53 / 117
〜兄弟の絆〜
Film Out
しおりを挟む
「それにしても――、あれはどうしたもんか……」
「まだ元気ないの?」
「ああ。ティアラと別れて以来、何をするのも上の空だよ」
ロイは家に帰るとすぐに妻のリンに愚痴をこぼした。普段から愚痴をこぼすような人ではないことを知っているだけに、よほどカイト隊長のことが気になるのだと思った。
「仕事だけの影響であればまだ許せるが、至るところで雷の被害が増えているんだ」
「ああ。最近雷雲が増えたのはカイト隊長が原因なの?」
「本人は自覚がないようだけど多分そうだろう精神が不安定で魔力が制御できていないんだ」
「全くいい迷惑だわ。おかげで空が曇って洗濯物が全然乾かないわ」
「何か元気づけられることは無いかな?」
「そうね~。一応元気づけようと思って今日赤マスを買ってきたから、これで少しでも元気になってくれればいいけど……」
「ん――。そうだな……」
ロイとリンの夫婦はそう言ってどうしたものか考えていると、家のドアをノックする音が聞こえてきた。誰かが家に来たようだった。
『コン! コン!』
「ん? 誰か来たみたいよ」
リンが玄関の扉を開けるとそこにはマチルダが立っていた。
「あれ? マチルダ? どうしたの?」
「ああ。実は……」
マチルダの後ろに誰かが立っているのが分かった。リンはその人物を見るとリビングのソファーに座っている夫のロイの元に急いで走って行った。
「あなた~! カイト隊長が元気になる方法が見つかったわよ~~!」
「ん? 何だよ一体?」
先程まで洗濯物が乾かないと一緒に悩んでいたのに急に解決方法が見つかったという嫁に困惑した。しかし次の瞬間、マチルダの後ろにいる人物を見て驚いた。リンの言わんとすることがすぐに理解できた。
「そうだな……。これで元気になるな……」
◇
カイトは仕事が終わり帰宅していた。その背中は丸まりトボトボと力なく帰る後ろ姿はまるで病人のようだった。
空を見上げるとどんよりと雷雲が立ち込めていた。
雷雲を見上げながら苛立った。最近何をやってもうまくいかない。色んな奴から元気がないと言われ、それが彼のイライラを一層掻き立てた。元気がないのは自分でも気づいていた、ずっと心に靄がかかっているような感じで仕事に身が入らない。
自分の心と同じようにあの日から空もずっと曇っている。自分ではどうしていいか分からなかった。いや、分かっているが認めたくないのかもしれない。兄が家から出ていった時もしばらくはふさぎ込んでいたが、すぐに立ち直った、今回もすぐに立ち直ってみせる。
(こんなことで……、自分はギルティークラウンだぞ。しっかりしろカイト!)
自分に言い聞かせていた。でも、忘れようと思えば思うほどティアラをはっきりと思い出してしまう。彼女の記憶が淡々と雪のように心の中に降り積もっていく、ティアラの思い出だけを集めるとすぐに彼女の姿が鮮明に浮かび上がった。
その姿に触れようと手を伸ばしてみても触れる瞬間にティアラは消えてしまい、また虚しさだけがこみ上げてきて空っぽの心に痛みだけが残る。
(俺は……、重症だな……)
彼女の言葉が今でも耳に残る、その響きが、彼女の香りが、触れた温もりがカイトを一層傷つけた。そのたびに居なくなってしまった現実を痛感してしまい心が苦しかった。
いつの間にか涙が頬をつたっていた。こみ上げる心の痛みで彼女を感じることができる。そう思うと、この心の痛みを忘れたくなかった。
(こんな姿を見せられないな)
頬につたった涙を拭きながら自宅を見た。ほんの数日前までは家に帰ると彼女がいて美味しい料理を作って自分を待っていてくれた。それがどんなに嬉しかったか、どんなに貴重な時間だったのか、今更ながら感じていた。
今となっては料理なんか期待していない、ただ側にいてずっと笑って居てほしかった。
カイトは涙でにじむ我が家を見て違和感を感じた。時刻は夕方に差し掛かって辺りは薄暗くなっていたので、はっきりとはわからないが自宅に明かりが着いているように見えた。
(ん? ま……まさか?)
