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じゅうきゅう。

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あの後、私が魔力はあっても何の魔法も使えないと言う事がわかったメリル様は、血が乾ききった傷をそのままに、セシル王子と帰っていった。

何も才能がない私に、興味を失ったのだろうか…?

何も言わずに去っていった2人とゼノさんを思い出す。


そんな私は、魔力検査の疲れあり、部屋に戻った。

心配したパドマさんがついて来てくれたが、1人にして欲しいと言えば、何かあったら呼んでね。とどこかに行った。


「はぁ……。」

ボフンッ、とベッドに倒れ込み、先程の事を考える。

冷静になった頭で朝からの事を振り返れば、頭が痛くなった。


手違いで来た私に魔力があって、

それは、今までにない真っ黒な色をしていて、

だけど、5つの属性どころか、何の魔法も使えなくて…。

私の為に傷を作ったメリル様の役にも立てなかった。


「この姿も、何の意味もないのか……。」

自身の黒く戻った髪を掴み見れば、アーロンさんとゼノさんを思い出した。

本当は、気持ち悪いと思ったのだろうか。

聖女の紛い物のようなこの髪の色も、中途半端な瞳の色も。

だから何も言ってこないのだろうか。

ハロルド君も、パドマさんも、セシル王子も、メリルさんも、私を見つけてくれた、ゼノさんも。

「……今更か。」

髪を染めていることは、ここで生活していくにはいつか言わなければと思っていた。

髪は伸びる。

隠しておきたくても、きっと無理だと言うことはわかっていた。

「あー……。」

本当は、あの時、魔法を使うのは簡単だと思った。

メリル様の傷を治す事が、私にならできると思った。

もしかしたら、私にも聖女の力があるのではないかと思ったからだ。

もしかしたら、私が、


_____本物の聖女なんじゃないかと、期待した。



一度、違うと、私はそんなに綺麗なモノではないと、気付いていたはずなのに。

人生は、思った通りにいかないらしい。







コンコン

「…ん……?」

扉を叩く音に意識が浮上する。

いつの間にか眠ってしまっていたようだ。

重い体を起こし、扉に手をかける。

「リウ、話を良いか?」

扉を開いた先にいたのは、

「ゼノさん…。」

私を拾ってくれた人だった。




「寝てたのか?」

「はい。…少し、疲れてしまって。」

そう返事をしながら部屋にゼノさんを招き入れる。
1つしかない椅子をすすめれば、俺は疲れていないから。と逆にすすめられてしまった。

え、いや…。と戸惑う私を強引に座らせたゼノさんは、窓の近くの壁に寄りかかるようにして立っている。

その姿に、立っているだけなのに絵になるなぁ……。と見惚れていたら、ゼノさんと目が合った。

「リウ。」

「…はい。」

「髪の色は、どうやって変えていたんだ?」

「髪の色…ですか?」

メリル様も言っていたが、この世界では髪を染めると言う習慣がないのだろうか?

「そうですね…。私も詳しい材料とかは知らないんですけど、髪の色を変えれるヘアカラー 剤って言う着色料みたいなのがあって…それを髪に塗るんです。そしたら1時間もしないうちにその色に染まると言う……私の世界の道具です。」

「…そう言う物があるのか。」

あ、今の私の説明でわかったのかな?

まさかヘアカラー の説明をする日が来るとは思わなかったから、曖昧な感じじゃなかった?

かと言って私の頭ではこれ以上説明できないし…。

うーん……。と考えていれば、私の耳にゼノさんの声が近くで聞こえた。

少し下げていた顔を上げると、目の前にゼノさんの姿がある。

「ぜ、ゼノさん……?」

どうしたのかと戸惑う私に、ゼノさんが手を伸ばすのが見えた。

その光景に、先ほどアーロンさんの手を振り払ったゼノさんの手のことを思い出す。

びくり、と体が震えるのが分かった。

サラリ

そんな音がするかのように、傷みもない髪が揺れる。

メリルさんの魔法は、色だけではなく染めて傷んだ部分も消してしまったようだ。

ゼノさんに、黒くなったばかりの髪を触られる。

何も言わないゼノさんが怖くて、顔を上げることができない。

しばらくして、私の髪に触れていた手が、私の頬に来る。

私と同じ高さになるように背をかがめ、リウ。と名を呼ばれた。

恐る恐る視線をあげると、思ったより近くにゼノさんの顔があった。

「—っ!」

息を詰まらせる私に、ゼノさんは何も言わない。

深い青の瞳に吸い込まれるようだった。

「……綺麗だな。」

髪も、瞳も。綺麗だ。

そう言って笑うゼノさんの方が、私の何倍も綺麗だと思った。

だけど、私にはそれを伝えることが出来なくて。

「…リウ?」

ただ、自分の目から自然と流れる涙を感じることしかできなかった。
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