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忍び込んだプレ・デビュー
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▽
「ひっろ……」
あんぐりと空いた口が塞がらない。
さすがこの国の象徴たる城。確かにチルクレット家も広くてやばいけど、その広さもあちこちにある装飾も家と比べ物にならない。
王城は頭に描いていた某テーマパークのようなお城で、分厚い塀を抜け門をくぐると、真っ赤な絨毯が敷かれ大きく開けた空間が俺たちを迎えた。
ちなみに入るのに入口で引っかかって兵隊さんに連れていかれる…ということはなく、リョウさんが一言「チルクレット家の使用人なのですが」というだけで通れた。そういうものなのか? 警備が雑なのかやはり公爵家がやばいのか。
「では私は旦那様の元に行ってきます。くれぐれも大広間からは出ないでくださいね。トオル様、キョウスケ様をよろしくお願いしますよ」
「わかりました」
リョウさんの言葉に頷く。
王城のすごさに圧倒されている俺の手をぎゅっとトオルが引きながら、目立たないように舞踏会が催されている大広間へ足を踏み入れた。
「口開けすぎ。閉じなくなっちゃうよ?」
「だってトオル、見てよ。広いし、あちこちキラキラしてる…」
「そうだね」
トオルは俺を見て微笑んだ。なんか馬鹿にされている気がするんだけど…。
くそっ、自分の方が大きいからって! 俺の方が中身的には随分とお兄ちゃんなんだぞ!!今はこんなんだけど!!いつかは大きくなるんだ!!!
大広間は本当に字の通りだった。だだっ広い広間。うちの屋敷の庭十個分くらい。とんでもない広間。空気が違う気がする。そこに沢山の煌びやかな服を纏った大人と子供が大勢いる。この人たちが全員同級生になるのか…?
「使用人はあそこのご飯食べていいみたいだよ」
「美味しそう!」
トオルに連れられ端にあった色とりどりの料理が盛り付けられた大テーブルに向かう。
もし他の人に咎められたとしても、子供も沢山いる事だし、子供の間違いで済ませられるだろう。
中央の方から歓声が上がる。
中央に設けられたステージの上では、手品師が手品を披露しているようで、浮かんだボールがパッと消えてみんな驚いていた。
「幸せだ、俺。リョウさんに頭上がらないや」
屋敷とは違って、賑やかなこの場所。
しかし、俺のそのつぶやきにトオルは苦しそうな顔をした。
「…キョウ、僕君に謝んなきゃいけないことがある」
あっちの世界では見たこともない食材で作られたパスタを口にしながらトオルの方を向いた。
「ん? なに?」
「…キョウがプレ・デビュー行けなくなったの、僕のせいなんだ。僕がカナコ様とコウダイ様を止めなかった挙句、油を注ぐようなことしたから…」
トオルはそう言って俯いた。
…そうだったのか。
確かにショックはあった。だけどそれより…
「…でもそれって俺のためを思って行けないことにしたんじゃないの?」
「…そうだけど、キョウがすごい楽しみにしてたのも知っててやったから…。僕のわがままで…」
ぶつぶつと自分が悪いということを俺に告げるトオル。
トオルはきっと責任感が強いんだろうなぁ。
俺はトオルに向けて笑いかけた。
「俺別に怒らないよ」
「でも…!」
「だってトオル俺の事好きでしょ?」
そう言った瞬間トオルの顔が真っ赤に染まる。
「違、いや、そうだけど…」
「トオルがいつも俺のこと思って色々してくれるのちゃんとわかってるよ。だから今回もそういうことなんでしょ? 俺が落ち込んで勉強してた時もトオルがお茶入れてくれたりお菓子持ってきてくれたり色々気遣ってくれてたじゃん。」
「トオルが意地悪でやったわけじゃないって、俺わかるよ」
嫌いだったらそんなことしないよね、と笑ってみせると、トオルは目をうるうるさせる。そして勢いよく俺に抱きついてきた。
「キョウ!!」
「うわっ、おっと」
びっくりして少し体勢が崩れてしまったけど、立て直してお皿をテーブルに置いてからトオルの背中に腕を回す。
「ふふ、同い年なのにずっとトオルがお兄ちゃんみたいだったからいい気分。今は俺がお兄ちゃんだね。会った頃は俺の方が大きいくらいだったのに、すぐ越されちゃって」
いつも一足先に大きくなるトオル。
そんなトオルが今はなんだかすごく小さく感じた。
「…キョウはいつまでもキョウだよ」
「近いうちにトオルを見下ろしてやるからな。覚悟してろよ!」
「そのままでもいいのに。キョウは僕がずっと守るから」
「そういう問題じゃない!!」
余裕のあるトオルの発言に俺は噛み付くが、トオルはなんでもないようにどこか遠くを見て笑った。
「トオル、ケーキ食べよう」
「もうちょっとこのまま」
「いや、ちょっとそれは恥ずかしい…」
「このまま。…ずっとこのままがいい」
耳元でそう言われて、離れようともがいていた俺は動けなくなってしまった。
あまりにもその声が甘いものだから、耳に流れ込んでくる空気の流れさえ敏感に反応してしまって。
もうちょっとだけならいいかな、と俺は流されてしまったのである。
「ひっろ……」
あんぐりと空いた口が塞がらない。
さすがこの国の象徴たる城。確かにチルクレット家も広くてやばいけど、その広さもあちこちにある装飾も家と比べ物にならない。
王城は頭に描いていた某テーマパークのようなお城で、分厚い塀を抜け門をくぐると、真っ赤な絨毯が敷かれ大きく開けた空間が俺たちを迎えた。
ちなみに入るのに入口で引っかかって兵隊さんに連れていかれる…ということはなく、リョウさんが一言「チルクレット家の使用人なのですが」というだけで通れた。そういうものなのか? 警備が雑なのかやはり公爵家がやばいのか。
「では私は旦那様の元に行ってきます。くれぐれも大広間からは出ないでくださいね。トオル様、キョウスケ様をよろしくお願いしますよ」
「わかりました」
リョウさんの言葉に頷く。
王城のすごさに圧倒されている俺の手をぎゅっとトオルが引きながら、目立たないように舞踏会が催されている大広間へ足を踏み入れた。
「口開けすぎ。閉じなくなっちゃうよ?」
「だってトオル、見てよ。広いし、あちこちキラキラしてる…」
「そうだね」
トオルは俺を見て微笑んだ。なんか馬鹿にされている気がするんだけど…。
くそっ、自分の方が大きいからって! 俺の方が中身的には随分とお兄ちゃんなんだぞ!!今はこんなんだけど!!いつかは大きくなるんだ!!!
