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〜兄弟の絆〜
別れの時
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私がガルボの倉庫を出ると外でロイとリンの夫婦が待っていた。
「ティアラ! 無事で良かったーー!」
リンは私の姿を見つけるとすぐに走って来た。
「ふたりとも心配かけてごめんなさい」
私は急に居なくなったことを二人に謝った。
「どうしてこんな無茶なことをしたんだい?」
ロイが優しく聞いてくれたので、理由を話した。
「マルクスさんが? 誘拐? プッ……はっはははーーー」
理由を話すとふたりとも爆笑した。
「マルクスさんがあんな奴らに捕まるはず無いよ」
「マルクスさんは歴代最強のギルティークラウンと言われていたんだ」
「え? マルクスさんもギルティークラウンだったの?」
「ああ、そうだよ。知らなかったの?」
「ええ……、ごめんなさい。ギルティーに入隊したとは聞いていたのですが……」
リンは振り返って後ろのカイトを睨みながら近寄っていった。
「カイト隊長。マルクスさんのことをちゃんと話してあげてくださいよ」
カイトはバツの悪そうな顔をして分かったよ、と言うと口ごもった。
そのまま私達は倉庫を出て帰路についた。帰り際ずっとカイトは口を閉ざしていた。何か思いつめているような様子で元気がなかったので、私も喋りかけることができなかった。
せっかくリンからもらった赤マスは地面に落として泥だらけになったのと、かなり時間が経って傷んでしまったので、勿体ないが破棄した。
家に帰って台所で片付けをしているとカイトが近くに来た。
「ちょっと部屋に来てくれないか?」
「え? は……はい……良いの?」
「ああ」
カイトはそう言うと私を自分の部屋に招き入れた。私は部屋の中に入って驚いた。部屋の壁一面に絵が所狭しと飾ってあった。
「こ……これ、カイトが描いたの?」
「ああ。昔から絵を描くのが好きなんだ」
「すごーーい! きれいな絵だわ!」
そこには様々な絵があった。馬や動物を描いているものや、風景を描いているものもあり、絵心のない私にもすごく上手いということは伝わってきた。様々な絵の中で一際大きな絵に目が釘付けなった。それは男女が仲良く寄り添っている絵だった。男の方は長い金髪で凛々しい顔をしいるエルフで、女性の方はきれいだったが耳は長くなかった。
「これは?」
「兄ちゃんだ」
「この人がカイトのお兄さん。すごくかっこいいわね……ん?、でも……隣の女の人は……」
「ああ。兄ちゃんの彼女のミラ、人間の女性だ」
「人間の女性?」
「ああ、ルーン大国の女性だ」
「え?」
次の瞬間、私は信じられない言葉を耳にした。
「兄ちゃんはこの人と一緒にルーン大国で暮らしている」
「え? ルーン大国にいるの?」
「そうだ。今でも元気に暮らしているんだ」
「え? でも……この前……急に居なくなったって……」
「ルーン大国の人間と結婚しているなんて他の奴に知られるわけにはいかないだろ」
「え? みんなにも内緒にしてるの?」
「ああ、知っているのは俺とお前と……あと一人ぐらいだ」
「この前兄ちゃんは居なくなったって、寂しそうに言ってたのは? 全部演技だったの?」
「そうだよ」
私はお兄さんが生きていると聞いてホッと安心して笑った。
「ウフフ……」
「何を笑ってるんだよ」
「うん、嬉しくて……」
「嬉しい? どうして?」
「だって……、カイトを守ってくれた人が生きていたんだもの……」
「な……何だよ……それ……」
「それにしても……」
私はマルクスとミラの絵を見て違和感を覚えた。まだ色が塗られていないところがあったので、理由を聞いてみた。
「これ……、どうして色が塗られていないの?」
「ん?」
「ほら、ここのところまだ色が塗られていないわ」
「ああ。途中で赤色の絵の具が切れたんだ」
「そ……そうなの?」
「ああ……」
カイトは兄とその恋人の絵をしばらく見た後、何かを決心したように私の方に向き直った。
