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第23話 果奈には秘密
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真宮さんがコンビニへ向かってから三十分は過ぎようとしている。
いくらなんでも遅すぎないか? ここから、一番近いコンビニなら五分もあればつくはずだけど……って、まてよ……。
二人が寄ってきたコンビニへ戻ったというのなら、それなりに距離はあるな。
その辺で思い当たる店といったら……。
「ねぇ、仲里さん。お菓子って、どこのコンビニで買ってきたの?」
リビングのソファに腰を掛けていた仲里さんは、スマホを触っていた手を止め、人差し指を顎先にちょこんと当てながら考えるような仕草をして見せた。
「たしか、うさぎのラビットという名前のコンビニだったと思いますよ」
仲里さんを家まで送った日に寄った店か……あそこなら時間が掛かるのは理解できる。
「真宮さんは、そのコンビニまで戻ったのかもしれない」
「あっ、そうかもしれません。そっちに向かって走っていきましたし」
「それじゃあ、もう少しかかるかもだね」
「……気になりますか?」
「え? なにが?」
「早見くん、ずっと真宮さんのことばかり気にかけてるみたいだから……」
「にぃにぃの彼女だもんね! 気になるよねー!」
仲里さんと話していると、奥の対面キッチンから妹の果奈が揶揄うように会話に交じってきた。
「私も、かの……」
仲里さんは小声で言いかけ、その口を止めた。
「真宮さんは、にぃにぃのどこが気に入ったのかなぁ? 仲里さんはどう思います?」
果奈の奴、なにを訊いてんだ! でも、そうか……妹はまだ二人が俺の彼女になっていることを知らないんだった。
「えーと……」
仲里さんが返事に困っている……まぁ、自分も彼女なんです。だなんて言い出しにくいもんな。
俺だって実は二人と同時に付き合っているだなんて気軽には言えない。
とりあえずここは適当なことを言って誤魔化しておこう。
「果奈! そ、それは俺の、えぇえと、アレだよ!」
「へ? にぃにぃが答えても意味ないよ。仲里さんに訊いてるのにぃ! しかも答えられてないし……」
「別にいいじゃないか」
「えー! よくないぃ!」
「とにかく、その話はおわりだ。そんなことより料理の方は出来たのか?」
「むぅ……料理なら出来てるよ! あとはお湯を沸かして注ぐだけだもん」
「お湯を注ぐ……だ、と? 果奈、それってまさか……」
――ピンポーン。
「あっ! にぃにぃ、真宮さんかも! 早く出てあげて!」
呼び鈴に反応した果奈は、逃げるようにその場でしゃがみ、対面キッチンの下に隠れた。
「たくっ! 仲里さん、俺ちょっと玄関いってくる」
「は、はい」
しつこく呼び鈴の音が鳴り続けている。
こんなにしつこく鳴るということは、どう考えても顔見知りに違いない。
俺はドアの向こうにいる相手が真宮さんだと確信してドアノブに手を伸ばす。
「ごめんね春時! 遅くなっちゃった!」
大当たり。
目の前にはウインクをしながら舌をだし、おどけて見せる真宮さんの姿があった。
池袋のムーンライトシティの噴水広場での一件以来、俺は彼女への見方が変わっていた。
今まではちょっと主張が強めというかなんていうか、俺とはどこか合わないと思っていたけれど、屋上で話したときよりは大分、好印象だ。
今も彼女の笑顔を見ていると不思議と嬉しい気持ちになる。
――春時。
「春時!」
「あ、ああ、な、なに?」
「なにじゃないよ。上がっていい?」
「も、もちろん! みんなまってるよ。リビングは奥だから」
「うん、知ってる。ただいま~」
真宮さんは言うと、まるで自分の家かのように、迷うことなくリビングのある方向へ歩いていった。
ただいま? まぁ、いいけど。
彼女が家に上がるのは今日で三回目だ。リビングの場所も知っていて当然なのだろう。
初めて来たときは、果奈とゲームをやっていたよな。
数日前の出来事のはずなのに、なんだか懐かしく感じる。
リビングに戻ると真宮さんは仲里さんの隣へ座り、なにやら楽しげに話をしていた。
「ねえねえ春時! これ見て! 春時にも分けてあげる!」
「ん? それって……買い忘れていたっていう、ふりかけ?」
「うん、それそれ」
真宮さんは返事をすると、ごましお、と書かれた青い袋を振って見せた。
シャカシャカと心地よい音が聞こえる。
「ごましお……」
「あー! 春時! 今、ごましおをバカにしたなー!」
「え? し、してない、していない」
バカにはしていないが、随分とシンプルなものを選んできたなとは思った。
それに、なぜ、ふりかけを買ってきたのか……果奈の作った料理に白米が出るとはかぎらないのに。
「もう春時にはあげない! エリカと果奈ちゃんの三人で食べるから!」
「いやいや、別にバカになんてしていないだろ。まぁ、別にいらないけど」
「エリカ聞いた? 春時がいじめるよぉ」
「よし、よしでちゅよぉ」
仲里さんは泣き真似をしてみせる真宮さんの頭を赤ちゃん言葉で撫で始めた。
仲里さん、赤ちゃん言葉なんて使うんだ……むぅ、俺が撫でて欲しいんだけど。
「みんなぁ! お昼できたよぉ!」
果奈が大きな声で呼びかけてきた瞬間、真宮さんの泣き真似はピタッと止まる。
も少し二人の茶番劇を見ていたかった。
「ところで果奈。なにを作ったんだ?」
