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第2章:新生活
3.使用人
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オークラント家の使用人達は、大きく分けると三世代に分けられる。
先々代から仕えている古参。
先代から仕えている中堅。
当代から仕え始めた新参。
人数比は、新参が最も少なく、ついで古参であり、中堅がその大半を占めている。
この、大半を占める中堅と古参の使用人達は、オークラント家の当代伯爵が、爵位を仮継承しているだけだという事を知っていた。そのため、やがて自分達の主人になるものと思っていたミスティが家を出ていき、アンセラが嫡子としてやって来た事で、彼等の多くはオークラント家を去る準備を始めていた。
先々代が生きていた間と、ミスティが勉強を始めてオークラント家の帳簿を管理していた間。その十年以上もの期間大人しくしていたとしても、浪費癖というものはまず間違いなくなくなりはしない。だからこそ、貴族の中で廃嫡理由にも離婚理由にもなり得るのだ。
彼等は、ミスティという貴族としてはあまりに覇気の無いぼんやりが過ぎる主人を、嫌いではなかった。彼女が当主である場合。オークラント家が新事業を始めて財政的に急成長するような華やかな未来は見えなかったが、堅実で、真面目に仕事をする者に正当な評価と報酬を約束してくれる。
しかしながら、もはやその堅実さはオークラント家から失われた。
「あの奥様が妾の子を受け入れるなんて驚きだと思ったけど。よく解るよ。あのツンケンした態度。奥様そっくりじゃないか」
「本当にね、お嬢様が笑いかけてもすっと澄ましてさ」
「わたし腹が立ちました。お嬢様が調度やドレスをあんなにお譲りになっているのに、当然ですって、あの顔!」
「平民出身だと思ってたけど…きっと昔から旦那様に甘やかされてたんだろう」
「奥様とも早くから引き合わされていたんじゃないかしら。そうでなくちゃあんなにソックリになるものですか」
中堅の使用人達があれこれと話すのを聞きながら、新参の使用人達は困惑した。
彼等は、実は当代伯爵が少しでも自分の自由にできる金銭を作ろうと画策して雇われた平民出身者ばかりである。一人前の給金が支払われているようで、少しだけ伯爵によって上前がはねられた給金を支払われている彼等は、それでも普通に働くよりは稼げているからここに居た。要するに、本来貴族屋敷で働けるだけの学を有していないのだ。
まず、貴族の生活を理解していないし、多くは一番下っ端の仕事についていたので、オークラント家の主人達がどんな人々なのかもよくは解っていない。そして、まだ経験が浅く十分とは言えない能力であるのに、新人扱いしてもらえる幼さももうない。
そんな彼等であるから、もし仕える家を変えるなら紹介状が必須だ。だが、オークラント家の当主に、貴方が当主だとこの家は傾くそうだから紹介状を書いてくれなどと言える訳もない。
彼等なりに悩み、今後アンセラが成人した後で嫡子としての立場から紹介状を書いてもらえる事を期待して、アンセラの周りに集まり始めた。中堅と古参の使用人はアンセラを避けがちだったのもあって、アンセラの身の回りに侍るのは、あっという間に新参だけとなった。
貴族になって一年に満たない少女の周りに、残念ながら、見習いから脱却できぬような状態の使用人達ばかりが侍る事になったわけだ。
当然ながら、その中に、アンセラに貴族令嬢としての振る舞いを、職分を弁えつつ教えられる者など誰一人いなかった。
先々代から仕えている古参。
先代から仕えている中堅。
当代から仕え始めた新参。
人数比は、新参が最も少なく、ついで古参であり、中堅がその大半を占めている。
この、大半を占める中堅と古参の使用人達は、オークラント家の当代伯爵が、爵位を仮継承しているだけだという事を知っていた。そのため、やがて自分達の主人になるものと思っていたミスティが家を出ていき、アンセラが嫡子としてやって来た事で、彼等の多くはオークラント家を去る準備を始めていた。
先々代が生きていた間と、ミスティが勉強を始めてオークラント家の帳簿を管理していた間。その十年以上もの期間大人しくしていたとしても、浪費癖というものはまず間違いなくなくなりはしない。だからこそ、貴族の中で廃嫡理由にも離婚理由にもなり得るのだ。
彼等は、ミスティという貴族としてはあまりに覇気の無いぼんやりが過ぎる主人を、嫌いではなかった。彼女が当主である場合。オークラント家が新事業を始めて財政的に急成長するような華やかな未来は見えなかったが、堅実で、真面目に仕事をする者に正当な評価と報酬を約束してくれる。
しかしながら、もはやその堅実さはオークラント家から失われた。
「あの奥様が妾の子を受け入れるなんて驚きだと思ったけど。よく解るよ。あのツンケンした態度。奥様そっくりじゃないか」
「本当にね、お嬢様が笑いかけてもすっと澄ましてさ」
「わたし腹が立ちました。お嬢様が調度やドレスをあんなにお譲りになっているのに、当然ですって、あの顔!」
「平民出身だと思ってたけど…きっと昔から旦那様に甘やかされてたんだろう」
「奥様とも早くから引き合わされていたんじゃないかしら。そうでなくちゃあんなにソックリになるものですか」
中堅の使用人達があれこれと話すのを聞きながら、新参の使用人達は困惑した。
彼等は、実は当代伯爵が少しでも自分の自由にできる金銭を作ろうと画策して雇われた平民出身者ばかりである。一人前の給金が支払われているようで、少しだけ伯爵によって上前がはねられた給金を支払われている彼等は、それでも普通に働くよりは稼げているからここに居た。要するに、本来貴族屋敷で働けるだけの学を有していないのだ。
まず、貴族の生活を理解していないし、多くは一番下っ端の仕事についていたので、オークラント家の主人達がどんな人々なのかもよくは解っていない。そして、まだ経験が浅く十分とは言えない能力であるのに、新人扱いしてもらえる幼さももうない。
そんな彼等であるから、もし仕える家を変えるなら紹介状が必須だ。だが、オークラント家の当主に、貴方が当主だとこの家は傾くそうだから紹介状を書いてくれなどと言える訳もない。
彼等なりに悩み、今後アンセラが成人した後で嫡子としての立場から紹介状を書いてもらえる事を期待して、アンセラの周りに集まり始めた。中堅と古参の使用人はアンセラを避けがちだったのもあって、アンセラの身の回りに侍るのは、あっという間に新参だけとなった。
貴族になって一年に満たない少女の周りに、残念ながら、見習いから脱却できぬような状態の使用人達ばかりが侍る事になったわけだ。
当然ながら、その中に、アンセラに貴族令嬢としての振る舞いを、職分を弁えつつ教えられる者など誰一人いなかった。
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