目を凝らして自宅を再度凝視したが、確かに家から光が漏れていた。屋根の煙突を見ると僅かではあるが煙がモクモクと上がっているのが見えた。
(誰かが料理をしている。ティアラ? 帰ってきたのか?)
気がつくと走っていた。無我夢中で自宅の玄関を開けた。
「ティアラ!!!」
勢いよく開けた玄関の先にいたのはロイとリンとマチルダの三人だった。部屋を見回してみても他に人は居なかった。
「そ……その……、お前たちだけか……」
「ええ。私達三人だけですよ」
「そ……そうか……」
あからさまにガッカリした態度だった。もちろん本人にその自覚は無かった。
「すごくガッカリしてません? せっかく元気づけようと魚料理を作って待っていたのに」
「あ……ああ。それはありがとう、心配懸けて悪かった……」
テーブルには美味しそうな魚料理があった。確かに美味しそうな料理なので普段のカイトであれば飛び上がって喜んだであろう、でも今回は期待が大きかった分ショックのほうが勝っていた。
「まあ、隊長。そんなところで突っ立ってないで部屋で着替えて来てくださいよ」
ロイに言われてカイトはそうだな、と気のない返事をして部屋に向かって行った。部屋に向かっていくカイトの背中を見て三人は目を合わせてニヤリと笑った。
『ガチャ』
カイトが部屋に入ると誰かが立っていた。一瞬幻覚を見ているのかと錯覚した。
(幻覚を見るほどに俺はティアラのことを思っていたのか?)
「あ……あの~、元気でした?」
幻覚が喋った。浮かび上がるあいつの姿があまりにも鮮やかだったのでまた触れようとすると消えてしまうのではないか?、そこにいると思った瞬間消えてしまうあの恐怖を抑えながら、その愛しい幻に話しかけた。
「お……お前は…………、ティアラなのか?」
「え? は……はい」
目の前にいるティアラは数日前に別れた時と全く同じだった。ずっと行き場を失っていた感情が一気に溢れ出してくる。
ティアラの姿をずっと見つめていたかったが、すぐに滲んで見える。目から涙が溢れそうになるのを堪えていたが、そんなことはできるはずもなかった。
カイトは私に泣き顔を見られないように振り返った。
「な……なんで帰ってきたんだよ」
「ご……ごめんなさい……その……」
私は事の顛末をカイトに話した。
◇
私はギルティアからルーン大国に密入国するため、ガルボたちの幌馬車に乗せてもらっていた。
幌馬車はガタガタと揺れながら山道を走っていた。
町から遠ざかるにつれて段々と民家が少なくなっていく、代わりに馬車に伝わる振動が大きく揺れが激しくなっていった。その振動で段々と人があまり住んでいない山道を進んでいると思った。
ガタガタと揺れる馬車の荷台の中は色々なもので溢れかえっていたので、乗り心地は最悪だったが、だがそんなことは言ってられなかった。
私は幌馬車でラビオリという町を目指していた。ラビオリからガルボたちの所有する飛空艇に乗ってルーン大国に渡るためだった。ラビオリまではあと2日この状態で耐えなければならない。
私は荷台にあった等身大の仏像の膝の上に腰掛けていた。大仏はあぐらをかいていたので、あぐらの真ん中が私のお尻にピッタリと収まっていた。小さい頃、父親の膝によくこうして座っていたのを思い出して懐かしく感じた。
(お父さん元気にしてるかな?)
