないように味噌を入れないと風味が無くなってしまうのだ。
そう言えばこの味噌が保管されていた床下収納は台所の床に隠し扉があって中は二畳ほどの空間になっており、カイトもその存在を知らなかった。床をよく見ないとおそらくほとんどの人は気づかないだろう。それだけ分かりづらい場所にこの味噌は大切に保管されていた。
私はそんなことを思いつつカイトが好きな魚のエキスが十分に出た味噌汁を作った。
(カイトは喜んでくれるかな?)
そう思ったが、内心では間違いなく喜んでくれるだろうと思いながら料理の後片付けを行った。
料理の片付けが終わる頃、玄関のドアが激しく鳴った。昨日メルーサに玄関扉を破壊されたので、薄い板で補強した今にも外れそうなドアを恐る恐る開けるとリンが血相を抱えて立っていた。
「どうしたの? リン?」
「ティアラ! すぐに私の家に来て!」
「え? どうしたの?」
「ここにデミタスが来るわ!」
「え? デミタスって、人間嫌いの?」
「そうよ。あいつに見つかったら殺されるかもしれないわ」
「わ……わかった……」
私がリンと一緒に家を出ようとした時、リンは何かに気づいて私を家の中に押し込めるとドアを閉めた。私はわけが分からずドア越しにリンに聞いた。
「リン。どうしたの?」
「ティアラよく聞いて彼奴等もうそこまで来ていたわ。すぐにどこかに隠れて!」
「え? ど……どこに隠れればいいの?」
「良いから早く、私が少し時間をかせぐからその間に隠れる場所を見つけて」
リンはそう言うとドアから離れて、通りをこちらに向かって歩いてくるギルティーの集団に近づいて行った。
「やあ! デミタス副隊長! お久しぶりですね!」
「お前は? ロイの奥さんのリンか? どうしてカイト隊長の家の前に居たんだ?」
「いやぁ~~。カイト隊長から頼まれて彼の家で料理を作っていたんですよ」
「そうか。まあいい」
デミタスはそう言うとカイトの家に向かって歩き出したので、リンはすかさずデミタスの前に割り込んでデミタス達の歩みを止めた。
「デミタスさん。カイト隊長に何か用事でもあるんですか?」
「お前には関係ない! そこをどけ!!」
デミタス達は避けようと横に移動したがリンは再びデミタスの前に立ちふさがった。これだけ大勢のギルティー達の前に堂々としている、本当にリンというエルフは肝が座っている。
「カイト隊長は家にいませんよ!」
「そんなことはわかっている。ただ家を調べるだけだ!」
「そのことを隊長は知っているんですか?」
「お前には関係ない! そこをどけ!!」
「あ……、ちょ……ちょっと待って……」
リンの必死の抵抗も虚しくデミタスたちはカイトの家に向かって行った。ドアの前についた時、その貧素なドアに驚いた。
「何だ? この扉は?」
鍵穴も付いていないドアを不思議そうに見ていたが、デミタスの構わんぶち壊せ、の合図とともに薄い板のドアはギルティーの一蹴りで無残にも壊れてしまった。
ゾロゾロとデミタスたちが家の中に入ってきた。
「どこかに女が隠れているはずだ! 探し出せ!!」
デミタスの号令とともに側近たちは家中の部屋に片っ端から入っていった。クローゼットの中や押入れ、タンスの中の物を引っ張り出したため、あっという間に家の中に物が溢れかえってしまった。だがいくら探しても女は発見できなかった。すぐに見つかるだろうと思っていたデミタスは焦った。
(どうして? どこにも居ないんだ?)
デミタスが焦っているとどこからともなくいい匂いが漂ってきた。どうやら台所から臭ってきているようだった。
デミタスは台所にいくとかまどに置いてあった鍋の蓋を開けてみた。すると鍋から蒸気が舞い上がりいい匂いが周りに立ちこめた。
(これは? まさか?)
デミタスが鍋の中身を確認するために手を入れようとした瞬間、玄関ドアから声がした。
「デミタス! これはどういうことだ!!!」
振り返ると玄関のドアにカイトが立ってこちらを睨んでいた。
「これは、これは、カイト隊長、今ご帰還ですか?」
「これはどういうことかと聞いている!!」
「いや~、なに、年に一度の定期検査ですよ~」
「定期検査だと? 聞いていないぞ!!」
「ああ。今年から抜き打ちで実施することになったんですよ」
ふてぶてしく答えるデミタスを睨みつけていると相手も引き際を悟ったらしく。
「もう良い! お前達行くぞ!!」
そう言うとデミタスたちは家から出ていった。カイトはデミタスたちが居なくなったのを確認すると物が散乱している家の中を慌てて探し始めた。
「ティアラ! どこにいる!?」
すべての部屋を探したがティアラは見つからなかった。
(そんな……、ティアラ……)
カイトは色々な考えを巡らせていた。デミタスのあの態度からしてティアラを見つけていない様子だった。一体どこに行ってしまったんだ?
