(株)よつめやくのいち

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第二章:彼女達の事情

三話:猫の尻尾(下)

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 カナコが差し出した鈴のついた首紐を、キクジは少し呆けた顔で受け取った。
「これは?」
「あのね、あたしをキクジの猫にして欲しいの」
 言葉の意味を捉えかねて、キクジが首を傾げている。
 その姿を予想通りだと思いつつ、カナコは用意していた猫耳を、頭に着けた。寝巻の裾をたくし上げ、見えるように体を捻れば、作り物の尻尾が覗く。
「それは…」
「ね、キクジ…あたし、駄目な猫だったわ。だから、躾けて欲しいの…キクジの猫にして。ね? お願い」
 戸惑う夫の手を首に誘って、カナコは懇願の目で見上げる。
「カナコはそれで良いの?」
「うん」
 妻の返答を聞くと、キクジは鈴が前に来るようにして、首紐を少し緩くその首に結わえた。
 ちりと鳴る鈴が、鎖骨の真ん中で少しだけひやりとする。だが、すぐに体温が伝って解らなくなった。カナコは、端切れで作った首紐が、子供の小遣いでも足りるようなそのささやかな物が、ただキクジが嵌めてくれたというだけで、特別な物に変わるのだ、と胸が高鳴る。
「似合うね」
 身を離して見たカナコの凹凸の少ないしなやかな肢体は、本当に猫のように見えた。指で、鈴を揺らせば、ちりん、と軽やかな音がする。
「嬉しい」 
 再びキクジの胸へしなだれかかれば、トクトクとした少し速い心音が耳に届いた。腰を抱く左手にぐっと力がこもり、右手がたくし上げていた裾から入り込む。滑り込みするりと撫で上げるように動いた手は、尻尾のつけ根に辿り着いた。
「やんっ」
 つんと引くようにされ、思わず声が漏れた。
「これ、どうしたの?」
「稀人、様にっ…」
 触れれば尾てい骨とはちがう場所から生えているのだとよく解る。その尾を確かめるように力を入れると、しがみ付くようにカナコの腕に力が入った。
「稀人?」
「今、御柱様のもとにいらっしゃるの…黒い髪に黒い目をした御化身のような方」
「…女の人?」
「え?」
 胸に埋まっていた顔を、ぱっと上に向ける。
 驚いたような顔で見上げられて、キクジは視線を逸らした。
 その、あまり見た事の無い表情に、カナコは思わずキクジを布団へ押し倒してしまう。
「御堂にいらっしゃるのよ、女の人に決まってるじゃない」
「そうだね」
 くすり、と楽しそうに笑む姿が、如何にも獲物をなぶる猫のようで、キクジはその首へ手を伸ばして逆撫でた。
「んぅ、何?」
「駄目だよカナコ。主人に悪戯をしかけるのは、駄目」
 耳に囁かれ、ああそうだった、と目が眩む。自分の下から出て行くキクジに首を押さえられて、その柔らかな弱い力に不思議と逆らえない。裾が捲り上げられて、下半身が露にされると、思わず頭を伏せ、尻を突き上げるようにしてしまった。
「僕の猫なら、良い子にしてないと、ね?」
「あ、うん…なる、から。良い子になるから…教えて?」
 いいよ、と囁く声が嬉しい。猫を撫でる優しい手も、安心し切って彼に抱かれる猫も、羨ましかった。ずっと。ずっと。
「あん、んっ、やぁあ…あっ、あっ」
 キクジはゆっくりとカナコ尾を引いた、雫型が連なっているそれを途中まで抜いて、ゆっくりと戻す。しばらく同じ事を間隔を変えながら繰り返し、その大きさや長さを確かめた。
 カナコは、布団を握りしめて耐えながらも、どうしようもなく腰が揺れている事に気付いている。だが、止めようがない。声と同じようにキクジの手技に敏感に反応していた。
「ああぁっ!」
 次第に激しくなった抽挿でひと際高くカナコの声が上がると、握りしめていた指から力が抜けた。
「カナコが気を遣るの初めて見た」
「やぁ…んっ」
 指がすっかり太ももまで濡らすほど潤った女陰をゆっくりと撫でる。
「気持ち良い?」
 中に入り、増えた指もすっかり馴染んだ。
「うん…良い、すごく良いの。だから、もう」
 入れて、という言葉は吐息交じりで上手く声にならなかったが、キクジは理解してくれた。久しぶりの熱は思い出よりも大きく、締め付ける度に二つの存在が強く中に在る事を認識させる。
「あっ、っ、あぁ」
 腰を動かせば、尻尾も揺れ、伸びをするような仰け反った背が愛おしい。
「本当に、僕の猫で良いんだね」
「い、いいよ…いいっ」
 キクジが揺れる尻尾に触れ、カナコは中で擦れ合う感覚に溺れ始める。片方が入れば片方が抜けていき、突き上げるようにされているのにぐるぐると擦るように動かされ、次第に自分が何をされているのかも解らなくなっていった。
「ひっ、ああっ!」
 びくりと体が弾み、ぐったりと弛緩する。荒い息を吐きながら、カナコは体を捻ってキクジを見つめ、目を見開いた。
「どうしたの…?」
 静かに、声も上げず、キクジが泣いていた。
「カナコが…戻って来てくれて。良かった。本当に…良かった」
 離れて寂しかったのは自分だけのはずが無い。お互いに一人で居たという事なのだ。
 カナコは弾かれたように身を起こして、俯くキクジを抱き締めた。一瞬鳴った鈴の音が、二人の間に消えていく。
「戻るよ。あたしはキクジのとこに戻る。何があったって、戻って来る」
「良かった…良かった」
 抱き合って伝わる熱と心音が、とても心地良かった。
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