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よんじゅうに。
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side.セシル
____________________
灰色の瞳を持つ彼女に会ったのは、本当に偶然だった。
第1騎士団が遠征に行くと聞いた俺は、一緒に行くことにした。
自分の仕事を先まで片付けると、そろそろ聖女召喚が始まる時期だな、と外を見る。
俺が一番来て欲しくなかったモノ。
見るのも嫌で、逃げる様に森に向かった。
きっと、立ち会うのは王室では弟だけだろう。
国王である父と義理の母は、多分、立ち会わない。
_____俺を助けれる者達に会うのが辛いから。
なんとなく、そう思った。
そんなことで300年に1度の儀式に参加しないとは……。
そう思いながら森を駆ける。
周囲の気持ちには気付いていた。
気付かないふりをしていた。
それに何かを言う人はいなかった。
ただ一人、弟だけは違った。
自分の責任だと思っているのだろう。
しかし、俺は別に弟を恨んでもいない。
あの頃の弟はまだ5歳にもならない幼い子供だった。
そんな弟を危険に晒したのは、紛れも無い、兄である自分。
だから、それをする必要はないと言っているのに。
それを背負う必要はないと言っているのに。
昔からバカで、泣き虫で、可愛い弟である。
遠征先について数日。
ゼノが何やら怪しい動きをしていた。
それを確認しに行くと、異界から来たという女がいた。
聞けば、もう一人いたらしい。
ついに来たか。
なんとも言えない恐怖を感じた。
それと同時に、自分に都合の良いのが来たとも思った。
俺の命はあと一年も無いらしい。
しかし、このままでは、弟は立派な国王にはなれないだろう。
昔から詰めの甘い弟だ。
実際に、今も。
兄の背中ばかり見ている、バカな弟。
感情に任せればどうなるかを、今回で思い知るべきだ。
知って、気付いて、父の様な、立派な国王になるべきだ。
そう思ったらつい、隣にいたゼノに呟いてしまっていた。
_____良い子が来たね。
それを彼がどう受け取ったのか。
帰って来た返事は、感情がのっていなかった。
王都に戻って、まずは聖女召喚の儀に参加していた魔術師の者に、その時の様子を聞いた。
そこで、リウが嘘を言っていないことを確認した。
そして、弟の甘さを実感した。
メリルの元に行き、魔力検査をお願いする。
結果は、黒。
しかし、魔法は使えない。
笑った。
弟が、十何年と探し、待ち望んでいた者は、何もできない。
弟の期待も外れたな、と思った。
安心もした。
そして、怖くなった。
本当は______。
考えない様にした。
頭の奥に追いやった。
俺には必要の無い物だから。
俺には、関係のない物だから。
そうやって。
「ゴホッ、ガハッ、ゴホッ、」
呪いのせいだろう。
体が弱くなっているのを感じる。
時が迫っているのを感じる。
洗面台が赤く染まれば、線を描く様に水に流れていく。
このまま、______。
この頃、薬を飲むのをやめていた。
この苦しみが、
自分の罪だと、
納得するように。
感じるように。
_______自分に、言い聞かせるように。
「少し痩せました?」
異界の彼女は、案外鋭いらしい。
その時の自分は、ちゃんと笑えていただろうか。
声は、震えていなかっただろうか。
ゼノとメリルの視線が、痛かった。
異界の彼女に、魔石を持って行った。
それは、多分、一生かけても使い切ることができないだろう量を。
一生、困ることがないだろう、その物を。
彼女がまさかその意味に気付くとは思えなかったけれど。
これは俺の自己満足。それは、分かっている。
だから、彼女がこの先どんな選択をしても困ることがない様に。
_______リウが聖女にあった。
その言葉をメリルから聞いた俺は、行動に移した。
日も登らないうちからゼノに会いに行き、ドミニクと聖女を城から出さないように言う。
それが終わると、彼女の元へ。
メリルはいなかった。
いない方が都合が良かったから、ありがたかった。
話をすれば、辛そうな、悲しそうな、なんとも言えない表情をする。
彼女は、心が綺麗なのだろう。
優しいのだろう。
そう思った。
だから、騙される。
俺みたいな奴に。
親切なフリして、
利用する俺に、
______気付かない。
俺の願いに頷いた彼女と世間話をしていると、メリルが帰ってくる。
その視線の意味に気付かぬように部屋を出れば、
チクリ
そんな感じで、胸が痛んだ。
次の日。
彼女は、弟にボディーブローを決めた。
それはもう、綺麗に決まった。
何人か、自分の腹を押さえた。
彼女は、弟に言った。
______一生、その痛みを忘れるな。
心の、体の痛み。両方だ。
そう言った彼女は、スッキリとした顔をしていた。
そんな彼女に、お人好しだなと思った。
優しすぎると思った。
バカなんだなと思った。
そんな事で、許せる事ではないはずなのに。
そんな彼女に俺は_______。
みんなが集まる部屋で、彼女は言った。
______彼を、このチャロアフロスティク王国 第二王子、ドミニク・チャロアフロスティクを、王太子候補から外してください。
頭が、真っ白になった。
