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おまけ ※基本3人称
3.邂逅 ※
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朝、図書館の扉を開けて、イースは自分の心臓が跳ねる様に脈打つ理由が、解らなかった。
期待と違う現実に恐怖したのか、期待を越える事態に驚喜したのか、自分自身でさえ体が起こす反応を理解できない。
「………」
誰だ、と呼びかけるつもりだったのに、声は出ず、ただ唇が動いた。目深に被った帽子の影で、顔はよく解らない。だが、笑ったようだ。
今、見慣れぬ男がカウンターの中に居る。
「直接会うのは、初めてかな」
耳を打つ低い声に、イースの背筋が震えた。何故か、確信できた。この男が脅迫者だ。
「…あ、なたは」
「本を、持っているか?」
ようやく声を出せたが、イースの言葉を遮って男の声が問いかける。
反射的に、本を入れた鞄を抱く様にして後退った。
「こちらに」
だが、男の言葉と招くような動作に、退いた足が前へと動く。頭の中では警鐘が鳴り響き、自分の行動に否定を繰り返しているが、足は止まらず。男が笑みを浮かべて待ち構えるカウンターの中へ入っていった。
本を突き返して、もう止めろと叫ぶなら今しかない。そうは思うが、イースはただ鞄から取り出した本を作業板の上に置くだけだ。
(視線が…)
期待と不安に揺れる瞳、動揺を隠せずに意味もなく髪や首に触れる手、粘つく視線がそれらを撫でていく度にイースの頬に赤みが増す。
立ち尽くすイースが動けないと知ると、男は作業板の上の本を開いた。
頁を繰る音を聞きながら、イースは頭が揺れるているような気がする。実際には揺れていないのだが、自分が立っている事すら疑問に思うほどだ。自分がどんな目に遭うのか、昨日、頁を捲らなかった事を後悔している。見えない脅迫者への募っていた思いは、実際に目の前にすると、恐怖感の方が勝っていくようだ。
だが、
「青年は片足を椅子に乗せ、露にした下肢を見せつけるように男に晒した。このあたりかな?」
と、正確に昨夜の続きを示されて、頂点に達した恐怖心は不思議な事に瓦解し、性的興奮だけが残されていく。
想像の中ではない、実際の男の視線になぶられながら、イースは本の文字を追った。さっき聞いたばかりの男の声で、その文字が再生されていく。
下を脱ぎ、本の通りに男の前に下肢を晒す。見せつけるというにはおずおずとした動作だったが、本の中の青年のようにイースの陰茎は硬くなっていた。
「ふっ、く…はぁ、はぁ」
男の前で、潤滑油を塗った指を呑み込み、解すように動かす。呼吸が荒くなり、膝が震えた。寝室でしなければならなかった自慰の方が、より激しいものであったはずなのに、まだ触れてもいない鈴口からはもう堪えられないというように透明な体液が滲む。
「はぁ…はぁ、あぁ」
だが、触れられない。イースは本の記述に従っているのであって、自分の好きに振舞っているわけではないのだから。内腿をぬるつかせるほどたっぷりと潤滑油を塗りこんだ後孔しか、触れてはいけないのだ。
「え…?」
数歩離れた椅子から男が立ち上がる。ゆっくりとした足取りで、だが、近付く男に、イースは怯えたように首を振った。
「こ、ないで」
それでも歩みは止まらず、反射的に視線を逸らす。
「だが、必要だろう?」
耳朶に吐息がかかるような距離で囁かれ、イースは自分の腰が抜けるかと思った。実際には後ろによろけただけで、手をつくことで耐えられた。男が離れていく気配を感じて、視線を戻せば、男の手が先程までなかった黒い箱から離れていくのが見える。
「心を込めて、貴方に」
耳から入ってきた男の声に、頭の芯が溶かされた。黒い箱の贈り物に手を伸ばしたイースは、恍惚の表情を浮かべてその中身を取り出す。数珠繋ぎに、徐々に大きさを増す玉の連なったその器具に潤滑油を塗りこみ、解れて開いた後孔にあてがった。
「ん…」
親指の先ほどの太さもない一つ目の玉は、あまりにもすんなりと呑み込まれていく。
