この想いが、恋だと気付くまで

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紬said.

9.

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高杉君の家と私の家は反対の位置にあるので最初は断ったのだが、「俺が送りたいだけだから」と押し切られてしまった。
私のような“彼女”にもこんなに優しいのだから、彼の”本当の彼女“になった人はとても幸せなんだろうな。そう考えて胸が少しモヤっとしたがすぐになくなった。
きっと今この状況に対する不安のようなものからきているのだろうと結論付け、隣を歩く彼を横目でチラリと見る。
夕日色になっている彼の髪が綺麗だなと思っていると、私の視線に気付いたのか「どうした?」と聞いてくる。

「髪、綺麗だなと思って」

夕日色だよと彼に髪の色を教えると、「ハハッ、なんだそれ」と笑われた。
本当に綺麗なんだけどなーと夕日色の髪をみていたら、「瀬名の髪の方がきれいだよ」と笑顔で言われる。
そういう事を言われ慣れていない私は、素っ気なくそんなことないよとかわいくない返事しかできない。…いや、そもそもかわいくする必要はないよね。どうした私。
頭の中でグルグル自問自答していると、高杉君が「瀬名は髪染めてないもんなー」と私の髪を見る。

「染めてみたいなとは思うんだけど、家族に明るい色似合わなそうって言われたから染められない」
「あー、それは分かるわ。俺も初めて染めた時兄貴にめっちゃ笑われた。」

「俺これ以上明るくすると似合わないんだわ」と話してくれる高杉君に、「何でも似合いそうなのにね」と言えば、苦笑いされた。
…本当に似合わなかったのかな?

「まぁでも瀬名は染めなくて正解だと思う」
「なんで?」
「俺、瀬名の髪の色も好きだから」

そう言って照れ臭そうに笑う彼の姿に、私も同じように照れてくる。
高杉君の口説き文句のような台詞に、やばい、恋愛経験値が高すぎる人の会話の威力は危険だと判断した私は無理やりにでも別の話題に変えた。
私の気持ちが伝わったのか高杉君も話を変えてくれて、バス停までの道を歩いた。
バス停にはサラリーマン風のおじさんが一人いるだけで、私たちはベンチに座ってバスを待つ。
「ここまでで良いよ」と高杉君に言えば、「迷惑じゃなければ家まで送らせて」と言われはっきり迷惑とも言えず結局家の近くまで送ってもらうことになった。
せめてもとバス代は私のICカードから払わせてもらうことにした。

____
___

「人少ないねー」
「近くの学校も早めに帰らせたんだろうな」

いつもは激混みの帰りのバスも不審者の件か時間帯のせいかは分からないが人はほぼ乗っておらず、私達は二人がけの後ろの席に座った。
あまりにも近い距離に緊張し、一緒に座ったことを今さらながら後悔する。
窓側に座った私はすれ違う対向車の車を目で追いながら時間を潰す。
高杉君はスマホをいじっていた。そう言えば学校終わってからスマホ見ていないなと思い私もスマホを取り出す。
画面を見ると、莉子達とのグループからの通知と芽衣ちゃんからの通知、それと渉からの通知がきていた。
とりあえず渉のから見てみようとLEMONを開く。
ポコっとかわいい音がしてメッセージが表示された。

《不審者情報、家の近くでも出てるらしいけど1人で帰って来れそう?》

「え、そうなの?」

思わず声が出てしまうくらいにはびっくりしてしまった。
隣で高杉君が「どうした?」と声をかけてくる。私は渉とのトーク画面を見せながら、なんか家の近くらしくて…と話す。
内容を確認した高杉君は「あぁ…」と言う感じで自身のスマホをいじりはじめる。
興味なし⁉︎と思ったのも束の間、今度は高杉君が自分のスマホ画面を私に見せてきた。

「1時間くらい前だけど、ここに情報が載ってた」

それはタイムラインで簡単につぶやけるFooooというコミュニケーションアプリで、そこには確かにその情報が載っていた。
「瀬名は知らなかったんだな」と言う高杉君は、もしかしたらこのことを知っていて私を送ると言ってくれたのだろうか。
本人に聞いたわけではないが、今の高杉君の反応を見る限り多分そうなのだろう。
…心配、してくれたのかな。教えてくれてもよかったのに…と思うが、とりあえず「ありがとう」とお礼を言う。
前置きなく言ってしまったため意味がわからないお礼になってしまったかと思ったが、高杉君は戸惑うことなく「どういたしまして」と笑ってくれた。

____
___
バス停に着く前に渉に《大丈夫だよ》と返事をした私は、高杉君と共にバスを降りる。もちろんちゃんと2人分払った。
私が返事をしてすぐに《わかった。けど無理しないで》と返事が来る。
渉がなぜこんなにも心配してくれるのかと言うと、2年程前に知らないおじさんに追いかけられたことがあるからだ。
春は変質者が多いとは聞くけれど、まさか自分が被害に遭うとは思っていなかった。
そのおじさんはすぐに捕まったのだが、私が追いかけられた理由は“定年前にクビになり自暴自棄になった”とかいうものだった。
なんとしょうもな…くはないのかもしれないが、繊細な時期の少女に迷惑なトラウマを植え付けてくれたものだ。おかげで鬼ごっこは苦手な遊びになってしまった。

「この辺り初めて来た」という高杉君に、私が住んでいる街の案内をしながら歩く。
あそこにあるパン屋さんのチョコパンがすごく美味しいんだよー、あっちのカフェはパンケーキが有名でね…。たまに高杉君に「あれは何?」と質問されるが、私もはじめて見る物があったりして16年住んでいても知らないことがあるんだな…と思った。

「ここが私の家」

バス停から歩いておよそ15分。ベージュ色した外観のマンション下に到着した。
送ってくれてありがとう、帰り道分かる?と聞くと「大丈夫だよ」と返事が来る。
見送った方が良いのかなと高杉君が帰るのを待つが、私をじっと見たまま動かない。
どうしたのかと首を傾げると、視線を斜め上に動かした彼は「あのさ」と口を開いた。

「今週の土曜日、部活休みでさ…」
「うん」
「その日、映画でも行かない?」

そう言って、私を伺い見る。
…これは、“デート”というもののお誘いだろうか。

「せっかくのお休みなのになんか悪いよー」

“彼女”にそこまでしなくてもと思い暗に断るが、高杉君は「瀬名の予定空いてるって聞いてさ、イヤじゃなければ」とどこか焦った感じになった。
私の予定が空いてると誰に聞いたのだろうかと思ったが、犯人はあの人達しかいないとすぐに思い至る。
“任せて”とは言っていたが、まさかこうなるとは…。仕事が早すぎる。

断る理由も思い浮かばず了承すると、「時間とかはまた後で連絡するから。じゃあ」と帰っていく。
やってしまった…さて、どうしたものかと思い悩むのは、高杉君の姿が見えなくなってすぐのことであった。
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