大広間は本当に字の通りだった。だだっ広い広間。うちの屋敷の庭十個分くらい。とんでもない広間。空気が違う気がする。そこに沢山の煌びやかな服を纏った大人と子供が大勢いる。この人たちが全員同級生になるのか…?
「使用人はあそこのご飯食べていいみたいだよ」
「美味しそう!」
トオルに連れられ端にあった色とりどりの料理が盛り付けられた大テーブルに向かう。
もし他の人に咎められたとしても、子供も沢山いる事だし、子供の間違いで済ませられるだろう。
中央の方から歓声が上がる。
中央に設けられたステージの上では、手品師が手品を披露しているようで、浮かんだボールがパッと消えてみんな驚いていた。
「幸せだ、俺。リョウさんに頭上がらないや」
屋敷とは違って、賑やかなこの場所。
しかし、俺のそのつぶやきにトオルは苦しそうな顔をした。
「…キョウ、僕君に謝んなきゃいけないことがある」
あっちの世界では見たこともない食材で作られたパスタを口にしながらトオルの方を向いた。
「ん? なに?」
「…キョウがプレ・デビュー行けなくなったの、僕のせいなんだ。僕がカナコ様とコウダイ様を止めなかった挙句、油を注ぐようなことしたから…」
トオルはそう言って俯いた。
…そうだったのか。
確かにショックはあった。だけどそれより…
「…でもそれって俺のためを思って行けないことにしたんじゃないの?」
「…そうだけど、キョウがすごい楽しみにしてたのも知っててやったから…。僕のわがままで…」
ぶつぶつと自分が悪いということを俺に告げるトオル。
トオルはきっと責任感が強いんだろうなぁ。
俺はトオルに向けて笑いかけた。
「俺別に怒らないよ」
「でも…!」
「だってトオル俺の事好きでしょ?」
そう言った瞬間トオルの顔が真っ赤に染まる。
「違、いや、そうだけど…」
「トオルがいつも俺のこと思って色々してくれるのちゃんとわかってるよ。だから今回もそういうことなんでしょ? 俺が落ち込んで勉強してた時もトオルがお茶入れてくれたりお菓子持ってきてくれたり色々気遣ってくれてたじゃん。」
「トオルが意地悪でやったわけじゃないって、俺わかるよ」
嫌いだったらそんなことしないよね、と笑ってみせると、トオルは目をうるうるさせる。そして勢いよく俺に抱きついてきた。
「キョウ!!」
「うわっ、おっと」
びっくりして少し体勢が崩れてしまったけど、立て直してお皿をテーブルに置いてからトオルの背中に腕を回す。
「ふふ、同い年なのにずっとトオルがお兄ちゃんみたいだったからいい気分。今は俺がお兄ちゃんだね。会った頃は俺の方が大きいくらいだったのに、すぐ越されちゃって」
いつも一足先に大きくなるトオル。
そんなトオルが今はなんだかすごく小さく感じた。
「…キョウはいつまでもキョウだよ」
「近いうちにトオルを見下ろしてやるからな。覚悟してろよ!」
「そのままでもいいのに。キョウは僕がずっと守るから」
「そういう問題じゃない!!」
余裕のあるトオルの発言に俺は噛み付くが、トオルはなんでもないようにどこか遠くを見て笑った。
「トオル、ケーキ食べよう」
「もうちょっとこのまま」
「いや、ちょっとそれは恥ずかしい…」
「このまま。…ずっとこのままがいい」
耳元でそう言われて、離れようともがいていた俺は動けなくなってしまった。
あまりにもその声が甘いものだから、耳に流れ込んでくる空気の流れさえ敏感に反応してしまって。
もうちょっとだけならいいかな、と俺は流されてしまったのである。
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