「一つ」
「あっ…!」
だが、絡みつく視線と、数える声に、思わずきゅっと窄まった口は、二つ目を中々呑み込めない。一回り大きくなっただけの玉を支え、力を抜くように呼吸を整え、広げるように指を添えたそこにぐっと押し込む。
「二つ」
笑みを含んだような男の声が腰に響いた。呑み込む玉が内壁を押し広げていく。
「三つ」
押し込む際の抵抗感が増し、中の圧迫感が増し、男の視線まで熱量を増した様な気がした。それでも、止める訳にはいかない。青年は六つの玉を、全て呑み込んでいるのだから。
「四つ」
入ることは解っている。だが、実際に入れてみれば、その圧迫感は凄まじい。
「五つ」
息を吐いて力を緩めようとするが、最後の一つが、どうしても入っていかなかった。苦しさで首を横に振り、男に視線を向けると、椅子に座る男の下腹部が中から押し上がっている事に気付く。
「…ぁあ」
ただ、見られているのではなかった。己の痴態が、男の興奮を喚起しているのだ。
「最後の一つだ。頑張りなさい」
励ますというよりは、優しさに満ちた男の声にイースは涙が溢れる。最後の玉がゆっくりと呑み込まれていった。押し戻されるように出てこようとする玉を指でぐっと押し込みながら立ち尽くす。
必死に押し止めようと俯いていたイースは、いつの間にか男が側に来ていた事に気が付かなかった。
「もうすぐ始業の鐘が鳴る。続きは、明日にしようか」
耳を擽るその声に、イースは今度こそ腰を抜かしてしまう。
「身支度を整えなさい。他人が来てしまっては困るだろう」
男の言葉に慌てて服に手を伸ばすイースを見下ろして、男はカウンターを去っていった。
一瞬、去っていく男に手を伸ばしかけて、イースは驚きながら自身の手を握りこむ。
(…あの声)
何処かで、聞いた事がある気がした。だが、思い出せない。へたり込んだイースはしばらくの間、記憶の中で男の声を思い出しながら呆然としてしまう。何一つ身支度は整っていないのに、始業の鐘の音が聞こえ、慌てた時にはもう遅かった。果てる事のできなかった熱を抱え、贈り物を呑み込んだままで、一時間ほど耐えねばならなかった。
始めて男に会った日から、本の進捗はゆっくりとしたものに変わっていく。
今までイースが自分の体にしてきた成果を確かめるように、毎朝、男との時間が募っていった。
(この声)
頭の芯や理性を溶かし、膝や腰を震わせる低い声。時に煽るように笑みを含んだが、何時だって最後には優しさを感じる。未だに、何処で聞いたのかは思い出せないが、もう思い出す必要もない気もしていた。
(視線が…熱い)
肌の上を舐めるように這い回り、隠そうと藻掻く本心を覗き込もうとする視線が、何よりも雄弁にイースの体に刻み付けていく。男の興奮が、誰によってもたらされているのかを。
(彼も、同じ思いなら)
どんなに嬉しいだろう。
気が付けば男の事を考えていた。不審者を推し図ろうというのではない。頬の熱を呼び、胸を高鳴らせる男が、自分にとっての在り方と同じように、自分を思ってくれているのか、そんな事が気になるのだ。
もう残りの頁数が少なくなった本を枕元に置き、考える。
この本が終わったなら、男との関係はどうなるのだろう。
「…終わる?」
呟く声は静かな部屋で思いの外大きく聞こえた。
本ならば、いつか必ず終わりが来る。仮に物語が終わっていなくても、本の終わりだけは必ずあるのだ。それは知っている。だが、受け入れられるのだろうか。今更、男との関係がなかった頃に、戻れるものだろうか。
(無理だ)
ただ心静かに眠りに就こうという夜に、ふと笑う声を思い返すような相手を、忘れられるはずがない。
(どうしたら…あの方と)
翌朝。
カウンターの中で男の視線を受けながら、イースは本の頁を捲った。
「え…」
今少し、紙は残っている。だが、物語の終わりを知らせる決まり文句が、はっきりとそこに書かれていた。
何故、せめて残りがどれほどなのか確認しようとしなかったのだろう。まだ、少し先の事だと思っていた。後悔が渦巻くが、もうどうにもならない。
