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第三章:問題発生
1.上申
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侍女頭から、これは女性使用人の総意です、と前置きされた上で、
「奥様に対する態度を改めてください」
と、上申され、エットは執務室で頭を抱えた。
「当然の申し入れだと思いますよ」
侍従の言葉に、うんざりとした顔でそちらを向く。
「お前までそんな事を言うのか」
「あの方が嫁いで来られてもう一月以上が経ちますが、使用人に横柄に振舞うでもなく。貴方にわがままを言うこともなく。日々粛々とお過ごしなのですよ。あの方に裏などございますまい」
「どうだろうな、女には顔が二つあるというぞ」
「それは『アリョーシャの影絵劇』ですな。確か、男には更に三つの顔がある、と続くはずですな」
アリョーシャの影絵劇は、リブラ王国出身の劇作家による作品だ。初出は恋愛歌劇だが、本にもなっており、貴族庶民共に広まっている。先ほどの言葉は、主人公に分別臭く忠告をする隠居の台詞だ。
『人は子供の頃、たった一つの顔で世界を見つめているものだが、ある日男と女に分かれていく。女には顔が二つある。好きなものに見せる顔と嫌いなものに見せる顔だ。そして、男には更に三つの顔がある。使えるものに見せる顔。使えぬものに見せる顔。戦いの中で見せる顔。くだらない浅知恵であれこれと考えるのはいつだって男であって、女は本質的には好きか嫌いの二択しか選択肢を持っていないのだ。ただ、我慢強く嫌いな男にも付き合えるというだけなのだ』
それなりに広まっている話だが、実は、エットは読んだ事がない。気まずそうに視線を逸らして、咳払いをした。
「それは、もうどうでも良い」
強引に話を打ち切り、エットは机に広げた書類を再度見ようとする。
だが、侍従も、今回ばかりはここまでとする事はできないと思っているのだ。主人の事情を理解しているからこそここまで何も言わずにいたが、ミスティという女性を見る限り、きちんと話をしてむしろ協力を頼む方が良いのではないかと思えた。
「大切な話です。手を止めて一度真剣にお考え下さい」
侍従の言葉にエットは、眉を寄せた。
正直に言って手一杯なのだ。彼には、今、新しく来た新妻の事を考える余裕など微塵もない。それどころではないのだ。
「そんな場合でない事は、お前なら十分に理解していると思ったが?」
「四六時中心を砕きお相手をしろというのではありません。お信じになって、一度お話をなさって下さい、と申し上げているのです」
「時間など…ある訳無いだろう」
苛立ち混じりにエットが机を叩く。
「だいたい、俺には結婚する気などなかったのだ!」
叫んで舌打ちをする主人の姿に、侍従は力なく肩を落とした。
「奥様に対する態度を改めてください」
と、上申され、エットは執務室で頭を抱えた。
「当然の申し入れだと思いますよ」
侍従の言葉に、うんざりとした顔でそちらを向く。
「お前までそんな事を言うのか」
「あの方が嫁いで来られてもう一月以上が経ちますが、使用人に横柄に振舞うでもなく。貴方にわがままを言うこともなく。日々粛々とお過ごしなのですよ。あの方に裏などございますまい」
「どうだろうな、女には顔が二つあるというぞ」
「それは『アリョーシャの影絵劇』ですな。確か、男には更に三つの顔がある、と続くはずですな」
アリョーシャの影絵劇は、リブラ王国出身の劇作家による作品だ。初出は恋愛歌劇だが、本にもなっており、貴族庶民共に広まっている。先ほどの言葉は、主人公に分別臭く忠告をする隠居の台詞だ。
『人は子供の頃、たった一つの顔で世界を見つめているものだが、ある日男と女に分かれていく。女には顔が二つある。好きなものに見せる顔と嫌いなものに見せる顔だ。そして、男には更に三つの顔がある。使えるものに見せる顔。使えぬものに見せる顔。戦いの中で見せる顔。くだらない浅知恵であれこれと考えるのはいつだって男であって、女は本質的には好きか嫌いの二択しか選択肢を持っていないのだ。ただ、我慢強く嫌いな男にも付き合えるというだけなのだ』
それなりに広まっている話だが、実は、エットは読んだ事がない。気まずそうに視線を逸らして、咳払いをした。
「それは、もうどうでも良い」
強引に話を打ち切り、エットは机に広げた書類を再度見ようとする。
だが、侍従も、今回ばかりはここまでとする事はできないと思っているのだ。主人の事情を理解しているからこそここまで何も言わずにいたが、ミスティという女性を見る限り、きちんと話をしてむしろ協力を頼む方が良いのではないかと思えた。
「大切な話です。手を止めて一度真剣にお考え下さい」
侍従の言葉にエットは、眉を寄せた。
正直に言って手一杯なのだ。彼には、今、新しく来た新妻の事を考える余裕など微塵もない。それどころではないのだ。
「そんな場合でない事は、お前なら十分に理解していると思ったが?」
「四六時中心を砕きお相手をしろというのではありません。お信じになって、一度お話をなさって下さい、と申し上げているのです」
「時間など…ある訳無いだろう」
苛立ち混じりにエットが机を叩く。
「だいたい、俺には結婚する気などなかったのだ!」
叫んで舌打ちをする主人の姿に、侍従は力なく肩を落とした。
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