自分と母親は亡くなってこの世に転生したが、父親はひとり残されているようだったので会いたい衝動に駆られた。私がなんとなくそう思っていると急に幌馬車の外から叫び声が聞こえた。
「止まれーーーー!!!」
男の叫び声が聞こえたと思った瞬間、馬車が急停止したので、積み上げられた荷物が私の頭の上に落ちてきたが、ちょうど大仏の影に隠れた格好になっていたので、頭への直撃は免れた。
大仏が守ってくれた? そう思っていると外からまた叫び声が聞こえた。
「どこに向かってる! 許可証を見せろ!」
「何を運んでいる? 荷台を見せろ!」
数人の男女が外で怒鳴っているのが聞こえてきた。どうやら検問所のような所に着いたようだった。私は見つかるとまずいと思ったので、ガルボがいざというときに身を隠せるように用意していた大きい箱の中に隠れた。やがて検問所の男の声が荷台の後ろに聞こえてくると同時に荷台の帆をめくる音が聞こえてきた。
『ドカッ! ギシギシ……』
検問所の人が幌馬車の荷台に入ってきたようだった。見つからないように息を殺して神様に祈ったが、荷台に入ってきた者は私が隠れている箱の縁に手を掛けるとそのまま蓋を開けた。
『ガバッ!』
箱を開けたのはギルティーの兵士だった。私は箱を開けた人物としばらく目が合って固まった。
その時箱を開けたのが、マチルダだった。
マチルダは私の状態を見て絶句した。
「……!! どうして……?」
「……」
私が無言でいると事態を察知したのか他のギルティーたちには見つからないようにすぐに箱の扉を締めてくれた。
「マチルダ、どうした?」
荷台の外から男の声がした。
「なんでもない。この幌馬車は私が調査するからお前たちは他の馬車を調査してくれ」
マチルダに言われて他のギルティー達は幌馬車から遠ざかっいていった。マチルダは他のギルティーたちが遠ざかるのを確認して、再び私が入った箱を開けた。
「どうしてここにティアラがいるんだ?」
私はマチルダに今までの経緯を話した。
「そういうことか。でも……、残念だがラビオリまで続く道だが、先日の雷で大木が倒れていて通行できないぞ」
「え? そうなんですか?」
「ああ。復旧までには少なくても、あと2~3日はかかるだろう」
「どうしよう……」
「とりあえず引き返すしか無いな」
「え……そうですか……」
「安心しろ私が命にかけても守ってやる」
「でも……マチルダさんは私のこと――」
数日前のパーティーの記憶が蘇ってきた。ティアラはマチルダ夫婦を助けるために自分の血液を注射してそのことでマチルダに憎まれていた。
「あの時は申し訳ないことをした!!」
マチルダは土下座をして謝ってきた。
「あれから夫と一緒に色々考えて、命をかけて救ってくれた恩人に対してあまりにも心無い言い方をして本当に誤りたかったんだ! ティアラ、許してくれ!」
いきなりのことでどう対処していいか分からなかった、カイトも頼み事をするときに土下座していたな、など、ギルティアの土下座は生前の日本と同じ意味を持っているようだ等、どうでもいいことが頭に浮かんだ。
「いいのよマチルダ、もう気にしていないわ、大丈夫よ!」
私がそう言うと安心したのかマチルダは泣きながら抱きついてきた。
「ティアラーーーー! 大好き!」
マチルダは行き場を失って困っていた私を誰にも見つからないようにロイの家に連れて来てくれた。
私は話し終えるとカイトを見た。
「そ……そうか……、それじゃあ、し……仕方がないな」
カイトは振り返ると満面の笑みでおかえり、と言ってくれた。
その笑顔が眩しすぎて一瞬でここ数日間の寂しさが満たされていくのを感じた。
カイトも同じように声が弾んでいてかなり嬉しそうだった。
「まだ元気ないの?」
「ああ。ティアラと別れて以来、何をするのも上の空だよ」
