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第一章:異世界だってやることは同じらしい
三話:彼女は慣れました
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昔から、だいたい一日あれば順応する質だった。
小学校低学年の頃、見知らぬ子供達が集まって行う宿泊学習なる催しでも、初日から快眠だった。震災で避難所暮らしになった時も家族の中で一人だけ元気にしていた。大学生になって一人暮らしを始めた、家賃だけで決めたマンションの隣人が大音量でテレビを見る人だったが、三十分で気にならなくなった。社会人になって初めて乗る事になった通勤ラッシュも、乗って五分で慣れた。
そんな彼女なので、ここが異世界である、という事を受け入れた後は、あっという間に慣れてしまった。
「オズさま。どうぞ」
「ありがとうございます」
台所で、金髪碧眼の美少女から朝餉の膳を受け取って、部屋に持って戻る。
「いただきます」
央子改めオズはへらりと笑いながら手を合わせて目の前の白飯に一汁三菜な膳を食べ始めた。三つ葉のような香りの葉が浮いたすまし汁をすすって、根菜の金平をおかずに炊きたての白米を口に放り込む。
(いや、しっかし…異世界だって説明を理解した時はどうなる事かと思ったけど。なんか色々日本に近いみたいで全然困んないな。稀人ってすっごい大事なお客様って事らしくて、めっちゃ待遇も良いし)
ちなみに彼女がこの世界に来たのは昨日の昼前である。
(あぁ、ごはんうまぁ)
社会人にもなってあまりに楽観的な彼女のフォローをするならば、すっかり自分の状況を受け入れた背景には、
「稀人様は、皆様一年経つと元の世界に戻られます」
と、この世界で初接触した女性ウメノに言われたためでもある。
その大前提を聞いて、彼女はここが異世界だと受け入れたのだ。
ひじきと大豆の煮物をつまむ。
(しっかし、異世界トリップってどういう意味のある現象なのか解んないけど。別に魔法がある世界でもないのに言葉が伝わるってすごいよな…)
彼女の話す言葉とこの世界の言葉は違う。よく見ていると、この世界の人が喋る口の動きは彼女に届く音と違うのだ。そして逆も然りである。ところが、互いに言葉が通じているという不可思議な状況なのだ。そして、どうも名前は正確に音で届いたようなのだが、発音が難しかったらしく彼女が気にしない事もあってオズと呼ばれている。
(今更小中学校の頃のあだ名で呼ばれるようになるとは思わなかったけど。まぁ、キラキラではないけど変な名前だもんな、私の名前…私以外にこんな名前の人見たことないし)
ぽりぽりと胡瓜の漬物を咀嚼する。
(食文化やら生活様式やらは全く日本だと思うんだけどな…まぁ、ちょっと時代遡ってるけど)
彼女が辿り着いた異世界は、地球に似た天体の世界だった。そして今居るのは、日本に似た島国だ。見せてもらった地図では、本州と四国が陸続きになり、北海道は大きな丸に近い形で、九州が若干菱形で、沖縄は三倍くらいの大きさにした感じだったので、実は日本なのではとは全く思えなかったが。
一方、食文化はかなり日本的だ。今彼女が食べている朝餉も、日本の旅館で朝食に出されたところで違和感の無いものだ。
更には、家の中では裸足で過ごし、円座を敷いて床に座るであるとか。作務衣の様な格好以外でも、着物は全て和装に近いとか。敷地内に温泉が有り、ほぼ毎日入浴するとか。説明を受けながら一晩過ごした彼女の認識としては、電気は無いけどその代わり待遇の良い旅館に来たようなもんだな、といった感じだ。
(まぁ、なまじ日本感が強いから、始め容姿に違和感は有ったけど)
不自由も不満も無く、どころか、感謝しつつ満足に過ごした彼女の違和感というのは、この世界の人の容姿であった。
皆、色素が薄く、漆黒というほどでもないオズのような黒髪の人さえ居ないらしい。それと関わりがあるのか解らないが、顔立ちも皆はっきりしている。彼女の感覚で言えば、シルクロード系だ。一般的にはスラヴ系と表現されるだろうが。
「ぷはぁ」
最後に白湯で全てを流し、飲み込んだ。
(あとは、ここが尼寺ってのに驚いたな…まぁ、尼寺って訳されただけで、厳密には違うんだろうけど。そもそも神様祀られてるんだから神社だし。一時的に修行している人を尼って表現はしないだろうし…)
訳語については彼女がこの世界に来た時、お寺のようだと感じた印象が影響を与えているのかもしれない。
この建物はざっくりいうと、彼女も見た木造の神像になっていた御柱様を祀っているお堂と、今彼女も居る管理者が住んでいる主坊、それと修行に来ている女性達が住む宿坊で構成されている。
(っていうか、修行内容を考えると、仏教に喧嘩を吹っ掛ける事になりかねないよね…でもこの世界独自の宗教を理解するために相応する言葉を当てはめるとどうしてもなぁ………)
食べ終わった朝餉の膳を台所へ持って行きながら、彼女は昨日顎が外れそうなほど驚いた修行内容を思い返していた。
