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ちょっと長い後日談3
7.中の人
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「へぇ」
「ほぉ」
全く興味無さそうに窓の外を見て、スレインが淹れてくれたお茶を飲んでるアクスはともかく。俺とニアさんは、八眉少年ことイング・マートンの話に興味津々だ。
フレアとイングは、家名が同じな事からも解るが、親戚だ。間柄としては従兄弟。イングの父親の妹が、フレアの母親らしい。マートンを名乗る兄が居て、妹もマートンを名乗るのなら、親戚同士で結婚したのかと考えるところだが、フレアのお母さんはいわゆる出戻りだ。ただ、離婚理由はお母さんに問題があったというよりは嫁ぎ先の方。
そんな問題ある嫁ぎ先で、フレアは女の子として産まれた。
正確には、男の子として産まれたが女の子という事にした、だが。
複数の愛人による熾烈な跡目争いが繰り広げられていた嫁ぎ先で、大切な我が子を守るための拠所無い行いだったようだ。
ただ、この国では戸籍に性別の記載義務は無く、欄はあるので書く事は可能だが、書いてしまえば公文書の正式な記述だ。そこに事実を隠蔽した記載があった場合、罪に問われる。そして、フレアの戸籍には女性と記載されているらしい。
だから、無事に離婚を果たして我が子共々実家に戻れた母親だったが、フレアを男の子に戻す事ができなかった。
幸い、と言って良いのか、不幸なのか。
フレアはどこから見ても美少女顔の大人しい性格だったので、本当は男の子だと気付く人間は誰も居なかったそうだ。
現時点でフレアが男の子だと知っているのは、お母さんとイングだけらしい。
「レベル高過ぎかよリアル男の娘」
イングには届かなかったようだが、ニアさんの呟きが俺には聞こえた。
必死に『子』って思おうとしてたのに、絶対ニアさん今『娘』って言った。
もうイイや。
そんな事情で、ワケあり男の娘になったフレアは、イングと共に学園に入学した。
事態がおかしくなったのは、今週の頭の事だったらしい、
「私が殿下を救わなくちゃ!」
と、突然言い出したそうだ。
その日からフレアは、日中の大半の時間、イングの事や自分が男である事を忘れた様に振舞い出した。しかも、ただ忘れてしまったというのではなく。大人しくて静かなフレアとは、まるで別人のようだった。とのことだ。
そりゃ別人だろう。
次期公爵が確定している公爵家の娘を呼び捨てにして宣戦布告。
面識のない王太子に面と向かって婚約者の悪口をきき。
それを咎めた、ある意味フレアを守るための仲裁役をしてくれた、カイルに向かって従者失格と宣う。
静寂を尊ぶ司書が居る図書館内で大声で宣誓し。
学園を抜け出して王城に趣いて国王に会いたいと直談判。
テオの前でロスの手を取り助けてみせると誓い。
ノーハイライトなテオにも同じ事をしてみせた。
フレアの中の人は、従者と側近の違いを解っているだろうか。アデル様の恐ろしさとか。常識とか。学校規則とか。国法とか。人間が思いつめると視線で人が死ぬとか。そういう諸々を、ちゃんと解っているんだろうか。
解ってる訳がないな。
俺やニアさんがその辺を解ってるのは、子供の頃からこの世界で生きていたからだ。
「フレア、まずくないですか」
「まずいねぇ…一応、アデルとゼウスには某かのフォローを入れるけど。根本的にフレアの状態が改善されないと」
「ですよね」
といって、こうやってひそひそするくらいの事しか、俺達には出来ないのが現状なんだが。
目を覚ましたところで、フレアの命が健在な内に、説得する事はできるだろうか。
「フレア…?」
俺達に説明を終え、フレアを見つめていたイングが声を上げた。
目を覚ましたフレアは、ぼんやりした顔で、イングを見つめている。