ロイは家に帰るとすぐに妻のリンに愚痴をこぼした。普段から愚痴をこぼすような人ではないことを知っているだけに、よほどカイト隊長のことが気になるのだと思った。
「仕事だけの影響であればまだ許せるが、至るところで雷の被害が増えているんだ」
「ああ。最近雷雲が増えたのはカイト隊長が原因なの?」
「本人は自覚がないようだけど多分そうだろう精神が不安定で魔力が制御できていないんだ」
「全くいい迷惑だわ。おかげで空が曇って洗濯物が全然乾かないわ」
「何か元気づけられることは無いかな?」
「そうね~。一応元気づけようと思って今日赤マスを買ってきたから、これで少しでも元気になってくれればいいけど……」
「ん――。そうだな……」
ロイとリンの夫婦はそう言ってどうしたものか考えていると、家のドアをノックする音が聞こえてきた。誰かが家に来たようだった。
『コン! コン!』
「ん? 誰か来たみたいよ」
リンが玄関の扉を開けるとそこにはマチルダが立っていた。
「あれ? マチルダ? どうしたの?」
「ああ。実は……」
マチルダの後ろに誰かが立っているのが分かった。リンはその人物を見るとリビングのソファーに座っている夫のロイの元に急いで走って行った。
「あなた~! カイト隊長が元気になる方法が見つかったわよ~~!」
「ん? 何だよ一体?」
先程まで洗濯物が乾かないと一緒に悩んでいたのに急に解決方法が見つかったという嫁に困惑した。しかし次の瞬間、マチルダの後ろにいる人物を見て驚いた。リンの言わんとすることがすぐに理解できた。
「そうだな……。これで元気になるな……」
◇
カイトは仕事が終わり帰宅していた。その背中は丸まりトボトボと力なく帰る後ろ姿はまるで病人のようだった。
空を見上げるとどんよりと雷雲が立ち込めていた。
雷雲を見上げながら苛立った。最近何をやってもうまくいかない。色んな奴から元気がないと言われ、それが彼のイライラを一層掻き立てた。元気がないのは自分でも気づいていた、ずっと心に靄がかかっているような感じで仕事に身が入らない。
自分の心と同じようにあの日から空もずっと曇っている。自分ではどうしていいか分からなかった。いや、分かっているが認めたくないのかもしれない。兄が家から出ていった時もしばらくはふさぎ込んでいたが、すぐに立ち直った、今回もすぐに立ち直ってみせる。
(こんなことで……、自分はギルティークラウンだぞ。しっかりしろカイト!)
自分に言い聞かせていた。でも、忘れようと思えば思うほどティアラをはっきりと思い出してしまう。彼女の記憶が淡々と雪のように心の中に降り積もっていく、ティアラの思い出だけを集めるとすぐに彼女の姿が鮮明に浮かび上がった。
その姿に触れようと手を伸ばしてみても触れる瞬間にティアラは消えてしまい、また虚しさだけがこみ上げてきて空っぽの心に痛みだけが残る。
(俺は……、重症だな……)
彼女の言葉が今でも耳に残る、その響きが、彼女の香りが、触れた温もりがカイトを一層傷つけた。そのたびに居なくなってしまった現実を痛感してしまい心が苦しかった。
いつの間にか涙が頬をつたっていた。こみ上げる心の痛みで彼女を感じることができる。そう思うと、この心の痛みを忘れたくなかった。
(こんな姿を見せられないな)
頬につたった涙を拭きながら自宅を見た。ほんの数日前までは家に帰ると彼女がいて美味しい料理を作って自分を待っていてくれた。それがどんなに嬉しかったか、どんなに貴重な時間だったのか、今更ながら感じていた。
今となっては料理なんか期待していない、ただ側にいてずっと笑って居てほしかった。
カイトは涙でにじむ我が家を見て違和感を感じた。時刻は夕方に差し掛かって辺りは薄暗くなっていたので、はっきりとはわからないが自宅に明かりが着いているように見えた。
(ん? ま……まさか?)
