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灰化の国のアリス
猫
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月が、きれい。星が、きれい。
服についた灰をはらうために、外へ出ることにした。
服はもう何年も着てるワンピースだ。白い生地だったのに汚れて黄ばんでしまっている。袖は短いし、装飾は施されていない。
老婆がいなくなり、シーンとなった空間はもうすぐで終わりを告げるようだった。
そう、終わりを。
「どういうこと!?」
先程までぼろぼろだったお洋服は、ドレスに変わっていた。キラキラした生地は夜空に輝く星のようで、スカート全体を覆うリボンは天の川のようだった。
これは、魔法?
あの老婆の魔法?
でも、こんなドレスを着たところで私は何もできないし……。
いや、魔法の粉ならある。
それをかけて、月光に当てたら私も魔法が使えるんじゃないかしら?
そうしたら、お城に行けるかな?
私は早速準備を始めた。
まずはソファで眠っていた猫、リーケ。リーケは継母のペットだけど私に良くなついていた。
「ちょっとごめんね」
灰が舞わないように静かにかける。最初は不思議そうな顔をしたものの、私が撫でるうちに落ち着いたようだった。
「いい子、いい子。お外行こっか」
これが成功すれは私は行ける。あの老婆の言ったことは嘘じゃなくなる。どきどきどき。それは悪い遊びをしているみたいで、楽しかった。
私の予想は的中し、猫はまるで執事のような服を着た少年になった。
「あれ、僕……。人間?シンデレラ、シンデレラ?」
シンデレラ。ああ、それは私の名前だっけ。シンデレラ。いや、私の名前は……。
今は考えないようにしよう。
「ふふっ、こんばんは。リーケ、私とお話できるようになったね」
いつものように頭を撫でる。嬉しそうに素直に反応する少年を見て、私は魔女になった気分だった。
否、すでにもう魔女なのかもしれない。
魔法にかけられた私の身体は思い通りに動くようになった。例えばヒールが高い靴は今まで履いたことがなかったけれど、普通に歩けている。蹌踉めくどころか、寧ろ軽やかに。
こんなスカートが広がるドレスも初めてなのだ。
魔法にかかれば思い通りに動かせる?あるいは、かけた者が自由に操っている?
どちらでも構わなかった。なぜなら、目の前の彼はすでに私の思い通りのはずだから。
「リーケ、お願い事があるの」
お願いというのは、馬を走らせてくれないかというもの。もちろん、リーケが馬を操ったことがないから初めは断られた。
試してみるだけでいい、そう言ったら少し困った顔で承諾してくれた。
しかし。この家に馬などいない。昔はいたらしいけど、継母が森のどこかに連れて行ったとか、売ってしまったとか、とりあえず居なくなったのだ。
「馬は……」
だが、そんなことで悩む必要はなかった。ボロボロのワンピースがドレスになったり、猫が人間になったり……形を変えることができるのなら、馬を作れば良い。
私は裏庭の埃っぽい倉庫の近くへ来た。
そこには、ロバがいる。痩せて足も顔も細くなってしまっているが、大丈夫。
私はロバに灰をかけた。
魔法のかけ方が悪かったのか、はたまたそうなる運命だったのか。ロバは馬にはならなかった。しかし、茶色くお世辞にもきれいと言えなかった姿は美しい毛並へ、ひょろひょろした脚も立派なものになった。
満足。
「リーケ!」
私はすぐに猫を呼んだ。
すぐに駆けつけてくれる、彼は正に犬……いや猫……執事だ。執事ということにしておこう。
「どうしたの?シンデレラ」
首を傾げる少年執事。は、目の前のロバを見て自身が呼ばれた理由を理解したようだった。
「この子が馬……?ロバ?」
リーケが本当に馬……ロバを操れるか、少し不安だが、私は他にもやることがあった。
確かお姉様たちは馬車に乗ってお城に行ってたから、きっと馬に直接乗ってお城に行くのは良くないのだろう。
どうやら、もとある形をそのまま変えるのは失敗する可能性もあるらしい。リーケがどうして人間になったのか不明だけど。
とりあえずそれっぽい形のものを考えなきゃ。
お鍋、ティーポット、花瓶……どれもうまくできる気がしない。固いし細長いから馬車にはなれないだろう。
じゃあ、柔らかいものは?マシュマロ、ベッド、パン。こちらもいまいち。
「シンデレラ?どうしたの?」
悩んでいるとリーケが不思議そうな顔で見つめてきた。猫に話してもなぁ……。相談くらいはしていいかなぁ。
「馬車を作ろうと思って。ロバが引く車に似た形の……」
「それなら畑にあるよ!」
ぱあっと表情を明るくし、私の手を引くリーケ。この子、いつも寝てるけど意外と元気なのかな。
❦ ❦ ❦
連れて来られたのは、大量にかぼちゃが育てられた畑だった。
あ、そういえばもう収穫の時期だっけ。早くしないと怒られちゃう!
「これ!」
リーケが指差したのは、もちろんかぼちゃ。早く早くという視線も送られている。
かぼちゃでできるかな?
