(株)よつめやくのいち

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第二章:彼女達の事情

二話:後日談

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 新しく海青屋の主人となった若旦那は、産まれてすぐに母と死別した。
 彼の父であり、この度隠居する事を決めた大旦那は、恋女房であった妻の死に際の言葉に従って、息子を一人前にするまでは何が何でも、という気概で生きてきた。
 そして、息子が成人すると同時に、その張り詰めていた気が、抜けたのだ。引き止める声は多かったし、息子を手助けする気もいくらでもあったが、腑抜けたような自分が店に居ては、良い空気を壊すだろうと考え、別宅を用意して引っ越しを決める。
 と、同時に、息子の縁談を進めようとした。
「お前、誰か嫁にしたい人は居るかい?」
「いえ、ただ…」
「ただ?」
「できれば歳が上の方が」
「そうか。どれくらいだね?」
「十五ほど…」
「十五!?」
 大旦那は、始め、息子が自分の隠居を止めようとそんな条件を言い出したのかと思った。だが、別にそういうわけでもなく。本当に一回り以上歳上と結婚したいのだとすぐに悟った。しかも、十五以上歳上で、未婚の女性が良いと言うではないか。
 この条件には大いに困った。近所の世話好きにも相談したが、どうにも良い相手が見当たらない。
 ただ十五以上歳上で未婚というだけなら何人か居るのだ。だが、海青屋の女将になってもらう人物なのだから、その条件に合うというだけで嫁にはできない。
 そうして半年探し回って、同じ都で異なる業種ではあるが、家の釣り合いも取れる大店に、器量良しで何故結婚できなかったのか解らないと噂の女性に行き着く。
 それが、シナ、だった。
 こうした経緯でヤイチはシナを迎え、また、シナが来てくれた事を嬉しく思っていたのだが。
「始めにお話を頂いた時は大旦那様の後妻になるものと思っておりました」
「え?!」
 新妻の驚きの告白に、初めて共にする朝餉の茶碗をひっくり返して驚いた。
「兄が、ヤイチさんとではあまりに歳の釣り合いが取れていないから、勘違いをしたようで」
 朝、起きて身支度をしている時に、忍ばせてあった母からの手紙でそう知らされた。
「あ、あの、それは、シナは父上と結婚したくて海青屋に…?」
 泡を食ったようなヤイチの様子に、シナは自身の言い方がまずかったと慌てる。
「え…? あっ! いいえ、それは、違うのです。私は、その…私のような年増をもらって下さるなんてきっとお優しい方でしょうから、その方の元に、と」
「年増だなどと! シナは美しいよ! あなたほど綺麗な人をわたしは他に知らないよ!」
 否定するために振られていた手をギュッと握り、ヤイチは真剣に目を見つめて告げた。
「まぁ…そんな、からかわないでください」
 身内以外の男性とはろくに話をした事も無いシナは、その力強さと真剣な目にますます狼狽して、顔を真っ赤にして視線を泳がせる。
「からかってなどいるものか」
 夜に見た艶姿が嘘のような、少女めいた態度にクラっときて、ヤイチは膳を避けてシナへにじり寄った。
「昨夜の銀細工を纏った姿も、本当に美しかった」
「あっ…だめ、ヤイチさん」
 耳に囁く声に、晒しで抑えている胸の先が痺れたような気がして、シナは思わず胸を押さえてしまう。
「わたしは本気だよ、シナ」
「ヤイチさん」
 世間的にはあまりに歳の離れた異質な夫婦であったが。その内世間が羨む事になる仲の良い二人の間には、女の子と男の子の二人姉弟が産まれる。さらに、海青屋の新商品も軌道に乗り、実に順風満帆な航路が拓けていった。

 遊郭を中心に広がった海青屋の新商品は、
『稀人の夜飾り』
と、呼ばれた。
 床を共にしなければ見れない飾りであり、例え共にしたところで、見せたくないと思われれば見せてもらえないその飾り姿を見よう、と客足が伸びたとして最初に遊郭で売れ行きを伸ばし。それを見た客が家に買って帰るという具合に、継続的に売れ行きを伸ばし。元祖の海青屋製ともなれば貴族御用達だ。
 もっとも、これもオズが元の世界へ帰った半年後の話であったので、彼女は全く与り知らぬ事である。
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