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〜シンデレラガール〜
さらなる試練
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きらびやかな装飾を施した馬車はかなり早いスピードでロマノフと私とレンの間に入って来ると土煙を上げながら急停止して止まった。馬車の豪華な装飾品を見る限りかなり位の高い人物が乗っていると想像できた。
ロマノフはその馬車に付いた紋章を見ると絶句して肩肘を付いた。周りの信者達もすぐに紋章を見ると慌てて口を閉ざして肩肘を付いて、頭を下げた。
何事かと城の衛兵たちが思っていると、馬車の中からきれいな女性が出てきた。
「ミネルバ公王さま」
ロマノフはそう言うと深々と頭を下げた。
ミネルバ公王と呼ばれたこの女性はアスペルド教団の最高責任者だった。
「ロマノフ主宰。これはどういうことですか? 穏やかではありませんね」
「は。ミネルバ様これにはわけがありまして……」
ロマノフが状況を説明しようとしたところでミネルバは手を上げてロマノフの説明を制した。
「詳細はこの者から聞いています」
ミネルバはそう言うと馬車を指差した。馬車からはクリスが降りてきた。
「クリス?!」
「やあ。ロマノフ、君を止めるために奥の手を使わせてもらったよ。悪く思わないでくれよ」
ロマノフは悔しそうな顔でクリスを睨みつけた。
「ロマノフここは引きなさい」
「し……しかしミネルバ様。ティアラと言う少女は………。」
ミネルバは手を上げて再度ロマノフの言葉を遮った。
「もう少女ではありませんよ。セイントアウラを纏っていた姿を見るとティアラは聖女を開眼しています」
「せ……聖女様?」
「そいうことになりますよ。あなたは聖女を殺害する気ですか?」
「い……いえ……そ……そんなことは……」
ロマノフが狼狽しているとミネルバが口を開いた。
「じゃあ、こうしましょう。ティアラを来月にガンドールで開かれるアスペルド教会の生誕祭に呼んで、各国の司祭の前でこの疫病を治した経緯を説明してもらいましょう」
「せ……説明ですか?」
「そうです。あなたが言うようにティアラの知識が本当にアスペルド教会にとって脅威になるのか? そこで司祭の面々に判断してもらいましょう」
「し……しかしながら……」
「ロマノフこれはお願いではありません。命令です」
ミネルバはそう言うとロマノフの意見をバッサリと切り捨てた。次に大門の上にいるアークガルド王を見上げて、それでよろしいですか?、と言ってアークガルド王を見つめた。
アークガルド王はゆっくりと頷きながら答えた。
「分かった。アスペルド教団の生誕祭にティアラを出席させることを約束しよう」
「それでは1ヶ月後にガンドールでお会いしましょう」
ミネルバはそう言うとアークガルド王に一礼して馬車に乗って帰っていった。馬車に乗り込む際に私の顔を見てにっこり笑った。
ロマノフは馬車が去っていくのを見届けた後、アークガルド王を睨むとそのまま振り返って帰って行った。アークガルド城を取り囲んでいた大勢の信者たちも次々にいなくなった。
「ハアーーー! 良かったーー!」
私は緊張の糸が切れてその場に座り込んだ。戦争を回避出来たことでホットすると涙が溢れてきた。
「ティアラ良かったな。大丈夫か?」
レンがうなだれている私の頭をなでてくれた。
「レン。ありがとう」
「いいんだ。気にするな」
私とレンが話をしていると間にクリスが入ってきた。
「ティアラ心配したよ!」
クリスが優しい顔で声をかけてくれた。
「心配かけてごめんね」
「いいんだよ。君が無事で良かったよ」
私とクリスが話していると今度はアルフレッドが来て私達の間に入ってきた。
「大丈夫か? ティアラ?」
「ありがとう。心配かけてごめんなさい」
「本当にお前は無茶ばかりして、大門の上から飛び降りた時は心臓が止まるかと思ったぞ」
三人に囲まれてホットしたのか私はいつの間にか泣いていた。
三人に優しい言葉をかけられて嬉しかったが、ふと1ヶ月後のことを考えると急に気分が重くなった。
「どうしたの? ティアラ戦争は回避できたんだよ。もう心配ないよ」
クリスが心配そうな顔で私に呼びかけた。私は体中が震えていることに気づいた。
私は泣きながら三人を見上げると震える声で答えた。
「ど……どうしよう……わ……私……大勢の人の前で……せ……説明できないの……プレゼンが……に……苦手なの……」
「「「え?」」」
三人はびっくりした顔をした。私は前世の記憶が蘇った。前世で社内の重役含めた百人の前で研究結果のプレゼンを担当した時、あまりの緊張で気を失ったことがあった。それ以来、大勢の人の前で話すことができなくなった。
(どうしよう。また今度も気を失って倒れたら今度こそ戦争が起こってしまう)
私が不安に思っているとクリスが声をかけてくれた。
「大丈夫だよティアラ。うちのパープル商会の総力をかけて完璧な資料やQ&Aを作成してみせるから何も心配することはないよ」
次にレンが私の肩に手を置いて言った。
「そうだ。俺がなにか文句を言うやつが居たら黙らせてやる。だから心配するな」
アルフレッドが私の両手を握って言った。
「お前の後ろには俺が、このアークガルドの王子が付いているんだ。何も心配することはない。何かあれば俺が権力で黙らせてやる」
私は嬉しくなって声をつまらせながら感謝した。
「あ……ありがとう……みんな。心配かけて……ごめんなさい。……もう大丈夫」
「「「いいんだよ」」」
私はこの三人に引き合わせてくれた神様に感謝した。三人に心強い言葉をかけてもらって嬉しかった。不思議と本当にこの三人がいればできそうな気持ちになった。
