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第4話 メアリーアンちゃんのお料理

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「エッサ、ホイサ! ここ掘れワンワン!」

 俺は堀田岳男、三十歳。妻なし、財産なし、恋愛経験なし、十五年間穴を掘り続ける穴掘り男。今日も昨日に引き続き宝の眠るはずの場所を掘り起こしている。朝からずっと。

(本当に宝はあるんかいな~?)

 掘っても掘っても何も出て来ません。
 強いて言えば中央の石は大きくて深くまで続いているような?

 もしかしてこの中央の石を割ったら中から宝石とかが出て来たりして?
 それにしても邪魔くさいで~、これが無ければもっと掘りやすいのにな。

 そんなアホな期待を持ちつつドンドンと掘り進める。

(おやおや、まいったで。なんて長い石なんや!)

 中央の大石は一m以上周りを掘ってもまだ埋まっているというメッチャ細長い大石だった。叩いておったるかいな~なんて思っていると頭上から声がかかる。

「タケオさ~ん! お昼の準備ができましたよ~、上がって来てくださ~い」
 メアリーアンちゃんがお昼の用意を整えて俺を呼ぶ。

 いつの間にかもう昼だ。確かに腹も減っている。

 俺は自分で掘った深さ五mの穴の壁に足場をつけて這い上がる。

 テーブルの上には厚さ二cmくらいの牛肉が甘辛いタレと一緒に焼かれている。良い匂いだ。付け合わせはポテトのフライと甘く煮たにんじん、茹でたブロッコリー。コンソメスープが添えられ、温められた小ぶりのパンが三つほど。

 こんなところで普段より豊かな食事を食べられるとは思いもしなかった。
 メアリーアンちゃんは相当料理上手のようだ。

「はい」
 メアリーアンが俺にコップの水を手渡した。

「おう!」
 俺は一気に渡された水を飲み干す。
(のど、乾いてたんだよね。メアリーアンちゃんって何げに気がきくじゃあないの?)

「あ~、もう一杯!」
 コップを渡すとメアリーアンが水を入れてくれた。水魔法で。

「!!」

(水魔法……って、この子水魔法が使えるのかよ!)

 この世界で魔法が使えるのは古代のアーティファクト『魔法の書』を使って覚えた人だけだ。

『魔法の書』はダンジョンの宝箱などから出る事があると聞くが、メチャクチャ珍しいし高価な物らしい。

 なにしろ、俺は今までに『魔法の書』を見た事もないし、魔法を使える人も知り合いにはいなかったのだ。

「君、魔法使えるの?」

 俺は恐る恐るメアリーアンに聞いてみた。

「はい。以前に初級水魔法の『魔法の書』を見つけたので、ちょっとだけ」


 つまりはそういう事らしい。
 マジックバッグだけでなく『初級水魔法の書』も見つけていたのだ。

(トレジャーハンターってそんなにポンポンお宝を見つけられる物なのでしょうか?)

 俺は首をギリギリっと回してプリンちゃんを見た。
(この子……ここ掘れワンワン犬? ……て言ってたけど、もしかして本当にお宝があるのがわかるのかな?)

 プリンちゃんはつぶらな瞳で俺を見て尻尾を振る。
(キャワイ~!)

 メアリーアンが俺にコップの水を渡し言った。

「熱いうちに召し上がれ」

(オットォ! すっかり昼飯を食うのを忘れるところだったわ)

 牛肉のステーキはめっちゃ良い匂いをただよわせている。

 メアリーアンの魔法のことは置いといて、お昼ご飯にしよう。

 俺は焼けたお肉を切り分け一口食べる。

 口の中に肉汁と甘辛いタレの味が広がった。肉質は柔らかく溶けるように消えていく。高価な肉なのは疑いようもない。

「なんやコレ! ウマ!」

(オッチャンこんな美味い肉初めて食うたで! これ素人の出せる味とちゃいますやん!)

 俺はメアリーアンをまじまじと見つめた。視線に気づいてメアリーアンはびくりと身構える。

「これもメアリーアンちゃんが作ったの? めっちゃ美味しいんですけど!」

「はい、ただ焼いただけですけれど……」
 そう言いながらメアリーアンが頬を赤らめた。体の緊張も解けている。

 いやいや、ただ焼いただけは謙遜だろう。
 タレも美味しいけれど肉が良いのかミディアムレアの焼き加減が良いのか?はたまた両方か? なにがどうしてこんなに美味いのか良くわからん。

 とにかく美味い!

 ただ焼いただけでこの美味しさは尋常ではない。
 これから休日はこの子の料理が食べられるかと思うと楽しみになった。

(オッチャンがあと10年若かったら嫁にしたかったわ! 断られるだろうけど)

 付け合わせのポテトもにんじんも素材の味をそこなわず、かと言って自己主張しすぎることもなく肉の味を引き立ている。

 コンソメスープもよく味が出てる。

(美味しいやないかい! オッチャン午後も頑張ったるで~!)

 美味しい料理を食べて気力も体力も完全回復した気になる。やはり食事は大切だ。完全に餌付けされたオッチャンである。

 それにしても、メアリーアンは、毎日こんな料理を食べているのだろうか? 流石にこの肉は高くて毎日は食べられないだろう。

「この肉は高いんだろ?」

 考えていたことが、思わず口に出る。

「普通の肉ですよ。ただ、叩いてからビールに十分つけおきして、ハチミツを加えてます」

 だいぶ手間がかかっているらしい。どこがただ焼いただけやねん。俺はメアリーアンを見直した。
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