不滅のティアラ 〜狂おしいほど愛された少女の物語〜

白銀一騎

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〜lovin’ you〜

討論会

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 ガンドールの町の大聖堂に大勢の人が集まっていた。
 
 今日ここでティアラという聖女のオーラを開眼した女性の討論会が行われるため、国中のアスペルド教団の信者が集まっていた。

 当のティアラ本人は大聖堂の控室で極度の緊張に襲われていた。

「大丈夫だよ、リラックスして」

 クリスが優しく声をかけてくれた。

「う……うん、だ……だい……じょうぶ…………」

「本当に大丈夫かよーー。声が震えているぞーー」

 アルフレッドがいたずらっぽく笑って言ってきた。いつもの私なら何か言い返しているところだが、思いつめていたので、何も言わずうつむいていると心配した顔でフォローしてきた。

「じょ……冗談だよ。そ……そんなに……、お……思い詰めるなよ…………」

 アルフレッドが思いの外取り乱しているのを見ておかしくなって、ふふふ……、と笑った。

「よ……良かった……」

 私が笑ったことで、アルフレッドはホッと胸をなでおろしていた。よほど心配したようだった。

 私達はそれからしばらく三人でおしゃべりした。クリスもアルフレッドも私の緊張を和らげようと、いつもより口数が多くなっているのがすごく嬉しかった。


「ティアラ様、準備ができました」

 エリカが私を呼びに来てくれた。エリカは私を見ると心配したのか声をかけてくれた。

「大丈夫です。ティアラ様なら絶対にうまくいきます。私はそう信じています」

「ありがとうエリカ。そう言ってもらえて嬉しいわ」

 私はエリカとともに会場に入った。

 広い大聖堂内は人で溢れかえっていた。あんなに有った席は超満員で後ろの方では立っている人も多く居た。大聖堂に入れなかった人も居て窓の外から多くの人が中を覗いていた。

 私が入ると会場にいる人の視線が一斉に私に向けられた。視線の大半は敵意のある視線だった。かなりの人が鋭い視線で私をすごく睨んでいた。中には私を見て嘲笑ちょうしょうしている人も居て私の緊張を一層刺激した。

 私は容赦なく向けられる敵意に怖くなり、気がつくと原稿を持つ手が震えていた。

 やがて司会者から開始の合図があり、震える手を必死に抑えて原稿を広げようとした時、前方の席から何かが飛んできた。その物体が私に当たる瞬間、誰かがそれを遮った。

 私は驚いて目を閉じていたがゆっくりと目を開けるとレンが私の目の前で立っていた。レンの頭には何か液体のようなものが付いていた。見るとそれは卵だった。誰かが投げた卵がレンに当たっていた。すると次々と卵が飛んできた。飛んできた卵はすべてレンが私に当たらないように受け止めてくれた。レンはあっという間に全身卵だらけになっていた。

「良いんだ、ティアラ。俺のことは気にしないで続けてくれ」

「で……でも……」

「お前には絶対に当たらないようにしてやるからな」

「レ……レン……」

「俺にできることはこれくらいしかないから気にするな」

 レンはそう言うと私を見てニッコリと笑った。

 (嘘よ! プライドの高いレンのことだから、大勢の人の前で侮辱されて絶対に悔しいはずなのに…………)

 私はレンの優しさに泣き出しそうになったが、ぐっとこらえて原稿を広げた。

 私が原稿を読もうとした時、卵を投げても防がれると思った人が今度は罵声を浴びせてきた。

「出ていけーーー!!!」

「ここはお前のようなやつが来るところじゃないぞーーーーー!!!」

 会場中に様々な罵声が響き渡った。私は多くの人の圧力に耐えられずめまいがして、頭から血の気が引いていくのがわかった。前世で気を失ったときのことを思い出した。過呼吸になり次第に息をするのが苦しくなってきた。

(ど……どうしよう。このままだとまた気を失って倒れてしまう)

 私は立っているのがやっとの状態だった。次第に目の前がクラクラしてきてもうダメだと思った時すぐ横に人が立っているのがわかった。

「ティアラ。君はどうやってこの病気を治したの?」

 びっくりして横を見るとクリスが居て話しかけてきた。

「え? ク……クリス?」

 私はクリスを見てびっくりしていた。

「何だお前はーーー!!」

「関係ないやつは出て行けーーー!!」

 会場内の罵声は一段と激しさを増していくのが分かった。私は恐怖と絶望で頭が真っ白になった時、クリスが優しく私の顔を両手で包むと自分の方に向けた。

「大丈夫だよ。ティアラ。僕だけを見るんだ。僕を信じて、僕だけに話しかけるようにしよう」

 そう言うとクリスはポケットからハンカチを出して私の涙を優しく拭いた後、私に話しかけてきた。

「まず病気を治すために何をしたか教えてよ」

「ま……まずは、病気の人の血液をコカス鳥に注入しました」

「なぜ? コカス鳥に注入したの?」

「そ……それは。コカス鳥は免疫力が人より高いと思ったから」

 クリスは私をみて、私はクリスだけを見て答えているうちに気がつくとあれだけ有った緊張がいつの間にか無くなっていた。次第に会場の罵声も止んで多くの人が私とクリスのやり取りを静かに聞くようになっていた。

 こんなに大勢の人の前で自分でもびっくりするぐらい言葉が次々に出てきた。私はクリスの優しさが嬉しかった。

 クリスと私のやり取りが終わると、会場はシーンとしていたが、誰か一人が拍手をするとそれに釣られるように二人三人と拍手が増えていき、やがて会場中が拍手で包まれた。

 しかし拍手が鳴り止むと誰かが大声で叫びだした。

「本当にそんなことができるのかーーー!」

「本当だ、デタラメを言っているんじゃないのかーーー!」

 罵声も開始前よりは少ないものの、所々で上がるようになった。私がどうしようか困惑していると、誰かが後ろから出てきて私の前に立つと大声で叫んだ。

「うるせーーーー!!!、このやろーーーー!!!」

 アルフレッドが私の前で罵声よりももっと大きい声で叫んでいた。

「愚か者どもよく聞け!! このアルフレッド=クリムゾン=アークガルドの名に誓ってティアラの真実をここに証明する!!」

 会場は静まりかえっていた。アルフレッドは追い打ちをかけるように続けた。

「いいか! これよりこのティアラを侮辱するやつは、この俺を侮辱することと同義となり厳罰に処するからな! 覚悟して発言しろよ!」

 アルフレッドの発言に誰も何も言えず会場がシーンとしていたところにミネルバ公王が出てきた。

「まだ何か言い足りない者もいるかもしれん、ティアラの言ったことが嘘だと思っている者もいるかもしれんが、大事なのはティアラの治療で助かった者がいるという事実があることだと思う。確かにティアラが行ったことは見ようによってはアスペルド教団の教えを否定しいると感じることもあるだろうが、実際に助かった者がいるいじょう教団としてティアラを侮辱することはこの私が許さん」

 これで討論会は終了する、と言ってミネルバ公王は壇上から降りた。

 討論会は無事に終了した。私は安堵すると力が抜けてその場にしゃがみこんだ。

 しばらくの間放心状態になっていると三人が近くに来た。

「「「お疲れ様、ティアラ。よく頑張ったね」」」

 三人に褒められて嬉しくて涙が溢れた。
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