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しおりを挟む『神様のおかげで効率よく倒せていますね!』
生肉が攻撃してこないと知ってからは毒のみで倒している。
蹴飛ばして倒してもよさそうだけど、アルきゅんのブーツが汚れるので却下だ。
毒薬も惜しいし、打撃用の武器がほしいところだな。
『神様、見てください』
ドロップした魔石を拾っていたアルきゅんが森の奥を指差す。
そこには耳の長い猫みたいな紫色の生き物が二匹いた。
シマシマの長い尻尾が可愛い小動物だ。
大きめの個体の上に小さめの個体が乗って、お尻をパコパコしていた。
『えっと、うん……?』
交尾してるな。
『チェシャーキャットです』
ほう。
ワンダーランドでおなじみのキャラだな。
『夜行性ですし、ステルスや幻術などのスキルが使えます。
賢い魔獣なので、条件にピッタリだと思いませんか?』
『アシスト魔獣のことか』
『チェシャーキャットなら可愛いので、ぜひ捕まえたいです』
アルきゅんはカバンからモン……じゃなくて、マジックアイテムを取り出した。
よほど嬉しいのか興奮気味だ。
交尾中のチェシャーキャットににじり寄るアルきゅん。
俺の視界はバトルフィールドに変わった。
途端、大きめの個体が逃げ去る。
『ああ……!』
『残ってる方をキャンディで足止めしようぜ』
『あ、はい! そうしてみます』
ボールに入ってくれない可能性も考えて、先にキャンディを使わせた。
アルきゅんのターンまで残っていた小さい個体に上手くマヒが入る。
『やりました!』
『まだわからないぞ。慎重にな』
『そ、そうですね。よし……えいっ!』
その掛け声は可愛い放物線を描くと思ったが、かなりの豪球だった。
チェシャーキャットの頭にボールがゴッとぶつかると、魔獣は目を回してバタリと倒れる。
「やりました! 神様、チェシャーキャットゲットです!」
『お、おう。今のでゲットになるの?』
バトルフィールドが消えて、アルきゅんがチェシャーキャットのもとへ駆け寄る。
転がっていたボールが光り、チェシャーキャットの首に巻き付いた。
そういう感じになるのか。
「うわぁ、可愛い♡ なんて名前にしようかな」
『よかったな。ところでさ、そろそろ森から出ないか?』
少し奥まで来ちゃったから、俺は周囲を警戒した。
『はい、帰りましょう。今日はいっぱい稼げましたし、チェシャーキャットも手に入ったので十分です』
アルきゅんはにこにこ笑顔だ。
だが、こういうのがフラグになるからな。
俺は気を抜かず警戒して、変な植物に注意しながら門まで戻った。
帰りにアルきゅんは門で魔石を換金し、支給の窓口で食材を受け取る。
この支給品を受け取れる便利な窓口は王国内にいくつもあるらしい。
コンビニみたいだな。
『神様すごいです! ポークアジルはいっぱい倒せましたし、チェシャーキャットは僕だけだったら逃がしていました』
荷物を抱えるアルきゅんはまだぴょんぴょんしている。
従順に横をついて歩くチェシャーキャットが相当嬉しいようだ。
『俺も少しはアルきゅんの役に立てたかな』
『はい、とても。ありがとうございます♡』
肉に関しては湧き待ちとセコい方法だったが、どうにかお荷物案件から脱却できた気がする。
心のきれいなアルきゅんは俺をそんな目で見てないとは思うけど、俺だったらこんな役に立たないナビ、さっさと切ってる。
アルきゅんにお礼を言われてむず痒くなった。
可愛いショタに喜んでもらえるって、幸せだな♡
『ほーん。アルきゅんのステータスの横はアシスト枠だったのか』
家に帰ってからステータス画面を開くと、チェシャーキャットのステータスも見ることができた。
しかもこの魔獣、かなり優秀だ。
攻撃力も体力も今のアルきゅんよりずっと高い。
『一撃の猟牙』というギフトを持っていた。
ワンパンキルでスキルポイントが稼げるのかな?
所持スキルはステルス、幻術、威嚇、催眠、脱兎、吸血となっている。
『ステルス』はまんま隠密スキルだろう。
『幻術』は敵の命中率を下げるらしい。
『威嚇』は敵を怯ませてターンを一回奪ったり、敵の攻撃力を下げさせるみたいだ。
『脱兎』はヤバい敵とエンカウントした時に逃げるスキルだが、最初に逃げた一匹はこれを使ったのだろう。
となると、逃げれるのはチェシャーキャット単体か。
『吸血』は相手のHPを吸い取ってこっちのHPにするという、回復みたいなスキルだ。
今後の魔物退治はこいつに全部任せたらよさそうだな。
いいもん拾ったぜ。
「うふふ。君の名前はミャオンだよ」
「ナーン」
「よろしくね、ミャオン」
「ナーン」
ミャオンと名付けられたチェシャーキャットはアルきゅんの手にすり寄る。
俺には「ナーン」としか聞こえないが、アルきゅんには「ミャオン」と鳴いて聞こえるらしい。
交尾の最中に襲われて、パートナーに逃げられて、人間に従属支配されて……こいつにとっては散々かもしれない。
だがご主人様がアルきゅんの時点でお前は勝ち組だ。
アルきゅんに触りたい放題なんて……クソぉ羨ましい!
全身全霊で身を粉にして働けッ!
アルきゅんは嬉しそうにミャオンを持ち上げて抱きしめた。
美ショタと小動物の組み合わせは最強だな。
『可愛いヤツでよかったな』
「はい♡」
生肉じゃなくてよかった。
夕食を終えて、今日もアルきゅんは風呂に入った。
嫌がるミャオンを必死に洗うアルきゅんは可愛かった。
風呂と言えばトイレももちろんセットだ。
本日も良いものをありがとう。
拝んでおく。
そして寝る前にアルきゅんはミャオンに言いつける。
「ミャオンいい? 僕が寝てる間はこの部屋の警備をしてね」
『頼むぞミャオン』
「神様がさみしくないように、時々動いて見せてあげてね」
「ナーン」
動物に細かい命令は理解できないだろうな。
別に俺はミャオンが寝ちゃっても構わない。
アルきゅんが納得してくれればそれでいいんだ。
明日は泣き言を言わないように気をつけなきゃな。
二度目の長い夜が始まる。
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