とある隠密の受難

nionea

文字の大きさ
上 下
3 / 15

2.

しおりを挟む
「しかし、なんであのオッサンが増田先生の憧れなんだ?」
 昨日は紬と増田を宥めるので終わってしまったが、この疑問が解決していないぞと俺は気づく。
 昼休み。これからまた惚れ薬開発の時間となるのだが、そもそもなぜ増田は朝倉のストーカーなんてやっているのだろうか。
「調べろよ」
 そんな俺の疑問につっけんどんに言ってくれるのは、よく解らない展開になっているのに、まだ付き合わされている大狼だ。
「調べて出てくるのか?」
 俺が訊くと
「国家魔法師の資格を持っているんだったら、魔法省に色々と登録されているはずだろ。アクセス申請すれば、すぐに朝倉先生の情報を教えてくれるはずだ」
 大狼が大元に問い合わせろよと冷たい。
「面倒だよ。ってか、わざわざ魔法省にそんなこと問い合わせたくねえし」
 俺は勘弁と、この話題を打ち切った。
 ちなみに何かと出てくる魔法省は、そのまんま、魔法に関することを一手に引き受けている省庁だ。隕石衝突の混乱後にすぐに設置され、国家魔法師の認定から危険魔法動物の特定まで、なんでもやらされている省である。そして、この魔法学院も魔法省の管轄となっている。
「ふっ。仕方がない。私が教えてやろう」
 と、そこに昼飯を購買に買いに行っていた佳希が、偉そうにふんぞり返ってくれる。おかげで大きな胸が強調されまくっていた。
「調べたのか?」
 俺は突き出された胸をこっそり目で堪能しながら、魔法省に問い合わせたのかと訊く。
「そんな面倒なことをしなくても、増田先生に聞けばいいだけだ。私は朝倉先生を尊敬する同志。そのことを伝えたら、色々と教えてくれた」
「あっそ」
 なんという恐ろしい共通の話題なんだ。俺は呆れつつも、それで問題の発端となっている朝倉への拗らせはどうなっているのかと訊ねる。
「ああ。これを見てくれ」
 佳希はそう言うと、白衣のポケットからコピー用紙を取り出した。広げられたそこには、二十年前の新聞が印刷されている。
「なになに。『天才少年現る! 十五才で国家魔法師に特別認定された朝倉小太郎』って、ええっ!?」
 俺はその新聞記事を読んで、思い切り仰け反ってしまう。
「そう。ビックリだろ。魔法学院に飛び級という制度があることも初めて知ったが、朝倉先生の魔法能力は飛び抜けているらしいんだ。この翌年には国家間の魔法対抗試合に出て、当時世界一位の称号を手に入れている」
「くう。あのオッサン、どこまで天才なんだよ」
 俺は、あのボサボサ頭のオッサンにこれだけ秘められた能力があるのが信じられんと、がしがしと頭を掻き毟る。
「増田が憧れる理由は解った。でも、今は魔法薬学の権威なんだよな。その間に何があったんだ?」
 大狼は俺からコピー用紙を奪い取ると、朝倉の人生に一体何がと真剣な目だ。
「確かに、今は国家魔法師の記章を白衣のポケットに入れちまう、適当なオッサンだぜ」
 なんで朝倉関係でこんなに謎が出てくるんだよと、俺はやれやれと溜め息を吐く。しかし、身近にとんでもない人物がいたことが発覚したわけだ。そりゃあ、今をときめく増田も、二十年前だから子どもながらに衝撃を受けたはずで、思わず追い掛けてしまうことだろう。
「何なんだろうな」
「もう、天才同士で勝手にやっていてくれって思うな」
 俺と大狼の意見が珍しく一致した時
『緊急警報! 魔法師指揮下にないアンデッドを確認!! 学生の皆さんは、至急校舎内に避難してください』
 と頭の中に思念伝達が鳴り響く。
「魔法師指揮下にないアンデッドって」
「野良アンデッドか。昨日の騒動ですっかり忘れていたけど、増田がグラウンドの近くで見たって言ってたぞ」
 そうだ。昨日、紬のことがなければ、増田は朝倉とアンデッドの捕獲に向うはずだった。
「きゃあああ」
 と、校舎の外から悲鳴が聞こえた。誰かがアンデッドに出くわしてしまったらしい。
「この近くかよ」
「マジか。野良は危険だぞ。凶暴化していることが多いんだ」
 驚いて廊下に出る俺を追い掛けながら、大狼は注意しろと警告してくる。
「凶暴化」
「ああ。アンデッドってのは、そもそも凶暴なものだからな」
「マジで」
(そういう情報、もう少し早く言って欲しかったぜ)
 昨日、紬を探しに出た時に出会わなくてよかった。あと、友葉をからかって悪かったなと思う。
 と、そっと外を覗いてみると
「なんでこっちに来るのよ~!?」
「げっ、胡桃!」
 なんと、胡桃がアンデッドに追い掛けられていた。アンデッドはマントに帽子と、この間大狼が連れてきたのと同じ格好をしているが、体格からして男であるらしい。
「こっちだ」
 と、そこに話題の朝倉が箒で駆けつけ、胡桃の白衣を掴んで引っ張り上げる。が、アンデッドはさらに追い掛け、胡桃の白衣を掴んで一緒に箒に乗ろうとする。
「いやあああ。なんで付いてくるの!? ってか臭っ!!」
 胡桃は自分の白衣を掴むアンデッドにパニックだ。
「くっ」
 そして、二人分の重さが掛かって、朝倉がバランスを崩しそうになる。箒が不安定にふるふると震え始めた。
「拙いぞ」
「行くしかないな」
 俺たちはそれを見て、避難している場合じゃないと校舎から飛び出す。
「先生」
「アンデッドを引き剥がしてくれ! 攻撃はこちらから防ぐ!!」
 朝倉は根性で箒の制御をすると、俺たちに助勢してくれと頼んだ。
「了解」
「腕と足を折るんだ」
 頷く俺と、アンデッドに容赦ない大狼の指示が飛ぶ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

