この想いが、恋だと気付くまで

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紬said.

16.

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「こんな所ずっといるわけないじゃん」「最悪ー気分悪いわー」と彼女達が出て行ったのが数分前。

「で、本当に“なにも”なかったんだな?」
「…はい」
「嘘ついてたらしばくぞ」
「ただちょっと話しかけられてコソコソ話されてめちゃくちゃ見られた以外には本当に何もありませんでした!」

そして、先ほどの不機嫌さを続行させた西園寺君に尋問されること数分。
「もうその辺にしとけよー」と森君の助け舟があり、西園寺君は「はぁ…」とため息をついた。

「瀬名さんー、絆創膏勝手に貰ったから」
「うん、全然良いけど…大丈夫?」
「大丈夫大丈夫!サッカーしてたらいつきに蹴られただけだから」

器用に足首の洗浄をして絆創膏を貼った森君は、「蹴られた瞬間めっちゃ痛くてさー。すっげー血出んの」とその時の状況を教えてくれる。
いつきって誰だったかな…と思っていたら西園寺君が「わりぃ」と謝っていた。
あ、西園寺君って樹って名前だったなと記憶を掘り起こしていると、絆創膏を貼り終えた森君が「さっきのさ」と私に話しかけてきた。

「あの人達には気をつけてたほうが良いよ」
「気を付ける…?」

何か危険なことでもあるのだろうか?
森君の言葉の意味が分からないでいると「ま、瀬名さんは知らないよね」と苦笑する。
「木村達から何か聞いてねーの?」と西園寺君が聞いてくるが、何かあっただろうかと記憶を思い出していると、一つだけ思い浮かぶものがあった。

「なんか中庭で一個上の先輩とケンカ?したって話は聞いたけど…」
「中庭で?なんかあったか?」
「ほら、アレだろ。高杉に告ってフラれた後くらいの」
「あー分かった、アレな」

私の話を聞いて2人は会話を進めて行く。会話の仲間に入れず残りのお弁当を食べていると、「あ、ごめんな」と西園寺君が私も仲間に入れてくれた。

「瀬名が聞いた話の“先輩”がさっきの人達なんだよ」
「え⁉︎」

「そうなの⁉︎」と驚く私に「そ。だから関わんなよ」と西園寺君に言われる。
私が関わらないほうが良いというのはよく分からないけど、「分かった」と頷くと「分かってないだろ」とため息をつかれた。
その様子に、森君が「説明してないし分かんねーよ」と笑っている。

「さっきの人達なんだけどな、去年高杉に告ってんだよ。…あ、茶髪の方ね」
「うん」
「結果はまぁフラれてんだけど、それでも諦めきれないみたいでさ」
「木村とか仲良いだろ?それでよく影口とか嫌がらせみたいなの受けてんだよ」

「なんでそう言う方向に行くのかわかんねーけどなー」とイスをカタカタと前後に揺らしながら森君は顔をしかめる。
本当になんでそうなるのか…。振り向いて欲しいなら今していることは逆効果なんじゃないかと思う。

「んま、あいつらは気強いしそのくらいじゃ逆に倍返ししているけどさ」
「その度に高杉に“迷惑料“って言って何か奢らせてるけどな」
「ふふっ、そうなの?芽衣ちゃん達らしいね」
「だろ?高杉も面倒らしくて放ってるけど」
「関わりたくもねーだろ。すれ違う度に話しかけられたり部活にも顔出してきたりさ」
「うっわ…俺だったら無理だわー。つかその鋼の精神に逆に尊敬するわー」
「言ってろ」

森君の発言に西園寺君が呆れ顔をしながらも笑う。
人気者も大変なんだなーとどこか別世界の話を聞いている気分になる私に、西園寺君は「ま、そう言うことだから。次会ったりしたら無視しておけよ」と忠告してくれる。
私も気は強い方だから大丈夫と返事をすると、「アホ」と2人に笑われた。

____
___

キーンコーンカーンコーン
キーンコーンカーンコーン
無事に保健委員としての仕事も終わり、今は5限目が終了した所である。
授業で使っていたルーズリーフをファイルにとじる。私はノートよりルーズリーフ派なのだ。ちなみに芽衣ちゃんもルーズリーフ派だった。
「むぎたんが使ってるの見てマネしちゃったー」と言っていたが、芽衣ちゃんは1年生の頃から使っていると言っていたのできっと冗談なのだろう。
彼女とは今年初めて同じクラスになったのだ。その頃の芽衣ちゃんが私を知っているはずはない。
ちなみに彼女達のグループで一年の時に私と同じクラスだったのは、高杉君と宮代ミヤシロ君、斎藤サイトウ君だった。

教科書とファイルを机の中にしまっていると、「瀬名」と私を呼んだ高杉君が教室の入口に立っている。
休み時間に来るなんて珍しいなと思い高杉君の元に駆け寄った。

「高杉君、どうしたの?」
「昼休みのこと聞いてさ」
「昼休みって…もしかして先輩のこと?」

「それなら特に何もなかったよ?」と伝えると、「それならいいんだけど」とどこか納得していない様子でうなずく。
それを見ていたらしい西園寺君が「朝陽、拗ねてんだよ」と笑いながら私の隣に並んだ。
何でも私と別れた後の西園寺君と森君が高杉君に事の顛末を話したらしい。その話を聞いた高杉君は「何もなかったなら良いけど…何でその場にいるのが俺じゃねーんだよ」と拗ねていた、と。

「拗ねてねーし。つかお前らも連絡してくれたら良かったのによ」
「あー電源切れてた」
「嘘ついてんじゃねーよ。俺の隣でスマホ弄ってたのは誰だよ」
「俺だな」

私の頭上で言い合いが続いていると6限目始まりのチャイムが鳴る。
その音に高杉君ははぁ…とため息を着き、「まぁ瀬名が大丈夫って言うならそう言うことにしとくわ。だけど、何かあったらまず俺に連絡ちょうだい。…な?」と言って自分のクラスに戻って行く。

「朝陽もあんなこと言うのなー」

「なぁ、瀬名?」と僅かに赤くなった顔を必死に冷ましている私に、西園寺君は見慣れたにやけ顔をして私を見る。
「言いたいことが分からないので席に戻りますー」と西園寺君より先に席に着くと、「優しい彼氏で彼女は幸せだろうなーって話ですよー」と席に着いた。

「“本当の彼女”なら幸せだろうね」
「瀬名?」
「全員席つけー授業始めるぞー」

思ったことがつい言葉になって出てしまった。
ヤバイ、と目が合う西園寺君に名前を呼ばれるが、タイミング良く先生が入ってくる。
何でもないよと笑い授業の準備をする私に、「そう」と一言言って彼は前を向いた。
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