目を凝らして自宅を再度凝視したが、確かに家から光が漏れていた。屋根の煙突を見ると僅かではあるが煙がモクモクと上がっているのが見えた。
(誰かが料理をしている。ティアラ? 帰ってきたのか?)
気がつくと走っていた。無我夢中で自宅の玄関を開けた。
「ティアラ!!!」
勢いよく開けた玄関の先にいたのはロイとリンとマチルダの三人だった。部屋を見回してみても他に人は居なかった。
「そ……その……、お前たちだけか……」
「ええ。私達三人だけですよ」
「そ……そうか……」
あからさまにガッカリした態度だった。もちろん本人にその自覚は無かった。
「すごくガッカリしてません? せっかく元気づけようと魚料理を作って待っていたのに」
「あ……ああ。それはありがとう、心配懸けて悪かった……」
テーブルには美味しそうな魚料理があった。確かに美味しそうな料理なので普段のカイトであれば飛び上がって喜んだであろう、でも今回は期待が大きかった分ショックのほうが勝っていた。
「まあ、隊長。そんなところで突っ立ってないで部屋で着替えて来てくださいよ」
ロイに言われてカイトはそうだな、と気のない返事をして部屋に向かって行った。部屋に向かっていくカイトの背中を見て三人は目を合わせてニヤリと笑った。
『ガチャ』
カイトが部屋に入ると誰かが立っていた。一瞬幻覚を見ているのかと錯覚した。
(幻覚を見るほどに俺はティアラのことを思っていたのか?)
「あ……あの~、元気でした?」
幻覚が喋った。浮かび上がるあいつの姿があまりにも鮮やかだったのでまた触れようとすると消えてしまうのではないか?、そこにいると思った瞬間消えてしまうあの恐怖を抑えながら、その愛しい幻に話しかけた。
「お……お前は…………、ティアラなのか?」
「え? は……はい」
目の前にいるティアラは数日前に別れた時と全く同じだった。ずっと行き場を失っていた感情が一気に溢れ出してくる。
ティアラの姿をずっと見つめていたかったが、すぐに滲んで見える。目から涙が溢れそうになるのを堪えていたが、そんなことはできるはずもなかった。
カイトは私に泣き顔を見られないように振り返った。
「な……なんで帰ってきたんだよ」
「ご……ごめんなさい……その……」
私は事の顛末をカイトに話した。
◇
私はギルティアからルーン大国に密入国するため、ガルボたちの幌馬車に乗せてもらっていた。
幌馬車はガタガタと揺れながら山道を走っていた。
町から遠ざかるにつれて段々と民家が少なくなっていく、代わりに馬車に伝わる振動が大きく揺れが激しくなっていった。その振動で段々と人があまり住んでいない山道を進んでいると思った。
ガタガタと揺れる馬車の荷台の中は色々なもので溢れかえっていたので、乗り心地は最悪だったが、だがそんなことは言ってられなかった。
私は幌馬車でラビオリという町を目指していた。ラビオリからガルボたちの所有する飛空艇に乗ってルーン大国に渡るためだった。ラビオリまではあと2日この状態で耐えなければならない。
私は荷台にあった等身大の仏像の膝の上に腰掛けていた。大仏はあぐらをかいていたので、あぐらの真ん中が私のお尻にピッタリと収まっていた。小さい頃、父親の膝によくこうして座っていたのを思い出して懐かしく感じた。
(お父さん元気にしてるかな?)
