献血に行った話

みやび

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 その後俺は、彼女にリードされるまま再び果てて。

「うーゎ、すっご……たぷたぷじゃん……」口を縛ったそれを見て、美月さんは軽く引いた表情をしていた。「そ、そんなに気持ちよかった……?」

 無用に下半身を晒すのも彼女に失礼な気がしていそいそと服を着ると、衣服を乱したままの彼女がぽつりと口を開く。

「――キミでよかった。初めてのひとが」
「えっ……⁉︎」
「……へっ、あ、ゃ、違うよ! 初めての特命の相手がキミでよかったって意味」
「で、ですよねぇ~……」
 さすがに処女なわけないか(失礼)。
 ……でも、ちょっと複雑だな。これからもこの特命の仕事、続けるのかな……。

「あ、職場からメールだ。ニュース記事へのリンク? ――ふぇっ? ……『K大学病院がXX病の新薬にひつよぉなせーえき由来の成分の人工的なサクシュツに成功。今後安定的に……』」
 読み上げて、ぺたん、とフローリングにへたり込む。
「……なんか、やらなくてよくなっちゃった」
「そうみたい、っすね」
 ま、まぁなんだ。とりあえずめでたしめでたし、かな?
「――つか特命ってマジだったんすね?」
「そうだよぉ。でなきゃこれただのサボりじゃん」
「確かに」
 業務抜け出して年下食ってるだけになるもんね。


 新しいナース服に着替え直して、脱いだやつを片付けながら。
「……ホントはさ、マジの初めてなんだから、ね……?」
 ぽつりと告げる美月さん。
 さっき聞いたような気がするけど。でもなんだろう、やけに神妙だな。

「特命が、でしょ?」もうやらんでよくなってよかったじゃん。
「……あは、ごめん。わたしも素直じゃないや」
「?」
「――さっきのがわたしの。ロストバージン、だよ?」
「――っ!」
 茶目っ気たっぷりにそう告げると、えへ、と可愛らしく微笑んだ。

「……責任、ちゃんととってよね?」



――――――――
――……
……


「ではでは……以上で、処置は終わりです。ご協力ありがとうございました」
 彼女が深々と頭を下げる。

 淡々とシャーレを片付ける美月さん。

「こちらこそ、ありがとうございました」
「いえいえ」
 お別れだと思うと……ちょっとだけ寂しい。


 けれど彼女は。
 そんな俺の心を、見透かしたかのように。

「――明日、バイトは?」
「明日は……休みです」
 俺が答えると、美月さんは「そ、」と薄く唇を動かし――静かに微笑む。

「夕方六時にプチ公前に来てよ。成田くんとデートしたい」
「ッ、」
「好きって言ったこと、ウソじゃないよ。……だから寂しい顔しないで」
「……っ」
 なんだろう、泣きそうなんですけど。
 冗談じゃなく、生きててよかった。

「――あっ、そろそろ戻らなくちゃ! じゃーまたね、成田くん! 部屋のカギそこだから、出たら郵便受けに入れといて、ヨロシク!」
「え、あ、ハイ⁉︎」
 感慨に浸っていたのもつかの間、美月さんは慌ただしくお仕事に戻っていった。
 壁際の棚の上には銀色のカギ。
 つか、やっぱ美月さんの部屋だったんだな……そんな気はしてたけどね。


「またね、か」
 鍵を手にし、美月さんの言葉を噛み締める。

 明日の六時にプチ公前。
 再び、彼女と会うこと。それが答え合わせだ。


 が、世の中とかく、好事魔多し。
「電話番号書き出しとくか……」
 不測の事態があっても連絡さえ取れればどうにかなるだろう。俺はスマホのメモ機能を立ち上げる。

「えーとゼロ、ハチ、ゼロ、ご、あれロクだったっけ? ……」
 打っては消し、打っては消し。

 ……ま、まぁアレだ。ようは遅れなければいいんだよね?
 そう胸に念じて俺は部屋を出ると、きちんと施錠をし、部屋番号のポストにカギを入れた。
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