不滅のティアラ 〜狂おしいほど愛された少女の物語〜

白銀一騎

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〜シンデレラガール〜

石油の精製

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 私はアルフレッドから貰った原油を持ってクリスのワイナリーに来ていた。

 以前ここのワイナリーに来た時に見つけた大窯で原油を精製せいせいできないか調べるためである。

 原油の精製はそれほど難しいものではなく、まず原油を窯で温めて蒸発した留出油りゅうしゅつゆを順次分解する回分蒸留かいぶんじょうりゅうという方法で原油を精製することにした。そのためにはここにある大釜が必要であった。

 私はワイナリーに置いてある使用されてない大釜を見つけた。

「クリス。この大釜を借りることはできるかしら?」

「ああ。良いよ、君のことだからまた面白いことを考えているんだろ?」

「ええ。面白いかどうかはわからないけど、でもきっと人々のためになると思うわ」

「そうかい。ティアラがそう言うなら何でも協力するから、僕にできることは何でも言ってくれ」

「ありがとう。感謝するわ」

 私は早速大釜の中に原油を入れて下から火を焚いて原油を温め始めた。これにより温められた原油は沸点の違いによりLPGやガソリン、灯油と重油などの留分に分けることができる。

 原油の温度を見ながら200度までに温めた時に出てきた留分はガソリン留分で、私のほしい留分は灯油留分で250度~350度の付近で出てきた留分を採取することで手に入れることができた。それ以外は硫黄分いおうぶんが多い残油ざんゆとして処理した。

 私はこの世界に燃える水、ガソリンと灯油を作ることに成功した。

 この精製した灯油であればランプの燃料として燃やしてもすすや硫化水素りゅうかすいそは出なくなり燃料効率も上がるため燃料の保ちも良くなる。

 私は早速アルフレッドの住むアークガルド城へガソリンと灯油を持って行こうと倉庫の出口に向かった。

 しばらく歩いているとクリスが立っていた。

「実験は上手くいったかい?」

「ええ。クリスのおかげで上手くいったわ、いつもありがとう」

「そうかい、それはよかったよ」

 クリスはそう言うとゆっくりと私に近づいてきた。どんどん近づいてきて私の顔の近くにクリスの顔が近づいてきた。鼻息がかかるほど近くに来たクリスに私は困惑した。

 少しずつ後ろに後退したが、すぐに壁に背中があたり、壁際に追い込まれる形となった。私はクリスを避けようと横に移動しようとしたが、クリスの腕が顔の横に伸びてきて行く手を阻んだ。私は壁とクリスに挟まれる形になってしまった。

「ど……どうしたの? クリスなにか変よ?…………あ……あまり近づかないで、油くさいでしょ?」

「アルフレッド王子とキスをしたという噂を聞いたんだけど本当かい? 」

「え!……あ……は…………はい…………」

 クリスが私をじっと見てくる目が耐えられず、目を背けて返事をした。次の瞬間私の唇にクリスの温かい唇の感触があった。

「ん! ん……んん」

 私は逃げようと頭を動かすが、クリスの手で抑え込まれてしまう。

 私は手に持っていた油の缶を地面に落として両手でクリスを押しのけ、その反動で倒れてしまった。

「ごめん……。本当は無理やりこんなことはしたくなかった。でも君が他の男に取られてしまうと思うと、居ても立っても居られなくなりつい…………、本当にごめん」

「………う……うん……」

 返事に困っていると倒れた私を起こそうとクリスが手を差し出した。私は恐る恐るクリスの手を掴むと立ち上げてくれた。

 立ち上がった瞬間クリスが私に抱きついた。

「キャ!……」

 突然のことで私は小さい悲鳴をあげた。

 クリスの両腕が私を優しく包み込んで心地よい感触に全身がしびれて行くのが分かった。

「この手を離したくない」

「え…………」

「君の笑顔を守るためならば僕はどんなことでもしよう。君が幸せになるのならば僕はどんなことでもできる。だから………………」

 クリスの腕に力が入るのが分かった。

「だから…………ごめん」

 クリスは手を離すと、君を困らせるつもりはないんだ、と言って離れるとどこかに走って行ってしまった。私はしばらくして、まって……、と言ったがすでにクリスの姿はそこにはなかった。

 ◇

 私がアースガルド城に着くとすぐに一室に通された。そこにはアルフレッドとルナがいてふたりとも快く迎え入れてくれた。ランプの使用を中断していたためか、ルナの顔色が少し良くなっているように見えた。

 アルフレッドは私の顔を見ると走って駆け寄ってきた。

「やあ! ティアラ。待っていたよ。君に言われた通りランプの使用をやめただけでルナの体調がみるみる良くなっていったよ」

 アルフレッドはニコニコしなが妹のルナを指差して言った。

 私はルナの顔を見た。本当に少し元気になっている様子だった。

 元気がない私を疑問に思ったアルフレッドが私の顔を見て聞いてきた。

「どうしたの? 何か元気がないようだけど、何かあった?」

 私はい……いや何でもないわ、というと気持ちを切り替えて二人に言った。

「それは良かったわ、今日はランプを安全に使用できる物を持ってきたわ」

「何? 本当かい? 実験は成功したんだね。それは嬉しいよ、部屋が暗くて少し不便に感じていたんだよ。ねえ。ルナ」

 アルフレッドに声をかけられてルナは頷きながら笑った。

「本当に、安全にランプが使用できるのでしたらこんな嬉しいことはないです」

「じゃ早速ルナの部屋に行こう!」

 アルフレッドは私の手を掴むと楽しそうに私をルナの部屋につれて行った。
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