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不実の王
継ぎ接ぎの快楽4 背中
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オルタは、ベッドの端に、出入口の扉に背を向けて、枕に跨って座る。次の客は姿勢にも細かな要望があるのだ。背をピンと伸ばして、腕は力を抜いて体側へ垂らす。
姿勢を整えた瞬間に、ちょうどドアノブの音がした。
「やぁやぁ待たせたねボクの美しいカンバス」
扉を開けるなり高揚した様子でそう言い放ったのは、『画家』だ。長身痩躯で、常に作りはシンプルだが素材の良い服を着ている。気取った片眼鏡と手入れの行き届いた長髪もあって、それなりの身分でもありそうだが、勿論オルタは彼の本当の職業を知らない。ただ、いつでも芸術がどうのこうのと一人で語るし、オルタの事をカンバスと呼ぶので、画家と呼んでいるのだ。
画家は、いつもオルタの背に彼なりの絵を描く。そして、出来上がった作品を消すところまでが彼なりの性行為だ。絵が上手く進まない時には時間がかかる事もあり、一人ではあるが二人分の時間を予約している。それでいて上手く進めば時間いっぱい使い切る事はなく帰っていくので、オルタとしては彼の上機嫌な様子は良い兆候だと感じた。
「今日もとても美しい…」
恍惚の表情で溜息を吐いた画家は、アルデが持ってきた自身の鞄から着色料の入った小瓶をいくつか取り出した。最後に取り出した皿に近い瓶のコルクを外すと、中の白い粉を綿毛に着け、オルタの背に隙間無く叩いていく。そうして白い背を白い粉でさらさらとした状態にすると、肩甲骨や背骨、筋肉の盛り上がりなど、形を確認するように手のひらと指で撫で回した。
筋肉や脂肪よりは骨の目立つ背は、正直にいえば人気が無い。画家以外誰もオルタの背を買いはしない事からもそれは解る。なので、そんな背に金を落としてくれる画家のやりようを、オルタは拒否しないようにしているが、彼の言う芸術は全く解らない。
「まずは赤だね」
呟くと、画家は赤い着色料の入った小瓶を手に取る。赤、といっても、鮮やかな赤ではなく。静脈を流れる血のような、暗い赤だ。その赤い色にだらりと長い舌を浸し、その染まった舌を白い背に這わせた。文字でも図でもなければ、何かの姿形でもない赤い色が白いオルタの背を半分ほど埋める。
画家は、少し離れて満足気に頷くと、次に黒い小瓶を手にした。べったりと手に黒い色を着け、指でぽつぽつと赤と白の背に乗せていく。その作業が終わっても、やはり何か意味を見い出せるような事はない。
再び身を離して、金色の小瓶を手に、僅かに首を傾げながら画家は呟く。
「少し、前に屈んでくれるかな…そう、もう少し、ああそこで…そうそう、うん。手を前に着いて、肩甲骨をせり出すように…そうだ。うん。いいね。素晴らしい」
画家の頼み通り、姿勢を変えたオルタの背に、ぼたりと金の着色料が落とされた。塊としては五つ。小さな三つの塊はその場で丸く留まり、大きな二つの塊は、傾斜に沿って垂れる。ただ、垂れるといっても、他の着色料よりも更に粘性の高いそれは、少し伸びただけで、固まり始めるのだが。
「ああ…最高だ」
感無量だ、とでも言い出しそうな顔で画家が呟く。
オルタには自分の背中に広がる芸術は全く解らないが、今日は大分早く終わりそうだという事は解った。
赤い着色料の色はもう消えた、画家の長い舌が、だらりと口から垂れる。
「最高の作品を己で食せるという悦楽…あぁ…ナニモノにも代え難い瞬間だ」
背の中央を、背骨に沿って下から上へ、丹念に画家の舌が舐め這っていく。赤と黒と金の色に白い粉も落ち、オルタ本来の肌の白さが現れた。その肌の色と自身が描いた物との境界を、取り憑かれたように懸命に画家の舌が這い回る。
色が全て落ちた時。
疲労も露に肩で息をする画家は、ぐったりとしながらオルタから離れた。
「次はまた後日予約に来るよ…見送りは結構だ…残った画材は処分しておいてくれ」
「承りました」
側に来たアルデにそう言うと、一人ふらふらとした足取りで部屋を出て行った。
扉が完全に閉まったのを見届けて、アルデはオルタの元へ行く。
「大丈夫?」
「平気…でもさっさと風呂入りたい」
舐めるという行為はかなり大多数の客がする事だが、背中全体という広範囲を舐められる事になるため、画家が帰った後は流石にオルタも体を洗いたいという思いになる。
アルデが準備してくれていた風呂に浸かって、彼に背を洗ってもらいつつ、オルタはぐったりと体を伸ばした。
「相変わらず意味解らなかったなぁ」
「抽象画っていうらしいよ。ああいうの」
「へぇ…まぁ、何でも良いけどさ」
俯せの状態なんだから寝たら危ないよ、と怒られつつもつい心地良さにうとうとしていたオルタは、終わった、という言葉に体を起こす。体を拭いてもらいながら、ふと自身の外性器に目を落として、そういえば画家はいつも勃ってすらいないなと思い出した。
アルデに何か知っているかと問いかければ、その疑問はすぐに晴れる。
「知らなかったの? 画家さんはあの舌が性器なんだよ」
「………全然知らなかった…え、じゃあ、最後背中がベタベタしてんのって唾液じゃなくて精液だったんだ」
