この想いが、恋だと気付くまで

imu

文字の大きさ
上 下
2 / 50
紬said.

1.

しおりを挟む
「ふぅ…助かったわ、ありがとうね」
「いえ、このくらいなら全然…」

昨日の始業式も終わり、本日は入学式。
私達2年生は登校しても入学式に出席するのは3年生なので、ほぼ委員会決めや自由時間で終わってしまった。
今日の学校は午前中のみだったため、ほとんどの学生は帰宅するか部活に行ったかで校舎内に人気はあまりない。

そんな私、瀬名セナ ツムギは、出し忘れていた春休みの宿題を職員室に持って行った帰り、保健医の先生に荷物運びをお願いされ一緒に運んだところだ。
消毒液などが入った箱は、見た目の割に意外と重かった。

保健医の先生…佐々木先生は、40代と言う年齢より若く見える顔に笑みを浮かべ、「また何かあったらお願いね、新しい保健委員さん」と言うので、「はい、私にできることなら」と返す。
そう、運がいいのか悪いのか。私は今年の保健委員なのだ。
その後、2、3言言葉を交わし、保健室を出た。

私が通うこの、花ノ谷ハナノタニ高等学校は、四階建ての校舎が3棟あり、この字型に建っている。
そして、上から見て四角になる様に渡り廊下があるのだ。
校舎に囲まれている広めの中庭には大きな桜の木があり、花壇やベンチ、ちょっとした噴水などあり、休憩時間には生徒や先生の憩いの場となっている。

保健室がある校舎から、鞄を取りに自分のクラスに戻る。
3階にある渡り廊下を歩きながら中庭にある桜の木を眺めると、花は半分ほど散り新緑が陽の光を浴びてキラキラと輝いている様に見えた。

春休みの間には満開であっただろうそれを、少しだけ惜しく感じながら半分ほど歩いた時、「瀬名」と名前を呼ばれた。
斜め下に向いていた視線を正面に向ければ、スラッとした男子が一人。
一年の時同じクラスだった人だ。

私の名を呼んだ彼、高杉タカスギ 朝陽アサヒ君とは、一年生の時に同じクラスだったと言うこと以外、接点はない。
たまに挨拶をしていたくらいだろうか…?
そもそも、派手めで人気者グループにいる彼と、普通の私とじゃ関わることすらなかった。
そんな彼に呼び止められるとは…なんだろうか。
頭の中が?状態の私の近くまで来た高杉君。

「瀬名」

もう一度呼ばれる。

「高杉君?どうしたの?」
「あの、さ…」

普段の大人っぽく落ち着きのある彼には珍しく、緊張しているのか視線が彷徨っている。
綺麗に茶色く染められた髪がサラサラと春風に揺れた。
羨ましいくらいの真っすぐでサラサラな髪を見ていると、高杉君と視線が合う。
その真っすぐな瞳に、胸がドキリと脈打った様な気がした。

「好きだ」

あまりに急な告白に一瞬、何が?と言いそうになるが、さすがの私も今、この雰囲気でそんな冗談が言えるほど野暮じゃない。

「俺は、瀬名が、好きだ」

聞こえていなかったと思われたのか、もう一度、はっきりと言われる。
なんと言っていいのかも分からずに立ち竦んでいる私に、高杉君は「ごめん」と笑った。

「え、いや、うん、びっくりして…」

とりあえず何か話さなければと口を開くが、アホみたいな言葉しか出てこない。

「いきなりだったよな。返事はいつでも良いから」

「とりあえず、連絡先交換しない?」と言われ、ポケットからスマホを出す。
何がとりあえずなのかとまだ良く理解できていない状況で連絡先を交換すると、「ありがとう」と嬉しそうに笑った。
まだ幼さの残るその笑顔は、素直に可愛いと思う。…男の人に可愛いはないだろうけど。

「じゃあ俺、今から部活だから」
「そっか、頑張ってね」
「ありがとう。…連絡するね」

私に背を向け足早に去っていく彼の姿が見えなくなり私も歩き出そうすると、足に力が入らずペタンと座り込んでしまった。
自分で思っていた以上に先ほどまでの状況に緊張していたらしい。

初めて告白されたな…。
まさか初めてが学年でも人気な人だとは思わなかったけど。
返事、しなきゃな…。
告白自体は嬉しかった。…けれど、私は高杉君のこと何も知らない。
好きか、と聞かれたら否だ。
別に嫌いと言うわけではない。今までただの同級生だったのだ。
それに、私は生まれて16年、恋と言うモノをしたことがない。
だから彼には申し訳ないけれど明日、ちゃんと『ごめん』と返事をしよう。

自分の中で結論を出し、スクッと立ち上がり本来の目的である鞄を取りに教室に向かう。
自分のクラスに着けば、もう誰もいなかった。
若干の寂しさを感じながら教室を出ようとすると、隣のクラスにはまだ生徒が残っているらしい。
数人の男女の笑い声が聞こえる。
そのクラスの前を通りかけた時、話し声が耳に入る。

「あー笑った」
「ほんとそれ!てかさ、うまくいったかなー」
「高杉?さぁ、どうだろうな」

“高杉”と言うワードに、ビクッと立ち止まる。
何をビビっているんだと自分自身に笑い、足を踏み出そうとした時、

「罰ゲームで告るなんてね」

そんな言葉が聞こえ、踏み出した足を思わず元に戻した。
“高杉”“告る”“罰ゲーム”
あれ、これってもしかして…。え?
私の混乱した頭では理解ができない。
いや、したくないだけだ。
多少なりとも嬉しいと思っていたことが、作られたモノで。
しかも、私に告白すると言う“罰ゲーム”

