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酔いどれ日和

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「お客さん、大丈夫ですか?」
 間近で声がして隆は飛び起きた。
 いつのまにか寝ていたようだ。目の前の駅員が迷惑そうに顔を顰めている。
 一瞬、「乗り過ごしたか」と青ざめたがまだ途中駅。ホームに降りるとまるでラッシュタイムのような混雑ぶり。
 さすが花金。浮かれているのは自分だけではないらしい。

 不意に肩を叩かれ驚いて振り向くと、「よっ」と軽い調子で手を挙げる男が一人。
「お前……」
 意外な人物にあんぐりと口を開けると彼は「いや、久しぶりだな」と隆の肩を抱いて歩き出す。
「何でここに?」
 こんなところで会うことなんて予想だにしなかった人物に隆は瞠目しながらも、促されるままにホームを歩く。
「いやな、部下と飲んでたんだけどさ。最近の若いのは『終電がなくなるからー』なんてすぐ帰りたがるのな。おかげで飲み足りないのよ」
 目配せされるものの、隆も今は給料日前で懐がさびしい。今の時間を逃せばそれこそ「終電がなくなるからー」状態だ。
「あー、わり。今日はもう帰るって嫁に言っちまったから、また今度」
 後ろ髪引かれながらそう言うと、彼はパッと隆から離れて「そっか」と寂しそうに笑った。
「ま、ゆっくりしてから来いよ」
 彼の言葉に首を傾げながら「ああ」と適当に合わせる。

「お客さん、大丈夫ですか?」
 間近で声がして隆は飛び起きた。
 いつのまにか寝ていたようだ。目の前の駅員が迷惑そうに顔を顰めている。
 一瞬、「乗り過ごしたか」と青ざめたがホームの看板が示すのは隆の家の最寄り駅。
 そうだ。最寄り駅が終点の最終電車に飛び乗ったのだった。
 ホームに降りると人影はまばら。金曜夜が終わろうとする倦怠感の中、みんなゆるりと改札へ歩いて行く。
 思わず後ろを振り返る。しかし最後に降りたのは隆だったらしい。後ろには誰もいない。

ああ、そうか。あいつは……。

 葬儀に出たのは去年の今頃か。
 思い出して一瞬笑う。なぜか嫌な気分はしなかった。

「無事に最寄りに着いたし、一杯だけ付き合うよ」
 コンビニの缶ビールを片手に千鳥足で家路に向かう。
 隆の頬を撫でる風は懐かしく心地よかった。
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