「知ってるからいつもお風呂入りたがってるんだと思ってた」
「いや、それは広範囲がベタベタするからってだけ」
知ったからといって拒否する気はないが、あの舌が性器だったという事実は、オルタを少し不安にさせた。
姿勢を整えた瞬間に、ちょうどドアノブの音がした。
「やぁやぁ待たせたねボクの美しいカンバス」
扉を開けるなり高揚した様子でそう言い放ったのは、『画家』だ。長身痩躯で、常に作りはシンプルだが素材の良い服を着ている。気取った片眼鏡と手入れの行き届いた長髪もあって、それなりの身分でもありそうだが、勿論オルタは彼の本当の職業を知らない。ただ、いつでも芸術がどうのこうのと一人で語るし、オルタの事をカンバスと呼ぶので、画家と呼んでいるのだ。
画家は、いつもオルタの背に彼なりの絵を描く。そして、出来上がった作品を消すところまでが彼なりの性行為だ。絵が上手く進まない時には時間がかかる事もあり、一人ではあるが二人分の時間を予約している。それでいて上手く進めば時間いっぱい使い切る事はなく帰っていくので、オルタとしては彼の上機嫌な様子は良い兆候だと感じた。
「今日もとても美しい…」
恍惚の表情で溜息を吐いた画家は、アルデが持ってきた自身の鞄から着色料の入った小瓶をいくつか取り出した。最後に取り出した皿に近い瓶のコルクを外すと、中の白い粉を綿毛に着け、オルタの背に隙間無く叩いていく。そうして白い背を白い粉でさらさらとした状態にすると、肩甲骨や背骨、筋肉の盛り上がりなど、形を確認するように手のひらと指で撫で回した。
筋肉や脂肪よりは骨の目立つ背は、正直にいえば人気が無い。画家以外誰もオルタの背を買いはしない事からもそれは解る。なので、そんな背に金を落としてくれる画家のやりようを、オルタは拒否しないようにしているが、彼の言う芸術は全く解らない。
「まずは赤だね」
呟くと、画家は赤い着色料の入った小瓶を手に取る。赤、といっても、鮮やかな赤ではなく。静脈を流れる血のような、暗い赤だ。その赤い色にだらりと長い舌を浸し、その染まった舌を白い背に這わせた。文字でも図でもなければ、何かの姿形でもない赤い色が白いオルタの背を半分ほど埋める。
画家は、少し離れて満足気に頷くと、次に黒い小瓶を手にした。べったりと手に黒い色を着け、指でぽつぽつと赤と白の背に乗せていく。その作業が終わっても、やはり何か意味を見い出せるような事はない。
再び身を離して、金色の小瓶を手に、僅かに首を傾げながら画家は呟く。
「少し、前に屈んでくれるかな…そう、もう少し、ああそこで…そうそう、うん。手を前に着いて、肩甲骨をせり出すように…そうだ。うん。いいね。素晴らしい」
画家の頼み通り、姿勢を変えたオルタの背に、ぼたりと金の着色料が落とされた。塊としては五つ。小さな三つの塊はその場で丸く留まり、大きな二つの塊は、傾斜に沿って垂れる。ただ、垂れるといっても、他の着色料よりも更に粘性の高いそれは、少し伸びただけで、固まり始めるのだが。
「ああ…最高だ」
感無量だ、とでも言い出しそうな顔で画家が呟く。
オルタには自分の背中に広がる芸術は全く解らないが、今日は大分早く終わりそうだという事は解った。
赤い着色料の色はもう消えた、画家の長い舌が、だらりと口から垂れる。
「最高の作品を己で食せるという悦楽…あぁ…ナニモノにも代え難い瞬間だ」
背の中央を、背骨に沿って下から上へ、丹念に画家の舌が舐め這っていく。赤と黒と金の色に白い粉も落ち、オルタ本来の肌の白さが現れた。その肌の色と自身が描いた物との境界を、取り憑かれたように懸命に画家の舌が這い回る。
色が全て落ちた時。
疲労も露に肩で息をする画家は、ぐったりとしながらオルタから離れた。
「次はまた後日予約に来るよ…見送りは結構だ…残った画材は処分しておいてくれ」
「承りました」
側に来たアルデにそう言うと、一人ふらふらとした足取りで部屋を出て行った。
扉が完全に閉まったのを見届けて、アルデはオルタの元へ行く。
「大丈夫?」
「平気…でもさっさと風呂入りたい」
舐めるという行為はかなり大多数の客がする事だが、背中全体という広範囲を舐められる事になるため、画家が帰った後は流石にオルタも体を洗いたいという思いになる。
アルデが準備してくれていた風呂に浸かって、彼に背を洗ってもらいつつ、オルタはぐったりと体を伸ばした。
「相変わらず意味解らなかったなぁ」
「抽象画っていうらしいよ。ああいうの」
「へぇ…まぁ、何でも良いけどさ」
俯せの状態なんだから寝たら危ないよ、と怒られつつもつい心地良さにうとうとしていたオルタは、終わった、という言葉に体を起こす。体を拭いてもらいながら、ふと自身の外性器に目を落として、そういえば画家はいつも勃ってすらいないなと思い出した。
アルデに何か知っているかと問いかければ、その疑問はすぐに晴れる。
「知らなかったの? 画家さんはあの舌が性器なんだよ」
「………全然知らなかった…え、じゃあ、最後背中がベタベタしてんのって唾液じゃなくて精液だったんだ」
「知ってるからいつもお風呂入りたがってるんだと思ってた」
「いや、それは広範囲がベタベタするからってだけ」
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