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諦めも、大事ですよね。

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「おい、セシリア。」

「しゃ、シャロン様!…すみません!お話ししたいのは山々なんですけど!本当!もう!キャッキャウフフしながらずーっと!ずーっと語り合いたいぐらいなんですけど!今!お兄ちゃんのお使いで急いでいるので失礼します!」

「あ、あぁ…。」

___________

「セシリア、今、」

「あっ!もうこんな時間!すみません、シャロン様!今日も素敵です!かっこいいです!いつまでも眺めていたいところなんですけど!今から見回りがあるので失礼します!」

「え?あっ、おい!……この騎士団に見回りの仕事はないだろう…。」

__________

「セシr」

「あぁぁ!あそこに見えるのは伝説と言われる火の鳥、鳳凰ではありませぬか⁉︎これは珍しい!急ぎ見に行かなければ…!では、シャロン様!今日もお美しいですね!鳥よりシャロン様を見ていたいですが、失礼します!」

「…………。」





遠征から帰ってきて一週間。

あの幸せなが現実だと知ってからの私の状況である。

酔っていたシャロン様からのご褒美に、ここまで動揺するとは、セシリア・リューココリーネ・ルクレツィアの名が廃ると言うものだ。

しかし、シャロン様を目の前にしてしまうといつもの私でいられないからどうしようもない。

アリア副団長に相談したら、いつもと変わらないよ。と言われたが、納得がいかない。

そんな日々を過ごしていた時、ルシアン副団長に食事に誘われたのである。






「いきなり誘ってしまってごめんね。」

「いえ、暇してましたし。」

明後日からまた遠征なので、予定が合って良かったです。と笑えば、本当だね、とルシヨン副団長も笑った。

この間行って美味しかったからと連れて行ってくれたお店の料理はどれも素晴らしく、とても美味しかった。

帰りは送らせて?と言うルシヨン副団長に、最初は申し訳ないからと断ったが、お願い、ね?と言われると断れなかった。

顔か。顔の力か。私は面食いだったのか。うん、人はみんな面食いだろう。いや、顔を抜きにしてもこの方は素晴らしい方だと思うが…と自問自答しながら歩けば、いつの間にか第4騎士団の敷地の入り口に着く。

「最近の遠征はどう?今は落ち着いていたって聞いたけど。」

「そうですね…。毎日のように遠征に行ってた時に比べたら、凄く穏やかな日々を送ってますね。出現する魔物のレベルもあまり高くないので、気を抜いてしまいそうです。」

そう言えば、気を抜きすぎて怪我しないでね、心配するから。と真剣な瞳を向けられる。

あぁ、こう言う所が女の人にはくるんだろうな、と思う。

現に私も、どきっとした。

だからこそ、思った。

この人は、こんなにも優しい。

きっと、一緒にいられたら、とても幸せなんだと思う。

だからこそ。

もう、私は、この人に辛い思いはさせれない。


「私、ルシヨン副団長のことが好きです。」


背後で、コツンッと、靴が鳴る音がした。






「セシリア…?」

「だけど、すみません。それは、仲間、とか、敬愛、とか、そう言うもので、恋じゃないんです。」

確かに、一緒にいると楽しいし、よく笑う。

ルシヨン副団長の話は聞いていてとても面白いし、私も話していて楽しい。

だけど、ルシヨン副団長とする事全てを、比べてしまうのだ。

シャロン様だったら、ここは冷たい目で見るんだろうな、とか。

シャロン様だったら、今、私が言ったことに、バカか。と呆れた目で見るんだろうな、とか。

私が話し出せば、面倒くさいなと思っても、静かに聞いてくれるんだろうな、とか。

なんだかんだ言って、私の事を拒否せずにいてくれるシャロン様に甘えてしまっているのは分かっているが、その関係が居心地がいいのだ。

シャロン様が私の気持ちを受け入れてくれる保証はない。

でも、だからと言って、ルシヨン副団長に逃げたいとも思わないのだ。

「私、好きだって言ってくれたの、家族以外初めてで、正直、ルシヨン副団長の気持ちが凄く嬉しいです。でも、私はやっぱりシャロン様が好きなんです。」

だから、ごめんなさい。ルシヨン副団長のお気持ちには応えられません。

そう言って、頭を下げれば、セシリア。と呼ばれる。

顔上げて。と言う声に素直に従えば、綺麗な笑顔を浮かべたルシヨン副団長の顔があった。

「ありがとう、セシリア。…ふふっ、そんな顔で振られたのは初めてだよ。」

どんな顔だろう、と首を傾げれば、凄く、泣きそうな顔、と教えてくれた。

「本当はね、分かってた。セシリアはシャロンを諦めないだろうなって。…だけど、セシリアのその気持ちと同じ様に、俺もセシリアが好きなんだ。」

「……でも、」

「うん、そうだね。受け入れられないと分かってても、
1%でも可能性があるなら、って縋ってしまうんだよ。」

たとえ、その1%もないとしてもね。

だから、ごめんね。セシリア。

俺、君にそう言われても、諦める気、ないんだ。


そう言って、月明かりに照らされたマゼンダ色の彼は、切なげに微笑んだ。




_____________________

「いっぱい悩ませてごめんね。」

「あ、いえ、全然、そんな…。」

「でもね、今行ったことは本当だよ。振られるって分かってても、君が欲しいんだ。」

「え⁉︎」

「ふふっ、赤くなっちゃって、可愛いよ、セシリア。」

「は⁉︎」

「ほら、ノア団長お兄さんが迎えに来たよ。おやすみ、セシリア。」

「—ッ!」

「あー!ちょっとぉ!僕の目の前でセシリー僕の妹にデコチューするの禁止ー!て言うかぁ、目の前じゃなくても禁止ー!」

「……私、死ぬかもしれない…。」
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