私は過去の自分を忘れようと思った、この世界で私は生まれ変わろうと心に決めた。
第一章~シンデレラガール編~完
ロマノフはその馬車に付いた紋章を見ると絶句して肩肘を付いた。周りの信者達もすぐに紋章を見ると慌てて口を閉ざして肩肘を付いて、頭を下げた。
何事かと城の衛兵たちが思っていると、馬車の中からきれいな女性が出てきた。
「ミネルバ公王さま」
ロマノフはそう言うと深々と頭を下げた。
ミネルバ公王と呼ばれたこの女性はアスペルド教団の最高責任者だった。
「ロマノフ主宰。これはどういうことですか? 穏やかではありませんね」
「は。ミネルバ様これにはわけがありまして……」
ロマノフが状況を説明しようとしたところでミネルバは手を上げてロマノフの説明を制した。
「詳細はこの者から聞いています」
ミネルバはそう言うと馬車を指差した。馬車からはクリスが降りてきた。
「クリス?!」
「やあ。ロマノフ、君を止めるために奥の手を使わせてもらったよ。悪く思わないでくれよ」
ロマノフは悔しそうな顔でクリスを睨みつけた。
「ロマノフここは引きなさい」
「し……しかしミネルバ様。ティアラと言う少女は………。」
ミネルバは手を上げて再度ロマノフの言葉を遮った。
「もう少女ではありませんよ。セイントアウラを纏っていた姿を見るとティアラは聖女を開眼しています」
「せ……聖女様?」
「そいうことになりますよ。あなたは聖女を殺害する気ですか?」
「い……いえ……そ……そんなことは……」
ロマノフが狼狽しているとミネルバが口を開いた。
「じゃあ、こうしましょう。ティアラを来月にガンドールで開かれるアスペルド教会の生誕祭に呼んで、各国の司祭の前でこの疫病を治した経緯を説明してもらいましょう」
「せ……説明ですか?」
「そうです。あなたが言うようにティアラの知識が本当にアスペルド教会にとって脅威になるのか? そこで司祭の面々に判断してもらいましょう」
「し……しかしながら……」
「ロマノフこれはお願いではありません。命令です」
ミネルバはそう言うとロマノフの意見をバッサリと切り捨てた。次に大門の上にいるアークガルド王を見上げて、それでよろしいですか?、と言ってアークガルド王を見つめた。
アークガルド王はゆっくりと頷きながら答えた。
「分かった。アスペルド教団の生誕祭にティアラを出席させることを約束しよう」
「それでは1ヶ月後にガンドールでお会いしましょう」
ミネルバはそう言うとアークガルド王に一礼して馬車に乗って帰っていった。馬車に乗り込む際に私の顔を見てにっこり笑った。
ロマノフは馬車が去っていくのを見届けた後、アークガルド王を睨むとそのまま振り返って帰って行った。アークガルド城を取り囲んでいた大勢の信者たちも次々にいなくなった。
「ハアーーー! 良かったーー!」
私は緊張の糸が切れてその場に座り込んだ。戦争を回避出来たことでホットすると涙が溢れてきた。
「ティアラ良かったな。大丈夫か?」
レンがうなだれている私の頭をなでてくれた。
「レン。ありがとう」
「いいんだ。気にするな」
私とレンが話をしていると間にクリスが入ってきた。
「ティアラ心配したよ!」
クリスが優しい顔で声をかけてくれた。
「心配かけてごめんね」
「いいんだよ。君が無事で良かったよ」
私とクリスが話していると今度はアルフレッドが来て私達の間に入ってきた。
「大丈夫か? ティアラ?」
「ありがとう。心配かけてごめんなさい」
「本当にお前は無茶ばかりして、大門の上から飛び降りた時は心臓が止まるかと思ったぞ」
三人に囲まれてホットしたのか私はいつの間にか泣いていた。
三人に優しい言葉をかけられて嬉しかったが、ふと1ヶ月後のことを考えると急に気分が重くなった。
「どうしたの? ティアラ戦争は回避できたんだよ。もう心配ないよ」
クリスが心配そうな顔で私に呼びかけた。私は体中が震えていることに気づいた。
私は泣きながら三人を見上げると震える声で答えた。
「ど……どうしよう……わ……私……大勢の人の前で……せ……説明できないの……プレゼンが……に……苦手なの……」
「「「え?」」」
三人はびっくりした顔をした。私は前世の記憶が蘇った。前世で社内の重役含めた百人の前で研究結果のプレゼンを担当した時、あまりの緊張で気を失ったことがあった。それ以来、大勢の人の前で話すことができなくなった。
(どうしよう。また今度も気を失って倒れたら今度こそ戦争が起こってしまう)
私が不安に思っているとクリスが声をかけてくれた。
「大丈夫だよティアラ。うちのパープル商会の総力をかけて完璧な資料やQ&Aを作成してみせるから何も心配することはないよ」
次にレンが私の肩に手を置いて言った。
「そうだ。俺がなにか文句を言うやつが居たら黙らせてやる。だから心配するな」
アルフレッドが私の両手を握って言った。
「お前の後ろには俺が、このアークガルドの王子が付いているんだ。何も心配することはない。何かあれば俺が権力で黙らせてやる」
私は嬉しくなって声をつまらせながら感謝した。
「あ……ありがとう……みんな。心配かけて……ごめんなさい。……もう大丈夫」
「「「いいんだよ」」」
私はこの三人に引き合わせてくれた神様に感謝した。三人に心強い言葉をかけてもらって嬉しかった。不思議と本当にこの三人がいればできそうな気持ちになった。
私は過去の自分を忘れようと思った、この世界で私は生まれ変わろうと心に決めた。
第一章~シンデレラガール編~完
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