(でも、これ)
昨日の続きになる文章に目を走らせ、イースは僅かに躊躇った。
(これは…)
意を決したように、下を脱いで、昨日の続きから始めるために既に濡らして解された状態になっている自身の中から、栓をするように入り込んでいる器具を吐き出す。
「うぅんっ」
自分でもはしたなくひくついているのが解った。だが、躊躇っている暇はない。勢いが消えてしまったら、もう二度と口には出せないだろう。
あまり物を置いていない司書机に腰掛けるようにして、下肢を露なままに男を見つめた。男の言葉を待っているのだ。本に、記された通りに。
「潮時だ」
机に、更に深く乗り上げ、後ろ手をつく。
「どうしたい?」
男の問いかけへの答えは、無い。本の中には、青年の懇願の言葉は書かれていない。空欄になっているのだ。だから、イースは自身の言葉を紡ぐ他ない。今、自分が何を望んでいるのか。
片足を机に乗せ、指で切なくて堪らなくなっている後孔を押し広げながら、泣きそうな思いで視線を向ける。
「触れてください」
言って良いのかは解らない。だが、イースに言える言葉はこれだけなのだ。
「貴方が…欲しいのです」
男は歩み寄り、イースの足に触れた。初めて触れた男の手は、逆上せそうな自分よりも熱く、イースはただ触れられた足からその熱が移るような気がする。片手で、寛げられた前から覗いた男の答えは、ゆっくりと、確かめるように押し当てられた。
「お願いです…はやく」
丁寧に押し入ってくる熱は、ただそれだけでイースの心を溶かしていく。
イースが、あまりに苦しげにしているからだろうか、中程で、男の動きは止まった。
「止めないで…」
泣きながら、手を伸ばして、イースは男の首に縋り付く。勢い余って縁に触たせいで、男の帽子は床へと落ちた。
何処かで予想していた顔が、現れる。
「バレてしまったな」
「気付いておりましたよ」
至近距離で見つめ合い、存在を確かめるように触れるだけの口付けを交わす。
「愛している」
「お慕いしています」
イースはゼウスに縋る様に抱きつきながら、突き上げてくる熱に悦びの声を上げた。
本当にこのまま縋り付いていて良い相手だとは思わない。それでも、今この時だけは、誰にも邪魔されずにただ繋がった歓びに浸っていたかった。
□fin
期待と違う現実に恐怖したのか、期待を越える事態に驚喜したのか、自分自身でさえ体が起こす反応を理解できない。
「………」
誰だ、と呼びかけるつもりだったのに、声は出ず、ただ唇が動いた。目深に被った帽子の影で、顔はよく解らない。だが、笑ったようだ。
今、見慣れぬ男がカウンターの中に居る。
「直接会うのは、初めてかな」
耳を打つ低い声に、イースの背筋が震えた。何故か、確信できた。この男が脅迫者だ。
「…あ、なたは」
「本を、持っているか?」
ようやく声を出せたが、イースの言葉を遮って男の声が問いかける。
反射的に、本を入れた鞄を抱く様にして後退った。
「こちらに」
だが、男の言葉と招くような動作に、退いた足が前へと動く。頭の中では警鐘が鳴り響き、自分の行動に否定を繰り返しているが、足は止まらず。男が笑みを浮かべて待ち構えるカウンターの中へ入っていった。
本を突き返して、もう止めろと叫ぶなら今しかない。そうは思うが、イースはただ鞄から取り出した本を作業板の上に置くだけだ。
(視線が…)
期待と不安に揺れる瞳、動揺を隠せずに意味もなく髪や首に触れる手、粘つく視線がそれらを撫でていく度にイースの頬に赤みが増す。
立ち尽くすイースが動けないと知ると、男は作業板の上の本を開いた。
頁を繰る音を聞きながら、イースは頭が揺れるているような気がする。実際には揺れていないのだが、自分が立っている事すら疑問に思うほどだ。自分がどんな目に遭うのか、昨日、頁を捲らなかった事を後悔している。見えない脅迫者への募っていた思いは、実際に目の前にすると、恐怖感の方が勝っていくようだ。
だが、
「青年は片足を椅子に乗せ、露にした下肢を見せつけるように男に晒した。このあたりかな?」
