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第21話 最高の男
しおりを挟む「最低だわ! 理仁亜も颯也も。最低最悪のゲス野郎よ。地獄行き決定ね。もうっ、信じられない!」
その言葉を甘んじて受け止めるべき俺は、何を言われても黙るしかなかった。
「どうしてこうなるのか私たちも何が何だかよくわからないけど、はっきりしていることは、麗羅は真田さんに振られたってことね」
意外にもさばさばした口調で真凛が言った。
「この私が振られる? あり得ない。そんな屈辱的なことは断じて受け入れられないわ。理仁亜なんてこっちから振ってやる。ホモ野郎なんて大嫌いなんだから! 颯也、今後あんたの面倒も看ないわ。仕送りもストップさせるから」
これまでの弟への愛と献身を無に帰すほどの麗羅の怒りは、可愛さ余って憎さ百倍どころか千倍万倍のはずだ。愛情が深ければ深いほど反動の大きさは測り知れない。その上、彼女の自尊心を甚だしく傷つけてしまったのだ。
自分はどんなに罵られてもいい。ゲス野郎でもホモ野郎でも。その謗りはあながち間違ってはいない。
「僕は理仁亜さえいればいいんだ。学費や生活費はアルバイトして自分でなんとかする」
「あんたなんかにアルバイトが勤まるもんですか!」
「麗羅、それは言い過ぎだ。颯也はしっかりしている。君が思う以上に優秀な男だ」
俺は颯也を擁護した。彼の人間性まで否定されるのがつらかった。
「なによ! 二人で庇い合って。私の心はボロボロよ。完膚なきまでに傷だらけだわ。弟に彼氏を盗られた……? いえ、彼氏に弟を盗られた……? もう、どっちだっていいわ!」
そう言うと麗羅は再び大粒の涙をこぼした。
「真田さん、颯也のこと改めてよろしくお願いします」
肩を震わせて嘆き悲しむ次姉を尻目に、真凛は至って穏やかだった。
「弟が大事にされているのはわかります。なんだか颯也、男らしくなったもの。少し見ない間にずいぶん逞しくなったわ。
本当は、颯也がいつまでも超過保護のままでいいはずないって、私も心の何処かで感じていたんだけど、可愛いからつい甘やかしていたの。溺愛する肉親の情が颯也の男としての成長を妨げていたのね。
だから、真田さんに預けて正解だったと思います」
「真凛さん……」
真凛は自分の甘さを自覚し、颯也の行く末を案じていたのだ。
彼女の思いを知り、俺は自分が間違っていなかったことを改めて確信した。
「真凛の言う通りだと思うわ。私は颯也が幸せなら、それでいい」
沙耶も真凛に同調的だった。
「姉さんたち、安心して。僕は今、本当に幸せなんだ。
理仁亜は仕事で疲れているはずなのに、いつも丁寧に僕の面倒を看てくれる。決して手抜きなんかしない。寝る時だって、僕が新しい環境に慣れない当初は一所懸命に面白い話を作って聞かせてくれたり、怖い夢を見た時はオヤジギャグで安心させてくれて、おかげでもう怖い夢を見ることもなくなった。
理仁亜の教えで今ではほとんど自分のことは自分でできるようになったけど、それでも時々甘えさせてくれる。
理仁亜はとっても優しいんだ。懐が深くて温かくて、一緒にいて楽しいし、心が安らぐ。理仁亜は最高の男だよ」
そう言って颯也は熱い視線を向けた。
過剰に褒められて俺は恥ずかしさMAXだ。
「颯也、良かったわね。最高の男と出逢えて。ねぇ、真凛」
「本当に良かった! 颯也が幸せで」
感心したように沙耶と真凛が笑顔で頷き合っていた。
「ちょっと! 沙耶、真凛!」
援軍だったはずの姉と妹の裏切りとも取れる態度に、麗羅が噛みついた。
「あんたたち、いったいどっちの味方なのよ! 急にものわかりが良くなったような理解者面して。自分たちだけ弟に良く思われたいの?
酷いじゃない。私のことはどうでもいいって言うの? その最高の男は本来私のものだったのよ。それが男の颯也に奪われたのよ。被害者の私を救済しなきゃ、ここに来た意味がないでしょう。
あんたたち、どうしちゃったのよ!?」
「だって……ねぇ、沙耶姉さん」
真凛と沙耶が顔を見合わせた。
そして、ついに沙耶が麗羅に引導を渡した。
「麗羅、結局あんた捨てられたのよ。ここは潔く身を引きなさい」
「酷いこと言うのね! 長姉だろうと許さないわ!」
麗羅は激昂し、沙耶に掴み掛かろうとしたところを真凛に抑えられた。
つづく
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