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〜lovin’ you〜

聖女の帰還

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男は力なく屋台の片付けをしていた。
 
 生誕祭が終了してあれだけ賑わっていたガンドールの町の通りも人がまばらになっていた。

 男は一週間前にあった少女の言葉を思い出していた。

『あ……あの、子供の姿が見えないけど何か理由があるんですか?』

 少女は何も知らないという顔で男に聞いてきた。その時はいないのが当然と思っていた。

 アスペルド教団の教えに従っていることが当たり前に感じていたが、あの少女の一言で今まで信じていた信仰心が薄れ男は急に不安に襲われた。

 男には子供が一人いる。名前はティムという三歳になったばかりの男の子だった。今ティムはガンドールの近くにある砦に居て男と離れて暮らしていた。

(ティムにアスペルド教団の生誕祭を見せてやりたかった)

 父親は息子を砦に連れて行った事を後悔していた。あんなに生誕祭を楽しみにしていたのに見せてやることができなかった。

(いつになったらティムに会えるのか? 本当にガンドールに帰ってこれるのか?)

 父親はすでに信仰心よりもティムに会いたいと思う心が勝っていることに気づくと目から涙がこぼれた。落ちた涙をしばらく見つめながら本当にこれで良かったのか? ティムを砦に置いてきて本当に良かったのか? 

 別れ際に寂しそうに自分を見つめる息子の顔が脳裏に焼き付いて離れない。

 息子に会いたいという思いに押しつぶされそうになっている時、遠くから叫び声が聞こえてきた。

「子供たちが帰ってきたぞーーー!!!」

(こんな時に……何の冗談だ?)

 父親は叫び声のあった方を見て驚いた。そこには我が子を抱きしめている一組の親子が見えた。

 その瞬間、父親は門に向かって走っていた。周りの親たちも我先にと門に駆け出していた。

 ガンドールの入口門に近づくにつれて、我が子との再会を喜んでいる親子が多くなっていた。

「テ……ティムーーーー!!!」

 父親は我が子の名前を叫びながら無我夢中で走った。門の方から多くの子供たちが走って来ていたが、一人ひとりの顔を確認しながら、必死でティムの姿を探した。

 ガンドールの町の門の近くまで来た時、一週間前に子供がいない理由を訪ねてきた少女が見えた。

(たしかティアラ? という名前だったか? 大聖堂で疫病を治す特効薬を開発したと言っていたな)

 父親がそう思っていると、その横でティアラと手をつないでいるティムを見つけた。

「テ……ティム!! ティムーーー!!」

 父親は大声でティムの名前を叫んで走り出した。ティムも父親を見つけるとティアラの手を離して走り出した。小さい体で一生懸命走ってくる我が子に走りより父親は思いっきりティムを抱きしめた。

「ティムーーー!! ティムーー!! 無事で……無事で良かった……」

「父ちゃん~~! 会いたかったよ~~!」

 親子は人目もはばからず抱き合って泣いていた。周りも二人と同じように親子で抱き合ってお互いの名前を呼び合って皆泣いていた。

「ティム。本当に……無事でよかったーー!! 病気は? 治ったのか?」

「うん。すごい熱が出て危なかったって言われたけど……」

 ティムはそう言うと、あの人が助けてくれたんだよ、と言って私を指差した。

 ティムだけではなく周りの子供たちが私を指差して家族にあの人に助けられたと説明していた。

 私の周りには命を助けた親子が集まってきた。気づけば多くの人々に取り囲まれていた。

「ティアラ様、聖女様ーー!」

「娘と息子を助けてくれてありがとうございます!」

「ありがとう! ありがとう!」

 集まった人々は私の足元にひざまずくと深々と頭を下げて心から感謝してくれた。

 私が困惑していると、遠くから歓声が聞こえてきた。

「ミネルバ様だ!」

「ミネルバ様? おお!」

 多くの人混みを分けてゆっくりとミネルバ公王が目の前に現れた。

 ミネルバ公王は私の目の前まで来るとスッと片膝をついて跪いた。その行動をみた周りの人たちも一斉に私に跪いた。周りを見ると見渡す限り町の住人全員が私に跪いていた。

「ティアラ。よくぞ子供たちを助けてくれた。アスペルド教団を代表してお礼を申し上げる」

「い……いえ、そ……そんなこと……あ……当たり前のことをしただけですから……もうお立ちください」

 私はミネルバ公王のもとに駆け寄ると、跪く彼女の肩に手を置いて立ち上がるように言った。

 ミネルバ公王は立ち上がると同時に私に提案した。

「ティアラ。お前を正式にアスペルド教団の聖女として認めよう」

(え? それって? どういうこと?)

