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萬魔の王
エピローグ
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人の世界で生きる事を望み、叶わず、戻ってきた日から、ナークの人生は変わった。
彼は今、魔界に居る。
その事実を本当に理解しているのかと尋ねられれば、彼は曖昧に首を横に振る事しかできない。次元の異なる重なり合った世界があるのだと説明されても、首を捻る事しかできなかったのだ。ただ、漠然と、地獄か天国のような人間とは違う者が住む場所だと考えている。
魔界には広大な土地が広がり、様々な人ならざる者が跋扈していた。
もっとも、彼は今生活している屋敷と、その庭と呼ばれている窓から見た森を内包する敷地以外の場所を知らないのだが。
元々小さな村で生きていたのだ。時折山に入ったとしても、一日で行って戻れる範囲しか歩かない。そう考えれば、彼にとって世界は大きく変わっても、その広さは大して変わっていなかった。
庭の芝生に置かれた長椅子に座って、彼はもう七歳ほどに見えるサーラが色とりどりの花を摘む姿を見ている。
娘だと受け入れられた。そう断言するには蟠るものが拭えなかったが、命がけで自分を守り、助けようとしてくれたサーラに感じている思いは、間違いなく愛しさだ。その命を笑顔を守れたらと深く願っている。
「パパ!」
サーラは笑顔で長椅子に駆け寄った。ぎゅっと握った手中の花を受け取ってもらいたくて、あげると言って差し出す。
「ありがとう」
微笑んで花を受け取って、隣に座って抱き着いてくる頭を撫でていると、後に黒い影が現れた。陽を遮っている事とは関係なく黒い、その顔を見上げて、彼は微笑んだ。
魔界において、萬魔の王と呼ばれている異形の男。
彼の体を使って魔族の卵を産ませる化物。
だが、彼はもうその男をバケモノとは呼ばない。もう彼は自分自身だって人ではないのだと解っていたからだ。無理矢理に体を作り替えられ、勝手に押し付けられた役割でも、生きていく場所が変わってしまったからなのだと飲み込んだ。
「父上」
王がサーラを抱き上げながら向けてきた視線に応じて、彼も一緒に屋敷へと入っていく。伸びた白い髪が視界の端で日に透けたが、もう気にはしない。
□fin
彼は今、魔界に居る。
その事実を本当に理解しているのかと尋ねられれば、彼は曖昧に首を横に振る事しかできない。次元の異なる重なり合った世界があるのだと説明されても、首を捻る事しかできなかったのだ。ただ、漠然と、地獄か天国のような人間とは違う者が住む場所だと考えている。
魔界には広大な土地が広がり、様々な人ならざる者が跋扈していた。
もっとも、彼は今生活している屋敷と、その庭と呼ばれている窓から見た森を内包する敷地以外の場所を知らないのだが。
元々小さな村で生きていたのだ。時折山に入ったとしても、一日で行って戻れる範囲しか歩かない。そう考えれば、彼にとって世界は大きく変わっても、その広さは大して変わっていなかった。
庭の芝生に置かれた長椅子に座って、彼はもう七歳ほどに見えるサーラが色とりどりの花を摘む姿を見ている。
娘だと受け入れられた。そう断言するには蟠るものが拭えなかったが、命がけで自分を守り、助けようとしてくれたサーラに感じている思いは、間違いなく愛しさだ。その命を笑顔を守れたらと深く願っている。
「パパ!」
サーラは笑顔で長椅子に駆け寄った。ぎゅっと握った手中の花を受け取ってもらいたくて、あげると言って差し出す。
「ありがとう」
微笑んで花を受け取って、隣に座って抱き着いてくる頭を撫でていると、後に黒い影が現れた。陽を遮っている事とは関係なく黒い、その顔を見上げて、彼は微笑んだ。
魔界において、萬魔の王と呼ばれている異形の男。
彼の体を使って魔族の卵を産ませる化物。
だが、彼はもうその男をバケモノとは呼ばない。もう彼は自分自身だって人ではないのだと解っていたからだ。無理矢理に体を作り替えられ、勝手に押し付けられた役割でも、生きていく場所が変わってしまったからなのだと飲み込んだ。
「父上」
王がサーラを抱き上げながら向けてきた視線に応じて、彼も一緒に屋敷へと入っていく。伸びた白い髪が視界の端で日に透けたが、もう気にはしない。
□fin
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