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よんじゅうさん。

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side.セシル
____________________


______裏切られた。


そう思った。

利用している分際で、俺は結構なことを言うものだと自嘲した。

しかし、怒りが抑えられない。

彼女に詰め寄った。

そうすれば、彼女は言った。


______約束は守りますよ。


 何を言っているんだと思った。

今、この状況で、どう守ると言うのか。

吐き捨てるように言った俺の言葉に、彼女は大丈夫だと言う。

どう言う意味だと見上げれば、綺麗な笑みを浮かべた彼女がいた。

それと同時に、腹部に、衝撃を感じた。

ガッ

そんな音がした。

体が、宙に浮いた。

浮いて、

バタンッ!!

落ちた。

激しい痛みが全身に走った。

何をするのかと見上げると、彼女の魔力を表すような笑み浮かべ、



______ざまぁみろ。



そう言った。



やられた。

そう思った。

彼女は、俺が思う以上に、賢いのか、バカなのか。

あの時頷いた彼女は、はなから俺の願いなど叶える気は無かったらしい。



痛みに呻いていると、第1騎士団の者に拘束される。

周りも固められ、どうすることもできない。

そんな俺に、彼女は一つの袋をメリルから受け取った。

「—っ!」

中から出てきたのは、真っ黒な魔法石。

それは、

彼女の魔力の色で、

俺が、あげたもの。

彼女の意図が分かって、目の前が霞む。

それを堪えるように唇を噛み締めると、彼女は言った。




______貴方は、贅沢な人だ。



知ってる。



______両親や、弟だけじゃない。ゼノさんや、メリル様。それに、この王国で過ごす人。こんなに沢山の人に愛されているのに、それを、気付こうともしない。



気付いてた。



______貴方は、自分のことばかりで。助けたいと、守りたいと、生きてほしいと。そう、願う者の気持ちを無視して、気付かないふりして、自分の気持ちにも、蓋をした。



気付かないふりをしていた。



______罪は消せない。でも。



長かった。

それが、あと少しで終わると思った。



______貴方はあの日から、体の異変を感じながら、隠しながら、弟と同じ目に合う人がいない様に、自分と同じ事をする人ができない様に、王子でありながら、守る為に、外に出た。



この苦しみは、誰も救わない。

誰も、救えない。



______この国の民は、貴方が犯した罪を知らないと言ったけど、この国の民は、貴方が犯した罪を、知っている。貴方がそうした理由も、知っている。



まさか。そう思った。

でも、目の前の彼女を見れば、真剣な、綺麗なグレーの瞳で俺を見ていた。

それが、嘘ではないと、語っていた。



______それでも、貴方を慕っている。愛している。愛されている。



俺は、



_____生きて、くれませんか?




望んでも、良いのだろうか。




______貴方を愛する民の為にも、



俺が愛する民の為に、



______貴方を愛する友の為にも、



俺が愛する友の為に、



______貴方を愛する家族の為にも、



俺が愛する家族の為に、



_______貴方を愛し、救いたいと願う、みんなの為に。




生きたい、と。



_______ひとつだなら、わがまま、聞いてくれるんですよね?




願っても、良いのだろうか。




________私達に、貴方の呪いを解かせて貰えませんか?





人を殺した。


それは、歴史で見れば沢山の人がしたことかもしてない。

今、この瞬間も、どこかで____。

この罪は、消えることはない。


魔法で殺した。


禁忌を犯したと言う事実も、消えることはない。

それでも、俺を、________。













______約束だからね。






声は、ふるえていなかっただろうか。

頬を、何かが伝った。

あの日以来の、涙だった。

もう、流すことは無いと思っていた。

弟も、泣いていた。

両親も、泣いていた。

ゼノも、メリルも。

みんなが、頬を濡らしていた。

俺は、こんなにも_______。



目の前の彼女は、笑っていた。

俺を見て、笑っていた。

笑って、泣いていた。

優しい彼女のその顔が、涙で滲んだ。







彼女は黒髪黒目の本物の聖女ではないけれど。



綺麗な色を持った特別な彼女は、自分を聖女ではないと言うけれど。



俺には、



今この瞬間、



君が『聖女』にしか見えなくて、





こんなにも、どうしようもないんだ。








.
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