自分と母親は亡くなってこの世に転生したが、父親はひとり残されているようだったので会いたい衝動に駆られた。私がなんとなくそう思っていると急に幌馬車の外から叫び声が聞こえた。
「止まれーーーー!!!」
男の叫び声が聞こえたと思った瞬間、馬車が急停止したので、積み上げられた荷物が私の頭の上に落ちてきたが、ちょうど大仏の影に隠れた格好になっていたので、頭への直撃は免れた。
大仏が守ってくれた? そう思っていると外からまた叫び声が聞こえた。
「どこに向かってる! 許可証を見せろ!」
「何を運んでいる? 荷台を見せろ!」
数人の男女が外で怒鳴っているのが聞こえてきた。どうやら検問所のような所に着いたようだった。私は見つかるとまずいと思ったので、ガルボがいざというときに身を隠せるように用意していた大きい箱の中に隠れた。やがて検問所の男の声が荷台の後ろに聞こえてくると同時に荷台の帆をめくる音が聞こえてきた。
『ドカッ! ギシギシ……』
検問所の人が幌馬車の荷台に入ってきたようだった。見つからないように息を殺して神様に祈ったが、荷台に入ってきた者は私が隠れている箱の縁に手を掛けるとそのまま蓋を開けた。
『ガバッ!』
箱を開けたのはギルティーの兵士だった。私は箱を開けた人物としばらく目が合って固まった。
その時箱を開けたのが、マチルダだった。
マチルダは私の状態を見て絶句した。
「……!! どうして……?」
「……」
私が無言でいると事態を察知したのか他のギルティーたちには見つからないようにすぐに箱の扉を締めてくれた。
「マチルダ、どうした?」
荷台の外から男の声がした。
「なんでもない。この幌馬車は私が調査するからお前たちは他の馬車を調査してくれ」
マチルダに言われて他のギルティー達は幌馬車から遠ざかっいていった。マチルダは他のギルティーたちが遠ざかるのを確認して、再び私が入った箱を開けた。
「どうしてここにティアラがいるんだ?」
私はマチルダに今までの経緯を話した。
「そういうことか。でも……、残念だがラビオリまで続く道だが、先日の雷で大木が倒れていて通行できないぞ」
「え? そうなんですか?」
「ああ。復旧までには少なくても、あと2~3日はかかるだろう」
「どうしよう……」
「とりあえず引き返すしか無いな」
「え……そうですか……」
「安心しろ私が命にかけても守ってやる」
「でも……マチルダさんは私のこと――」
数日前のパーティーの記憶が蘇ってきた。ティアラはマチルダ夫婦を助けるために自分の血液を注射してそのことでマチルダに憎まれていた。
「あの時は申し訳ないことをした!!」
マチルダは土下座をして謝ってきた。
「あれから夫と一緒に色々考えて、命をかけて救ってくれた恩人に対してあまりにも心無い言い方をして本当に誤りたかったんだ! ティアラ、許してくれ!」
いきなりのことでどう対処していいか分からなかった、カイトも頼み事をするときに土下座していたな、など、ギルティアの土下座は生前の日本と同じ意味を持っているようだ等、どうでもいいことが頭に浮かんだ。
「いいのよマチルダ、もう気にしていないわ、大丈夫よ!」
私がそう言うと安心したのかマチルダは泣きながら抱きついてきた。
「ティアラーーーー! 大好き!」
マチルダは行き場を失って困っていた私を誰にも見つからないようにロイの家に連れて来てくれた。
私は話し終えるとカイトを見た。
「そ……そうか……、それじゃあ、し……仕方がないな」
カイトは振り返ると満面の笑みでおかえり、と言ってくれた。
その笑顔が眩しすぎて一瞬でここ数日間の寂しさが満たされていくのを感じた。
カイトも同じように声が弾んでいてかなり嬉しそうだった。
10
お気に入りに追加
104
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
異世界で王城生活~陛下の隣で~
遥
恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。
グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます!
※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。
※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
【本編完結】五人のイケメン薔薇騎士団団長に溺愛されて200年の眠りから覚めた聖女王女は困惑するばかりです!