半信半疑だったが、リーケの視線に断ることができなかったので、一つ収穫をして灰をかけてみることにした。
服についた灰をはらうために、外へ出ることにした。
服はもう何年も着てるワンピースだ。白い生地だったのに汚れて黄ばんでしまっている。袖は短いし、装飾は施されていない。
老婆がいなくなり、シーンとなった空間はもうすぐで終わりを告げるようだった。
そう、終わりを。
「どういうこと!?」
先程までぼろぼろだったお洋服は、ドレスに変わっていた。キラキラした生地は夜空に輝く星のようで、スカート全体を覆うリボンは天の川のようだった。
これは、魔法?
あの老婆の魔法?
でも、こんなドレスを着たところで私は何もできないし……。
いや、魔法の粉ならある。
それをかけて、月光に当てたら私も魔法が使えるんじゃないかしら?
そうしたら、お城に行けるかな?
私は早速準備を始めた。
まずはソファで眠っていた猫、リーケ。リーケは継母のペットだけど私に良くなついていた。
「ちょっとごめんね」
灰が舞わないように静かにかける。最初は不思議そうな顔をしたものの、私が撫でるうちに落ち着いたようだった。
「いい子、いい子。お外行こっか」
これが成功すれは私は行ける。あの老婆の言ったことは嘘じゃなくなる。どきどきどき。それは悪い遊びをしているみたいで、楽しかった。
私の予想は的中し、猫はまるで執事のような服を着た少年になった。
「あれ、僕……。人間?シンデレラ、シンデレラ?」
シンデレラ。ああ、それは私の名前だっけ。シンデレラ。いや、私の名前は……。
今は考えないようにしよう。
「ふふっ、こんばんは。リーケ、私とお話できるようになったね」
いつものように頭を撫でる。嬉しそうに素直に反応する少年を見て、私は魔女になった気分だった。
否、すでにもう魔女なのかもしれない。
魔法にかけられた私の身体は思い通りに動くようになった。例えばヒールが高い靴は今まで履いたことがなかったけれど、普通に歩けている。蹌踉めくどころか、寧ろ軽やかに。
こんなスカートが広がるドレスも初めてなのだ。
魔法にかかれば思い通りに動かせる?あるいは、かけた者が自由に操っている?
どちらでも構わなかった。なぜなら、目の前の彼はすでに私の思い通りのはずだから。
「リーケ、お願い事があるの」
お願いというのは、馬を走らせてくれないかというもの。もちろん、リーケが馬を操ったことがないから初めは断られた。
試してみるだけでいい、そう言ったら少し困った顔で承諾してくれた。
しかし。この家に馬などいない。昔はいたらしいけど、継母が森のどこかに連れて行ったとか、売ってしまったとか、とりあえず居なくなったのだ。
「馬は……」
だが、そんなことで悩む必要はなかった。ボロボロのワンピースがドレスになったり、猫が人間になったり……形を変えることができるのなら、馬を作れば良い。
私は裏庭の埃っぽい倉庫の近くへ来た。
そこには、ロバがいる。痩せて足も顔も細くなってしまっているが、大丈夫。
私はロバに灰をかけた。
魔法のかけ方が悪かったのか、はたまたそうなる運命だったのか。ロバは馬にはならなかった。しかし、茶色くお世辞にもきれいと言えなかった姿は美しい毛並へ、ひょろひょろした脚も立派なものになった。
満足。
「リーケ!」
私はすぐに猫を呼んだ。
すぐに駆けつけてくれる、彼は正に犬……いや猫……執事だ。執事ということにしておこう。
「どうしたの?シンデレラ」
首を傾げる少年執事。は、目の前のロバを見て自身が呼ばれた理由を理解したようだった。
「この子が馬……?ロバ?」
リーケが本当に馬……ロバを操れるか、少し不安だが、私は他にもやることがあった。
確かお姉様たちは馬車に乗ってお城に行ってたから、きっと馬に直接乗ってお城に行くのは良くないのだろう。
どうやら、もとある形をそのまま変えるのは失敗する可能性もあるらしい。リーケがどうして人間になったのか不明だけど。
とりあえずそれっぽい形のものを考えなきゃ。
お鍋、ティーポット、花瓶……どれもうまくできる気がしない。固いし細長いから馬車にはなれないだろう。
じゃあ、柔らかいものは?マシュマロ、ベッド、パン。こちらもいまいち。
「シンデレラ?どうしたの?」
悩んでいるとリーケが不思議そうな顔で見つめてきた。猫に話してもなぁ……。相談くらいはしていいかなぁ。
「馬車を作ろうと思って。ロバが引く車に似た形の……」
「それなら畑にあるよ!」
ぱあっと表情を明るくし、私の手を引くリーケ。この子、いつも寝てるけど意外と元気なのかな。
❦ ❦ ❦
連れて来られたのは、大量にかぼちゃが育てられた畑だった。
あ、そういえばもう収穫の時期だっけ。早くしないと怒られちゃう!
「これ!」
リーケが指差したのは、もちろんかぼちゃ。早く早くという視線も送られている。
かぼちゃでできるかな?
半信半疑だったが、リーケの視線に断ることができなかったので、一つ収穫をして灰をかけてみることにした。
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