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灰色の瞳を持つ彼女に会ったのは、本当に偶然だった。
第1騎士団が遠征に行くと聞いた俺は、一緒に行くことにした。
自分の仕事を先まで片付けると、そろそろ聖女召喚が始まる時期だな、と外を見る。
俺が一番来て欲しくなかったモノ。
見るのも嫌で、逃げる様に森に向かった。
きっと、立ち会うのは王室では弟だけだろう。
国王である父と義理の母は、多分、立ち会わない。
_____俺を助けれる者達に会うのが辛いから。
なんとなく、そう思った。
そんなことで300年に1度の儀式に参加しないとは……。
そう思いながら森を駆ける。
周囲の気持ちには気付いていた。
気付かないふりをしていた。
それに何かを言う人はいなかった。
ただ一人、弟だけは違った。
自分の責任だと思っているのだろう。
しかし、俺は別に弟を恨んでもいない。
あの頃の弟はまだ5歳にもならない幼い子供だった。
そんな弟を危険に晒したのは、紛れも無い、兄である自分。
だから、それをする必要はないと言っているのに。
それを背負う必要はないと言っているのに。
昔からバカで、泣き虫で、可愛い弟である。
遠征先について数日。
ゼノが何やら怪しい動きをしていた。
それを確認しに行くと、異界から来たという女がいた。
聞けば、もう一人いたらしい。
ついに来たか。
なんとも言えない恐怖を感じた。
それと同時に、自分に都合の良いのが来たとも思った。
俺の命はあと一年も無いらしい。
しかし、このままでは、弟は立派な国王にはなれないだろう。
昔から詰めの甘い弟だ。
実際に、今も。
兄の背中ばかり見ている、バカな弟。
感情に任せればどうなるかを、今回で思い知るべきだ。
知って、気付いて、父の様な、立派な国王になるべきだ。
そう思ったらつい、隣にいたゼノに呟いてしまっていた。
_____良い子が来たね。
それを彼がどう受け取ったのか。
帰って来た返事は、感情がのっていなかった。
王都に戻って、まずは聖女召喚の儀に参加していた魔術師の者に、その時の様子を聞いた。
そこで、リウが嘘を言っていないことを確認した。
そして、弟の甘さを実感した。
メリルの元に行き、魔力検査をお願いする。
結果は、黒。
しかし、魔法は使えない。
笑った。
弟が、十何年と探し、待ち望んでいた者は、何もできない。
弟の期待も外れたな、と思った。
安心もした。
そして、怖くなった。
本当は______。
考えない様にした。
頭の奥に追いやった。
俺には必要の無い物だから。
俺には、関係のない物だから。
そうやって。
「ゴホッ、ガハッ、ゴホッ、」
呪いのせいだろう。
体が弱くなっているのを感じる。
時が迫っているのを感じる。
洗面台が赤く染まれば、線を描く様に水に流れていく。
このまま、______。
この頃、薬を飲むのをやめていた。
この苦しみが、
自分の罪だと、
納得するように。
感じるように。
_______自分に、言い聞かせるように。
「少し痩せました?」
異界の彼女は、案外鋭いらしい。
その時の自分は、ちゃんと笑えていただろうか。
声は、震えていなかっただろうか。
ゼノとメリルの視線が、痛かった。
異界の彼女に、魔石を持って行った。
それは、多分、一生かけても使い切ることができないだろう量を。
一生、困ることがないだろう、その物を。
彼女がまさかその意味に気付くとは思えなかったけれど。
これは俺の自己満足。それは、分かっている。
だから、彼女がこの先どんな選択をしても困ることがない様に。
_______リウが聖女にあった。
その言葉をメリルから聞いた俺は、行動に移した。
日も登らないうちからゼノに会いに行き、ドミニクと聖女を城から出さないように言う。
それが終わると、彼女の元へ。
メリルはいなかった。
いない方が都合が良かったから、ありがたかった。
話をすれば、辛そうな、悲しそうな、なんとも言えない表情をする。
彼女は、心が綺麗なのだろう。
優しいのだろう。
そう思った。
だから、騙される。
俺みたいな奴に。
親切なフリして、
利用する俺に、
______気付かない。
俺の願いに頷いた彼女と世間話をしていると、メリルが帰ってくる。
その視線の意味に気付かぬように部屋を出れば、
チクリ
そんな感じで、胸が痛んだ。
次の日。
彼女は、弟にボディーブローを決めた。
それはもう、綺麗に決まった。
何人か、自分の腹を押さえた。
彼女は、弟に言った。
______一生、その痛みを忘れるな。
心の、体の痛み。両方だ。
そう言った彼女は、スッキリとした顔をしていた。
そんな彼女に、お人好しだなと思った。
優しすぎると思った。
バカなんだなと思った。
そんな事で、許せる事ではないはずなのに。
そんな彼女に俺は_______。
みんなが集まる部屋で、彼女は言った。
______彼を、このチャロアフロスティク王国 第二王子、ドミニク・チャロアフロスティクを、王太子候補から外してください。
頭が、真っ白になった。
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