七海美桜
恋愛
フーゲンベルク大陸で、長く大陸の大半を治めていたバッハシュタイン王国で、最後の古龍への生贄となった第三王女のヴェンデルガルト。しかしそれ以降古龍が亡くなり王国は滅びバルシュミーデ皇国の治世になり二百年後。封印されていたヴェンデルガルトが目覚めると、魔法は滅びた世で「治癒魔法」を使えるのは彼女だけ。亡き王国の王女という事で城に客人として滞在する事になるのだが、治癒魔法を使える上「金髪」である事から「黄金の魔女」と恐れられてしまう。しかしそんな中。五人の美青年騎士団長たちに溺愛されて、愛され過ぎて困惑する毎日。彼女を生涯の伴侶として愛する古龍・コンスタンティンは生まれ変わり彼女と出逢う事が出来るのか。龍と薔薇に愛されたヴェンデルガルトは、誰と結ばれるのか。
この作品は、小説家になろうにも掲載しています。
異世界で一番の紳士たれ!
だんぞう
ファンタジー
十五歳の誕生日をぼっちで過ごしていた利照はその夜、熱を出して布団にくるまり、目覚めると見知らぬ世界でリテルとして生きていた。
リテルの記憶を参照はできるものの、主観も思考も利照の側にあることに混乱しているさなか、幼馴染のケティが彼のベッドのすぐ隣へと座る。
リテルの記憶の中から彼女との約束を思いだし、戸惑いながらもケティと触れ合った直後、自身の身に降り掛かった災難のため、村人を助けるため、単身、魔女に会いに行くことにした彼は、魔女の館で興奮するほどの学びを体験する。
異世界で優しくされながらも感じる疎外感。命を脅かされる危険な出会い。どこかで元の世界とのつながりを感じながら、時には理不尽な禍に耐えながらも、自分の運命を切り拓いてゆく物語。
逃げて、追われて、捕まって
あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。
この世界で王妃として生きてきた記憶。
過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。
人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。
だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。
2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ
2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。
**********お知らせ***********
2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。
それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。
ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。
巻き込まれ召喚された上、性別を間違えられたのでそのまま生活することにしました。
蒼霧雪枷
恋愛
勇者として異世界に召喚されチート無双、からのハーレム落ち。ここ最近はそんな話ばっか読んでるきがする引きこもりな俺、18歳。
此度どうやら、件の異世界召喚とやらに"巻き込まれた"らしい。
召喚した彼らは「男の勇者」に用があるらしいので、俺は巻き込まれた一般人だと確信する。
だって俺、一応女だもの。
勿論元の世界に帰れないお約束も聞き、やはり性別を間違われているようなので…
ならば男として新たな人生片道切符を切ってやろうじゃねぇの?
って、ちょっと待て。俺は一般人Aでいいんだ、そんなオマケが実はチート持ってました展開は望んでねぇ!!
ついでに、恋愛フラグも要りません!!!
性別を間違われた男勝りな男装少女が、王弟殿下と友人になり、とある俺様何様騎士様を引っ掻き回し、勇者から全力逃走する話。
──────────
突発的に書きたくなって書いた産物。
会話文の量が極端だったりする。読みにくかったらすみません。
他の小説の更新まだかよこの野郎って方がいたら言ってくださいその通りですごめんなさい。
4/1 お気に入り登録数50突破記念ssを投稿してすぐに100越えるもんだからそっと笑ってる。ありがたい限りです。
4/4 通知先輩が仕事してくれずに感想来てたの知りませんでした(死滅)とても嬉しくて語彙力が消えた。突破記念はもうワケわかんなくなってる。
4/20 無事完結いたしました!気まぐれにオマケを投げることもあるかも知れませんが、ここまでお付き合いくださりありがとうございました!
4/25 オマケ、始めました。え、早い?投稿頻度は少ないからいいかなってさっき思い立ちました。突発的に始めたから、オマケも突発的でいいよね。
21.8/30 完全完結しました。今後更新することはございません。ありがとうございました!
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる