遠恋中の彼女から託されたお宝(弟)には取扱説明書が付いていた!

九頭龍渚

文字の大きさ
上 下
10 / 34

第10話 また今夜も

しおりを挟む



「腕枕して下さい」
「やっぱり、今夜も?」

 夜のルーティーンに関しては足踏み状態である。何とか打開策はないものか。

「はい。今夜も」

 こくりと頷く颯也の幼気いたいけな表情や仕草に庇護欲を刺激される。無条件に可愛いと思えてくる。

「じゃあ、どうぞ」

 逆らえない。麗羅が書いた取扱説明書にも、颯也の可愛さにも。俺はほとんど諦念の境地で腕を差し出した。

 そして、とりとめもない日本昔話もどきを始めるのだった。

「昔々、ある所で……えーと……浜辺で、悪ガキたちが亀をいじめていました。棒でツンツンしたり……動物虐待みたいなことをしていたのです。
 そこへ偶然、漁師の若者が通りかかりました。
 若者は亀を助けようとしましたが、相手はガキんちょとはいえ多勢に無勢。若者はボコられてしまいます。
 亀はその隙にさっさと海へ帰って行きました。とりあえず亀は助かり、めでたしめでたし……なわけないだろ! とツッコミたいのは亀に替わってボコられている若者なわけで。
 そこへ、たまたま鶴が通りかかりました。けっこう交通量の多い海岸です。
 その鶴は胸筋ムキムキの武闘派でした。瞬く間に悪ガキたちを蹴散らし、若者を助けました。
 ということは、若者は鶴に恩返しをするはめになるのか? これは鶴の恩返しならぬ鶴に恩返し、もしくは鶴の恩返され……? 
 では若者は、漁師のタロウさんなのか、猟師のヨヒョウなのか? どっちなん? もういっそのことヨタロウさんで良くね? とも思います。
 そして、亀はどうした……!?」

 昔話の適当なつぎはぎだ。オチもなければ、めでたしめでたしのハッピーエンドもない。

 程なく、颯也の静かな寝息が聞こえてきた。
 続きは夢の中で。



「真田さん、真田さん」

「あ……はい」
 昨日に引き続き、また夜中に起こされた。
 愛しい顔が目の前にある。しかし、俺にキスをしようとしているわけではない。もう間違えない。これは麗羅の弟・颯也。似て非なるもの。
「トイレ?」

「すみません。水を飲み過ぎたようです」
「あっ、だったら俺も」

 ついでに自分もトイレに行くことにした。

 夕食に出した炒め物の味が濃過ぎた所為で、俺たちは水分をしこたま摂るはめになった。
 俺の下手な料理に文句も言わずに食べてくれた颯也に申し訳ないと思いながら、食に関する自分のいい加減さを反省した。その結果が現在の自分の貧相な身体だ。
 まだまだ成長する余地のある颯也のためにも、料理に本腰を入れて取り組む必要があるだろう。桐島家で育まれた彼の美しい肉体を、俺が台無しにするわけにはいかない。



「くすん」
「今日はどんな夢だ!?」

 これも昨日と同じパターンだ。悪夢を見るのはむしろ俺の方だろう。

「遅刻する夢見た」
「泣くほどの夢か」

 そういう夢は俺も時々見ることはあるが、泣くのは違うような気がした。

「登校途中に、海岸で亀をかわいがりしてたら……」
「かわいがり!? そんな専門的な隠語を……! 君は相撲部屋のパイセンか?」

 俺の昔話もどきが颯也の夢にさっそく出て来たようだ。

「……ヨタロウさんに怒られた」

「君はどんな夢でも泣くんだな」
 俺は泣いている颯也を抱き寄せ、背中をさすって宥めた。
「もう大丈夫。ヨタロウさんも亀も夢だ。怖い夢は獏が食べてくれるからね。バクバク、とね。……獏だけに」

「…………」

 そこで何か一言欲しかった!




つづく
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

営業活動

むちむちボディ
BL
取引先の社長と秘密の関係になる話です。

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

ハイスペックED~元凶の貧乏大学生と同居生活~

みきち@書籍発売中!
BL
イケメン投資家(24)が、学生時代に初恋拗らせてEDになり、元凶の貧乏大学生(19)と同居する話。 成り行きで添い寝してたらとんでも関係になっちゃう、コメディ風+お料理要素あり♪ イケメン投資家(高見)×貧乏大学生(主人公:凛)

いとしの生徒会長さま

もりひろ
BL
大好きな親友と楽しい高校生活を送るため、急きょアメリカから帰国した俺だけど、編入した学園は、とんでもなく変わっていた……! しかも、生徒会長になれとか言われるし。冗談じゃねえっつの!

大学生はバックヤードで

リリーブルー
BL
大学生がクラブのバックヤードにつれこまれ初体験にあえぐ。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

目覚ましに先輩の声を使ってたらバレた話

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
サッカー部の先輩・ハヤトの声が密かに大好きなミノル。 彼を誘い家に泊まってもらった翌朝、目覚ましが鳴った。 ……あ。 音声アラームを先輩の声にしているのがバレた。 しかもボイスレコーダーでこっそり録音していたことも白状することに。 やばい、どうしよう。

英雄の帰還。その後に

亜桜黄身
BL
声はどこか聞き覚えがあった。記憶にあるのは今よりもっと少年らしい若々しさの残る声だったはずだが。 低くなった声がもう一度俺の名を呼ぶ。 「久し振りだ、ヨハネス。綺麗になったな」 5年振りに再会した従兄弟である男は、そう言って俺を抱き締めた。 ── 相手が大切だから自分抜きで幸せになってほしい受けと受けの居ない世界では生きていけない攻めの受けが攻めから逃げようとする話。 押しが強めで人の心をあまり理解しないタイプの攻めと攻めより精神的に大人なせいでわがままが言えなくなった美人受け。 舞台はファンタジーですが魔王を倒した後の話なので剣や魔法は出てきません。

処理中です...