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後日談
1.翌日
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俺は今、陽の当たる中庭でコッペサンドを頬張りながらニアさんとお話中だ。いや、まぁ、被尋問中ともいうが。
「それで? ルイ君、昨日の事を聞かせてごらん。さ、遠慮せず。さ、さ」
ニアさんが、めちゃくちゃ期待している。
「いや、別に言うほどの事は…告白されて返事して、まぁ、キスハグみたいな」
「ん? それだけ? ルイ君怯えてたみたいだし、モブレからのお清めターンかと思ったのに…」
「いやいやいや未遂ですからね」
あと、なんていうか、アイツらは別に怖くなかった。そもそも数分も経てば寮の管理人が見回りに来ただろうし。
あ、そうそう俺が妙に冷静だったのは、ちゃんと仕事してくれる管理人が一時間おきに巡回してるの知ってたからだよ。ちなみに前年までは色々あったらしいね、あの大浴場。管理人も買収されまくってたってさ。だから今年からちゃんとした管理人が入ったんだよ。だって、カイルが居るからね。アデル様様だよ。
「ていうか、俺の方こそお伺いしたいんですが、昨日なんで男子寮にいたんです?」
「アデル情報網にグラン兄達が不審な動きを見せているとかかったので、こいつはてぇへんだって駆けつけた。まぁ、アクスが全部持っていったけど」
「それ! それもですよ。アクス兄貴のあの喧嘩の強さなんですか? そんな設定有りました?」
「設定はなかったね。でも聞いた話じゃ騎士団長自ら騎士団入りを望むほど強いらしいよ。まぁ、イールズは武門の家柄ってやつだし、英才教育の賜物なんじゃない?」
「わぁスゴーイ」
なにその新事実。
具合悪くして迷子になってた坊ちゃんどこいった。絶対何かの間違いだろ。
「まぁ、じゃあ昨日の話はいいや、九年前の事を聞かせてもらおうか、え? ルイ君」
「いや、そんな脅さなくても話しますよ」
「やったー。さすがルイ君」
すごく喜ばれてるけど。大したことないんだよなぁ。膨らませようもないぐらいだ。
「えっと、九っていうか、もう大体十年ですかね。五歳過ぎた頃に作品世界をもっと知りたい、と思って。家を抜け出したんですよ」
「え、思いがけぬアクティブ」
「いや、まぁ、ちょっとゲーム世界だやっほい、って危機感が薄かった感は否めません。まぁ、それでふらふら屋台とか回ってたら、具合悪そうにしゃがみ込んでるお坊ちゃんが居て、声かけてお巡りさんとこまで連れて行っただけです」
「………ん? え? 終わり?」
ニアさんはちょっと沈黙して、俺の肩を揺する。でも、本当にこれ以上は何も出てこないんですよねー。
「そうですね」
「ええぇ声かけて一緒にお巡りさんのとこに行くまでに何かあったんじゃ」
「水っていうか、ジュースですけど、それは渡しました。あとは基本会話もなくて、なにせ具合悪そうだったんで。返事は期待してなくて、屋台の何が美味かったとか一方的に喋りかけはしたと思うんですけど」
「終わり?」
「終わりです」
「………まぁ、ルイ君側からしたらそんなもんなのかな。アクスにも聞いてみたいとこだけど、大事な思い出っぽいし話してくれないかなぁ………うーむ………具合悪くて迷子で不安で不安で堪らない中ジュース持って現れた救世主のルイ君か」
ニアさんが腕を組んでぐらぐら揺れだしたんだが、これ、なんだろう。トランス状態みたいなもんかな。
「うん、いける。かな。まぁ、多少読める物語に仕上げられる気がする」
「え、マジですか?!」
思わず拍手を贈ると、照れた様子で頭を掻いている。珍しい反応だ。折角なので更におだててみよう。
俺達は謎のテンションで木どころか天にも昇らんばかりにふざけていた。
「ひゅーひゅー」
「いやぁへへへ」
「楽しそうだな」
今、マリアナ海溝より深く落下したけどさ。
