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ご。

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待たせたな、と入り、濃紺の青年に声をかけた男性は、私の斜め前、濃紺の青年の隣に座る。

男性が座るのを確認した青年は口を開く。

「じゃあ、まずは自己紹介から始めようか。」

「まだしていなかったのか。」

「あぁ、揃ってからと思ってな。」

「そうか。」

「あぁ。」

そう言って、濃紺の青年と目が合う。

「俺は、この第1騎士団で団長を務めている、ゼノ・リロイ・シュトロハイム。」

黒に近い、濃紺の髪に、同じような色の瞳。
前髪が鼻くらいまでの長さであるが、全く野暮ったい印象ではない。
作り物めいた綺麗な顔は、冷たさを感じるほどだ。

「それで、隣の者が、」

「アーロン・ペティグリューだ。同じ第1騎士団で副団長をしている。」

真紅の髪に、同じ色の瞳。
スッキリとした髪型の彼は、シュトロハイムさんとは違う、ワイルドな顔立ちだ。

「あ、私は花宮はなみや 凛羽りうです。…今回は助けていただき、本当にありがとうございます。」

そう言って頭を下げれば、そんなかしこまるな。頭を上げろ。とシュトロハイムさんに言われる。

素直に顔をあげると、2人の視線が突き刺さる。

「ハナミヤ、か。珍しい名前だな。」

「あっ、いえ、凛羽が名前です。」

そうか、ここは多分日本じゃない。リウ・ハナミヤと言った方が良かったのか。

だが、2人はあまり気にしていないようだ。

「…じゃあリウ。」

そんな事を考えていると、雰囲気の変わったシュトロハイムさんと目が合う。

「なぜ、この森にいたんだ?」

視線を鋭くさせた彼に、あ、やっぱり聞きますよね。と思うが、素直に話して信じてくれるだろうか。

死に絶えそうな君を見つけた時は驚いたよ。と先程の雰囲気を無くし言う彼に、話してみよう、と決める。

どうせ、話したところでこれ以上自分の状況が悪くなるわけでもない。

それに、ポーション得体の知れない液体を無理矢理飲まされたとは言え、私を助けてくれた人達だ。

「…私の記憶も曖昧な部分があるんですけど……。」

そう言って、光に包まれた時から今日までの事を話しだす。

私の作り話のようなそれを、目の前の2人は、笑うことも、驚くこともなく、ただ静かに聞いてくれていた。







「………と、言うわけなんです。だから、なぜこの森にいたのかは、わからないんです。」

「「………。」」

話し終えた私に待っていたのは、静寂。

何も話さず、ただこちらを見ている2人に不安になっていく。

「…君は、異界の者だったのか。」

「異界の者…?」

シュトロハイムさんの呟きのような声を拾い、問いかけると、あぁ、違う世界から来た者の事だ。それなら色々と納得がいく。と返ってくる。

「まさか、聖女召喚に巻き込まれるなんてな…。」

そう言うペティグリューさんは、大変だったな。とそのワイルドな男らしい顔を歪め、涙ぐんでいる。

「あ、あの、こんな話、信じてくれるんですか…?」

「まぁ、信じきれるかと言われれば半信半疑だが、君がこんな嘘をつく理由も無さそうだからな。」

「そうですか…。」

そうだよね、こんな話、私でも信じられないんだから、体験してない彼等が信じられるわけないよね。

そう思っていた時、

「何言ってるんだ!ゼノ!こんな幼気な少女にの言葉が信じられないだなんて、お前は鬼か!」

ペティグリューさんが立ち上がり怒鳴る。

「…は?アーロン?」

それにシュトロハイムさんもポカン、と間抜け顔だ。

いや、若干引いているような気もしなくもない。

私は引いている。ドン引きだ。

「あ、あの、ペティグリューさん…信じていただけるのはありがたいですが、私、別に幼気な少女って歳でもありませんし…自分でも信じられないくらいなので、仕様がないっていうか…。」

そうペティグリューさんに言えば、そうか…。と、少しは冷静さを取り戻してくれたのか、元の椅子に座ってくれた。

私は冷めてしまった紅茶を飲み、話の続きを待つ。

目の前の2人も紅茶を飲み、カップを置く。

「話を戻すが、」

そう言ってシュトロハイムさんは、まず、聖女召喚について説明を始めてくれた。


私が巻き込まれたであろう、その聖女召喚と言うのは、チャロアフロスティク王国と言う国で300年に一度行うことが出来る儀式らしく、その召喚で喚ばれた聖女は、人々に幸福と癒し、奇跡を与える存在だと言う。

その召喚で喚ばれる聖女は、黒髪黒目の少女だと言われており、それを聞いて、たしかにあの場所で出会った少女は綺麗な黒髪だったような気がする…と優しい少女に出会ったときのことを思い出す。

私を突き飛ばしたのは、多分、その国の王子だろうとのことだ。

自分の茶色に染められた髪をみて、はぁ、とため息をつく。

もし、自分も綺麗な黒髪で、日本では普通の黒目だったら、こんな大変な思いをしなかったのでは…?と思ってしまう。

まぁ、少女って歳じゃないから、どのみち無理だったのかな。

今更考えても仕方のないことだ。

私は自分の考えに自嘲し、目の前で続けられている説明に耳を傾けた。
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