(女性達が集団で性的な事を修業って…今の日本じゃカルト宗教とか言われそうだ)
小学校低学年の頃、見知らぬ子供達が集まって行う宿泊学習なる催しでも、初日から快眠だった。震災で避難所暮らしになった時も家族の中で一人だけ元気にしていた。大学生になって一人暮らしを始めた、家賃だけで決めたマンションの隣人が大音量でテレビを見る人だったが、三十分で気にならなくなった。社会人になって初めて乗る事になった通勤ラッシュも、乗って五分で慣れた。
そんな彼女なので、ここが異世界である、という事を受け入れた後は、あっという間に慣れてしまった。
「オズさま。どうぞ」
「ありがとうございます」
台所で、金髪碧眼の美少女から朝餉の膳を受け取って、部屋に持って戻る。
「いただきます」
央子改めオズはへらりと笑いながら手を合わせて目の前の白飯に一汁三菜な膳を食べ始めた。三つ葉のような香りの葉が浮いたすまし汁をすすって、根菜の金平をおかずに炊きたての白米を口に放り込む。
(いや、しっかし…異世界だって説明を理解した時はどうなる事かと思ったけど。なんか色々日本に近いみたいで全然困んないな。稀人ってすっごい大事なお客様って事らしくて、めっちゃ待遇も良いし)
ちなみに彼女がこの世界に来たのは昨日の昼前である。
(あぁ、ごはんうまぁ)
社会人にもなってあまりに楽観的な彼女のフォローをするならば、すっかり自分の状況を受け入れた背景には、
「稀人様は、皆様一年経つと元の世界に戻られます」
と、この世界で初接触した女性ウメノに言われたためでもある。
その大前提を聞いて、彼女はここが異世界だと受け入れたのだ。
ひじきと大豆の煮物をつまむ。
(しっかし、異世界トリップってどういう意味のある現象なのか解んないけど。別に魔法がある世界でもないのに言葉が伝わるってすごいよな…)
彼女の話す言葉とこの世界の言葉は違う。よく見ていると、この世界の人が喋る口の動きは彼女に届く音と違うのだ。そして逆も然りである。ところが、互いに言葉が通じているという不可思議な状況なのだ。そして、どうも名前は正確に音で届いたようなのだが、発音が難しかったらしく彼女が気にしない事もあってオズと呼ばれている。
(今更小中学校の頃のあだ名で呼ばれるようになるとは思わなかったけど。まぁ、キラキラではないけど変な名前だもんな、私の名前…私以外にこんな名前の人見たことないし)
ぽりぽりと胡瓜の漬物を咀嚼する。
(食文化やら生活様式やらは全く日本だと思うんだけどな…まぁ、ちょっと時代遡ってるけど)
彼女が辿り着いた異世界は、地球に似た天体の世界だった。そして今居るのは、日本に似た島国だ。見せてもらった地図では、本州と四国が陸続きになり、北海道は大きな丸に近い形で、九州が若干菱形で、沖縄は三倍くらいの大きさにした感じだったので、実は日本なのではとは全く思えなかったが。
一方、食文化はかなり日本的だ。今彼女が食べている朝餉も、日本の旅館で朝食に出されたところで違和感の無いものだ。
更には、家の中では裸足で過ごし、円座を敷いて床に座るであるとか。作務衣の様な格好以外でも、着物は全て和装に近いとか。敷地内に温泉が有り、ほぼ毎日入浴するとか。説明を受けながら一晩過ごした彼女の認識としては、電気は無いけどその代わり待遇の良い旅館に来たようなもんだな、といった感じだ。
(まぁ、なまじ日本感が強いから、始め容姿に違和感は有ったけど)
不自由も不満も無く、どころか、感謝しつつ満足に過ごした彼女の違和感というのは、この世界の人の容姿であった。
皆、色素が薄く、漆黒というほどでもないオズのような黒髪の人さえ居ないらしい。それと関わりがあるのか解らないが、顔立ちも皆はっきりしている。彼女の感覚で言えば、シルクロード系だ。一般的にはスラヴ系と表現されるだろうが。
「ぷはぁ」
最後に白湯で全てを流し、飲み込んだ。
(あとは、ここが尼寺ってのに驚いたな…まぁ、尼寺って訳されただけで、厳密には違うんだろうけど。そもそも神様祀られてるんだから神社だし。一時的に修行している人を尼って表現はしないだろうし…)
訳語については彼女がこの世界に来た時、お寺のようだと感じた印象が影響を与えているのかもしれない。
この建物はざっくりいうと、彼女も見た木造の神像になっていた御柱様を祀っているお堂と、今彼女も居る管理者が住んでいる主坊、それと修行に来ている女性達が住む宿坊で構成されている。
(っていうか、修行内容を考えると、仏教に喧嘩を吹っ掛ける事になりかねないよね…でもこの世界独自の宗教を理解するために相応する言葉を当てはめるとどうしてもなぁ………)
食べ終わった朝餉の膳を台所へ持って行きながら、彼女は昨日顎が外れそうなほど驚いた修行内容を思い返していた。
(女性達が集団で性的な事を修業って…今の日本じゃカルト宗教とか言われそうだ)
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