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さんじゅうよん。

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side.こずえ
___________________

あの日私は、バイトの帰り道で事故にあった。

避ける間もなかった。

全てが、スローモーションのようだった。

眩しい光が私に迫った直前。

最後に思い出したのは、



_____ありがとう。



そう言って綺麗に笑う、グレーの瞳の彼女だった。







ぴちゃん

そんな音がした。

目を開けると、沢山の人が映った。

日本ではあまり見かけないカラフルな色を持った人達。

私は、学校からの帰宅途中だったはず。

今日は誕生日だから、ケーキをお父さんが買ってくるねって言ってた。

だから、急いで帰っていたのに、ここはどこだろうか?

水の中に足をつけ立っている自分。

周囲では、聖女様、召喚、成功の言葉が行き交う。

その中で1人、赤髪の少年が目についた。

泣きそうな顔の少年は、ゆっくりとこちらに近付いてくる。

彼が一歩、踏み出した時。

ザバッ

背後で、そんな音がした。

振り向くと、綺麗なグレーがかった瞳の女性。

その人はマスクをしており、顔は分からなかったが、その瞳にはなぜか見覚えがあった。

あんな綺麗な瞳、一度見たら忘れないのに…。



_____×××××。



「痛っ、」

誰かの声が頭に響いた気がした。

ちょうどその時、目の前の女性が激しく咳き込んだ。

慌てて駆け寄り手を差し出せば、目の前の手が払われる。

横を見ると、先ほどの赤髪の人。

先ほどの表情から一変。

酷く、怯えた顔をしていた。

そんな彼に抗議すると、この人は任せてと言われ、腕を掴まれその場を離れる。

彼に抗議していた私は、彼が叫んでいた言葉が耳に入っていなかった。





それから、何の事情も説明されぬまま、どこかに連れて行かれる。

部屋の一室に連れて来られ、魔法使いみたいなローブを着た年配の女性に、白い服を渡される。それに着替えろということらしい。

濡れた服のままだった私は、その気持ち悪さに耐え切れずに着替える。

その後、女性と、女性と同じ格好をした数名の人、そして、赤髪の少年が私の目の前に来る。

赤髪の少年が、何も分かっていない私に説明してくれた。

この世界のこと。

この国のこと。

彼が、この国の第2王子のドミニク・チャロアフロスティクだと言うこと。

聖女召喚のこと。

私がその聖女で、光魔法と言う能力を持っているかもしれないこと。

その能力があるか、今から調べるとのこと。

その彼…ドミニク王子は、そう言うと先ほどの女性に指示を出す。

その女性に手を握られ、言われるがままにしていれば、白です。と呟く。

周りからざわめきが聞こえ、ドミニク王子が安心したように笑った。

綺麗な笑みだと思った。


____これで助けられる。


彼の口が、そう動いた気がした。

そのあと、魔法の使い方を教わった。

だけど、精神が安定していないのか、5日くらいは使えなかった。

場所を移動して、国王様と言う人に会った。

緑の髪と瞳をしていた。

厳しそうな人だった。

私はその日から、そこ…王城に住むことが決まった。

数日後、私のお披露目があった。

正直、帰りたかった。

ドミニク王子に、帰りたい、と言った。

でも、できないと言われた。

俺の力ではどうにもならないと、ごめん、と。

君がいてくれなければ困る、と。

私は彼の腕の中で泣いた。

彼はいつも一緒にいてくれた。

嬉しかった。

この世界に来て、10日が経った。

その日、彼はとても焦燥していた。

「どうしたの?」

私は聞いた。

「森に…、」

彼は言った。

あの日いたもう1人の女性を、殺してしまったかもしれない。


_____この異界の者を東の森へ連れて行け!


あれは、


_____東の森に遠征に行っている兄の元へ


そう言う意味だった、と。

言葉が、足りなかった、と。

あの時の女性の姿が、重なったのだと、言っていた。

泣いていた。

兄の元へ行けなかったら、彼女は死んでしまうかもしれない。

彼女がいなければ兄は____。

あの薬がなかったら……っ

俺は大変なことをしてしまった、と。

帰ってきた兄は、そんな子は知らない、と。

だから、言った。

いつも助けてくれた彼に。


_____私なら助けられるから…っ!りっちゃんを、探しに行こう!


彼の見開かれた赤の瞳を見ながら、全てを思い出した。


私は、


_____死んだんだ。



そして、あの女性は、



_____こずえちゃん、ありがとう。



綺麗に笑う私の大事な子。

私達は、森を探した。

連れて行った人達に場所を聞いて、探した。

ある日、森の中に一緒に買ったヘアゴムが落ちていた。

それは、桃の花のアクセサリーが付いたもの。


_____花宮と桃山だから、桃の花!


_____ふふっ、なにそれ。


そう言って笑った彼女を思い出した。

泣いた。

泣いて、

苦しくて、

どうしようもなかった。

もう、ダメだと思った。

彼を責めた。

責めて、責めて、責めて、

彼は泣かなかった。

自分が悪いのだと。

これは、自分が負うべき罪なのだと。

可哀想だと思った。

彼もある意味被害者だ。

もう、全てがわからなくなった。


ここに来て1ヶ月が過ぎた。

一つの噂を耳にした。


_____第1騎士団がこの間の遠征先で誰かを連れ帰って来てたらしい。


りっちゃんだ。

すぐに分かった。

すぐにドミニク王子に言いに行った。

ここ数日で彼は痩せた。

顔色も悪かった。

なぜか、悲しくなった。

心が、痛くなった。

噂を聞いた彼はすぐに動いた。


_____第1騎士団の元へ行く。


私も一緒に行った。

だけど、そこに彼女はいなかった。

みんなの視線が、怖かった。

理由は正直、分からなかった。

そこで、紺色の髪をした人に会った。

その人は、ドミニク王子に言った。


_____詰めが甘い。


意味がわからなかった。

ドミニク王子は、下を向いていた。


それからまた数日が経った。

夢を見た。

それは、りっちゃんが白い建物から出てくる姿。

あの、魔術師のような格好だった。

起きた私は、急いで向かった。

確信があった。

焦っていて、誰にも伝えずに出て来てしまった。

走って、

走って、

走って、

口の中に血の味が広がった気がした。

足は、鉛のように重かった。

たどり着き確認すると、そんな子はいないと言われた。

この人達は、ドミニク王子がしたことを知っている。

彼は、私以外には何も言わなかったから。

みんなに、誤解されていた。

彼に、

居場所は無かった。


魔術協会を出た。

懐かしい、声が聞こえた。

動かないと思った足を、

体を、

息が出来なくても、

頑張って、

いっぱい、

いっぱい、

動かした。


そしたら、


_____こ、ずえ…ちゃん……?


見つけた。

見つけた。

会えた。

会えた。


_____りっちゃん!


驚いたその瞳は、

涙が溢れるその瞳は、

私の大好きな人の色だった。


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