悪役令嬢だけど愛されたい

nionea

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第三章:そんなの聞いてないっ!

11.結果

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(もしかして、私、一人相撲だった………)
 ものすごい勢いでミネルヴァの顔が赤く染まっていった。顔を覆って嘆いているクシャは見ていなかったが、見ていたら確実にどうしたんですかと尋ねただろう。
(完全に空回りだわ、やだもう)
 昨日『私は、公爵令嬢ミネルヴァ・アイネ・グリッツよ』とか気合を入れまくっていた事が恥ずかしかった。別にあの時点ではクシャが敵か味方か、そもそも何者か確信がなかったのだから仕方ないのだが、仕方ないと思ったところで顔の熱は引かない。
(とりあえず…ちゃんと、話をしましょう)
 さりげなく扇子を開いて顔を半分隠しつつ、クシャに声をかける。
「あの、もう少し詳しく話を聞かせていただけますか? ご協力出来る事があるかもしれません」
「え? 本当ですか?」
 がばっと顔を上げるクシャに、小さく頷いた。
「まず、回収しなくていはいけないフラグについて教えてください」
「はい、喜んで!」
 居酒屋か、というツッコミはクシャ相手ならば通じるが、そんな場合ではないのでミネルヴァはそのまま真剣に話を続ける。
 結果、二人揃ってギリットの家へ向かう事になった。
 本当はミネルヴァ一人で話をして、ギリットの答えを確認したいと思ったのだが、使節団の滞在期間だけではない時間の制約があるらしく、能う限りすぐ会いたいと泣き付かれて、頷いてしまったのだ。
 とはいえ、直ぐに向かえるわけではない。ひとまず別れて、ミネルヴァはいつもの様に街娘スタイルに着替え、ギリット家の近くの通りに着く。
 既にクシャの馬車は到着していた。
「あれ…ミネルヴァ様ですか?」
 ミネルヴァの雰囲気の違う格好にクシャはポカンと口を開く。
「ええ、その、この間はごめんなさいね、追い返すみたいになってしまって」
「あ、やっぱり、この間の…いえそれは別に大丈夫なんですけど、あれ、でも何で?」
 手と頭をぱたぱたと動かして解り易く混乱しているクシャの様子に、思わず微笑んでしまった。ミネルヴァも内心では大概同じような状態になりがちなので、強烈に親近感が湧いたのだ。
「その…私の婚約者の名前って聞いてせんか?」
「聞きました! えっと、イーグル、次子爵? だって聞きました」
「ちゃんと名前を申し上げると、ギリット・メイス・イーグル次子爵なんです」
「え………えぇっ!!」
「ですから、今から一足先に行って、確認してきます。少しだけ待っていていただけますか」
「あ、はい」
 思考回路がショートしたような顔でこくこくと頷くクシャを馬車の付近に残し、ギリットの家に向かった。
 元々手紙で午後に行けるかもと送ってあったし、先ほど行ける事になった際に使いも出している。在宅している心配はないはずだ。少し強めに戸を叩けば、笑顔と共に迎えてもらえた。
「ごめんなさい。ばたばたしてしまって」
「来てくれて嬉しいよ」
「そう? あ、その、今日はね、ちょっと話したい事があって」
 素直に笑顔を向けられ、そわそわしながらミネルヴァは本題を切り出す。
 クシャの話によると。まず、リテルタの王子についてだが、正確には件のお家騒動の際に身を引いた弟、つまり、現王弟の事だった。彼とヒロイン、つまりはクシャが結婚するためには、彼女は周りからの信頼を得て十分に王族の妻として務まると認識されなくてはならないらしい。そのため、全攻略対象の好感度を上げる必要があるのだ。
 無論現実には好感度を確認するシステムもなければ、ゲームで描写されていない時間も存在する。クシャはフラグはすべて回収できた。と言っていたが、絶対に望む結果がもたらされるとは限らないだろう。現に、彼女曰くファーストの舞台であるフォーリエント王国はゲームとは著しく乖離した状況にあった。
 それでも、自分にできるのはゲームのやり方を踏襲することくらいだから、とクシャは言う。
 ちなみに、クシャがギリットフラグと表現した内容は、ギリットの生家に対してワンド家のクシャが王弟と結婚するのに協力するよう口添えをしてもらうという事らしい。元々王弟、その頃は王子付きの騎士だったギリットが、クシャは王弟妃に能うと口添えしてくれれば、確かに一族は反対しないだろうと思えた。
「まず、約束を破る形になってしまった事をお詫びするわ。実は、リリィ・クシャ・ワンド様にお会いして、お話したの」
「まぁ使節団の一員だからな、会うだろうとは思ってた。気にしないでくれ」
 ギリットとしても全く関わらないのは無理だと解っていた。だから、できるだけ関わらないようにして欲しいと頼んだのだ。
「ええ、それで、リットに会いたがっている理由を聞いてしまったの」
「それは…」
「話をしてみたら全然悪い方ではなくて、ちょっと常識とズレてるところがあるかなぁってそういう感じなだけで、とても、可愛らしい方で、そのワンド家っていう家がどういった家かは私には解らないけど。少なくともクシャ様は善い方だったわ」
「ミーナがそう感じたのなら、きっとそうなんだろう」
「それで………彼女に会ってみてくれない?」
 口利きをして欲しいみたいだ、と言うよりも、直接話をしてもらう方が良い様に思えて、ミネルヴァはそう提案した。
「実は、すぐそこの通りで待っていらっしゃるの」
「解った。会おう」
 ギリットの返事にほっと胸をなで下ろして、ミネルヴァは呼んでくるわ、と扉へ向かう。
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