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〜兄弟の絆〜
Film Out
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「それにしても――、あれはどうしたもんか……」
「まだ元気ないの?」
「ああ。ティアラと別れて以来、何をするのも上の空だよ」
ロイは家に帰るとすぐに妻のリンに愚痴をこぼした。普段から愚痴をこぼすような人ではないことを知っているだけに、よほどカイト隊長のことが気になるのだと思った。
「仕事だけの影響であればまだ許せるが、至るところで雷の被害が増えているんだ」
「ああ。最近雷雲が増えたのはカイト隊長が原因なの?」
「本人は自覚がないようだけど多分そうだろう精神が不安定で魔力が制御できていないんだ」
「全くいい迷惑だわ。おかげで空が曇って洗濯物が全然乾かないわ」
「何か元気づけられることは無いかな?」
「そうね~。一応元気づけようと思って今日赤マスを買ってきたから、これで少しでも元気になってくれればいいけど……」
「ん――。そうだな……」
ロイとリンの夫婦はそう言ってどうしたものか考えていると、家のドアをノックする音が聞こえてきた。誰かが家に来たようだった。
『コン! コン!』
「ん? 誰か来たみたいよ」
リンが玄関の扉を開けるとそこにはマチルダが立っていた。
「あれ? マチルダ? どうしたの?」
「ああ。実は……」
マチルダの後ろに誰かが立っているのが分かった。リンはその人物を見るとリビングのソファーに座っている夫のロイの元に急いで走って行った。
「あなた~! カイト隊長が元気になる方法が見つかったわよ~~!」
「ん? 何だよ一体?」
先程まで洗濯物が乾かないと一緒に悩んでいたのに急に解決方法が見つかったという嫁に困惑した。しかし次の瞬間、マチルダの後ろにいる人物を見て驚いた。リンの言わんとすることがすぐに理解できた。
「そうだな……。これで元気になるな……」
◇
カイトは仕事が終わり帰宅していた。その背中は丸まりトボトボと力なく帰る後ろ姿はまるで病人のようだった。
空を見上げるとどんよりと雷雲が立ち込めていた。
雷雲を見上げながら苛立った。最近何をやってもうまくいかない。色んな奴から元気がないと言われ、それが彼のイライラを一層掻き立てた。元気がないのは自分でも気づいていた、ずっと心に靄がかかっているような感じで仕事に身が入らない。
自分の心と同じようにあの日から空もずっと曇っている。自分ではどうしていいか分からなかった。いや、分かっているが認めたくないのかもしれない。兄が家から出ていった時もしばらくはふさぎ込んでいたが、すぐに立ち直った、今回もすぐに立ち直ってみせる。
(こんなことで……、自分はギルティークラウンだぞ。しっかりしろカイト!)
自分に言い聞かせていた。でも、忘れようと思えば思うほどティアラをはっきりと思い出してしまう。彼女の記憶が淡々と雪のように心の中に降り積もっていく、ティアラの思い出だけを集めるとすぐに彼女の姿が鮮明に浮かび上がった。
その姿に触れようと手を伸ばしてみても触れる瞬間にティアラは消えてしまい、また虚しさだけがこみ上げてきて空っぽの心に痛みだけが残る。
(俺は……、重症だな……)
彼女の言葉が今でも耳に残る、その響きが、彼女の香りが、触れた温もりがカイトを一層傷つけた。そのたびに居なくなってしまった現実を痛感してしまい心が苦しかった。
いつの間にか涙が頬をつたっていた。こみ上げる心の痛みで彼女を感じることができる。そう思うと、この心の痛みを忘れたくなかった。
(こんな姿を見せられないな)
頬につたった涙を拭きながら自宅を見た。ほんの数日前までは家に帰ると彼女がいて美味しい料理を作って自分を待っていてくれた。それがどんなに嬉しかったか、どんなに貴重な時間だったのか、今更ながら感じていた。
今となっては料理なんか期待していない、ただ側にいてずっと笑って居てほしかった。
カイトは涙でにじむ我が家を見て違和感を感じた。時刻は夕方に差し掛かって辺りは薄暗くなっていたので、はっきりとはわからないが自宅に明かりが着いているように見えた。
(ん? ま……まさか?)
目を凝らして自宅を再度凝視したが、確かに家から光が漏れていた。屋根の煙突を見ると僅かではあるが煙がモクモクと上がっているのが見えた。
(誰かが料理をしている。ティアラ? 帰ってきたのか?)
