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おまけ:挙式
7.そういう家系なので
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エットより僅かに背が低いようだった。それでもミスティからすれば十分な長身で、体の厚みもとてもではないが現役を退いた老人のものとは思えない。髪は元の色が解らないほど綺麗に白くなっていたが、正直いつ死んでもおかしくない歳だというのに、その全体には生気が漲っている。
「花嫁の衣装は既に新しくドナが用意している。双方仕舞ってこい。お前達のくだらん兄弟喧嘩に巻き込まれて困っておるではないか」
困っている、と視線を向けられたミスティは、ふるふると首と手を振る。
「その、どちらも、素晴らしい花嫁衣装だと思います。きっと御二人の奥様への想いが込められているのだろうと、勝手な推量ですが、そのように感じます」
ミスティの褒め言葉にオルドとテスァトの二人は表情を再び明るくし、ライドが重々しく頷いた。
「正しくその通りだ。お前達より、嫁御殿の方がよほど解っておる」
北方の花嫁衣裳は、通常花婿が用意をする。勿論、針と糸を手に縫い上げるという意味ではなく、こういう衣裳にしたいと仕立係と打ち合わせるという意味だ。そして、その見立ては、如何に妻を理解しているか、という試金石でもある。生地は生成りと決まってるが、そこにどんな刺繍をどれだけ施すのか、全ては着用する花嫁を引き立てるために、花婿が苦心するのが常だ。
「なんだ、ちゃんと用意していたのか」
「そういう事なら仕方がありませんね、仕舞ってきましょうか」
殺気すら感じるような睨み合いが嘘のように、二人はあっさりと表情を変え、怒らせていた肩から力を抜き、談笑すらしながら部屋を出て行く。
「嫁御殿」
状況についていけないミスティだったが、ライドに声をかけられ、慌てて礼をする。
「お初にお目もじ仕ります。レナ・ミスティと申します」
「うむ。エットの祖父、ライドだ。あの二人の事は、すまんかったが、許してやってくれ。あれらはあれらで自分の妻の衣装を見せびらかしたかったのだろう…良い歳をして子供のような連中だが、男はどうも、いくつになってもそうしたものでな」
ライドは苦々しそうに言った。だが、斯く言う儂も見せびらかし妻がそれを纏った姿が如何に美しかったか話したいものだ、と言葉が続いたので、ミスティは思わず微笑してしまう。
「是非、お聞かせください」
ミスティがそう言えば、くしゃりと顔を笑みの形に崩した。
何だか微笑ましさを感じてふわふわと微笑んでいたミスティは、はたと気付く。イジェス家の男性はそれぞれに愛情深く、そして妻女にそう接している事に。
「?」
それ即ち、今、ミスティの視線に笑顔で小首を傾げているエットも同じという事ではないだろうか。
そして、彼の妻は、ミスティである。
「あ…あの」
自分の頬が赤くなるのに気付いて、ミスティは両手で隠すように頬を包んだ。
ただし、耳も額も真っ赤になっているので、あまり意味はなかった。
「花嫁の衣装は既に新しくドナが用意している。双方仕舞ってこい。お前達のくだらん兄弟喧嘩に巻き込まれて困っておるではないか」
困っている、と視線を向けられたミスティは、ふるふると首と手を振る。
「その、どちらも、素晴らしい花嫁衣装だと思います。きっと御二人の奥様への想いが込められているのだろうと、勝手な推量ですが、そのように感じます」
ミスティの褒め言葉にオルドとテスァトの二人は表情を再び明るくし、ライドが重々しく頷いた。
「正しくその通りだ。お前達より、嫁御殿の方がよほど解っておる」
北方の花嫁衣裳は、通常花婿が用意をする。勿論、針と糸を手に縫い上げるという意味ではなく、こういう衣裳にしたいと仕立係と打ち合わせるという意味だ。そして、その見立ては、如何に妻を理解しているか、という試金石でもある。生地は生成りと決まってるが、そこにどんな刺繍をどれだけ施すのか、全ては着用する花嫁を引き立てるために、花婿が苦心するのが常だ。
「なんだ、ちゃんと用意していたのか」
「そういう事なら仕方がありませんね、仕舞ってきましょうか」
殺気すら感じるような睨み合いが嘘のように、二人はあっさりと表情を変え、怒らせていた肩から力を抜き、談笑すらしながら部屋を出て行く。
「嫁御殿」
状況についていけないミスティだったが、ライドに声をかけられ、慌てて礼をする。
「お初にお目もじ仕ります。レナ・ミスティと申します」
「うむ。エットの祖父、ライドだ。あの二人の事は、すまんかったが、許してやってくれ。あれらはあれらで自分の妻の衣装を見せびらかしたかったのだろう…良い歳をして子供のような連中だが、男はどうも、いくつになってもそうしたものでな」
ライドは苦々しそうに言った。だが、斯く言う儂も見せびらかし妻がそれを纏った姿が如何に美しかったか話したいものだ、と言葉が続いたので、ミスティは思わず微笑してしまう。
「是非、お聞かせください」
ミスティがそう言えば、くしゃりと顔を笑みの形に崩した。
何だか微笑ましさを感じてふわふわと微笑んでいたミスティは、はたと気付く。イジェス家の男性はそれぞれに愛情深く、そして妻女にそう接している事に。
「?」
それ即ち、今、ミスティの視線に笑顔で小首を傾げているエットも同じという事ではないだろうか。
そして、彼の妻は、ミスティである。
「あ…あの」
自分の頬が赤くなるのに気付いて、ミスティは両手で隠すように頬を包んだ。
ただし、耳も額も真っ赤になっているので、あまり意味はなかった。
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