「ティアラ。ガルボにルーン大国に連れて行ってもらおう」
「え? な……なんで?」
「ここにいるのは危険だ」
「で……でも…………」
「ルーン大国に行けば少なくても命を狙われる危険はなくなる」
私はその瞬間、何故か心がざわついた。確かにいつかはここから出ていかなければならないと分かっていたが、何故か残念な思いにかられた。でも、いつまでも私がここに居ればカイトにも迷惑がかかると思いカイトの提案におとなしく従うことにした。
◇
3日後、私とカイトとロイ一家は市場の近くのガルボの倉庫に居た。
「本当に安全なんだろうな」
「大丈夫ですよ。命をかけてお嬢ちゃんをルーン大国に届けますよ」
「この幌馬車でどこまで行くんだ?」
「まず、ラビオリまで行ってそこから飛行艇で国境を超えてルーン大国に入ります」
カイトとロイは心配なのかガルボに安全を確認していた。その横で私はリンと最後の別れの挨拶をしていた。
「ティアラ。寂しくなるわね、向こうに行っても私達の事は忘れないでね」
「ええ、リン。色々面倒見てくれてありがとう。私を本当の友人として迎えてくれて嬉しかったわ」
「ティアラ~~~!! また会いに来てね。絶対だよ!!」
リンと抱き合って最後の別れを惜しんだ。リンは私から離れるとカイトに近づいて背中を押して私の前にカイトを近づけた。
「今度はカイト隊長の番ですよ」
「べ……別に俺は……」
「何を言ってるんですか、もう二度と会えないかもしれないのに!」
カイトは恥ずかしそうに私を見ると近づいて来た。私は近づいたカイトの手を取った。
「カイトこっちに来て」
「え?」
カイトを倉庫の外に連れ出した。倉庫の外に出るとまっすぐに見つめた。
「カイト」
「な……何だよ……こんなところで……」
「お兄さんに会いたいでしょ?」
「え? な……なんだよ!、……き……急に……」
「ルーン大国に着いたらカイトのお兄さんを探して一度帰ってくるように言ってあげるわ」
「そ……そんなことできるわけ無いだろ」
「ううん。絶対に見つけ出してあげるわ」
「なんでそんなこと……、俺は別に会いたいとは思ってないよ……」
「お兄さんの話を私にしないのは、思い出して悲しくなってしまうからじゃないの?」
「ち……違うよ…………」
「じゃなぜ、絵を完成させないの? 赤色の絵の具を買ってくればすぐに完成できるよね」
カイトはハッとした顔になった。
「絵を完成させてしまったらお兄さんとの繋がりが無くなってしまうと思ってるんじゃないの? 居なくなってしまったことを認めてしまうのが怖いんじゃないの?」
「お……お前…………」
カイトの目から涙がこぼれ落ちた。顔がみるみる間にくちゃくちゃになって震えていた。
「ああ……、そうだよ……会いたいよ、……すごく……。これまで育ててくれたお礼を言う前に兄ちゃんは居なくなってしまったんだ。だから、ありがとうって、育ててくれてありがとうって、一言兄ちゃんに言いたくてしょうがないんだよ……」
カイトはそう言うと子供のように泣いた。やっぱりそうだ、この人は本当は絵を描くことが好きな心優しい青年なんだ。ギルティークラウンとしての立場上、弱みを見せてはいけないという思いから高圧的な態度を取ってしまうが、心の底では誰も傷つけたくはないと思っている。ギルティーに入隊したのも何か事情があってのことだろう、それには、おそらくお兄さんとも関係があるのだろう。ただ一人の家族を思うカイトの優しすぎる姿がなんとも言えず儚く見えた。
私はカイトの泣き顔をゆっくりと抱きしめた。
「約束するわ! 私が会わせてあげる! 絶対にお兄さんを見つけて会わせてあげるね! お兄さんもあなたに会いたいと思っているに違いないもの!」
そう言うと私達はしばらくの間、抱きしめ合って号泣した。
私はルーン大国でマルクスさんを探すことを胸に誓って幌馬車に乗り込んだ。
カイトは離れていく幌馬車をずっと見つめていた。ポッカリと心のどこかに穴が空いた様な感覚に急に胸が痛くなった。
(この穴は塞ぐことができるのか?)