気がつくと走っていた。無我夢中で自宅の玄関を開けた。
「ティアラ!!!」
勢いよく開けた玄関の先にいたのはロイとリンとマチルダの三人だった。部屋を見回してみても他に人は居なかった。
「そ……その……、お前たちだけか……」
「ええ。私達三人だけですよ」
「そ……そうか……」
あからさまにガッカリした態度だった。もちろん本人にその自覚は無かった。
「すごくガッカリしてません? せっかく元気づけようと魚料理を作って待っていたのに」
「あ……ああ。それはありがとう、心配懸けて悪かった……」
テーブルには美味しそうな魚料理があった。確かに美味しそうな料理なので普段のカイトであれば飛び上がって喜んだであろう、でも今回は期待が大きかった分ショックのほうが勝っていた。
「まあ、隊長。そんなところで突っ立ってないで部屋で着替えて来てくださいよ」
ロイに言われてカイトはそうだな、と気のない返事をして部屋に向かって行った。部屋に向かっていくカイトの背中を見て三人は目を合わせてニヤリと笑った。
『ガチャ』
カイトが部屋に入ると誰かが立っていた。一瞬幻覚を見ているのかと錯覚した。
(幻覚を見るほどに俺はティアラのことを思っていたのか?)
「あ……あの~、元気でした?」
幻覚が喋った。浮かび上がるあいつの姿があまりにも鮮やかだったのでまた触れようとすると消えてしまうのではないか?、そこにいると思った瞬間消えてしまうあの恐怖を抑えながら、その愛しい幻に話しかけた。
「お……お前は…………、ティアラなのか?」
「え? は……はい」
目の前にいるティアラは数日前に別れた時と全く同じだった。ずっと行き場を失っていた感情が一気に溢れ出してくる。
ティアラの姿をずっと見つめていたかったが、すぐに滲んで見える。目から涙が溢れそうになるのを堪えていたが、そんなことはできるはずもなかった。
カイトは私に泣き顔を見られないように振り返った。
「な……なんで帰ってきたんだよ」
「ご……ごめんなさい……その……」
私は事の顛末をカイトに話した。
◇
私はギルティアからルーン大国に密入国するため、ガルボたちの幌馬車に乗せてもらっていた。
幌馬車はガタガタと揺れながら山道を走っていた。
町から遠ざかるにつれて段々と民家が少なくなっていく、代わりに馬車に伝わる振動が大きく揺れが激しくなっていった。その振動で段々と人があまり住んでいない山道を進んでいると思った。
ガタガタと揺れる馬車の荷台の中は色々なもので溢れかえっていたので、乗り心地は最悪だったが、だがそんなことは言ってられなかった。
私は幌馬車でラビオリという町を目指していた。ラビオリからガルボたちの所有する飛空艇に乗ってルーン大国に渡るためだった。ラビオリまではあと2日この状態で耐えなければならない。
私は荷台にあった等身大の仏像の膝の上に腰掛けていた。大仏はあぐらをかいていたので、あぐらの真ん中が私のお尻にピッタリと収まっていた。小さい頃、父親の膝によくこうして座っていたのを思い出して懐かしく感じた。
(お父さん元気にしてるかな?)
自分と母親は亡くなってこの世に転生したが、父親はひとり残されているようだったので会いたい衝動に駆られた。私がなんとなくそう思っていると急に幌馬車の外から叫び声が聞こえた。
「止まれーーーー!!!」
男の叫び声が聞こえたと思った瞬間、馬車が急停止したので、積み上げられた荷物が私の頭の上に落ちてきたが、ちょうど大仏の影に隠れた格好になっていたので、頭への直撃は免れた。
大仏が守ってくれた? そう思っていると外からまた叫び声が聞こえた。
「どこに向かってる! 許可証を見せろ!」
「何を運んでいる? 荷台を見せろ!」
数人の男女が外で怒鳴っているのが聞こえてきた。どうやら検問所のような所に着いたようだった。私は見つかるとまずいと思ったので、ガルボがいざというときに身を隠せるように用意していた大きい箱の中に隠れた。やがて検問所の男の声が荷台の後ろに聞こえてくると同時に荷台の帆をめくる音が聞こえてきた。
『ドカッ! ギシギシ……』
検問所の人が幌馬車の荷台に入ってきたようだった。見つからないように息を殺して神様に祈ったが、荷台に入ってきた者は私が隠れている箱の縁に手を掛けるとそのまま蓋を開けた。
『ガバッ!』
箱を開けたのはギルティーの兵士だった。私は箱を開けた人物としばらく目が合って固まった。
その時箱を開けたのが、マチルダだった。
マチルダは私の状態を見て絶句した。
「……!! どうして……?」
「……」
私が無言でいると事態を察知したのか他のギルティーたちには見つからないようにすぐに箱の扉を締めてくれた。