職業寵妃の薬膳茶

なか
BL
大国のむちゃぶりは小国には断れない。 俺は帝国に求められ、人質として輿入れすることになる。

合鍵

茉莉花 香乃
BL
高校から好きだった太一に告白されて恋人になった。鍵も渡されたけれど、僕は見てしまった。太一の部屋から出て行く女の人を…… 他サイトにも公開しています

【完結】薄幸文官志望は嘘をつく

七咲陸
BL
サシャ=ジルヴァールは伯爵家の長男として産まれるが、紫の瞳のせいで両親に疎まれ、弟からも蔑まれる日々を送っていた。 忌々しい紫眼と言う両親に幼い頃からサシャに魔道具の眼鏡を強要する。認識阻害がかかったメガネをかけている間は、サシャの顔や瞳、髪色までまるで別人だった。 学園に入学しても、サシャはあらぬ噂をされてどこにも居場所がない毎日。そんな中でもサシャのことを好きだと言ってくれたクラークと言う茶色の瞳を持つ騎士学生に惹かれ、お付き合いをする事に。 しかし、クラークにキスをせがまれ恥ずかしくて逃げ出したサシャは、アーヴィン=イブリックという翠眼を持つ騎士学生にぶつかってしまい、メガネが外れてしまったーーー… 認識阻害魔道具メガネのせいで2人の騎士の間で別人を演じることになった文官学生の恋の話。 全17話 2/28 番外編を更新しました

残念でした。悪役令嬢です【BL】

渡辺 佐倉
BL
転生ものBL この世界には前世の記憶を持った人間がたまにいる。 主人公の蒼士もその一人だ。 日々愛を囁いてくる男も同じ前世の記憶があるらしい。 だけど……。 同じ記憶があると言っても蒼士の前世は悪役令嬢だった。 エブリスタにも同じ内容で掲載中です。

乙女ゲームのサポートメガネキャラに転生しました

西楓
BL
乙女ゲームのサポートキャラとして転生した俺は、ヒロインと攻略対象を無事くっつけることが出来るだろうか。どうやらヒロインの様子が違うような。距離の近いヒロインに徐々に不信感を抱く攻略対象。何故か攻略対象が接近してきて… ほのほのです。 ※有難いことに別サイトでその後の話をご希望されました(嬉しい😆)ので追加いたしました。

将軍の宝玉

なか
BL
国内外に怖れられる将軍が、いよいよ結婚するらしい。 強面の不器用将軍と箱入り息子の結婚生活のはじまり。 一部修正再アップになります

六日の菖蒲

あこ
BL
突然一方的に別れを告げられた紫はその後、理由を目の当たりにする。 落ち込んで行く紫を見ていた萌葱は、図らずも自分と向き合う事になった。 ▷ 王道?全寮制学園ものっぽい学園が舞台です。 ▷ 同室の紫と萌葱を中心にその脇でアンチ王道な展開ですが、アンチの影は薄め(のはず) ▷ 身代わりにされてた受けが幸せになるまで、が目標。 ▷ 見た目不良な萌葱は不良ではありません。見た目だけ。そして世話焼き(紫限定)です。 ▷ 紫はのほほん健気な普通顔です。でも雰囲気補正でちょっと可愛く見えます。 ▷ 章や作品タイトルの頭に『★』があるものは、個人サイトでリクエストしていただいたものです。こちらではいただいたリクエスト内容やお礼などの後書きを省略させていただいています。

【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。

桜月夜
BL
 前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。  思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

処理中です...