「それは見てのお楽しみ!……みんなこっちにきて!」
果奈は手招きをして見せる。
いったい果奈は、なにを作ったんだろう? 嫌な予感がする……。
いくらなんでも遅すぎないか? ここから、一番近いコンビニなら五分もあればつくはずだけど……って、まてよ……。
二人が寄ってきたコンビニへ戻ったというのなら、それなりに距離はあるな。
その辺で思い当たる店といったら……。
「ねぇ、仲里さん。お菓子って、どこのコンビニで買ってきたの?」
リビングのソファに腰を掛けていた仲里さんは、スマホを触っていた手を止め、人差し指を顎先にちょこんと当てながら考えるような仕草をして見せた。
「たしか、うさぎのラビットという名前のコンビニだったと思いますよ」
仲里さんを家まで送った日に寄った店か……あそこなら時間が掛かるのは理解できる。
「真宮さんは、そのコンビニまで戻ったのかもしれない」
「あっ、そうかもしれません。そっちに向かって走っていきましたし」
「それじゃあ、もう少しかかるかもだね」
「……気になりますか?」
「え? なにが?」
「早見くん、ずっと真宮さんのことばかり気にかけてるみたいだから……」
「にぃにぃの彼女だもんね! 気になるよねー!」
仲里さんと話していると、奥の対面キッチンから妹の果奈が揶揄うように会話に交じってきた。
「私も、かの……」
仲里さんは小声で言いかけ、その口を止めた。
「真宮さんは、にぃにぃのどこが気に入ったのかなぁ? 仲里さんはどう思います?」
果奈の奴、なにを訊いてんだ! でも、そうか……妹はまだ二人が俺の彼女になっていることを知らないんだった。
「えーと……」
仲里さんが返事に困っている……まぁ、自分も彼女なんです。だなんて言い出しにくいもんな。
俺だって実は二人と同時に付き合っているだなんて気軽には言えない。
とりあえずここは適当なことを言って誤魔化しておこう。
「果奈! そ、それは俺の、えぇえと、アレだよ!」
「へ? にぃにぃが答えても意味ないよ。仲里さんに訊いてるのにぃ! しかも答えられてないし……」
「別にいいじゃないか」
「えー! よくないぃ!」
「とにかく、その話はおわりだ。そんなことより料理の方は出来たのか?」
「むぅ……料理なら出来てるよ! あとはお湯を沸かして注ぐだけだもん」
「お湯を注ぐ……だ、と? 果奈、それってまさか……」
――ピンポーン。
「あっ! にぃにぃ、真宮さんかも! 早く出てあげて!」
呼び鈴に反応した果奈は、逃げるようにその場でしゃがみ、対面キッチンの下に隠れた。
「たくっ! 仲里さん、俺ちょっと玄関いってくる」
「は、はい」
しつこく呼び鈴の音が鳴り続けている。
こんなにしつこく鳴るということは、どう考えても顔見知りに違いない。
俺はドアの向こうにいる相手が真宮さんだと確信してドアノブに手を伸ばす。
「ごめんね春時! 遅くなっちゃった!」
大当たり。
目の前にはウインクをしながら舌をだし、おどけて見せる真宮さんの姿があった。
池袋のムーンライトシティの噴水広場での一件以来、俺は彼女への見方が変わっていた。
今まではちょっと主張が強めというかなんていうか、俺とはどこか合わないと思っていたけれど、屋上で話したときよりは大分、好印象だ。
今も彼女の笑顔を見ていると不思議と嬉しい気持ちになる。
――春時。
「春時!」
「あ、ああ、な、なに?」
「なにじゃないよ。上がっていい?」
「も、もちろん! みんなまってるよ。リビングは奥だから」
「うん、知ってる。ただいま~」
真宮さんは言うと、まるで自分の家かのように、迷うことなくリビングのある方向へ歩いていった。
ただいま? まぁ、いいけど。
彼女が家に上がるのは今日で三回目だ。リビングの場所も知っていて当然なのだろう。
初めて来たときは、果奈とゲームをやっていたよな。
数日前の出来事のはずなのに、なんだか懐かしく感じる。
リビングに戻ると真宮さんは仲里さんの隣へ座り、なにやら楽しげに話をしていた。
「ねえねえ春時! これ見て! 春時にも分けてあげる!」
「ん? それって……買い忘れていたっていう、ふりかけ?」
「うん、それそれ」
真宮さんは返事をすると、ごましお、と書かれた青い袋を振って見せた。
シャカシャカと心地よい音が聞こえる。
「ごましお……」
「あー! 春時! 今、ごましおをバカにしたなー!」
「え? し、してない、していない」
バカにはしていないが、随分とシンプルなものを選んできたなとは思った。
それに、なぜ、ふりかけを買ってきたのか……果奈の作った料理に白米が出るとはかぎらないのに。
「もう春時にはあげない! エリカと果奈ちゃんの三人で食べるから!」
「いやいや、別にバカになんてしていないだろ。まぁ、別にいらないけど」
「エリカ聞いた? 春時がいじめるよぉ」
「よし、よしでちゅよぉ」
仲里さんは泣き真似をしてみせる真宮さんの頭を赤ちゃん言葉で撫で始めた。
仲里さん、赤ちゃん言葉なんて使うんだ……むぅ、俺が撫でて欲しいんだけど。
「みんなぁ! お昼できたよぉ!」
果奈が大きな声で呼びかけてきた瞬間、真宮さんの泣き真似はピタッと止まる。
も少し二人の茶番劇を見ていたかった。
「ところで果奈。なにを作ったんだ?」
「それは見てのお楽しみ!……みんなこっちにきて!」
果奈は手招きをして見せる。
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