完全に油断しているところにアデル様の声はね、まだ心臓が慣れてない。てか、俺はともかくニアさんもなんですね。そんなんで結婚とか大丈夫なんですか。
「お前ら二人に聞きたい事がある、ちょっと付き合え」
俺達、この人の顎くい(ときめかないやつ)に抗える日って来るのかな。来ないか。封建社会だもんな。
「それで? ルイ君、昨日の事を聞かせてごらん。さ、遠慮せず。さ、さ」
ニアさんが、めちゃくちゃ期待している。
「いや、別に言うほどの事は…告白されて返事して、まぁ、キスハグみたいな」
「ん? それだけ? ルイ君怯えてたみたいだし、モブレからのお清めターンかと思ったのに…」
「いやいやいや未遂ですからね」
あと、なんていうか、アイツらは別に怖くなかった。そもそも数分も経てば寮の管理人が見回りに来ただろうし。
あ、そうそう俺が妙に冷静だったのは、ちゃんと仕事してくれる管理人が一時間おきに巡回してるの知ってたからだよ。ちなみに前年までは色々あったらしいね、あの大浴場。管理人も買収されまくってたってさ。だから今年からちゃんとした管理人が入ったんだよ。だって、カイルが居るからね。アデル様様だよ。
「ていうか、俺の方こそお伺いしたいんですが、昨日なんで男子寮にいたんです?」
「アデル情報網にグラン兄達が不審な動きを見せているとかかったので、こいつはてぇへんだって駆けつけた。まぁ、アクスが全部持っていったけど」
「それ! それもですよ。アクス兄貴のあの喧嘩の強さなんですか? そんな設定有りました?」
「設定はなかったね。でも聞いた話じゃ騎士団長自ら騎士団入りを望むほど強いらしいよ。まぁ、イールズは武門の家柄ってやつだし、英才教育の賜物なんじゃない?」
「わぁスゴーイ」
なにその新事実。
具合悪くして迷子になってた坊ちゃんどこいった。絶対何かの間違いだろ。
「まぁ、じゃあ昨日の話はいいや、九年前の事を聞かせてもらおうか、え? ルイ君」
「いや、そんな脅さなくても話しますよ」
「やったー。さすがルイ君」
すごく喜ばれてるけど。大したことないんだよなぁ。膨らませようもないぐらいだ。
「えっと、九っていうか、もう大体十年ですかね。五歳過ぎた頃に作品世界をもっと知りたい、と思って。家を抜け出したんですよ」
「え、思いがけぬアクティブ」
「いや、まぁ、ちょっとゲーム世界だやっほい、って危機感が薄かった感は否めません。まぁ、それでふらふら屋台とか回ってたら、具合悪そうにしゃがみ込んでるお坊ちゃんが居て、声かけてお巡りさんとこまで連れて行っただけです」
「………ん? え? 終わり?」
ニアさんはちょっと沈黙して、俺の肩を揺する。でも、本当にこれ以上は何も出てこないんですよねー。
「そうですね」
「ええぇ声かけて一緒にお巡りさんのとこに行くまでに何かあったんじゃ」
「水っていうか、ジュースですけど、それは渡しました。あとは基本会話もなくて、なにせ具合悪そうだったんで。返事は期待してなくて、屋台の何が美味かったとか一方的に喋りかけはしたと思うんですけど」
「終わり?」
「終わりです」
「………まぁ、ルイ君側からしたらそんなもんなのかな。アクスにも聞いてみたいとこだけど、大事な思い出っぽいし話してくれないかなぁ………うーむ………具合悪くて迷子で不安で不安で堪らない中ジュース持って現れた救世主のルイ君か」
ニアさんが腕を組んでぐらぐら揺れだしたんだが、これ、なんだろう。トランス状態みたいなもんかな。
「うん、いける。かな。まぁ、多少読める物語に仕上げられる気がする」
「え、マジですか?!」
思わず拍手を贈ると、照れた様子で頭を掻いている。珍しい反応だ。折角なので更におだててみよう。
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「ひゅーひゅー」
「いやぁへへへ」
「楽しそうだな」
今、マリアナ海溝より深く落下したけどさ。
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