と、正確に昨夜の続きを示されて、頂点に達した恐怖心は不思議な事に瓦解し、性的興奮だけが残されていく。
想像の中ではない、実際の男の視線になぶられながら、イースは本の文字を追った。さっき聞いたばかりの男の声で、その文字が再生されていく。
下を脱ぎ、本の通りに男の前に下肢を晒す。見せつけるというにはおずおずとした動作だったが、本の中の青年のようにイースの陰茎は硬くなっていた。
「ふっ、く…はぁ、はぁ」
男の前で、潤滑油を塗った指を呑み込み、解すように動かす。呼吸が荒くなり、膝が震えた。寝室でしなければならなかった自慰の方が、より激しいものであったはずなのに、まだ触れてもいない鈴口からはもう堪えられないというように透明な体液が滲む。
「はぁ…はぁ、あぁ」
だが、触れられない。イースは本の記述に従っているのであって、自分の好きに振舞っているわけではないのだから。内腿をぬるつかせるほどたっぷりと潤滑油を塗りこんだ後孔しか、触れてはいけないのだ。
「え…?」
数歩離れた椅子から男が立ち上がる。ゆっくりとした足取りで、だが、近付く男に、イースは怯えたように首を振った。
「こ、ないで」
それでも歩みは止まらず、反射的に視線を逸らす。
「だが、必要だろう?」
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「心を込めて、貴方に」
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「ん…」
親指の先ほどの太さもない一つ目の玉は、あまりにもすんなりと呑み込まれていく。
「一つ」
「あっ…!」
だが、絡みつく視線と、数える声に、思わずきゅっと窄まった口は、二つ目を中々呑み込めない。一回り大きくなっただけの玉を支え、力を抜くように呼吸を整え、広げるように指を添えたそこにぐっと押し込む。
「二つ」
笑みを含んだような男の声が腰に響いた。呑み込む玉が内壁を押し広げていく。
「三つ」
押し込む際の抵抗感が増し、中の圧迫感が増し、男の視線まで熱量を増した様な気がした。それでも、止める訳にはいかない。青年は六つの玉を、全て呑み込んでいるのだから。
「四つ」
入ることは解っている。だが、実際に入れてみれば、その圧迫感は凄まじい。
「五つ」
息を吐いて力を緩めようとするが、最後の一つが、どうしても入っていかなかった。苦しさで首を横に振り、男に視線を向けると、椅子に座る男の下腹部が中から押し上がっている事に気付く。
「…ぁあ」
ただ、見られているのではなかった。己の痴態が、男の興奮を喚起しているのだ。
「最後の一つだ。頑張りなさい」
励ますというよりは、優しさに満ちた男の声にイースは涙が溢れる。最後の玉がゆっくりと呑み込まれていった。押し戻されるように出てこようとする玉を指でぐっと押し込みながら立ち尽くす。
必死に押し止めようと俯いていたイースは、いつの間にか男が側に来ていた事に気が付かなかった。
「もうすぐ始業の鐘が鳴る。続きは、明日にしようか」
耳を擽るその声に、イースは今度こそ腰を抜かしてしまう。
「身支度を整えなさい。他人が来てしまっては困るだろう」
男の言葉に慌てて服に手を伸ばすイースを見下ろして、男はカウンターを去っていった。
一瞬、去っていく男に手を伸ばしかけて、イースは驚きながら自身の手を握りこむ。
(…あの声)
何処かで、聞いた事がある気がした。だが、思い出せない。へたり込んだイースはしばらくの間、記憶の中で男の声を思い出しながら呆然としてしまう。何一つ身支度は整っていないのに、始業の鐘の音が聞こえ、慌てた時にはもう遅かった。果てる事のできなかった熱を抱え、贈り物を呑み込んだままで、一時間ほど耐えねばならなかった。
始めて男に会った日から、本の進捗はゆっくりとしたものに変わっていく。
今までイースが自分の体にしてきた成果を確かめるように、毎朝、男との時間が募っていった。
(この声)