「マチルダ、どうした?」
荷台の外から男の声がした。
「なんでもない。この幌馬車は私が調査するからお前たちは他の馬車を調査してくれ」
マチルダに言われて他のギルティー達は幌馬車から遠ざかっいていった。マチルダは他のギルティーたちが遠ざかるのを確認して、再び私が入った箱を開けた。
「どうしてここにティアラがいるんだ?」
私はマチルダに今までの経緯を話した。
「そういうことか。でも……、残念だがラビオリまで続く道だが、先日の雷で大木が倒れていて通行できないぞ」
「え? そうなんですか?」
「ああ。復旧までには少なくても、あと2~3日はかかるだろう」
「どうしよう……」
「とりあえず引き返すしか無いな」
「え……そうですか……」
「安心しろ私が命にかけても守ってやる」
「でも……マチルダさんは私のこと――」
数日前のパーティーの記憶が蘇ってきた。ティアラはマチルダ夫婦を助けるために自分の血液を注射してそのことでマチルダに憎まれていた。
「あの時は申し訳ないことをした!!」
マチルダは土下座をして謝ってきた。
「あれから夫と一緒に色々考えて、命をかけて救ってくれた恩人に対してあまりにも心無い言い方をして本当に誤りたかったんだ! ティアラ、許してくれ!」
いきなりのことでどう対処していいか分からなかった、カイトも頼み事をするときに土下座していたな、など、ギルティアの土下座は生前の日本と同じ意味を持っているようだ等、どうでもいいことが頭に浮かんだ。
「いいのよマチルダ、もう気にしていないわ、大丈夫よ!」
私がそう言うと安心したのかマチルダは泣きながら抱きついてきた。
「ティアラーーーー! 大好き!」
マチルダは行き場を失って困っていた私を誰にも見つからないようにロイの家に連れて来てくれた。
私は話し終えるとカイトを見た。
「そ……そうか……、それじゃあ、し……仕方がないな」
カイトは振り返ると満面の笑みでおかえり、と言ってくれた。
その笑顔が眩しすぎて一瞬でここ数日間の寂しさが満たされていくのを感じた。
カイトも同じように声が弾んでいてかなり嬉しそうだった。
「まだ元気ないの?」
「ああ。ティアラと別れて以来、何をするのも上の空だよ」
ロイは家に帰るとすぐに妻のリンに愚痴をこぼした。普段から愚痴をこぼすような人ではないことを知っているだけに、よほどカイト隊長のことが気になるのだと思った。
「仕事だけの影響であればまだ許せるが、至るところで雷の被害が増えているんだ」
「ああ。最近雷雲が増えたのはカイト隊長が原因なの?」
「本人は自覚がないようだけど多分そうだろう精神が不安定で魔力が制御できていないんだ」
「全くいい迷惑だわ。おかげで空が曇って洗濯物が全然乾かないわ」
「何か元気づけられることは無いかな?」
「そうね~。一応元気づけようと思って今日赤マスを買ってきたから、これで少しでも元気になってくれればいいけど……」
「ん――。そうだな……」
ロイとリンの夫婦はそう言ってどうしたものか考えていると、家のドアをノックする音が聞こえてきた。誰かが家に来たようだった。
『コン! コン!』
「ん? 誰か来たみたいよ」
リンが玄関の扉を開けるとそこにはマチルダが立っていた。
「あれ? マチルダ? どうしたの?」
「ああ。実は……」
マチルダの後ろに誰かが立っているのが分かった。リンはその人物を見るとリビングのソファーに座っている夫のロイの元に急いで走って行った。
「あなた~! カイト隊長が元気になる方法が見つかったわよ~~!」
「ん? 何だよ一体?」
先程まで洗濯物が乾かないと一緒に悩んでいたのに急に解決方法が見つかったという嫁に困惑した。しかし次の瞬間、マチルダの後ろにいる人物を見て驚いた。リンの言わんとすることがすぐに理解できた。
「そうだな……。これで元気になるな……」
◇
カイトは仕事が終わり帰宅していた。その背中は丸まりトボトボと力なく帰る後ろ姿はまるで病人のようだった。
空を見上げるとどんよりと雷雲が立ち込めていた。
雷雲を見上げながら苛立った。最近何をやってもうまくいかない。色んな奴から元気がないと言われ、それが彼のイライラを一層掻き立てた。元気がないのは自分でも気づいていた、ずっと心に靄がかかっているような感じで仕事に身が入らない。
自分の心と同じようにあの日から空もずっと曇っている。自分ではどうしていいか分からなかった。いや、分かっているが認めたくないのかもしれない。兄が家から出ていった時もしばらくはふさぎ込んでいたが、すぐに立ち直った、今回もすぐに立ち直ってみせる。
(こんなことで……、自分はギルティークラウンだぞ。しっかりしろカイト!)