そう思いながら幌馬車が視界から消えてもしばらくその場を動くことができなかった。
「ティアラ! 無事で良かったーー!」
リンは私の姿を見つけるとすぐに走って来た。
「ふたりとも心配かけてごめんなさい」
私は急に居なくなったことを二人に謝った。
「どうしてこんな無茶なことをしたんだい?」
ロイが優しく聞いてくれたので、理由を話した。
「マルクスさんが? 誘拐? プッ……はっはははーーー」
理由を話すとふたりとも爆笑した。
「マルクスさんがあんな奴らに捕まるはず無いよ」
「マルクスさんは歴代最強のギルティークラウンと言われていたんだ」
「え? マルクスさんもギルティークラウンだったの?」
「ああ、そうだよ。知らなかったの?」
「ええ……、ごめんなさい。ギルティーに入隊したとは聞いていたのですが……」
リンは振り返って後ろのカイトを睨みながら近寄っていった。
「カイト隊長。マルクスさんのことをちゃんと話してあげてくださいよ」
カイトはバツの悪そうな顔をして分かったよ、と言うと口ごもった。
そのまま私達は倉庫を出て帰路についた。帰り際ずっとカイトは口を閉ざしていた。何か思いつめているような様子で元気がなかったので、私も喋りかけることができなかった。
せっかくリンからもらった赤マスは地面に落として泥だらけになったのと、かなり時間が経って傷んでしまったので、勿体ないが破棄した。
家に帰って台所で片付けをしているとカイトが近くに来た。
「ちょっと部屋に来てくれないか?」
「え? は……はい……良いの?」
「ああ」
カイトはそう言うと私を自分の部屋に招き入れた。私は部屋の中に入って驚いた。部屋の壁一面に絵が所狭しと飾ってあった。
「こ……これ、カイトが描いたの?」
「ああ。昔から絵を描くのが好きなんだ」
「すごーーい! きれいな絵だわ!」
そこには様々な絵があった。馬や動物を描いているものや、風景を描いているものもあり、絵心のない私にもすごく上手いということは伝わってきた。様々な絵の中で一際大きな絵に目が釘付けなった。それは男女が仲良く寄り添っている絵だった。男の方は長い金髪で凛々しい顔をしいるエルフで、女性の方はきれいだったが耳は長くなかった。
「これは?」
「兄ちゃんだ」
「この人がカイトのお兄さん。すごくかっこいいわね……ん?、でも……隣の女の人は……」
「ああ。兄ちゃんの彼女のミラ、人間の女性だ」
「人間の女性?」
「ああ、ルーン大国の女性だ」
「え?」
次の瞬間、私は信じられない言葉を耳にした。
「兄ちゃんはこの人と一緒にルーン大国で暮らしている」
「え? ルーン大国にいるの?」
「そうだ。今でも元気に暮らしているんだ」
「え? でも……この前……急に居なくなったって……」
「ルーン大国の人間と結婚しているなんて他の奴に知られるわけにはいかないだろ」
「え? みんなにも内緒にしてるの?」
「ああ、知っているのは俺とお前と……あと一人ぐらいだ」
「この前兄ちゃんは居なくなったって、寂しそうに言ってたのは? 全部演技だったの?」
「そうだよ」
私はお兄さんが生きていると聞いてホッと安心して笑った。
「ウフフ……」
「何を笑ってるんだよ」
「うん、嬉しくて……」
「嬉しい? どうして?」
「だって……、カイトを守ってくれた人が生きていたんだもの……」
「な……何だよ……それ……」
「それにしても……」
私はマルクスとミラの絵を見て違和感を覚えた。まだ色が塗られていないところがあったので、理由を聞いてみた。
「これ……、どうして色が塗られていないの?」
「ん?」
「ほら、ここのところまだ色が塗られていないわ」
「ああ。途中で赤色の絵の具が切れたんだ」
「そ……そうなの?」
「ああ……」
カイトは兄とその恋人の絵をしばらく見た後、何かを決心したように私の方に向き直った。
「ティアラ。ガルボにルーン大国に連れて行ってもらおう」
「え? な……なんで?」
「ここにいるのは危険だ」
「で……でも…………」
「ルーン大国に行けば少なくても命を狙われる危険はなくなる」