「イング? ここは…」
「フレア! ボクが解るんだね?!」
「イングでしょう?」
「ほぉ」
全く興味無さそうに窓の外を見て、スレインが淹れてくれたお茶を飲んでるアクスはともかく。俺とニアさんは、八眉少年ことイング・マートンの話に興味津々だ。
フレアとイングは、家名が同じな事からも解るが、親戚だ。間柄としては従兄弟。イングの父親の妹が、フレアの母親らしい。マートンを名乗る兄が居て、妹もマートンを名乗るのなら、親戚同士で結婚したのかと考えるところだが、フレアのお母さんはいわゆる出戻りだ。ただ、離婚理由はお母さんに問題があったというよりは嫁ぎ先の方。
そんな問題ある嫁ぎ先で、フレアは女の子として産まれた。
正確には、男の子として産まれたが女の子という事にした、だが。
複数の愛人による熾烈な跡目争いが繰り広げられていた嫁ぎ先で、大切な我が子を守るための拠所無い行いだったようだ。
ただ、この国では戸籍に性別の記載義務は無く、欄はあるので書く事は可能だが、書いてしまえば公文書の正式な記述だ。そこに事実を隠蔽した記載があった場合、罪に問われる。そして、フレアの戸籍には女性と記載されているらしい。
だから、無事に離婚を果たして我が子共々実家に戻れた母親だったが、フレアを男の子に戻す事ができなかった。
幸い、と言って良いのか、不幸なのか。
フレアはどこから見ても美少女顔の大人しい性格だったので、本当は男の子だと気付く人間は誰も居なかったそうだ。
現時点でフレアが男の子だと知っているのは、お母さんとイングだけらしい。
「レベル高過ぎかよリアル男の娘」
イングには届かなかったようだが、ニアさんの呟きが俺には聞こえた。
必死に『子』って思おうとしてたのに、絶対ニアさん今『娘』って言った。
もうイイや。
そんな事情で、ワケあり男の娘になったフレアは、イングと共に学園に入学した。
事態がおかしくなったのは、今週の頭の事だったらしい、
「私が殿下を救わなくちゃ!」
と、突然言い出したそうだ。
その日からフレアは、日中の大半の時間、イングの事や自分が男である事を忘れた様に振舞い出した。しかも、ただ忘れてしまったというのではなく。大人しくて静かなフレアとは、まるで別人のようだった。とのことだ。
そりゃ別人だろう。
次期公爵が確定している公爵家の娘を呼び捨てにして宣戦布告。
面識のない王太子に面と向かって婚約者の悪口をきき。
それを咎めた、ある意味フレアを守るための仲裁役をしてくれた、カイルに向かって従者失格と宣う。
静寂を尊ぶ司書が居る図書館内で大声で宣誓し。
学園を抜け出して王城に趣いて国王に会いたいと直談判。
テオの前でロスの手を取り助けてみせると誓い。
ノーハイライトなテオにも同じ事をしてみせた。
フレアの中の人は、従者と側近の違いを解っているだろうか。アデル様の恐ろしさとか。常識とか。学校規則とか。国法とか。人間が思いつめると視線で人が死ぬとか。そういう諸々を、ちゃんと解っているんだろうか。
解ってる訳がないな。
俺やニアさんがその辺を解ってるのは、子供の頃からこの世界で生きていたからだ。
「フレア、まずくないですか」
「まずいねぇ…一応、アデルとゼウスには某かのフォローを入れるけど。根本的にフレアの状態が改善されないと」
「ですよね」
といって、こうやってひそひそするくらいの事しか、俺達には出来ないのが現状なんだが。
目を覚ましたところで、フレアの命が健在な内に、説得する事はできるだろうか。
「フレア…?」
俺達に説明を終え、フレアを見つめていたイングが声を上げた。
目を覚ましたフレアは、ぼんやりした顔で、イングを見つめている。
「イング? ここは…」
「フレア! ボクが解るんだね?!」
「イングでしょう?」
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