自分に言い聞かせていた。でも、忘れようと思えば思うほどティアラをはっきりと思い出してしまう。彼女の記憶が淡々と雪のように心の中に降り積もっていく、ティアラの思い出だけを集めるとすぐに彼女の姿が鮮明に浮かび上がった。
その姿に触れようと手を伸ばしてみても触れる瞬間にティアラは消えてしまい、また虚しさだけがこみ上げてきて空っぽの心に痛みだけが残る。
(俺は……、重症だな……)
彼女の言葉が今でも耳に残る、その響きが、彼女の香りが、触れた温もりがカイトを一層傷つけた。そのたびに居なくなってしまった現実を痛感してしまい心が苦しかった。
いつの間にか涙が頬をつたっていた。こみ上げる心の痛みで彼女を感じることができる。そう思うと、この心の痛みを忘れたくなかった。
(こんな姿を見せられないな)
頬につたった涙を拭きながら自宅を見た。ほんの数日前までは家に帰ると彼女がいて美味しい料理を作って自分を待っていてくれた。それがどんなに嬉しかったか、どんなに貴重な時間だったのか、今更ながら感じていた。
今となっては料理なんか期待していない、ただ側にいてずっと笑って居てほしかった。
カイトは涙でにじむ我が家を見て違和感を感じた。時刻は夕方に差し掛かって辺りは薄暗くなっていたので、はっきりとはわからないが自宅に明かりが着いているように見えた。
(ん? ま……まさか?)
目を凝らして自宅を再度凝視したが、確かに家から光が漏れていた。屋根の煙突を見ると僅かではあるが煙がモクモクと上がっているのが見えた。
(誰かが料理をしている。ティアラ? 帰ってきたのか?)
気がつくと走っていた。無我夢中で自宅の玄関を開けた。
「ティアラ!!!」
勢いよく開けた玄関の先にいたのはロイとリンとマチルダの三人だった。部屋を見回してみても他に人は居なかった。
「そ……その……、お前たちだけか……」
「ええ。私達三人だけですよ」
「そ……そうか……」
あからさまにガッカリした態度だった。もちろん本人にその自覚は無かった。
「すごくガッカリしてません? せっかく元気づけようと魚料理を作って待っていたのに」
「あ……ああ。それはありがとう、心配懸けて悪かった……」
テーブルには美味しそうな魚料理があった。確かに美味しそうな料理なので普段のカイトであれば飛び上がって喜んだであろう、でも今回は期待が大きかった分ショックのほうが勝っていた。
「まあ、隊長。そんなところで突っ立ってないで部屋で着替えて来てくださいよ」
ロイに言われてカイトはそうだな、と気のない返事をして部屋に向かって行った。部屋に向かっていくカイトの背中を見て三人は目を合わせてニヤリと笑った。
『ガチャ』
カイトが部屋に入ると誰かが立っていた。一瞬幻覚を見ているのかと錯覚した。
(幻覚を見るほどに俺はティアラのことを思っていたのか?)
「あ……あの~、元気でした?」
幻覚が喋った。浮かび上がるあいつの姿があまりにも鮮やかだったのでまた触れようとすると消えてしまうのではないか?、そこにいると思った瞬間消えてしまうあの恐怖を抑えながら、その愛しい幻に話しかけた。
「お……お前は…………、ティアラなのか?」
「え? は……はい」
目の前にいるティアラは数日前に別れた時と全く同じだった。ずっと行き場を失っていた感情が一気に溢れ出してくる。
ティアラの姿をずっと見つめていたかったが、すぐに滲んで見える。目から涙が溢れそうになるのを堪えていたが、そんなことはできるはずもなかった。
カイトは私に泣き顔を見られないように振り返った。
「な……なんで帰ってきたんだよ」
「ご……ごめんなさい……その……」
私は事の顛末をカイトに話した。
◇
私はギルティアからルーン大国に密入国するため、ガルボたちの幌馬車に乗せてもらっていた。
幌馬車はガタガタと揺れながら山道を走っていた。
町から遠ざかるにつれて段々と民家が少なくなっていく、代わりに馬車に伝わる振動が大きく揺れが激しくなっていった。その振動で段々と人があまり住んでいない山道を進んでいると思った。
ガタガタと揺れる馬車の荷台の中は色々なもので溢れかえっていたので、乗り心地は最悪だったが、だがそんなことは言ってられなかった。
私は幌馬車でラビオリという町を目指していた。ラビオリからガルボたちの所有する飛空艇に乗ってルーン大国に渡るためだった。ラビオリまではあと2日この状態で耐えなければならない。
私は荷台にあった等身大の仏像の膝の上に腰掛けていた。大仏はあぐらをかいていたので、あぐらの真ん中が私のお尻にピッタリと収まっていた。小さい頃、父親の膝によくこうして座っていたのを思い出して懐かしく感じた。
(お父さん元気にしてるかな?)