頭の芯や理性を溶かし、膝や腰を震わせる低い声。時に煽るように笑みを含んだが、何時だって最後には優しさを感じる。未だに、何処で聞いたのかは思い出せないが、もう思い出す必要もない気もしていた。
(視線が…熱い)
肌の上を舐めるように這い回り、隠そうと藻掻く本心を覗き込もうとする視線が、何よりも雄弁にイースの体に刻み付けていく。男の興奮が、誰によってもたらされているのかを。
(彼も、同じ思いなら)
どんなに嬉しいだろう。
気が付けば男の事を考えていた。不審者を推し図ろうというのではない。頬の熱を呼び、胸を高鳴らせる男が、自分にとっての在り方と同じように、自分を思ってくれているのか、そんな事が気になるのだ。
もう残りの頁数が少なくなった本を枕元に置き、考える。
この本が終わったなら、男との関係はどうなるのだろう。
「…終わる?」
呟く声は静かな部屋で思いの外大きく聞こえた。
本ならば、いつか必ず終わりが来る。仮に物語が終わっていなくても、本の終わりだけは必ずあるのだ。それは知っている。だが、受け入れられるのだろうか。今更、男との関係がなかった頃に、戻れるものだろうか。
(無理だ)
ただ心静かに眠りに就こうという夜に、ふと笑う声を思い返すような相手を、忘れられるはずがない。
(どうしたら…あの方と)
翌朝。
カウンターの中で男の視線を受けながら、イースは本の頁を捲った。
「え…」
今少し、紙は残っている。だが、物語の終わりを知らせる決まり文句が、はっきりとそこに書かれていた。
何故、せめて残りがどれほどなのか確認しようとしなかったのだろう。まだ、少し先の事だと思っていた。後悔が渦巻くが、もうどうにもならない。
(でも、これ)
昨日の続きになる文章に目を走らせ、イースは僅かに躊躇った。
(これは…)
意を決したように、下を脱いで、昨日の続きから始めるために既に濡らして解された状態になっている自身の中から、栓をするように入り込んでいる器具を吐き出す。
「うぅんっ」
自分でもはしたなくひくついているのが解った。だが、躊躇っている暇はない。勢いが消えてしまったら、もう二度と口には出せないだろう。
あまり物を置いていない司書机に腰掛けるようにして、下肢を露なままに男を見つめた。男の言葉を待っているのだ。本に、記された通りに。
「潮時だ」
机に、更に深く乗り上げ、後ろ手をつく。
「どうしたい?」
男の問いかけへの答えは、無い。本の中には、青年の懇願の言葉は書かれていない。空欄になっているのだ。だから、イースは自身の言葉を紡ぐ他ない。今、自分が何を望んでいるのか。
片足を机に乗せ、指で切なくて堪らなくなっている後孔を押し広げながら、泣きそうな思いで視線を向ける。
「触れてください」
言って良いのかは解らない。だが、イースに言える言葉はこれだけなのだ。
「貴方が…欲しいのです」
男は歩み寄り、イースの足に触れた。初めて触れた男の手は、逆上せそうな自分よりも熱く、イースはただ触れられた足からその熱が移るような気がする。片手で、寛げられた前から覗いた男の答えは、ゆっくりと、確かめるように押し当てられた。
「お願いです…はやく」
丁寧に押し入ってくる熱は、ただそれだけでイースの心を溶かしていく。
イースが、あまりに苦しげにしているからだろうか、中程で、男の動きは止まった。
「止めないで…」
泣きながら、手を伸ばして、イースは男の首に縋り付く。勢い余って縁に触たせいで、男の帽子は床へと落ちた。
何処かで予想していた顔が、現れる。
「バレてしまったな」
「気付いておりましたよ」
至近距離で見つめ合い、存在を確かめるように触れるだけの口付けを交わす。
「愛している」
「お慕いしています」
イースはゼウスに縋る様に抱きつきながら、突き上げてくる熱に悦びの声を上げた。
本当にこのまま縋り付いていて良い相手だとは思わない。それでも、今この時だけは、誰にも邪魔されずにただ繋がった歓びに浸っていたかった。
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