 私が戸惑っていると、周りの人々が一斉に『ウォーーーーー!!」と叫び声を上げたのでびっくりした。

「「「聖女様の誕生だーーーー!!」」」

「「「ティアラ様!! 聖女様!!」」」

 私は周りの反応にどう対処していいか訳がわからないという表情で戸惑っていると、ミネルバ公王が私の手を取って言った。

「善は急げだ。今から正式に聖女の任命式を行うから、神殿に来てくれ」

 ミネルバ公王はそう言うと強引に私達を自身が乗ってきた馬車に乗せて神殿に向かった。

 ◇

「やっぱりティアラ様はすごいです!」

 エリカがクシで私の髪をとかしながら興奮していた。

 私達はミネルバ公王に神殿に招待されて、そのまま大勢が見守る中、正式にアスペルド教団の聖女の任命式が執り行われた。

 式が滞りなく終了して今は王族用のスイートルームに通された。

 部屋にはフカフカのベッドがあり久しぶりにベッドで寝れると思い、私達はテンションが高かった。

「そんなにすごいことかしら?」

「そうですよティアラ様。アスペルド教団の聖女に任命されることは、全国民から信頼されて認められたようなものですよ」

「そ……そうなの?……」

「も~~~。ティアラ様はもっと自分の凄さを自覚してください!」

「は……はい、わ……わかりました……」

 私は鏡に映っている赤くなった自分の顔を見るのが恥ずかしくなって目をそらした。

 その時、鏡越しに窓の外を見た際に、人影が窓の外で動いたように見えた。

 私はハッとしてその人影を凝視していると、その者が窓から音もなく部屋に入ってきた。

 私の視線に気づいたエリカが振り返ると侵入者と目が合った。エリカが叫び声をあげようとした途端、侵入者がエリカの口を塞いだ。エリカは塞がれた口の手を退けようと侵入者の手を掴んだ時に侵入者が被っていたフードが取れて長い耳が見えた。

 侵入者の正体は飛行艇で砦に連れて行ってくれたエルフ達だった。

 エルフはエリカの目の前で指を鳴らすとエリカは全身の力が抜けたようにグッタリとして床に倒れた。床に寝転んだエリカを見ると意識を失っているようだった。何か魔法で眠らされているようだった。

「な……何をするの?」

 エルフたちは無言で近づいてくると私の目の前に手を持ってきて指を鳴らした。

 私はそのまま意識を失ってエルフの男たちに連れて行かれた。

 ◇

 『コンコン』

 ロザリアはティアラとエリカのいる部屋のドアをノックしていた。

 久々にティアラと一緒のベッドで寝たいと思ったら居ても立ってもいれなくなり来てしまった。

 ティアラから来てくれるだろうと淡い期待を抱いていたが、一向に部屋に来てくれなかったので自分から来てしまった。おそらくエリカと一緒だったのでティアラから一緒に寝たいとは恥ずかしくて言えなかったのだろうと思ったロザリアは仕方がないのでティアラの部屋まで来てしまった。

『コンコン』

 再度部屋のドアをノックしたが中からは物音一つしなかった。しばらく経ってもドアが開く様子が無いので、ロザリアはドアに耳をつけて中の様子を探ってみたが、寝息も聞こえてこなかった。おかしいなと思いつつドアに手をかけると鍵が掛かっておらずそのままゆっくりとドアが開いていった。

 部屋の中は、まだ明るかったので不思議に思ったが、そのままゆっくりとロザリアは部屋の中に入っていくと目の前にエリカが倒れているのを見つけた。

「ど……どうしたの!?」

 ロザリアはエリカに駆け寄ると体を起こして呼びかけた。

「エリカ! エリカ! しっかりして!」

 ロザリアは部屋の中を見回してティアラがいないことに気がついた。

「エリカ! ティアラはどうしたの? どこに行ったの?」

「う……う~~ん……」

 エリカは気がついて、ロザリアを見ると叫んだ。

「テ……ティアラ様が……エ……エルフの男たちに……さ……攫われました!!」

「なんですって!!」

 ロザリアの叫び声でレンとクリスとアルフレッドとエナジーが慌てて部屋に入ってきた。

「「「どうした? 何事だーー!!」」」

「ティアラが攫われた」

「「「な? なんだとーーー!!」」」

「相手は誰だ! どんな奴だった!?」

「エルフの男たちです!! 私達を砦に連れて行ってくれた人達です!!」

 エリカが叫んだ。

「クソ!! あいつらーー!!!」

 レンとクリスとアルフレッドは急いで部屋を飛び出そうとしていた。

「待て!! 今から追いかけても無駄だ!」

 エナジーが叫んで三人を止めた。

「一時間以上前に飛行艇が西の空に飛び立っていくのを見た。これから追いかけても飛行艇に追いつくことは不可能だ」

「じゃ、どうするんだ?」

「地上からギルディアに行くしか無い」

「ギルディア? 何でギルディアに向かったとわかるんだ?」

「そこしか無いからだ、アスペルド教団から正式に聖女に任命された者を連れ去って行けるところはそこしか無い。自分たちの故郷であるギルディアに行くしかない。だから西に飛び立っていったんだ」

「だったらグズグズしないで早く行こう」

「ギルディアに行くにはグランフォレストを抜けなければばらない」

「グランフォレスト? 迷いの森か?」

「そうだ。広大な森が広がる大地で一度入ると二度と出られなくなると言われている、まさに迷いの森だ」

「だからどうした! 俺は一人でもティアラを助けに行くぞ!」

 アルフレッドはそう言うと部屋を飛び出した。

「待て、待て。俺はグランドフォレストを抜ける道を知っている」

 その言葉を聞いたアルフレッドは赤い顔をして部屋に戻ってきた。

「そ……それを早く言え」

「言う前に飛び出すなよ。まあいいグランフォレストを抜けるのにかなりの時間は掛かるが、ティアラ救出のためにギルディアへ行こう」

「「「おお!!」」」

 エナジー・レン・クリス・アルフレッド・エリカ・ロザリアの六人はティアラの救出のため、エルフの国ギルディアへ向けて出発した。
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