私が彼等に何かしてしまったのだろうか。
いや、関わりないのに何もしようがないはずだ。
分からない。分からないけれど、なんだろう。
悲しい。悔しい。恥ずかしい。虚しい。
いろいろな感情がグルグルとまわって、マワッテ、回って。

…吐き気がする。
私は、彼等の教室の前を通らない様にそっと教室を後にした。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

人違いラブレターに慣れていたので今回の手紙もスルーしたら、片思いしていた男の子に告白されました。この手紙が、間違いじゃないって本当ですか?

石河 翠
恋愛
クラス内に「ワタナベ」がふたりいるため、「可愛いほうのワタナベさん」宛のラブレターをしょっちゅう受け取ってしまう「そうじゃないほうのワタナベさん」こと主人公の「わたし」。 ある日「わたし」は下駄箱で、万年筆で丁寧に宛名を書いたラブレターを見つける。またかとがっかりした「わたし」は、その手紙をもうひとりの「ワタナベ」の下駄箱へ入れる。 ところが、その話を聞いた隣のクラスのサイトウくんは、「わたし」が驚くほど動揺してしまう。 実はその手紙は本当に彼女宛だったことが判明する。そしてその手紙を書いた「地味なほうのサイトウくん」にも大きな秘密があって……。 「真面目」以外にとりえがないと思っている「わたし」と、そんな彼女を見守るサイトウくんの少女マンガのような恋のおはなし。 小説家になろう及びエブリスタにも投稿しています。 扉絵は汐の音さまに描いていただきました。

魔王と囚われた王妃 ~断末魔の声が、わたしの心を狂わせる~

長月京子
恋愛
絶世の美貌を謳われた王妃レイアの記憶に残っているのは、愛しい王の最期の声だけ。 凄惨な過去の衝撃から、ほとんどの記憶を失ったまま、レイアは魔界の城に囚われている。 人界を滅ぼした魔王ディオン。 逃亡を試みたレイアの前で、ディオンは共にあった侍女のノルンをためらいもなく切り捨てる。 「――おまえが、私を恐れるのか? ルシア」 恐れるレイアを、魔王はなぜかルシアと呼んだ。 彼と共に過ごすうちに、彼女はわからなくなる。 自分はルシアなのか。一体誰を愛し夢を語っていたのか。 失われ、蝕まれていく想い。 やがてルシアは、魔王ディオンの真実に辿り着く。

先輩に退部を命じられた僕を励ましてくれたアイドル級美少女の後輩マネージャーを成り行きで家に上げたら、なぜかその後も入り浸るようになった件

桜 偉村
恋愛
 別にいいんじゃないんですか? 上手くならなくても——。  後輩マネージャーのその一言が、彼の人生を変えた。  全国常連の高校サッカー部の三軍に所属していた如月 巧(きさらぎ たくみ)は、自分の能力に限界を感じていた。  練習試合でも敗因となってしまった巧は、三軍キャプテンの武岡(たけおか)に退部を命じられて絶望する。  武岡にとって、巧はチームのお荷物であると同時に、アイドル級美少女マネージャーの白雪 香奈(しらゆき かな)と親しくしている目障りな存在だった。  だから、自信をなくしている巧を追い込んで退部させ、香奈と距離を置かせようとしたのだ。  そうすれば、香奈は自分のモノになると思っていたから。  武岡の思惑通り、巧はサッカー部を辞めようとしていた。  しかし、そこに香奈が現れる。  成り行きで香奈を家に上げた巧だが、なぜか彼女はその後も彼の家を訪れるようになって——。 「これは警告だよ」 「勘違いしないんでしょ?」 「僕がサッカーを続けられたのは、君のおかげだから」 「仲が良いだけの先輩に、あんなことまですると思ってたんですか?」  甘酸っぱくて、爽やかで、焦れったくて、クスッと笑えて……  オレンジジュース(のような青春)が好きな人必見の現代ラブコメ、ここに開幕! ※これより下では今後のストーリーの大まかな流れについて記載しています。 「話のなんとなくの流れや雰囲気を抑えておきたい」「ざまぁ展開がいつになるのか知りたい!」という方のみご一読ください。 【今後の大まかな流れ】 第1話、第2話でざまぁの伏線が作られます。 第1話はざまぁへの伏線というよりはラブコメ要素が強いので、「早くざまぁ展開見たい!」という方はサラッと読んでいただいて構いません! 本格的なざまぁが行われるのは第15話前後を予定しています。どうかお楽しみに! また、特に第4話からは基本的にラブコメ展開が続きます。シリアス展開はないので、ほっこりしつつ甘さも補充できます! ※最初のざまぁが行われた後も基本はラブコメしつつ、ちょくちょくざまぁ要素も入れていこうかなと思っています。 少しでも「面白いな」「続きが気になる」と思った方は、ざっと内容を把握しつつ第20話、いえ第2話くらいまでお読みいただけると嬉しいです! ※基本は一途ですが、メインヒロイン以外との絡みも多少あります。 ※本作品は小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。

ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる

Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。 でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。 彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。

処理中です...