遠恋中の彼女から託されたお宝(弟)には取扱説明書が付いていた!

九頭龍渚

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第24話 休日の午後

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 それから俺たちは半日を洗濯と掃除に費やし、午後から出かけた。


 さっそく、今朝話していたSF映画を観に行くことになった。
 映画のタイトルは『地球侵略 トウキョウ決戦』。
 凶悪なエイリアンが世界の主要都市を一斉に攻撃するという内容だ。

 人類の存亡を懸けた必死の闘いに、俺は涙が込み上げてきた。
 負けるな、地球連合軍! 一丸となって愛する地球を守るのだ。


 共通の敵を迎えた時、各国の思惑や国家間の様々な確執があろうと、もはやそれどころではなくなった。国々は団結せざるを得なかった。国境もイデオロギーも超越し、世界は初めて一つになった。
 しかし、エイリアンの圧倒的な科学力の前に地球人類は為す術もなかった。列強の兵士たちが次々と戦火に散っていく。逃げ惑う民衆。指揮系統は壊滅し、救いの手は訪れない。一部の勇敢な一般市民が蜂起するも、所詮エイリアンの敵ではなかった。
 もう打つ手はないのか!? このまま人類は征服されるのか!? そして、地球はエイリアンの手に落ちてしまうのか!?
 ついに、決戦の舞台はトウキョウへ。
 ここが最後の砦だ。トウキョウが陥落すれば世界が終わる。


 地球人類の勇気に俺は泣いた。それこそ滂沱たる涙を流して。
 嗚咽を漏らさないようにポップコーンを頬張って誤魔化そうとした。だが、間抜けなことに喉に詰まらせて慌ててコーラで流し込んだら、むせび泣いているような声が出てしまった。
 単純だと笑わば笑え。颯也との感動的な交わりで感情の昂りが収まらず、涙腺が緩くなっている所為だ。

 その颯也は、厳しい表情をして真剣な眼差しでスクリーンを見つめていた。
 登場人物の誰かに感情移入をしているのだろうか? その横顔に俺は頼もしさを感じて胸が熱くなってしまったのだった。



 帰りにドラッグストアに寄った。今後のために必要なものを購入しようと。

 以前から話し合っていたことがあった。ゴムがあればシーツを汚さなくて済むのではないかと。
 今となってはかなり有用になってきた。颯也の身体に負担をかけることも少なくなる。さらに、潤滑剤的なものもあった方が良いかもしれない。

 しかし、件のものをいざ買おうとなると勇気がいる。こう見えて俺の神経は繊細なのだ。

「颯也、身体の方はもう大丈夫なのか?」
「平気です。僕は怯みませんよ。あなたを求める気持ちは1μミクロンも揺るぎません。
 理仁亜? 僕を気遣い過ぎてあなたの方が怯んでいますか? 遠慮も手加減も無しですよ。僕はあなたにむき出しの欲望で挑まれたいのですから」
「挑む、って……闘いか? それだとまるで格闘みたいじゃないか」
「激しい、という意味では、まさに格闘です。こらえ難い衝動をぶつけて愛し合うんです。火花が散るほど激しく。そうでなくては男同士の意味がありません」
「火花まで散らさなくてもいいと思うけど。まぁ、でも、俺が堪え切れなくてテーブルの下なんかで……颯也、すまなかった」

 曲がりなりにも初体験の颯也に、ロマンチックなメモリアルを演出できなかったことは残念だった。

「却って印象的で、きっと忘れられなくなりますね。僕たちの初めての営み。そして、これから何千回も何万回も続けていくのです。欲望の赴くままに」
「そ、そんな何万回とか……」

 あたふたする俺に代わって、大量のゴム製品とジェルをカートに入れて颯也が堂々とレジカウンターに運んだ。
 俺がなけなしの勇気を振り絞るまでもなかった。彼の神経の逞しさは見事に俺の繊細な部分を補完してくれた。

 それにしても、つくづく颯也の神経が計り知れない。否、それ以前に、俺はかなり意気地無しだ。

「理仁亜、寝具も見に行きましょう」
「ああ、そうだったね」

 替えのシーツを多めに買っておこうという話もしていた。
 結局あの時ベッドに行かなくて正解だったのだ。麗羅たちが部屋に入る前にシーツを外していたから。

「ほとんど毎晩マスを掻きっこしてたから洗濯が間に合ってなかったですよね。この際、ラブライフの充実のために色や柄を吟味しましょう。例えば……迷彩柄なんてどうですか?」
「やはり……格闘?」



 マンションに帰り着くと、部屋に入るなり颯也が俺を抱きしめた。

「あなたが後ろを任せられる男に、僕はなります」
「どうしたんだ? 映画の影響か?」
「もろに影響されました」


『あなたが後ろを任せられる男に、僕はなります』

 映画の中で、その台詞を若い兵士が上官に言っていた。

『百年後だな。それまで生きろ』

 若い兵士の言葉を受けて、上官は笑いながらそう返した。

 二人の間には上官と部下という関係を超えた信頼があった。若い兵士は幼い頃に生き別れた兄の面影を上官に重ねていたのだ。
 激しい戦闘の最中さなか、上官はその部下を救うために命を落とした。彼の死の間際に明かされた真実が、あまりにも切な過ぎた。


 俺は何度も頷いて颯也の髪を撫でた。
 映画の中の台詞を自分の言葉として俺に伝える彼が幼気いたいけで可愛かった。

「エイリアンが攻めて来た時は闘います。理仁亜も一緒に闘って下さいね」
「その時はね」

 エイリアンと闘うは、果たして来るのか?
 俺は永久とわに来ないことをこいねがう。




つづく
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