【休止中】エロゲ世界に転生した俺が主人公のナビ役だった件

毛玉(kedama)

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 さっきからあいつ、俺を睨んでやがる。


 アルきゅんが寝静まると、チェシャーキャットのミャオンは主の命令に従って部屋の中を歩きはじめた。
 長いシマシマの尻尾をもつ耳長猫という愛らしい魔獣だ。
 紫色の体は500mlのペットボトルくらいで、尻尾の長さは体と同じくらいある。
 縞は白っぽい紫で、首の毛がふわふわしてて、長い耳はピンと立っている。

 フリフリ尻を振って歩く姿が可愛いので、俺はミャオンのうしろについてまわる。
 今夜はミャオンのおかげで心が明るい。
 朝まで楽しく過ごせそうだ。
 そんな風に浮かれていた。

 数分経っただろうか。
 ミャオンがキョロキョロしだして、俺のいる方向に突然威嚇してきた。
 この世界に来てから誰にも感知されずにいたから普通にビビる。
 視覚の方向を変えてもミャオンはちゃんと俺の視点を認識しているらしい。
 威嚇は明らかに俺に向けられていた。
 動物には霊が見えると言うし、その類なのか?

 それからはアルきゅんのベッドの上を陣取って、ミャオンはずっと俺のいる方向を睨んでいる。
 アルきゅんに近づくと「シャアアアッ!」とまでしてくる。


 最悪だ。
 これなら昨日のほうがマシじゃん。
 アルきゅんの寝姿すら見れず、獣に睨まれながら長くて暗い夜を過ごせと言うのか。
 仕事で夜間警備をしていたが、暗くて何もできない状態で長時間過ごすのは別だからな。
 スマホもないし、物に触れることができないのが結構なストレスだ。


『ミャオン、俺は無害だぞ。俺もアルきゅんの下僕なんだって。
 同じ主人に仕える者同士、仲良くしようぜ?』


 とりあえず説得してみるが、言葉以前に俺の声が聞こえているとは思えない。
 些細な音でも聞き取るミャオンの耳がぴくりとも動かない。
 俺の声には振動がないんだろう。
 ミャオンは俺のいる方向を睨み続けているだけだ。



『この辺でも聞こえないか? 仲良くしようぜミャオン』

「シャアアアアッ!」


 耳のそばで囁いたら案の定これだ。
 謎の気配に対する威嚇なんだろうな。
 歯をむき出しにして、めちゃくちゃ怖い顔だ。
 悲しい。

 ミャオンが俺を認識したのはついさっきだから、明日アルきゅんに伝えてもらえば警戒は解けるのかな。
 朝まで耐えるしかないか。


「……フヴヴッ!」

『どうした?』


 ミャオンが俺を無視して窓へ顔を向けた。
 大きく毛が逆立っていて、イカ耳状態だ。
 俺の時とはぜんぜん違う。
 警戒する対象がはっきりしているんだろう。
 何かヤバいのがいるらしい。

 ヌルっとした黒い影が窓の隙間から入り込んできたのが見えた。
 その影はヘビみたいに床を這って、ベッドの前でムクムクと人の姿になる。


「おや? チェシャーキャットじゃないか」


 艶めかしい男の声だ。
 癖のある長い黒髪を束ねた褐色肌の美丈夫。
 上半身ほぼ裸体の細マッチョだ。
 アラビアンナイトな格好をしている。


 ついに御出でなさったぜ。
 これはあれだ、おそらく竿役の一人だろう。
 夜限定の人外キャラだろう。
 トカゲみたいな太い尻尾があるし、双刀で穴をほじくるタイプだろう。

 どうしよう。
 初のエロイベントが始まっちゃったよ。
 アルきゅんを起こすか?
 起こしたところでこのデカい男から逃げられるだろうか。


『うーん……』


 現実世界でずっと楽しみにしていたエロイベントなのに、ちっともワクワクしないぜ。
 この世界にはアルきゅんの竿役がいっぱいいるだろうし、ゲームの根幹たるエロイベントを避けて通るのは難しいとは思っていた。
 主人公ならゲームシステムの影響をモロに受けるよな……