しばらく呆然と考えていると台所から味噌汁のいい匂いがしてきた。カイトはフラフラと立って台所に行くとかまどの上に置いてある鍋の蓋を開けた。鍋の中から蒸気とともに味噌汁の匂いが周りに立ちこめた。
(ティアラが作ってくれていたんだな……、ん? 味噌汁?)
カイトは味噌汁を見て何かを思い出した。
(そう言えばティアラが最初に味噌汁を作った時、床下収納の中に味噌が有ったと言っていたな)
そう思った瞬間に体が動いていた。
(たしか……この辺りの床にくぼみが有ったような……)
調べてみると床に小さなくぼみがあり、その穴に指を入れると取っ手のようなものが出てきた。その取っ手を持って上に引っ張ると床下収納の扉が開いた。
「キャ!」
床下収納の中を覗くと奥の棚の後ろにティアラが隠れていた。
「ティアラ……」
「ん? その声はカイトなの?」
ティアラは恐る恐る棚からこちらを覗いていた。その姿は弱々しく何が何でも守りたい衝動に駆られた。
「ティアラ!!」
カイトは私の名前を叫ぶとわずか二畳ほどの床下に入ってきて私を抱きしめた。
「無事で……本当に……良かった……」
「カイト……」
「怖い思いをさせてしまってごめんね」
「うんん……カイトは悪くないわ……」
「いや、俺が悪いんだティアラを一人にしたから、もう君とは離れない。もう二度と君一人にはしないよ」
「え? でも……」
「分かったんだ」
「? 分かったって……何を?」
「君を失うことがこれほど怖いって……ことが……」
カイトはそう言うと優しく私の頬を手で包んだそしてゆっくりと私の顔を傷つけ無いように静かにキスをした。両手で顔を包み込んでくれた心遣いにカイトの優しさが十分に伝わってきた。
突然のことで頭が真っ白になったが、不思議と嫌な気はしなかった。カイトのキスは包み込まれるような優しいキスだった。
私達はしばらくの間そのまま抱き合った。
◇
デミタスたちはカイトの家を出ると駐屯地とは逆の方向にあるき出した。
「デミタス様。これからどうしますか?」
手下が心配そうに聞いてきた。デミタスは何か企んでいるような顔で答えた。
「お前、台所にあった鍋の中の物を見たか?」
「ええ、何か汁のような物がありましたが、あれはリンが作った料理では?」
「あれはルーン大国でしか作っていない味噌という物を使った料理でリンの奴には作れない料理だ」
「な……なんですと! そ……それではやはり……」
「ああ。あの家にはこの国のエルフ以外の何者かがいる。カイトはそいつを匿っている」
「それで……デミタス様。これからどこに向かうのですか?」
「市場に行く。そいつの情報が何かつかめるかもしれん」
「わかりました」
デミタスは市場に着くと部下を集めて市場の中を徹底的に調べ始めた。市場の住人に脅迫めいた尋問をするうちに、ギルティーのロイとリンの夫婦もカイト隊長と行動をともにしていた情報を掴んだ。
(やはりリンのやつも共犯だったのか)
すべてを分かった上で自分たちの邪魔をしていたリンの飄々とした顔が浮かんできて心底腹がたった。だが、逆にリンのあの行動であの家に誰かが居てその人物を必死で匿っていたと確信した。
その後もデミタス達は市場の住人に脅迫まがいの尋問を行ったが、これといって有力な情報を得ることが出来ずにいた。
決定的な証言が得られないもどかしさにイライラが募っていたデミタスが貧民街の入り口付近を見た時、ふと視線を外した男が目に止まった。
「おい。あいつをつかまえろ!」
部下たちはデミタスの命令に瞬時に反応して追いかけて、あっという間に怪しい男を捕まえてデミタスの前に連れてきた。男はギルティーに捕まって観念したように命乞いを始めた。男の腕にはサソリの入れ墨が入っていてガルボの手下の一人だった。
「や……やめてくれ! お嬢ちゃんがルーン大国に行けなかったのは道が通れなくなってたからなんだ! 俺が悪いわけじゃないよ!」
「お嬢ちゃんだと? その女の名前を教えろ!」
「え? テ……ティアラのことじゃないのか?」
「なに!! ティアラだと!!」
デミタスは絶句した。寄りにもよって人間のしかも聖女になるような女がこの国にいることに我慢がならなかった。確かにカイトはあの時殺したと行っていたのに、今まで騙されていた自分が許せなかった。
「あ……あんたら。カイト隊長の仲間じゃないのかよ!」
男は混乱したようにデミタスたちに言った。デミタスは恐ろしい形相で男を睨むと詰め寄った。
「お前の知っていることを洗いざらい吐いてもらおうか」
「ヒィィィーー!!」
夕暮れ時の貧民街に男の悲鳴が響き渡った。
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