18 / 117
〜シンデレラガール〜
病弱なお姫様
しおりを挟む
ベッドに寝ていると、『ガチャリ』と音がして部屋の扉が開いて誰かが入ってきた。その人は車椅子に座っていて私を見ると弱々しく笑った。
「良かった、気がついたんですね」
「あ……は……はい」
「ルナ、部屋から出て大丈夫なのか」
アルフレッドは心配そうに車椅子の少女に声をかけた。
「はい、お兄様今日は気分がいいんです」
「え? お兄様?」
「ああ、こちら妹のルナだよ」
「はじめましてティアラさん、お会いできて光栄です」
「い……いえ、こ……こちらこそ……すみません王女様なのに分からなくて……」
「はは、良いんですよ。一日中部屋にこもってばかりなので知らなくて当然です」
「え? そうなのですか?」
「ああ、妹は小さいときから体が弱くてね。だから公務にもほとんど顔を出していないんだ」
「そ……そうなんですか……、原因はわからないのですか?」
「いろいろな医者に見てもらったが、原因はわからないと言われたよ」
アルフレッドはそう言うと悔しそうに首を左右に降った。私は車椅子の少女を見た。顔が青白く手足が少し震えているのが見えたおそらくしびれているのだろう。何か?この症状を以前見たような気がしたが思い出せなかった。
◇
私はすっかり体調が良くなりアルフレッドと一緒に部屋を出て城の廊下を歩いていた。
私は不意にある部屋の前で立ち止まった。アルフレッドはいきなり立ち止まった私を見ていた。
「どうしたの? 何かあるの?」
「この部屋は誰の部屋ですか?」
「ああ、ルナの部屋だよ。それがどうかしたの?」
「部屋のドアを開けてもいいですか?」
「ああ、分かった」
アルフレッドは訝しげに私を見たが、部屋をノックして誰も居ないのを確認すると部屋のドアを開けた。ルナの部屋のドアを開けた瞬間私は病気の原因が分かったかもしれない。
私が感じたのは部屋に充満する匂いである。研究所で働いていた時に原油の成分を抽出していた時によくこの匂いを嗅いでいた。それは自分のように何時間もラボでこもっていて研究をしていた人にしか感じることのできない特殊な匂いでもあった。
その匂いの正体は硫化水素だった。このガスを吸い続けるといずれ手足がしびれて動けなくなり、最悪の場合死亡してしまう恐ろしいガスである。このガスの恐ろしいところはガス濃度が低い場合は腐卵臭がして気づくことができるが、逆にガス濃度が濃い場合は臭いがせず気が付きにくくなることである。そのためサイレントガスと呼ばれることもある。
部屋に入ると腐卵臭をかすかに感じることができた。よく温泉地に行くと臭う卵の腐った匂いである。あまり匂いが強くないのでおそらくはかなりの濃度であることが予想できた。これを吸い続けると人体に影響がでるだろうと思った。
私は硫化水素の出どころを探るべく部屋の中に入った。
部屋に入るとまだ日が出ているのも関わらず、窓のカーテンはすべて閉まり、真っ暗な部屋を明るくするためにランプが至るところに設置されていていた。
「まだ外は明るいのになぜカーテンを締め切っているの?」
「ルナは太陽の光が嫌いなんだ。光を浴びると体調が悪くなるんだ」
太陽光アレルギーなのかもしれない。たまにそういう人がいると本で読んだことがあった。太陽の光を浴びるとアレルギー症状が出てしまうと書いてあった。
私はランプに近づいた。すると匂いがしなくなった。つまりかなりの高濃度の硫化水素がランプから出ていると想定できる。
「このランプの燃料はどこから買っているの?」
「ウエスタン商会からだけど、それがどうかしたのかい?」
「一度採掘場所を見せてもらえないかしら」
アルフレッドは疑問に思いながらも大丈夫だと思う、と言ってくれた。私はランプの燃料を触ってみた。黒くネバネバした油を指で摘んで伸ばしているとチョコレートのように固まってしまった。私の予想は当たった。硫黄分を多く含んでいる原油は常温でチョコレートのように固まってしまう。おそらくこの硫黄分を多く含む原油をそのまま燃料にして燃やしていることで原油中の硫黄分が硫化水素となって部屋中に充満してルナの体調不良の原因になっていると思った。
普通原油はそのまま使用せず蒸留装置にかけてLPGなどのガス分とガソリン・灯油・軽油などの白油と重油などの黒油成分というように大まかに分けて使用するのが理想である。ランプの燃料には硫黄分をある程度取り除いた白油成分を使用することが望ましい。
