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しおりを挟む完成した釘バットを手に、アルきゅんは居住地区の役人のところへ向かった。
空き家のマットレスを譲って貰えるか聞くらしい。
勝手に持って行っても大丈夫だと思ったが、泥棒になってしまわないように確認を取りに行くという。
アルきゅんは誠実で真面目で律儀な男児だからな。
役人の小屋は加工場の先の住宅の並びにあった。
交番みたいな小屋だ。
中には机があって、帽子をかぶった男が座っている。
古い洋風の軍服を着たちょび髭のイケオジだ。
つまりモブっぽくない男だ。
こいつはおそらくネームドの竿役。
『アルきゅん、気をつけるんだぞ!』
『え、何をですか?』
たしかに何に気をつければいいんだ?
ともかく、俺だけでも警戒していよう。
主人公にエロいことをする不届き者かもしれない。
男は小屋に入って来たアルきゅんの釘バットを見ている。
「こんにちは、先日この地区に入居したアルトゥール・シャインです」
「フン、ワシはこの下層居住区の取り締まりをしておるドン・ファンファンだ。して、何用かね?」
アルきゅんは空き家のマットレスについて話し、手直しして使っても構わないだろうかと尋ねた。
ファンファンは髭を弄りながら釘バットを見ている。
釘バットがよほど気になるらしい。
そいつはお前を殴る武器だぜ。
「この地区で使う分には構わん。手直しも許そう。
だが新しい地区へ移り住むときには今の家に置いていくように」
置き去りにされた家具などは地区への寄付扱いになるようで、地域の共有財産とされるらしい。
もっともな話だ。
「フン」とか鼻を鳴らすから、性格の悪い奴かと思ったぜ。
「ところでシャイン少年よ、それは何だね?」
ちょび髭は釘バットに興味津々だ。
触りたそうに手がソワソワしている。
「これですか? 魔物退治用の武器、オータニです」
「ほう、なかなかいい武器だ。どこで買ったんだね?」
「僕が作りました」
「なんと……!」
ちょび髭は肩を落としてしまった。
見るからにガッカリしている。
よほど釘バットが欲しいらしい。
加工場のおっさんといい、釘バットの何がいいんだろうな。
『さっきのハゲのおっさんなら作ってくれるんじゃないか?』
「ええと、加工場の方に言えば作ってもらえると思います。
手伝ってもらいましたので」
「おお、そうか! オータニだな、オータニ」
ファンファンはブツブツ呟いていた。
俺たちは役人の小屋を出る。
何だよ、竿役じゃないのかよ。
身体検査とか言って裸にして、尻の穴に何か隠してるな? とか言ってきそうなキャラだったけどな。
無事でよかったけどさ。
家に戻って昼食をとったら、午後はミャオンを連れて魔物退治だ。
マットレスは明日取りに行くことにした。
アルきゅんには早く使ってもらいたいけど、傷み具合がわからないし、手直しに時間がかかるかもと言うからしかたない。
天日干しもしなきゃならないよな。
『スタッフラビットのエリアへ行きますか?』
『今日も生肉から行こうぜ』
昨日の戦闘でアルきゅんのレベルはまた上がったし、今の力量を測るなら四ターンで倒した生肉がいいだろう。
釘バットの威力も見れるしな。
「ミャオン、ポークアジルを探してくれる?」
「ナーン」
森に入ってすぐ、ミャオンが生肉を見つけた。
『アルきゅんが先制でオータニを試してくれ』
『わかりました』
慣れてきたようで、アルきゅんは生肉へ物怖じせず近づく。
バトルフィールドに移った。
『さぁアルきゅん、オータニの力を見せてやれ!』
「はい神様、いきます! えいッ!」
グシャッ! という効果音がして生肉は砕け散った。
「え……すごい」
昨日は四ターンの生肉が、釘バットで一撃だ。
「ポコッ」というSEから「グシャッ」だったし、威力が跳ね上がったように見える。
加工でこんなに変わるのかよ。
『すごいぞアルきゅん、ワンパンだったな』
『この武器が凄いんです。昨日とはぜんぜん違いました』
アルきゅんは喜ぶどころかちょっと引いている。
遊び感覚の俺とは印象が違うようだ。
『武器の改良が成功してよかったな!
これならウサギも楽勝かもな。ピンクのエリアに行こうぜ』
『あ、ポークアジルがもう一体います。どうしますか?』
『もう一匹殺っとくか。今のがまぐれだといけないからな』
「ポコッ」のクリティカルが「グシャッ」の可能性もある。
念の為もう一度生肉で釘バットの威力を試してみた。
二体目も一撃だった。
釘バットに問題はなさそうだ。
アルきゅんも落ち着いたようだし、ミャオンにワイズキャタピラーを探してもらう。
『神様、大丈夫でしょうか……』
『え、何が?』
移動中、アルきゅんが不安げな顔をしていた。
『こんなに強い武器を僕が作ってしまうなんて』
『悪いことなのか?』
『いいえ、そういうことではなく……』
「ナーン」
ミャオンがワイズキャタピラーを見つけてきた。
『続きは帰ってから話そうぜ』
『はい』
アルきゅんは何かを気にしてるようだったが、オータニを試したくて俺は退治を続けさせた。
……結果だけ言うと、ワイズキャタピラーもスタッフラビットも釘バットでワンパンだった。
その日俺たちは数時間で二十数体の魔物を退治し、まだ日が高いうちに家へ帰ったのだった。
加工場のスキンヘッドも役人のちょび髭もオータニを気に入っていたが、強い武器だとひと目でわかったんだろうな。
さすがだな、オータニ!
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