 でもな、ここまで仲良くなった男の子が目の前でヤられるのはなぁ……


『胸クソ悪いよなぁ』


 俺の愛するショタエロ同人誌には可哀想なエロが多い。
 不遇なエロコメディは特に好きだった。
 画面越し、漫画越しでは興奮できたんだ。
 でもこうして目の前でとなると気分が悪いな。
 ハッピーな恋愛ルートならまだいいが、鬼畜な展開を生で見るのはごめんだ。


『同意もなしに俺の前で襲うのは許せん』


 ベッドの上からミャオンの姿が消えると、褐色の男は尻尾を振った。
 ステルスで攻撃に出たミャオンが簡単にふっ飛ばされる。


『ミャオン……!』


 バトルフィールドに移らないということは、コイツはやはり竿役だろう。


『おい、ミャオン頑張れ! お前がアルきゅんを守るんだぞ!』

「シャアアアッ!」

『おいバカ、敵はあっちだ! こんな時まで俺に威嚇すんな!』


 耳のそばで応援したら、ミャオンは飛び上がって威嚇する。
 急に来た俺の気配にビビったらしい。
 目の前の男と謎の気配とでミャオンも混乱してそうだ。

 何もできない俺の代わりにミャオンが仲間になったんじゃないのかよ……
 何で俺は何もできないんだ……?
 体があればあんな野郎くらい投げ飛ばせる……と思う。

 ミャオンに俺の気配が認識できたことがイレギュラーなのか?
 でもそれは、俺がこの異世界に存在している確かな証拠だよな。
 なら、俺の声が届かないのは何でだ?
 ミャオンがアルきゅんの配下にあるのなら、主人を介して俺と繋がってもいいはずじゃんか。
 アルきゅんと念話できるみたいに、ミャオンとだって意思の疎通ができてもいいはずだろ?!





  (ザーーーー……ザザ……ザ……


    ……しかに………よね……


        ……しても…………ない…


   ……プッ)






「何だい? そこに何かいるのかい?」


 悠々としていた褐色の男がこっちを見て怯んでいる。
 ミャオンの威嚇する先に何の気配もないから警戒しているんだろう。
 自分に感知できない存在は怖いよな。
 ならもっとビビれや。


『おいお前、エッチできる空気じゃなくなっただろ?
 今夜は諦めて帰れ!』


 男に俺の声は聞こえていない。
 ミャオンの威嚇する対象を探して、黄色い目玉をギョロギョロさせている。
 なんだコイツ。
 視野を広げるためなのか、目玉がデカくなっている。
 ビビって逃げるような玉じゃなさそうだ。

 トカゲの尻尾を持つ半裸の褐色男は化け物のように口が裂けていた。
 人の顔が崩れて大きな目玉がギラギラと光る。
 背中にはドラゴンみたいな黒い翼を広げている。
 体を大きく見せて威嚇している。


 うわぁ……めっちゃ怖い。
 

『もぉ何なんだよお前! アルきゅんが昔助けたドラゴンか?
 恩返しなら物品でしてくれ』

「キシャアアアア!」

「やはり何かいるようだねぇ」


 誰とも会話が噛み合わねえし。
 おい、こっち来んな!
 ミャオンは俺に威嚇すんなッ!

 あぁもぉ、何かないのか?
 メニュー画面を開いてミャオンのスキルをもう一度確認する。
 おそらく『脱兎』以外のすべてのスキルをミャオンは試しているはずだ。
 なら何かこう、メド◯ーアみたいな合わせ技とかできないのか?

 近づいてくる男に焦りながら、ミャオンのステータスに目を向ける。


 ん……?


 ミャオンの名前の横に円状の矢印が回っていた。

 こんなのあったっけ?
 アプデ中?
 それとも……アイコンか。


 タップするイメージを思い浮かべていた。

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