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後日談

3.一方あちら様は ※3人称

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「同級生が近付くだけで不機嫌になる男が、俺の婚約者との仲は容認しているんだな」
「婚約者を自称するお前の方こそ全く気にしてないようだが」
「気にするだけ無駄だろう。あいつらは頭がおかしい」
「………」
 アデルの容赦の無い言葉に否定もできず、アクスは押し黙った。
「それに、健全なものだぞ。昼日中の陽光の中ああして、談笑しながら昼食を摂るだけだ。いつもな」
 いつも、と頻度を強調する物言いに、アクスの眉が寄る。毎日ここから見下ろしているのだろうか、この王太子は。
「暇なのか?」
「国の利益あるいは損害について考えるのは俺の仕事だ」
「大きく出たな」
「本当にそう思うか?」
 言わんとしている事が何なのか、考えが全く無い訳ではない。だが、アクスはそれを自分から口にするほど迂闊にはなれなかった。
 考えは有るらしいアクスの様子に、アデルは笑みを浮かべる。
 言ってしまえば良いと思うが、その慎重さは生き残るには重要だろう。頂点から見下ろすと見える貴族それぞれの自己防衛は、中々に愉快だ。いっそ微笑ましくある。
「あれらは、物の見方が違う。同じ価値観を共有する集合体の中で生まれたはずなのに、教育を受ける前から異なる価値観を保持していた。これは異質な事だ。看過できるはずもない」
 アデルの複数を示す言葉に、アクスは思わず睨みつけた。
 その咄嗟の行動を楽しそうに見返して、アデルは続ける。
「まして、あれは女だぞ。この国は女に徒党を組ませない。政治的思想も与えない。団結し打倒するという価値観を持たせない。にも関わらずあれはそれを知っている」
「個人主義じゃないのか」
「ちがうな。単に俺が囲い込んだから友人が居ないだけだ。あれのモノの考え方は異常だぞ。同時に、お前の掌中の玉もな」
 半身を向けていた体を正面から対する形に変えたアクスに、アデルはわざと軽い態度を取って見せた。肩の力を抜き、鼻で笑うように息を吐き、視線を逸らす。
「そう心配するな。思考がどれほど異常でも、あれらには力が無い。俺は利用するつもりだが、別に使い捨てようとは思っていないし、むしろ大事にしているくらいだ」
 言っている事は頷ける内容だと思った。だが、素直に頷けないのは、笑っているというには目の光が鋭すぎるせいだ。アクスは前髪を掻き回す仕草で顔を隠し、眼下のルイとニアをちらりと見て苦笑を浮かべる。おそらくニアが書いたものだろう紙束を二人仲良く並んで、それぞれに読んでいた。
「ルイに何かあれば、俺は自分でも何をするか解らないぞ」
「知っている。お前らイールズは昔からそんなものだ。まったく、同じ祖を持つとは思えんな」
 ルイとニアが聞けば、むしろ同じ血が流れていたからか、と納得しそうだが。アデルは肩を竦めて自分とアクスが異質だと笑った。
「ちょうどフォーゲン伯が後継を探しているのでな、アランカの三男を紹介するつもりだ」
 ポツリと呟かれた言葉に、アクスは目を見開く。フォーゲン伯の領地は王家の別宅とも言うべき白蓉城の隣りにあり、代々その城の管理人を務める家柄だ。そして白蓉城の主な使用者は王妃だ。正確には王族の妊婦が出産、休養、幼児育成、等で使う事が多いのだ。つまり、ゆくゆくはニアが行く城の管理人の後をルイに継がせると言っている。
「お前…」
「フォーゲン領は王都からは結構な距離だな。だが、白蓉城付きになるなら、近衛騎士が早道か。まぁ、卒業まで二年はあるんだ。やれば出来るだろう?」
 アクスの卒業からルイが卒業するまでの二年で、近衛騎士になって自分で勤務地を決められる地位を確立しろ。そうすれば好きなだけ側に居られるぞ、と脅されている。
 アクスは額を抑えて怒りを堪えた。友人のクルスから色々聞かされているが、なるほど、クルスは宰相向きで弟のアデルこそ国王向きだ。自分の掌の上で人が動く事をこれほど当然だと思っているのは、もはや才能だろう。
「いつか毒でも盛られるんじゃないか、お前」
「俺に毒か…そいつと俺のどっちが死ぬのが早いか見物だな」
 アデルは心底楽しそうに笑い、アクスは無表情でも恋人の顔を見ている方が良いなと思い窓の外を見つめるのだった。

□fin
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