汚い奴ら

福会長

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たまには

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朝の教室は、静かであった。多分どこのクラスもそうであろう。





静けさというものは心を落ち着かせるためにも役に立つ。






そう、余程のことでなければ、落ち着いていられるはずなのである。







今一度言わせて貰うが、゛余程のことでなければ ゛である。







余程のことというのは、



例えるなら、今のこの状況とか。






 この状況というのは、蒼に教卓を挟んだ向い側から胸ぐらを掴まれている状況を指す。







時は、数分前に遡る。



舌打ちでの攻防戦をどちらかが勝った負けたに関わらず、幾度となく繰り返していた怒涛の登校時のことである。






問題なのは、この後だ。





彼女が大事にしている愛読書が忽然と姿を消したのだ。その時の彼女の気持ちと言ったら、幼子が寒い夜の街に一人放り出された時のそれと何ら変わりがない喪失感であったように思われる。




だからこそ、言ってしまったのであろう、八つ当たりとしか言いようのない言葉を。







「蒼。お前、鬱陶しい。毎朝毎朝…私の邪魔をしないでくれる?てかもう近寄らないで」







彼女の顔からは嫌悪感しか見出せず、その言葉には冗談もそれ以外の意図も含まれていない。



完全な本音だった。







弁明の余地すら与えない、人を疑う事を疑いもしていないその眼差しは成瀬 蒼の気持ちを汚く歪ませるには充分な材料であった。








「それが俺に対する態度だって言うのか」








彼が鋭くそう聞き返すと、身の危険を感じた彼女は教卓を挟んで向かい側で対峙する形をとった。







が、それが間違いだった。







その間違いが原因で起きたのが、冒頭の出来事である。








「離して。」


「無理だ。」


「離して!」


「無理。」






彼女が今にも暴れ出さんとしているのを止めるべく、胸ぐらに更なる力を込めて顔を自分の方に引き寄せた。数分間顔を合わせて睨み合う。






そして、また力を込めて引き寄せ、彼女の耳元でそっと囁く。








「俺たちには話し合う時間が必要だ。そうだろ?この意味、お前ならわかるよな。」








有無を言わせない声で、彼女に語り掛ける彼は何処か楽しそうにも見える。






その強い威圧を含む語りかけに、少し冷静さを取り戻したのか小さく彼女は頷いた。







それを見届けた彼は、完全に怯えきったクラスに気づきもせずに近くの生徒に話しかける。







「俺とこいつは、体調が悪くて保健室に行った。と、先公に伝えてくれ。」








そう言うと、生徒の返事は聞かずに、教卓を挟んで青ざめた顔をしている彼女の襟首を掴むと引き摺るようにして教室を後にした。


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