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第三章:問題発生
4.仮病
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気鬱の病に罹る事を決めてから三日。
ミスティは、何度か、使用人達の前で物憂げに溜息を吐いて見せている。
(どうかしら…?)
のだが、その効果のほどが解らない。
(こういうのって、どうすれば成功なのかしら? お医者様を呼ばれたら良いのかしら? でも、そんなに具合が悪そうにするのも…皆を不安にしたくもないし…難しいのね仮病って…困ったわ)
昼食を終え、読書でもしようとしていた自室で、本を机の上に置いたまま椅子にかけて腕を組み、ミスティは首を左右に傾げまくっていた。
その、あまりに解り易く悩んでいる姿に、エリィネが声をかける。
「あの、奥様? 何か問題がありましたか? ずいぶんお悩みのようですが」
その問いかけに、ミスティは思わず明るい表情を作ってしまった。
(さすがエリエリだわ。私が欲しい反応をタイミング良くくれるなんて!)
それは、決してミスティが意図した形ではなかったが。結果として、主の奇行を心配した、使用人からの声かけという状況は、生まれた。
「別に、特別何かが有る訳ではないのよ。ただ、何となく、溜息が出るというか。何となくね。その、物憂い、かなぁ、何て。そう思うの。本当に、何がどうっていう事ではなくてね、何となくなんだけどね」
「はぁ…」
とても笑顔に見えますが、という言葉を飲み込んで、エリィネは主人の言葉を反芻してみる。
やたら強調されたり繰り返されたのは、何となく、という言葉。あとは、溜息、物憂い、だったか。正直、先ほど首を捻っていた時はともかく。今は笑顔なミスティから、物憂さなどは感じないが、エリィネは話を合わせてみる事にした。
「えーっと、つまり、何となく溜息が出ていらっしゃるのですか?」
「そう! そうなの!」
「別に思い当たる原因がある訳ではないけれど、気分が塞いだりなさっている?」
「そう!」
反応を確かめながら紡がれるエリィネの言葉への反応を見る限り、如何にも元気そのものなのだが。
(何か妙な事を考えている気がする…)
長年一緒に過ごした経験から、エリィネはミスティが独自の考えで妙な事を始めたと結論付けた。
「それで、奥様は、私に何か要望がおありですか?」
「えっと、そうね。うんと…すぐにはないの。ただね、これはたぶん、気鬱の病なんじゃないかと思うから。あ、でもね、別にお医者様を呼ぶ程ではないの。だから、もう少し様子をみて、良い時機を見計らって、旦那様にお暇乞いをしようと思うのね。その時はエリエリも一緒に来てくれる? その、たぶん直ぐにはお仕事があるかは解らないのだけど、今リシェ達にも訊いているから。きっと二人で生活するくらいは何とかなると思うのよ」
「………え?」
予想外に妙な方向であると気付いたエリィネは、慌ててミスティの考えを聞き出す事にした。
ミスティは、何度か、使用人達の前で物憂げに溜息を吐いて見せている。
(どうかしら…?)
のだが、その効果のほどが解らない。
(こういうのって、どうすれば成功なのかしら? お医者様を呼ばれたら良いのかしら? でも、そんなに具合が悪そうにするのも…皆を不安にしたくもないし…難しいのね仮病って…困ったわ)
昼食を終え、読書でもしようとしていた自室で、本を机の上に置いたまま椅子にかけて腕を組み、ミスティは首を左右に傾げまくっていた。
その、あまりに解り易く悩んでいる姿に、エリィネが声をかける。
「あの、奥様? 何か問題がありましたか? ずいぶんお悩みのようですが」
その問いかけに、ミスティは思わず明るい表情を作ってしまった。
(さすがエリエリだわ。私が欲しい反応をタイミング良くくれるなんて!)
それは、決してミスティが意図した形ではなかったが。結果として、主の奇行を心配した、使用人からの声かけという状況は、生まれた。
「別に、特別何かが有る訳ではないのよ。ただ、何となく、溜息が出るというか。何となくね。その、物憂い、かなぁ、何て。そう思うの。本当に、何がどうっていう事ではなくてね、何となくなんだけどね」
「はぁ…」
とても笑顔に見えますが、という言葉を飲み込んで、エリィネは主人の言葉を反芻してみる。
やたら強調されたり繰り返されたのは、何となく、という言葉。あとは、溜息、物憂い、だったか。正直、先ほど首を捻っていた時はともかく。今は笑顔なミスティから、物憂さなどは感じないが、エリィネは話を合わせてみる事にした。
「えーっと、つまり、何となく溜息が出ていらっしゃるのですか?」
「そう! そうなの!」
「別に思い当たる原因がある訳ではないけれど、気分が塞いだりなさっている?」
「そう!」
反応を確かめながら紡がれるエリィネの言葉への反応を見る限り、如何にも元気そのものなのだが。
(何か妙な事を考えている気がする…)
長年一緒に過ごした経験から、エリィネはミスティが独自の考えで妙な事を始めたと結論付けた。
「それで、奥様は、私に何か要望がおありですか?」
「えっと、そうね。うんと…すぐにはないの。ただね、これはたぶん、気鬱の病なんじゃないかと思うから。あ、でもね、別にお医者様を呼ぶ程ではないの。だから、もう少し様子をみて、良い時機を見計らって、旦那様にお暇乞いをしようと思うのね。その時はエリエリも一緒に来てくれる? その、たぶん直ぐにはお仕事があるかは解らないのだけど、今リシェ達にも訊いているから。きっと二人で生活するくらいは何とかなると思うのよ」
「………え?」
予想外に妙な方向であると気付いたエリィネは、慌ててミスティの考えを聞き出す事にした。
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