この想いが、恋だと気付くまで

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紬said.

25.

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辺りがシン…っと静まりかえる中、一瞬の間を置いて私の名前を呼ぶ声がする。
「むぎたん!」と自分が濡れるのも構わず駆け寄り私に手を差し出してくれる芽衣ちゃんに、呆然としながらもその手をつかむと、横から笑い声が聞こえた。

まだ噴水から出ず、尻餅をついているような状態の私は動きを止める。
そんな私を芽衣ちゃんは震える手で無理矢理にでも起こし、笑っている先輩達に向かって歩みを進めると、ガッとあの時の茶髪の先輩の胸ぐらを掴み、怒鳴った。
「ふざけんな!」といつも笑顔の芽衣ちゃんからは考えられないほどの怒りの形相に、私は見ていることしかできない。
近くで莉子達が泣いているのが分かるが、何も声をかけられず立ち尽くす。

「あんたらマジでふざけんなよ!高杉達彼奴等に相手にされないからってこんなことしてんじゃねーよ!」
「う、るさい!別に、わざとやったわ、けじゃねーよ!」
「はぁ⁉︎こんだけ笑っといてよく言えるな!謝れよ!」
「お前等!そこで何をやっている!」

むぎたんの言葉に胸ぐらを掴まれ苦しげな先輩が反論する。
ヒートアップしていく2人を原さんと菊池さんが止めようと動き出す姿が見えた時、騒ぎを聞きつけたのだろう先生が数人やってきた。
先生達により芽衣ちゃんと茶髪の先輩は離されたが、怒りがおさまらない芽衣ちゃんは尚も先輩を睨みつけている。
その様子を見た先輩は、自由になった首元に手を置くと私達の方を向いた。

「罰ゲームで告らせたくせに友達面してんじゃねーよ」

なぜ知っているのだろう。その言葉に、ピクリと体を震わせたのは誰だろうか。
そう言って先生に連れ去られていく先輩達の姿を横目に、私はただその場に立っていることしかできなかった。

____
___

「じゃあ先生、職員室に行ってくるからね」

「ゆっくりしてて」と佐々木先生が職員室から出ていく。
昼休みも終わりに差し掛かり、当事者である私と芽衣ちゃん以外は教室に帰された。
頭の先から爪先までずぶ濡れだった私と、私を助けるために濡れてしまった芽衣ちゃんは保健室にあった予備の体育服に着替え、出された温かいココアを飲む。

「ごめんね」

今にも消えそうな声が聞こえた。
カップに添えられた芽衣ちゃんの手が、微かに震えている。
さっきまではあんなに頼もしくカッコ良かったのに、やっぱり普通の女の子だ。あの状況が怖くないわけない。

「ううん、なんで芽衣ちゃんが謝るの。謝らなければいけないのは私だよ」

「ごめんね」と芽衣ちゃんに言うと、「違うの」と言われる。
何が違うのか分からない私は、彼女の言葉を待つ。
シン…とした空気が流れ、数十秒ほど間が空いてから芽衣ちゃんは口を開く。

「さっきの…罰ゲームってやつ」
「うん」
「あの日…高杉がむぎたんに告白した日ね、私達ババ抜きしててさ」
「ババ抜き…」
「それで負けた人は自分の好きな人に告るってことになって…」

「あ、私は彼氏いるから、そういう人はファミレスで全員分奢るって約束でね」そう言って微かに笑う。
私はなんとなく読めてきた展開に、まさかババ抜きだったとは…と彼女達の遊びに衝撃をうけている。
そんな私の心情など気付きもしない芽衣ちゃんは話を続ける。

「結果は…まぁ、高杉が負けて、それで…本当にごめん!まさかむぎたんが高杉のこと好きだって思ってなくて…私達、面白半分で最低なことした」

「本当にごめんね」そう言って頭を下げる芽衣ちゃんを見て、心が痛んだ。

「私ね、知ってたの」
「え…?」
「あの告白が”罰ゲーム“だったこと」

私がそういうと、芽衣ちゃんは「え、ちょっと、え?」と戸惑う。
その様子にふっと笑いが溢れるが、続きを話そうと口を開く。

「高杉君に告白された後、教室に鞄をとりに行ったんだけどね、その時に聞いちゃったの」
「もしかして…私達が話しているのを?」
「そう。聞いた時はね、すごく悲しかったし、虚しかったし、なんだか笑いの標的にされたようで…悔しかった」

芽衣ちゃんは「ごめん」と小さく謝る。私はそれに首を横に振った。

「芽衣ちゃんと初めて話した日のこと覚えてる?」
「うん。告白どうだったー?って聞いた日だよね」
「そうそう。あの日朝からも色々あって…だから、芽衣ちゃんと西園寺君が目の前に現れて聞かれた時、あぁ、この人達はきっと私を笑い者にしてるんだって。そう思ったらすごくムカついてきて、この人達にちょっと意地悪してやろうって思って」
「むぎたん」
「好きでもないのに、付き合うって言っちゃったの」
「むぎたん!」

芽衣ちゃんが声を張り上げ私を呼ぶ。自分の懺悔に気不味く、下げていた視線をあげると、芽衣ちゃんは私を見ていなかった。

「そういうこと、だったんだな」

芽衣ちゃんの視線の先、それは声がする先と一緒だった。
懐かしい声に、バッと勢いよく振り返る。

「高杉君…」
「ごめん、勝手に聞いて。怪我がないなら良かったわ」
「ちょっと、高杉!」

いつからいたのか、いつドアが開いたのか、全く分からなかった。
下を向いた彼の表情は分からないまま、足早に去っていく音だけが聞こえる。
「むぎたん!」と私の名を呼ぶ彼女に、「聞かれちゃったね」と笑った。
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