私はその瞬間、何故か心がざわついた。確かにいつかはここから出ていかなければならないと分かっていたが、何故か残念な思いにかられた。でも、いつまでも私がここに居ればカイトにも迷惑がかかると思いカイトの提案におとなしく従うことにした。
◇
3日後、私とカイトとロイ一家は市場の近くのガルボの倉庫に居た。
「本当に安全なんだろうな」
「大丈夫ですよ。命をかけてお嬢ちゃんをルーン大国に届けますよ」
「この幌馬車でどこまで行くんだ?」
「まず、ラビオリまで行ってそこから飛行艇で国境を超えてルーン大国に入ります」
カイトとロイは心配なのかガルボに安全を確認していた。その横で私はリンと最後の別れの挨拶をしていた。
「ティアラ。寂しくなるわね、向こうに行っても私達の事は忘れないでね」
「ええ、リン。色々面倒見てくれてありがとう。私を本当の友人として迎えてくれて嬉しかったわ」
「ティアラ~~~!! また会いに来てね。絶対だよ!!」
リンと抱き合って最後の別れを惜しんだ。リンは私から離れるとカイトに近づいて背中を押して私の前にカイトを近づけた。
「今度はカイト隊長の番ですよ」
「べ……別に俺は……」
「何を言ってるんですか、もう二度と会えないかもしれないのに!」
カイトは恥ずかしそうに私を見ると近づいて来た。私は近づいたカイトの手を取った。
「カイトこっちに来て」
「え?」
カイトを倉庫の外に連れ出した。倉庫の外に出るとまっすぐに見つめた。
「カイト」
「な……何だよ……こんなところで……」
「お兄さんに会いたいでしょ?」
「え? な……なんだよ!、……き……急に……」
「ルーン大国に着いたらカイトのお兄さんを探して一度帰ってくるように言ってあげるわ」
「そ……そんなことできるわけ無いだろ」
「ううん。絶対に見つけ出してあげるわ」
「なんでそんなこと……、俺は別に会いたいとは思ってないよ……」
「お兄さんの話を私にしないのは、思い出して悲しくなってしまうからじゃないの?」
「ち……違うよ…………」
「じゃなぜ、絵を完成させないの? 赤色の絵の具を買ってくればすぐに完成できるよね」
カイトはハッとした顔になった。
「絵を完成させてしまったらお兄さんとの繋がりが無くなってしまうと思ってるんじゃないの? 居なくなってしまったことを認めてしまうのが怖いんじゃないの?」
「お……お前…………」
カイトの目から涙がこぼれ落ちた。顔がみるみる間にくちゃくちゃになって震えていた。
「ああ……、そうだよ……会いたいよ、……すごく……。これまで育ててくれたお礼を言う前に兄ちゃんは居なくなってしまったんだ。だから、ありがとうって、育ててくれてありがとうって、一言兄ちゃんに言いたくてしょうがないんだよ……」
カイトはそう言うと子供のように泣いた。やっぱりそうだ、この人は本当は絵を描くことが好きな心優しい青年なんだ。ギルティークラウンとしての立場上、弱みを見せてはいけないという思いから高圧的な態度を取ってしまうが、心の底では誰も傷つけたくはないと思っている。ギルティーに入隊したのも何か事情があってのことだろう、それには、おそらくお兄さんとも関係があるのだろう。ただ一人の家族を思うカイトの優しすぎる姿がなんとも言えず儚く見えた。
私はカイトの泣き顔をゆっくりと抱きしめた。
「約束するわ! 私が会わせてあげる! 絶対にお兄さんを見つけて会わせてあげるね! お兄さんもあなたに会いたいと思っているに違いないもの!」
そう言うと私達はしばらくの間、抱きしめ合って号泣した。
私はルーン大国でマルクスさんを探すことを胸に誓って幌馬車に乗り込んだ。
カイトは離れていく幌馬車をずっと見つめていた。ポッカリと心のどこかに穴が空いた様な感覚に急に胸が痛くなった。
(この穴は塞ぐことができるのか?)
そう思いながら幌馬車が視界から消えてもしばらくその場を動くことができなかった。
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