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第10話 また今夜も
しおりを挟む「腕枕して下さい」
「やっぱり、今夜も?」
夜のルーティーンに関しては足踏み状態である。何とか打開策はないものか。
「はい。今夜も」
こくりと頷く颯也の幼気な表情や仕草に庇護欲を刺激される。無条件に可愛いと思えてくる。
「じゃあ、どうぞ」
逆らえない。麗羅が書いた取扱説明書にも、颯也の可愛さにも。俺はほとんど諦念の境地で腕を差し出した。
そして、とりとめもない日本昔話もどきを始めるのだった。
「昔々、ある所で……えーと……浜辺で、悪ガキたちが亀をいじめていました。棒でツンツンしたり……動物虐待みたいなことをしていたのです。
そこへ偶然、漁師の若者が通りかかりました。
若者は亀を助けようとしましたが、相手はガキんちょとはいえ多勢に無勢。若者はボコられてしまいます。
亀はその隙にさっさと海へ帰って行きました。とりあえず亀は助かり、めでたしめでたし……なわけないだろ! とツッコミたいのは亀に替わってボコられている若者なわけで。
そこへ、たまたま鶴が通りかかりました。けっこう交通量の多い海岸です。
その鶴は胸筋ムキムキの武闘派でした。瞬く間に悪ガキたちを蹴散らし、若者を助けました。
ということは、若者は鶴に恩返しをするはめになるのか? これは鶴の恩返しならぬ鶴に恩返し、もしくは鶴の恩返され……?
では若者は、漁師のタロウさんなのか、猟師のヨヒョウなのか? どっちなん? もういっそのことヨタロウさんで良くね? とも思います。
そして、亀はどうした……!?」
昔話の適当なつぎはぎだ。オチもなければ、めでたしめでたしのハッピーエンドもない。
程なく、颯也の静かな寝息が聞こえてきた。
続きは夢の中で。
「真田さん、真田さん」
「あ……はい」
昨日に引き続き、また夜中に起こされた。
愛しい顔が目の前にある。しかし、俺にキスをしようとしているわけではない。もう間違えない。これは麗羅の弟・颯也。似て非なるもの。
「トイレ?」
「すみません。水を飲み過ぎたようです」
「あっ、だったら俺も」
ついでに自分もトイレに行くことにした。
夕食に出した炒め物の味が濃過ぎた所為で、俺たちは水分をしこたま摂るはめになった。
俺の下手な料理に文句も言わずに食べてくれた颯也に申し訳ないと思いながら、食に関する自分のいい加減さを反省した。その結果が現在の自分の貧相な身体だ。
まだまだ成長する余地のある颯也のためにも、料理に本腰を入れて取り組む必要があるだろう。桐島家で育まれた彼の美しい肉体を、俺が台無しにするわけにはいかない。
「くすん」
「今日はどんな夢だ!?」
これも昨日と同じパターンだ。悪夢を見るのはむしろ俺の方だろう。
「遅刻する夢見た」
「泣くほどの夢か」
そういう夢は俺も時々見ることはあるが、泣くのは違うような気がした。
「登校途中に、海岸で亀をかわいがりしてたら……」
「かわいがり!? そんな専門的な隠語を……! 君は相撲部屋のパイセンか?」
俺の昔話もどきが颯也の夢にさっそく出て来たようだ。
「……ヨタロウさんに怒られた」
「君はどんな夢でも泣くんだな」
俺は泣いている颯也を抱き寄せ、背中をさすって宥めた。
「もう大丈夫。ヨタロウさんも亀も夢だ。怖い夢は獏が食べてくれるからね。バクバク、とね。……獏だけに」
「…………」
そこで何か一言欲しかった!
つづく
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