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21.兄貴

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「で?」
 ちゃんと説明してくれるんだろうな、と言われているのだと思い俺が口を開きかける横で、グランがたぶん謝罪か弁明のために口を開いたが、俺達の声が出るよりアクスの言葉のが早かった。
「どっちから入るんだ?」
「へ?」
「風呂入りに来たんだろ」
「あ、あぁ、えっと、グランから」
「え?」
「あっそ」
 俺は戸惑うグランを風呂に押し込んだ。
 そうして、室内でアクスと二人きりになる。
「で?」
 あ、まぁ、そうですよね。
「どういう訳なんだ、こりゃ」
 誤魔化すように笑いつつ、俺はグランに会った経緯と、兄共による暴力から遠ざけたい旨を伝えた。
 俺の話を聞き終わったアクスは溜息を吐いて、管理人から受け取っていた入寮証に何事かを書き込み始めた。
「あの…」
「あ、グラン」
「お前も入ってけよ」
「わぁい」
 俺はグランの遠慮感を薄れさせる、という名目のもと、喜々としてグランと入れ違いに風呂を借りる。
 グランと違ってスッキリさっぱりするまでしっかり風呂を借りた俺が出てくると、入寮証を手にしたグランが涙ぐんでいた。
「言っとくが、俺には俺の都合があるからな、いつ来ても居るとか、開いてるとは思うなよ」
 そう言って俺にも入寮証を渡してくれる。グランと同じものなのだとすれば、下で管理人に提示すればほいほいこの寮内に入れる入寮証だ。しかも今年いっぱいの日付が書かれている。
 さすがアクス兄貴!
「ありがとうございます!」
 公爵家で3年生のアクスが居れば、グラン保護活動は更に強力な体制となる。
 俺はグランの手を取って喜んだ。
 しかも、アクスは、俺達を寮まで送ってくれた。というか、兄共が下で待ち構えてて、もし送ってもらえなかったらどうなってたんだろうと寒気がする。
 ニアさん曰く、一回二回の防御では諦めないから地道に継続して引き離していくしかない、との事だったが、マジで執着が酷いな。最終的には一年後にグランの親父さんがこの惨状を知って終息するらしいけど。今は親父さん単身赴任中だから、どうにもならないんだよ。親父さんはよ帰って来ーい。
 俺が道々そんな祈りを捧げていると、寮に着いた。俺達がきちんと中に入るまで見送って、アクスは帰っていく。もう、本当に兄貴は兄貴だぜ。明日、ニアさんにもアクス兄貴の兄貴っぷりを報告しなくては。
「あの、ありがとう…」
「あー良いよ気にしなくて、あ、あと、一応俺の部屋行こうか」
「え?」
 俺は念のためグランを俺の部屋に押し込み、階段で待ち構えて兄共が一つ上の階に上がっていくのを見送る。こそこそと後を付け、グランの部屋の前でその扉をノックしたりドアノブをガチャガチャさせているのを見ていると、うるさかったのだろう。隣の人が出てきて、上級生の姿にビビりつつも、音がしてないから帰ってきてないですよ、と言ってくれた。ナイスだ隣の人。兄共はグランに悪態を吐きながら帰っていく。
 つーか、念のためってつもりだったのに、本当に来るとか、グラン保護活動は慎重過ぎるくらいで良いみたいだな。
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