このままランプを使用すると最悪ルナが死んでしまうかもしれないと考えた私はアルフレッドにルナの体調不良の原因を説明するとランプの使用をやめるように言った。アルフレッドは信じられないといった顔をしていたが、それで妹の体調が良くなるのならと言って協力してくれる事になった。
その後ルナの部屋をあとにした私はそのまま城の燃料が保存されている倉庫に行って、ランプに使用されていた原油を少し分けてもらって家路に着いた。
原油には色々な成分がたくさん詰まっている。原油を生成して成分を抽出してすれば安全にランプの燃料にも使用できるし、硫黄を抽出すればマッチなどにも利用できるので、一気に生活水準がアップする。私はこの原油を使ってまた人々の役に立つ製品を作ろうと思った。
「良かった、気がついたんですね」
「あ……は……はい」
「ルナ、部屋から出て大丈夫なのか」
アルフレッドは心配そうに車椅子の少女に声をかけた。
「はい、お兄様今日は気分がいいんです」
「え? お兄様?」
「ああ、こちら妹のルナだよ」
「はじめましてティアラさん、お会いできて光栄です」
「い……いえ、こ……こちらこそ……すみません王女様なのに分からなくて……」
「はは、良いんですよ。一日中部屋にこもってばかりなので知らなくて当然です」
「え? そうなのですか?」
「ああ、妹は小さいときから体が弱くてね。だから公務にもほとんど顔を出していないんだ」
「そ……そうなんですか……、原因はわからないのですか?」
「いろいろな医者に見てもらったが、原因はわからないと言われたよ」
アルフレッドはそう言うと悔しそうに首を左右に降った。私は車椅子の少女を見た。顔が青白く手足が少し震えているのが見えたおそらくしびれているのだろう。何か?この症状を以前見たような気がしたが思い出せなかった。
◇
私はすっかり体調が良くなりアルフレッドと一緒に部屋を出て城の廊下を歩いていた。
私は不意にある部屋の前で立ち止まった。アルフレッドはいきなり立ち止まった私を見ていた。
「どうしたの? 何かあるの?」
「この部屋は誰の部屋ですか?」
「ああ、ルナの部屋だよ。それがどうかしたの?」
「部屋のドアを開けてもいいですか?」
「ああ、分かった」
アルフレッドは訝しげに私を見たが、部屋をノックして誰も居ないのを確認すると部屋のドアを開けた。ルナの部屋のドアを開けた瞬間私は病気の原因が分かったかもしれない。
私が感じたのは部屋に充満する匂いである。研究所で働いていた時に原油の成分を抽出していた時によくこの匂いを嗅いでいた。それは自分のように何時間もラボでこもっていて研究をしていた人にしか感じることのできない特殊な匂いでもあった。
その匂いの正体は硫化水素だった。このガスを吸い続けるといずれ手足がしびれて動けなくなり、最悪の場合死亡してしまう恐ろしいガスである。このガスの恐ろしいところはガス濃度が低い場合は腐卵臭がして気づくことができるが、逆にガス濃度が濃い場合は臭いがせず気が付きにくくなることである。そのためサイレントガスと呼ばれることもある。
部屋に入ると腐卵臭をかすかに感じることができた。よく温泉地に行くと臭う卵の腐った匂いである。あまり匂いが強くないのでおそらくはかなりの濃度であることが予想できた。これを吸い続けると人体に影響がでるだろうと思った。
私は硫化水素の出どころを探るべく部屋の中に入った。
部屋に入るとまだ日が出ているのも関わらず、窓のカーテンはすべて閉まり、真っ暗な部屋を明るくするためにランプが至るところに設置されていていた。
「まだ外は明るいのになぜカーテンを締め切っているの?」
「ルナは太陽の光が嫌いなんだ。光を浴びると体調が悪くなるんだ」
太陽光アレルギーなのかもしれない。たまにそういう人がいると本で読んだことがあった。太陽の光を浴びるとアレルギー症状が出てしまうと書いてあった。
私はランプに近づいた。すると匂いがしなくなった。つまりかなりの高濃度の硫化水素がランプから出ていると想定できる。
「このランプの燃料はどこから買っているの?」
「ウエスタン商会からだけど、それがどうかしたのかい?」
「一度採掘場所を見せてもらえないかしら」
アルフレッドは疑問に思いながらも大丈夫だと思う、と言ってくれた。私はランプの燃料を触ってみた。黒くネバネバした油を指で摘んで伸ばしているとチョコレートのように固まってしまった。私の予想は当たった。硫黄分を多く含んでいる原油は常温でチョコレートのように固まってしまう。おそらくこの硫黄分を多く含む原油をそのまま燃料にして燃やしていることで原油中の硫黄分が硫化水素となって部屋中に充満してルナの体調不良の原因になっていると思った。