自分と母親は亡くなってこの世に転生したが、父親はひとり残されているようだったので会いたい衝動に駆られた。私がなんとなくそう思っていると急に幌馬車の外から叫び声が聞こえた。
「止まれーーーー!!!」
男の叫び声が聞こえたと思った瞬間、馬車が急停止したので、積み上げられた荷物が私の頭の上に落ちてきたが、ちょうど大仏の影に隠れた格好になっていたので、頭への直撃は免れた。
大仏が守ってくれた? そう思っていると外からまた叫び声が聞こえた。
「どこに向かってる! 許可証を見せろ!」
「何を運んでいる? 荷台を見せろ!」
数人の男女が外で怒鳴っているのが聞こえてきた。どうやら検問所のような所に着いたようだった。私は見つかるとまずいと思ったので、ガルボがいざというときに身を隠せるように用意していた大きい箱の中に隠れた。やがて検問所の男の声が荷台の後ろに聞こえてくると同時に荷台の帆をめくる音が聞こえてきた。
『ドカッ! ギシギシ……』
検問所の人が幌馬車の荷台に入ってきたようだった。見つからないように息を殺して神様に祈ったが、荷台に入ってきた者は私が隠れている箱の縁に手を掛けるとそのまま蓋を開けた。
『ガバッ!』
箱を開けたのはギルティーの兵士だった。私は箱を開けた人物としばらく目が合って固まった。
その時箱を開けたのが、マチルダだった。
マチルダは私の状態を見て絶句した。
「……!! どうして……?」
「……」
私が無言でいると事態を察知したのか他のギルティーたちには見つからないようにすぐに箱の扉を締めてくれた。
「マチルダ、どうした?」
荷台の外から男の声がした。
「なんでもない。この幌馬車は私が調査するからお前たちは他の馬車を調査してくれ」
マチルダに言われて他のギルティー達は幌馬車から遠ざかっいていった。マチルダは他のギルティーたちが遠ざかるのを確認して、再び私が入った箱を開けた。
「どうしてここにティアラがいるんだ?」
私はマチルダに今までの経緯を話した。
「そういうことか。でも……、残念だがラビオリまで続く道だが、先日の雷で大木が倒れていて通行できないぞ」
「え? そうなんですか?」
「ああ。復旧までには少なくても、あと2~3日はかかるだろう」
「どうしよう……」
「とりあえず引き返すしか無いな」
「え……そうですか……」
「安心しろ私が命にかけても守ってやる」
「でも……マチルダさんは私のこと――」
数日前のパーティーの記憶が蘇ってきた。ティアラはマチルダ夫婦を助けるために自分の血液を注射してそのことでマチルダに憎まれていた。
「あの時は申し訳ないことをした!!」
マチルダは土下座をして謝ってきた。
「あれから夫と一緒に色々考えて、命をかけて救ってくれた恩人に対してあまりにも心無い言い方をして本当に誤りたかったんだ! ティアラ、許してくれ!」
いきなりのことでどう対処していいか分からなかった、カイトも頼み事をするときに土下座していたな、など、ギルティアの土下座は生前の日本と同じ意味を持っているようだ等、どうでもいいことが頭に浮かんだ。
「いいのよマチルダ、もう気にしていないわ、大丈夫よ!」
私がそう言うと安心したのかマチルダは泣きながら抱きついてきた。
「ティアラーーーー! 大好き!」
マチルダは行き場を失って困っていた私を誰にも見つからないようにロイの家に連れて来てくれた。
私は話し終えるとカイトを見た。
「そ……そうか……、それじゃあ、し……仕方がないな」
カイトは振り返ると満面の笑みでおかえり、と言ってくれた。
その笑顔が眩しすぎて一瞬でここ数日間の寂しさが満たされていくのを感じた。
カイトも同じように声が弾んでいてかなり嬉しそうだった。
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