この想いが、恋だと気付くまで

imu

文字の大きさ
上 下
42 / 50
朝陽said.

8.

しおりを挟む
AM8:43

目が覚めスマホを見ると、目覚ましが鳴るまでまだ30分くらいあった。
二度寝をする気も起きず、ベッドから起き上がりメガネをかける。
スマホ片手に部屋から出て階段を下ると、「おはよ」とリビングにいた兄の夕陽ユウヒが声をかけてきた。

「はよ。…父さんと母さんは?」
「父さんは仕事。母さんは大和の家に用事あるってさっき出て行った」
「そう」

特に気になっていたわけではなかった俺は、兄の返事を聞いた後リビングを出て洗面台に向かう。
顔を洗い、コンタクトに替えた俺はまたリビングに戻り、机の上に用意されていた朝飯を食べようと椅子に腰掛ける。
サラダとオムレツがのっている皿からラップをとり「いただきます」と言うと、「召し上がれー」と兄貴がコーヒー片手に言った。

「なに?兄貴が作ったの?」
「いや、母さん。…てか朝陽部活は?」
「休み」
「珍しいじゃん。今日は何?デート?」

斜め前に座る兄貴と話していると、冗談めかして聞いてくる。
いつもだったらすぐ返せるはずが、今から会う瀬名のことを思い出してしまい思わず動きが止まった。

「…は?マジ?」
「うっせ」
「うっわ、マジかー…。え、なに、かわいい?」
「うん」
「即答」

なにがおかしいのか笑う兄貴に、「絶対言うなよ」と言うと「はいはい」と適当に返される。
信用できねーなと疑いの眼差しを向けると「言わねーよ、絶対。約束する」と笑った。
その後色々質問してくる兄貴をかわして、部屋に戻る。
3回くらい服を着替え悩んだ俺は、少し早めに家を出た。

____
___

「あの、今からお友達と合流されるんですかー?」
「私達と一緒に遊びませんかー?」
「彼女と待ち合わせなんで」

待ち合わせ時間の20分前に着いた俺は、本日2度目の逆ナンを受けていた。
1組目は“彼女”という言葉ですぐに諦めてくれたが、2組目はそうはいかなかった。
「じゃあ彼女さんが来るまででもー」と言ってくるが、瀬名以外に興味もなければ、何故見知らぬ女と彼女が来る前に遊ばなければいけないのか。
あまりのしつこさに一つ上の人達を思い出し、幸せだった気分が急降下する。
瀬名が来るまで後15分もない。
はぁ…と無意識のうちにため息が出たとき、「高杉じゃん!何してるのー?」と聞き慣れた声がした。

「…木村?」
「そうです、木村さんですー。…で?この人達誰?は、なに、浮気?」
「んなわけねーだろ、知らない人。俺は瀬名以外に興味ないから」
「なるほど!惚気をありがとうございまーす!…ってことなので、この人のこと、諦めてもらいますー?」

「この人の彼女、あなた達よりすっごく可愛いので!」と木村に言われた2人は、顔を赤くしそそくさと俺の前から去った。
やっといなくなったと思い、木村にお礼を言っていると、「芽衣」と木村を呼ぶ声が聞こえた。

「あ、あの人私の彼氏」

そう言う木村の視線の先を辿ると、初めて会う木村の彼氏がいた。
思っていたより落ち着いた雰囲気の男性に軽く頭を下げると、向こうも頭を軽く下げてくれた。

「ごめん、デート中に」
「ん?いいのいいの。むぎたんにあの場面見られたくないでしょー?」

「私の親友を不安にさせないでくださいねー」と去っていく木村を見て、ここ数日で親友は早過ぎるだろと心の中でツッコミを入れる。
それから10分ほどして現れた瀬名は、言葉にできないほど可愛かったとここに記しておこう。

____
___

エスカレーターで移動しながら映画館へ向かう。
木村情報だが、瀬名は今から見るGLoRiAの主人公を演じる伊藤 奏太という俳優が好きらしい。
「奏太君がね」と話す瀬名は可愛いが、芸能人とはいえかなり嫉妬する。
それに、“奏太”と聞くと“颯汰”を思い出してしまうからなんだか複雑だ。
そんなことを考えていたら、瀬名が不安そうに俺を見ていた。

「どうした?」
「ううん、何でもないよ。…珍しく部活お休みだったんだね」

無理矢理笑顔を作った彼女は、話を変える。
「あぁ…女バレが練習試合するとかで」と返事をしてしまう俺は、何をびびっているのだろうか。

「ま、1日休みもなかなかないし、おかげで今日瀬名と出かけられたから俺的にはすげー嬉しいけど」

映画館に到着する。
「この辺で待ってて」と瀬名を残し、熱くなった顔がバレないように急ぎ足になったが、バレてはいなかっただろうか。

____
___

「見る!お願いします!」
「じゃあ二巻ずつ持ってくるな」
「ありがとう」

昼飯を食べにハンバーグ屋に入った俺達は、映画のことで盛り上がる。
瀬名がこういう漫画を見たいと言ったことには驚いたが、一ファンとしても、好きな相手が自分の好きなものを見たいと言ってくれることもとても嬉しい。

「結構巻数多いから、長く楽しめると思うよ」
「え、そうなの?」
「今で20ちょいくらい。まだ続いてるけど」
「まじかー…」
「瀬名?」
「ううん!早く返すようにするね!」

「ゆっくりで良いけど」と返す俺に、「ありがとう」と言う瀬名の表情は読めない。
どうした?という俺の疑問は、「お待たせいたしましたー」と言う店員と頼んだ料理がきたことで口に出すことがなかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

消えた記憶

詩織
恋愛
交通事故で一部の記憶がなくなった彩芽。大事な旦那さんの記憶が全くない。

最愛の彼

詩織
恋愛
部長の愛人がバレてた。 彼の言うとおりに従ってるうちに私の中で気持ちが揺れ動く

犠牲の恋

詩織
恋愛
私を大事にすると言ってくれた人は…、ずっと信じて待ってたのに… しかも私は悪女と噂されるように…

見栄を張る女

詩織
恋愛
付き合って4年の恋人がいる。このままだと結婚?とも思ってた。 そんな時にある女が割り込んでくる。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

記憶のない貴方

詩織
恋愛
結婚して5年。まだ子供はいないけど幸せで充実してる。 そんな毎日にあるきっかけで全てがかわる

処理中です...