普通原油はそのまま使用せず蒸留装置にかけてLPGなどのガス分とガソリン・灯油・軽油などの白油と重油などの黒油成分というように大まかに分けて使用するのが理想である。ランプの燃料には硫黄分をある程度取り除いた白油成分を使用することが望ましい。
このままランプを使用すると最悪ルナが死んでしまうかもしれないと考えた私はアルフレッドにルナの体調不良の原因を説明するとランプの使用をやめるように言った。アルフレッドは信じられないといった顔をしていたが、それで妹の体調が良くなるのならと言って協力してくれる事になった。
その後ルナの部屋をあとにした私はそのまま城の燃料が保存されている倉庫に行って、ランプに使用されていた原油を少し分けてもらって家路に着いた。
原油には色々な成分がたくさん詰まっている。原油を生成して成分を抽出してすれば安全にランプの燃料にも使用できるし、硫黄を抽出すればマッチなどにも利用できるので、一気に生活水準がアップする。私はこの原油を使ってまた人々の役に立つ製品を作ろうと思った。
0
お気に入りに追加
106
あなたにおすすめの小説
転生先は盲目幼女でした ~前世の記憶と魔法を頼りに生き延びます~
丹辺るん
ファンタジー
前世の記憶を持つ私、フィリス。思い出したのは五歳の誕生日の前日。
一応貴族……伯爵家の三女らしい……私は、なんと生まれつき目が見えなかった。
それでも、優しいお姉さんとメイドのおかげで、寂しくはなかった。
ところが、まともに話したこともなく、私を気に掛けることもない父親と兄からは、なぜか厄介者扱い。
ある日、不幸な事故に見せかけて、私は魔物の跋扈する場所で見捨てられてしまう。
もうダメだと思ったとき、私の前に現れたのは……
これは捨てられた盲目の私が、魔法と前世の記憶を頼りに生きる物語。
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。
江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。
だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。
十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。
ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。
元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。
そして更に二年、とうとうその日が来た……
聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる
夕立悠理
恋愛
ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。
しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。
しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。
※小説家になろう様にも投稿しています
※感想をいただけると、とても嬉しいです
※著作権は放棄してません
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革
うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。
優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。
家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。
主人公は、魔法・知識チートは持っていません。
加筆修正しました。
お手に取って頂けたら嬉しいです。
令嬢キャスリーンの困惑 【完結】
あくの
ファンタジー
「あなたは平民になるの」
そんなことを実の母親に言われながら育ったミドルトン公爵令嬢キャスリーン。
14歳で一年早く貴族の子女が通う『学院』に入学し、従兄のエイドリアンや第二王子ジェリーらとともに貴族社会の大人達の意図を砕くべく行動を開始する羽目になったのだが…。
すこし鈍くて気持ちを表明するのに一拍必要なキャスリーンはちゃんと自分の希望をかなえられるのか?!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる