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おまけ:挙式

6.ガチ勢を並べるとこうなる

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「まぁ、そんな…でも、そうよね、どうしましょう、私、弟は初めてだわ」 
「私も初めて姉ができて、とても嬉しいです」
「それなら私も初めての姪だな」
「ふむ。確かに初めての娘だな」
 口々に言われる言葉に、そう言われればそうなるのか、と感心していたミスティと目が合い、にこりと笑ったクライドは、
「男ばかりのむさ苦しい所帯が一気に華やぎましたね。正に義姉上は春の神でいらっしゃる」
と、しれっと口にする。
 貴族として生まれ、貴族として生きているミスティだが、意外と異性に褒められた経験はない。そもそも家庭内でも褒め言葉はあまり聞かれなかったし、友人が三人しかいない彼女の交友関係では機会が極端に得られなかったのだ。
 そして、
「本当にエットは可憐な妻君を得たものだな」
 武伯の家であり、殊更男性しかいないイジェス家は、物言いが直裁で躊躇いが無い。
「正しくだな。陽に愛されたような肌を持ちつつも氷のように煌く白銀の髪、まるでこの北方そのものだ」
 しかも、
「当然でしょう。俺の妻は素晴らしい女性です」
 彼らの褒め言葉に触発されたのか、エットまで参戦した。
 もはやミスティには何かを言う気力はない。照れてにやけそうなる頬と唇をぐっと固めるように堪えるのに必死である。ぎゅっと手を握ってこの悪気無く与えられる羞恥に耐えていた。
「そんな可憐な姪御殿にはやはりこの花嫁衣装が良いと思うのだがな」
「離婚した妻女の着た衣装では縁起が悪かろう。ここはやはりこちらの衣装が」
「それならば病死した妻女の衣装も十分縁起が悪いですよ」
「何を言うか! コリーネはこのイジェス家にエットとクライドという宝をもたらしただろう!」
「メリンダとてシェラフという宝を私に与え、イジェス家にバーガルスとの縁をもたらしましたよ!」
 笑顔であったはずなのに、気付けば険しい顔で声を荒らげているオルドとテスァトに、ミスティは慌てる。
(どうしましょう…私の花嫁衣装の事でお二人が仲違いをなさるなんて!)
 しかしながら、何故かクライドは相変わらずの笑顔で、エットに至っては呆れ顔で溜息を吐いていた。
(どちらの御衣装もそれぞれ身に着けられた方を花や女神に見立ててきっとそれぞれに素晴らしいものだったに違いないわ。それなのに、こんな…ああ、せっかく春を運んできたと褒めていただいたのに…このままでは…!)
 クライドの笑顔の意味は解らないが、エットの呆れ顔は、自分に対するものと勘違いしたミスティは、何とか二人の言い合いを止めなくてはと口を開く。
「止めんか!」
 日向部屋の中を、鼓膜をキンとさせるほどの大音声が満たした。
 無論、ミスティが怒鳴ったのではない。
 低く微かに嗄れた大声に、開いた口をそのまま目をぱちくりとさせながら、全員が振り返った扉の方へ、視線を向ける。
「お祖父様」
 呟くエットの声に気付いて、ミスティは初めて会うライドの姿を見つめた。
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